逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

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母さまの趣味

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 一回目は流されるままに生きて貧乏で苦労した。
 だから私は学習した。今の私には見えてる。最初に私がやるべきことは一つ。

 早急にこの母をなんとかしなければ。

 とにかくこの世界での私の母は、幼児の私から見ても絶世の美女だった。
 なのに、とてつもなく男の好みが悪いのだ。

 どうも幼少の頃から飛び抜けて美しかったがために、何もしていないのに寄ってくる一見親切そうなよからぬ人たちから散々嫌な目にあったらしい。
 とにかく私が認識した時の母という人は、自分をチヤホヤしてくれる熱心な男性のことはもれなく拒絶して、自分につれない屑男ばかり追い掛けるという人だった。

 散々貢いでは捨てられる。
 そんな母を持った私の生活は、最初から貧乏そのものだった。

 だから少しでもまともな人と再婚してほしい。
 いや、初婚か……?

 そういえば父という人の話を聞いたことがなかったな。
 語らなかったということは、良い思い出ではないのかもしれない。
 生まれた私のことは愛して大切にしてくれたから、今まで別に父親がいなくて寂しいという感情はなかったのだが。

 でもとにかくこの母をどうにかしなければ永遠に貧乏から抜け出せなくて、そして私の人生に苦労が増えるのだ。
 だからこの母を幸せにして、ついでに私も幸せになりたい。今度こそ。

 ということで、ぼんやりと周りが見えるようになって最初に私がやったことは、母に言い寄る男たちの選別だった。
 
 私は前回の人生では、あまた言い寄る男性たちから逃げる母を、あら綺麗な人は大変ね~なんてぼんやりとゆりかごの中から呑気に眺めてしまった。
 
 しかしその結果は。
 常に貢いでは捨てられて嘆き続ける母と、それを必死に働いて支えて生きる一人娘の私という悲しい構図。
 結局母が病気で亡くなるまで、私は貧乏から抜け出せなかった。

 だから……。

 今の母の周りの人たちの中で、一番まともで真面目でちゃんと稼いで浮気もしなさそうな人は誰かなー?

 と、一歳を前にして、自分の人生を賭けて母に言い寄る男たちの人選に必死になる乳児が爆誕したのだった。


 もうそのために、私は根性で歩いた。
 まだ弱々しい筋肉と関節、そして未発達の神経を酷使して、私はできるだけ早く歩こうと必死になった。

「あうあうあーー!」

 たまにもどかしくて癇癪を起こすこともあったけれど、それでも諦めるわけにはいかなかったのだ。

 とにかく「目の離せない幼児」となって母にべったりとくっついては移り変わる男たちを眺める私。

 母は基本的には真面目に生活をしていたので、慎ましやかにしていれば親子二人なんとか生きていけるはずなのだ。
 別に悪い人ではない。子を愛し、堅実に生活する女性。
 その美貌は母の美点であり、そのせいで男たちがやたらと寄ってくるのも母が悪いわけではない。
 悪いのはそう、男の趣味だけ。

 金をもう引き出せないとわかると消えてしまう男ばかりを好きになるので、母は前回の人生では結婚することはなかった。

 考えてみれば、母が娘より男を優先するタイプだったら、私の人生はもっと過酷だっただろう。
 その点は今でもとても母に感謝している。
 私は前回、貧しいながらも母の愛に包まれてちゃんと健康に育った。

 しかし今世では、ただ漫然とすくすく育っている場合ではない。

 私はとにかくひたすら母のもとに訪れる男たちを観察していた。

 この人はすぐ失業しては母にたかる。
 この人は役人で収入はありそうだけれど、威張りちらして母を顔だけの人形だと馬鹿にしている。
 この人は仕事はあるけれど、家族総出の体力のいる家業だからそれほど体力のない母には無理だろう。
 この人は誠実そうだけれど、気が弱すぎて母に気持ちが全然伝わっていない。これでは結婚まで持ち込めそうにない。
 この人は一見良さそうな人だけれど、前回の人生の時に散々不倫をしていたのを暴露されて修羅場になっているのを見た。
 この人はいい人だし仕事も堅いし誠実そうなんだけれど、なにしろ病気がちで線が細くて母の好みの真逆だ。

 ……なかなかこれはという人が見つからないのだった。

 そうこうしているうちにあっという間に一年近くがたち。
 唯一前回と違うのは、母が将来大金を貢ぐことになる男たちを私が全てギャン泣きして毛嫌いするので、根負けした母がそれほど貢がないうちに縁が切れることくらいか。
 
 おかげで少々前よりは貧乏度合いがマシな気はするけれど、それでも毎回これでは私も体力が持たなくて辛い。
 毎回ギャン泣きとか、やっている私も疲れ果てていつもぐったりだ。

 しかしこの幼児の体で出来ることは限られていて。
 どうしても幼児らしい感情と思考に引きずられがちな日々。
 もう、どんな相手でも毎日お腹いっぱいご飯が食べられたらよしとする……?

 そんなことを考えて始めていたある日、突然その男は現れた。
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