二度捨てられた白魔女王女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~

吉高 花

文字の大きさ
31 / 64

ルルベ草1

しおりを挟む

 その言葉に驚いたのは王妃様だった。

「なぜ? あんなに気に入っていたではないか。今でも毎日行っているのだろう?」

「はい。そして気がついてしまったのです。あの東屋の下には、たくさんの魔力の気配がします。そしてその魔力が、東屋の石材で封じられているように思います」

 そう。マルガレーテは最近、東屋の床の下から魔力を感じるようになっていた。
 そして東屋を作っている石材がその魔力を押し潰し、蓋をしているのでないかと思い始めたのだ。

 それは、イグナーツ先生のおかげで魔力が見えるようになったマルガレーテだからこそ感じられる、ほのかな気配だった。

「ではあの東屋が無い方が、マルガレーテの魔力も早く回復するかもしれないということか」
「あくまでも私の憶測なのですが。ただ、東屋を撤去してそこにルルベ草を植えたら、もっと沢山のルルベ草が育つのではないかとも思うのです」

「ふむ……なるほど。実はこの前調べてわかったのだが、この離宮で病人が回復しなくなったのは、約二百年前くらいからなんだ。で、そのあたりで何があったかというと、当時の王が王妃のために、この離宮全体を王妃好みに大改装をしている。だからもしかしたらあの東屋は、その時に建てられたものの可能性がある」

「魔力の湧く場所にわざわざ建物を建てたということですか」
「可能性はあるとは思わないか? だいたい普通は魔力なんて見えない。当時の妃がマルガレーテのようにこの場所が好きだと言ったとしたら、ならばそこに東屋を建てて休めるようにしようと考えてもおかしくない」

「愛情が裏目になったということでしょうか。なんて悲しいことでしょう」
「愛情か、それとも遠回しな暗殺か」
「……それは……なんて悲しいお話でしょう……」

 しかしそうであれば、やはりあの東屋は撤去してみるべきではないか。
 それがマルガレーテと王妃様の一致した意見だった。

 となると王妃様の行動力は炸裂するのだ。
 その二日後には人が入り、そしてその日のうちに綺麗な更地になったのだった。

 早い。驚くほど早い。
 東屋とはいえそれなりに大量に使われていた石材が軽々と移動していく様は見事だった。

 王妃様は、せっかくマルガレーテが気に入っていたのだからと、その東屋を完全になくすのではなく、近くのやはり風がきもちよく通り抜ける、日当たりの良い場所に移設するように指示をしてくれていた。 
 その新しい場所ではもう前のように魔力を感じることはなかったけれど、それでも王妃様の優しい配慮にマルガレーテはとても温かい気持ちになった。

 そしてもともと東屋があった場所からは、重い石材が取りのけられた瞬間から、マルガレーテには魔力がこんこんと湧く様子が見えたのだった。

「王妃様、魔力があふれ出ています。すごい量です……」

 マルガレーテは初めてその状況を見た時、あまりの驚きに、それだけ言って絶句してしまった。
 それほどまでに湧き出る魔力が多かった。
 キラキラとした綺麗な光が、その場所からあふれ出て周りにまで流れ出している。
 それは、いわば魔力の噴水のようだった。

「マルガレーテ、来てみい。なかなかすごいぞ、ここは」

 その中心あたりに立った王妃様が、興奮してマルガレーテを呼んだ。
 マルガレーテも早速王妃様の横に行って、湧き出る魔力を全身に感じた。

「王妃様、これはすごいです。たくさんの魔力が流れ込んで来ます」

「ここに東屋を建てたくなる気持ちはわかるな。魔術師の回復には最適な場所だ。元々こんな場所があったから、昔の王はこの近くに療養用の離宮を建てたんだなきっと」
「そうですね。ずっとここにいたら魔力が強すぎて酔ってしまいそうです」
「そして、やっぱり百年前は遠回しな暗殺だったのかもしれないな。石材が魔力を遮断できると知っていたならだけれど」
「王妃様……それは……考えないようにしませんか……」
 
 黒い。あまりにも。その思考が。
 自然に陰謀説を言い出す王妃様を見て、王宮って、本当に黒い思惑が多いのね。そう思って、むしろここに追放同然に置かれている自分の立場が幸いだったのではと思ったマルガレーテだった。

 マルガレーテと王妃様はその後、心ゆくまでその場から湧き出す魔力を浴びた。イグナーツ先生も最初はうきうきと合流したのだが、しばらくいた後に「もう私には十分です」と言ってすぐに離れていった。

 マルガレーテと王妃様は、やはり体が魔力を欲していたのだろう。夕暮れまで立っていても「十分」という気分にはならなかったけれど、さすがに暗くなるからと、みんなで離宮に戻ったのだった。

 一緒に着いてきた侍女や使用人のひとたちも、魔力を少しでも持っている人は代わる代わる魔力を浴びてはあまりの効能に、他に離宮に残っていた魔力のある人たちも呼び寄せられて、みんなでこの魔力の泉の恩恵にあずかった。
 そしてその誰もがすごい勢いで魔力が体に補充されると証言した。
 

 もちろんこの事についても、王妃様から箝口令が敷かれたのは当然のことだった。
 
 王妃様が元気になって、マルガレーテが希有なスキルに目覚め、そして庭から大量の魔力が湧き出した。

 そんな事実がもし王宮に伝わってしまったら、絶対にこの離宮を取り上げられて、誰とは言わないが誰かさんが再度追放しようとしてくるだろう。
 そして次はきっと、王妃様とマルガレーテは離ればなれになる。
 その上王妃様が言うには、クラウス様との婚約もなくなるだろうとのことだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...