逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

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やたら具体的な夢

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「じゃあ、あの白があなたに懐いたから、あなたが皇帝に指名されたのね?」

 白が消えたあと、私はそのまま寝室で白龍から詳しい話を聞いていた。
 白龍としても、白虎が私を認めたことでいろいろ話しやすくなったらしい。
 
 ちなみにバクちゃんは白虎の圧が消えたらすっかり元気になって、今はなんだか不満げな顔でぐいぐいと私の足に頭を押しつけている。
 どうも私が白を撫で回したのが不満だったようだ。
 私はバクちゃんを抱き上げて、膝にのせてから撫でてやった。

「きゅう~」
 それでも文句は止まらない。うん悪かったよ……。

「そう。先代皇帝が崩御する随分前にはもう白は俺に憑いていた。本当は桜花に憑いてほしかったんだろうが、残念ながら白が憑いたのは皇族でも末端にいた俺だった。そうしたら先代皇帝が俺に、桜花を娶れと言い出したんだ。ま、ここまでは前回の人生の時と一緒だ。ただ今回は、俺が拒否した。すると先代は、それを遺言にしやがった」

 それは、仕事で面倒をかかえてしまったときの前世の奴の顔だった。
 なのに言っていることが、現実離れしていておかしな感じがする。

「ええ……? 拒否できるものなの? 皇帝の命令って絶対じゃないの?」

「絶対だろうがどうだろうが受け入れられなかったんだよ。今回は桜花がお前じゃないって知っていたからな。前回だってあいつをお前だと思ってたから承諾しちまっただけだ。俺はお前と結婚したかったの! で、……おい、そこで赤くなるなよ。今更何を――」

「いやいやいや、赤くもなるでしょうよ。初めて聞いたんだからそんなこと……」

 だってちゃんとプロポーズどころか告白された記憶だってないのに、まさか「結婚したかった」なんて言われるとは思わないよね!?

「はあ? いっつも言ってるだろうがお前は俺の嫁だって。俺がそんなこと言う相手はお前だけだぞ」

「だってあなた、『嫁』が山ほどいるから」

「そこはもうしょうがないだろう。頭の固いじじいたちが、絶対にこれ以上減らすなってうるさいんだ。特に皇族の重鎮でもある楊太師がもう、伝統がどうの慣習がどうの皇帝の義務がどうのって。だからあれは形だけだ」

「はあ……でもそれって私もよね? 形だけの妻」

「はあ? ……おい。まさか……なんかおかしいと思ったらそういうことか? そういうことなのか!?」

 なぜか奴は心底驚いたという顔をするのだが。

「へ? 何が?」

「おい、うそだろ……? お前……あのな……あー、もうこの際だからちゃんと言っとくと、だな。俺……俺は! もうずっと前からお前とちゃんと結婚したいと思っている。だからずっと必死に探していたんだろうが。お前を嫁に……いや、お前と! 今度こそちゃんと結婚して夫婦になるために! 約束しただろう! なのにお前、いっつもいっつも隙あらば逃げようとしやがって! くそっ、やっぱり好きなのは俺ばかりかよ!」

 奴が、顔を真っ赤にしながらヤケクソみたいに叫んだ。

「は? 好き!? 何言ってんの!? え?」

「だから! なんでそこで驚くんだよ! 俺はずっと言ってただろ! 嫁はお前だけだって! もう大事なことだからこれも言っとくがな! 俺の前世で死んだときの後悔は、『俺はこいつと結婚して共働き頑張ってあたたかい家庭を作ってかわいい子供が二人くらい欲しかったな』だ!」

「はあ!? なにそのやたら具体的な後悔は!」

「しょうがねえだろ! 昔からずっと考えていたからどんどん具体化されてったんだよ!」

「ずっと!? ずっとって!? いったいいつから!?」

 なんだか奴の顔が茹で蛸のように真っ赤なのだが。

 でも、ずっとただの腐れ縁だったじゃないか。つまりはずっと友達で。前世はそんな色っぽい話なんて全く――

「は? ずっとって言ったらずっとだ! 最初に惚れたのがいつだったかなんてもう覚えてない。最初の人生の随分最初の頃だから……」

「え? なにそれ知らない! じゃあなんで三十になったら、なんて条件つけたのよ。私、ずっと待ってたのに!」
 
「はあ? 待ってた? 嘘だろう!? お前、全然そんなそぶりなかったじゃねーか! いっつもいっつも、ちょっとでもいい雰囲気になりそうになるとおちゃらけて俺の努力を全て台無しにしやがって! だからもう条件つけてそれを盾に追い込むしかねえかなって思ったんだろうが!」
 
「あ、あー……すみません、照れてなんか恥ずかしくなってつい誤魔化してました。はい。でも! あんただってやたらモテモテだって私に自慢してはニヤニヤ喜んでいたじゃないの。俺モテるだろ? もー困っちゃうなー今度は誰にしようかなーみたいな態度ばっかりで」

「あれはそうしたら、お前がちょっとは俺のことを男として認識するかと…………」

 そうして私たちはしばし唖然と見つめ合った後、同時にがっくりと肩を落としたのだった。

 なんてこと……。

 私たち、どっちも好きだったんじゃないの。
 てっきり私ばかりが好きなのだと思っていたのに。
 まさか奴もずっと同じ気持ちだったなんて……。

 何やってんの、私たち。
 遠回りにもほどがある。

「なんかおかしいと思ったら、そこだったのかよ……全く伝わってなかったとか……ねえだろ……」

「……いや、わかるわけないでしょ……」

 人生三回目にしてやっと、私たちは相手の気持ちをはっきり言葉で知ったのだった。



 しばらく二人して茫然としていたけれど、その後なんとか少しだけ立ち直った私は、ふと疑問に思ったことを言った。

「でもそういえば周貴妃は? 白は周貴妃のことは認めてないの?」

「……は? なんで白にそんなこと聞かないといけないんだよ。俺は『お前を』皇后にしたかったんであって、桜花を皇后にしたいわけじゃない」

「え、でもみんな周貴妃が皇后になると思っているじゃない。だから私もてっきり」
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