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研究の成果その二2
しおりを挟むその貴重な草を大量に使って、非常に高い能力の魔術師たちによる高度な魔術をふんだんに使った、恐らくこの世でも最高に貴重で高価な石がめでたく出来上がったという知らせは、それからしばらくしてからのことだった。
「なにしろ丸薬を作るとき以上の魔力が必要でして。そしてその堅さを調べるために噛んでみるべきとは思っても、苦すぎて誰も噛めるものがいないのです。そして魔力が強すぎて、うっかり欠片を舐めたものがはやり高熱で寝込みました。それでもはや堅さはマルガレーテ様ご自身でお決めいただくしかないという結論になりまして」
そう言って、珍しく疲労の色を残したイグナーツ先生がマルガレーテの前にルルベ液を固めた石のかけらを並べたのだった。
今までどんな無茶を頼まれようとも、離宮を訪れる時にはその麗しい天上の美貌に陰りなどなかった人が、とうとう疲れた顔を見せるようになってしまった。
これはよほど弟子の魔術師たちも苦労したのだろうと察せられた。
が、出来たからにはその苦労に敬意を表してきちんと試すべきだろう。
マルガレーテは、その一つ一つを口に入れて慎重にかみ砕いていった。
王妃様と、そして今日も朝から一緒に居たがってマルガレーテにくっついて回っていたクラウス様が、まるでマルガレーテがゲテモノを食べているような顔で見ていた。
しかし欠片はとても小さいものだったし、苦みも特に苦痛というほどではないマルガレーテは、うーんと考えたあとに言った。
「この四番目が一番良いようです。五番目になると、ちょっと固すぎてかみ砕くのに時間がかかりそうですので」
「わかりました。それではこの四番目の堅さで今後はお作りいたします」
そう言ってもらって、にっこりと嬉しそうに五番目の欠片をガリガリと囓っているマルガレーテに、その場の全員がマルガレーテの味覚の心配をしたのをマルガレーテは知らない。
マルガレーテには、ほろ苦い爽やかな味しかしないのだけれど。
しかしそれを言っても誰にも信じてはもらえない気がした。
そうしてルルベ液を固めたルルベ石を全部飲み込んだマルガレーテは、自分の魔力がほぼ完全に回復したのを確信したのだった。
「王妃様、私の魔力が回復したようです。ですので、いつでも王妃様の呪いの解呪ができると思います」
「ほう、すごいな。あの小さな欠片だけでそこまで回復したのか。では早速やってもらおうか。もし魔力が尽きてもこの前持ってきてもらった丸薬やルルベ液がまだあるから大丈夫だろう。早速ここに持ってこさせよう」
そうして全ての準備が整った後、王妃様に残っていた呪いを解くべくマルガレーテは王妃様の手を握ったのだった。
今やマルガレーテは、イグナーツ先生の教えを受けて立派な魔術師になっていた。
一流の魔術師となれる才能と魔力、たゆまぬ努力、そして一流の魔術師である師の教え。
それら全ての成果で、マルガレーテは今まででは考えたこともないほどの知識と感覚を身につけたのだ。
かつて王妃様にかけられた呪いは王妃様の体の奥まで染みこんでいて、その名残が底の方に黒いしこりとなって残っていた。
マルガレーテは改めて今その様子を眺めながら、かつての自分がその意志とは関係なく解呪したときの、解呪の荒さに驚いていた。
力尽くでなぎ払われたような跡があちこちに残っていたのだ。
今回マルガレーテはそれらの跡を綺麗に消しながら、その一番奥のしこりまで到達した。
そしてその黒い禍々しいしこりを、一気に魔力を入れて吹き飛ばす。
今のマルガレーテの技術と魔力で、王妃様の呪いの痕跡は難なく綺麗に吹き飛ばすことが出来たのだった。
その状況を横で正しく見つめていたイグナーツ先生が、
「さすがレイテの魔女殿下。素晴らしい魔力と技術です」
と手放しで褒めたくらいにはマルガレーテは成長した。
「おおお……! 素晴らしい。体の奥から力が湧いてくるようだ。健康とはこんなにも力に満ちた状態だったか」
「ああマルガレーテ! ありがとう母上を救ってくれて」
クラウス様が嬉しさのあまり、マルガレーテに抱きつこうとして直前で止まった。
どうも最近クラウス様は、なにかと理由をつけては抱きしめたり肩をだいたりスキンシップをしたがるのにすんでで止める傾向があるなとは薄々思っていた。
だけれど実はマルガレーテも嫌ではない、というよりはむしろ嬉しいのでそのまま止めなくてもいいのに、とちょっと思っていることはまだ伝えられていない。
だってさすがに、そのままどうぞ遠慮無く、とは言えなくて。
クラウス様は、結婚前だからやっぱりどうのこうのとなんかもごもご言うのみ。
よくわからないが彼が結婚を望んでくれていることが嬉しかったので、マルガレーテはあまりクラウス様の行動にどうこう言うつもりはないのだった。
ただ、そばにいてくれるだけで嬉しかったから。
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