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さらなる追放1
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母国レイテでは魔力や魔術は隠すものであって、間違っても使ってはいけないものだった。なにしろもしも魔術を使ったことがわかってしまったら、問答無用で即刻追放される決まりだったのだ。
たからレイテの魔術師たちは、それを完璧に隠す術を身につけることをまず一番の目標として生きる。まさかあえて使おうなんて考える人はいない。
それに魔女たちの隔離されたあの世界では、一応は魔術を知識として学ぶのでマルガレーテもいくつかは試したことがあったのだが、特に得意というほどの魔術は見つからなかったのだ。
というよりはどんなものも最低限出来たり出来なかったり、つまりはどれもがとうてい他の魔女たちの平均にさえ届かなかった。そのためもあって、いつしかマルガレーテは魔術を使おうとも考えなくなっていた。
なので、マルガレーテは正直にこう答えるしかなかった。
「私は魔術をほとんど使ったことがありません。なので、なんの魔術が得意なのかはわかりませんわ」
しかしそれは、このルトリアでは考えられない返答だったようだ。
王子が即座に怒ったように叫んだ。
「そんなことがあるものか! 自分の使える魔術を知らない魔術師なんて聞いたこともない! もしや我々に有害な魔術を隠そうとしているのではないだろうな? だとしたらなんて下手な嘘なんだ! ルトリアを馬鹿にするのもいいかげんにしろ! 生意気な!」
でも王でさえ「はあ?」という顔をしているということは、本当にルトリアではあり得ないことなのだろうとそこでマルガレーテは初めて理解した。
なので、あらぬ疑いを持たれてしまうのを恐れて慌てて言った。
「母国では、魔術は一切禁止されておりましたので。レイテではもし魔術を使うことがわかれば国を追われます。そのため魔術は危険すぎて使えないのです」
「なんと。それが本当だとしたら、レイテは貴重な魔術師をなんと考えておるのやら。しかしそれでは赤子同然ではないか。なんの訓練もしていないのですか。せめてどんな魔術を使えるかくらいは判定しておくべきでしょうに」
王妃様が呆れて言った。
そしてマルガレーテはといえば、ただただびっくりしていた。
判定……? そんなことが出来るものなの?
マルガレーテの今までの人生では、そんな話は聞いたことが無かった。
「しかしわからぬのでは仕方がないな。ではガウスを呼んで判定させよう。ガウスを呼べ!」
王がその場で言った。
そしてマルガレーテはあれよあれよという間に、どうやら神殿らしき場所に移動させられたのだった。
そこは大きな部屋だった。
装飾も重厚な、いかにも格式も高く重要そうな雰囲気に満ちた部屋だ。
マルガレーテはもうその雰囲気にすっかり縮み上がっていた。
今まさに自分の知らない、予想していなかったことが始まろうとしていることだけはわかった。
でも……。
部屋の中心には、ちょうど腰の辺りまでの台座の上に鎮座している大きな水晶玉のような球が鎮座していた。
透明のような、それでいて虹色のような。透明な球の中に、うっすらとした様々な色の光がゆらゆらとゆらめいている。
今はその球の周りに神殿の重鎮らしき威厳を滲ませたひとたちが何人も立っていて、そしてルトリアの王と王妃、そして王子がマルガレーテの正面に置かれた椅子に座っていた。
なんだか大変なことになったと、マルガレーテは困り果てていた。
おそらくはあの球で「魔力を判定」するのだろう。
しかしマルガレーテにはどんなに思い返してみても、人並みに使えた魔術がないのだ。
私は「レイテの王女」という身分以外には何も持っていないのに。
私が差し出せるのは、この立場しかないのに。
それだけでは、この国には不足だったのだろうか。
しかしガウスと呼ばれたどうやら神官長らしき人がマルガレーテの横に来ると、重々しく言った。
「それではマルガレーテ様、この水晶玉の上に両手を置いてください。あなた様の魔力に応じてこの球が光ります。その光の色で私が魔力の種類を判定いたします」
そう言われると、逆らうことは出来なかった。
マルガレーテは仕方なく、恐る恐る言われるままにその大きな水晶玉の上に両手を置いた。
水晶玉はひんやりとして、固い。
左手にはめていた金属の指輪が、球に当たってカチリと音を立てた。
マルガレーテがそのままじっとしていると、次第に水晶玉の中の薄い様々な色が激しくぐるぐると回り始め、そしてきゅっとまとまったと思った瞬間、発光を始めた。
明るい、とても明るい……眩しいほどの光。
マルガレーテは眩しすぎて、思わず目を瞑った。
キイイイイィーーーン――――
水晶玉が光に反応するように高い澄んだ音を響かせる。そして。
「なんと……まさか…………! だが……白! 白です!」
神官長が驚いたように叫ぶ声がした。
その声にびっくりしたマルガレーテが球から手を離すと、そのとたんに水晶玉の音は止み、光も消えてまた元の姿に戻っていった。
「白……?」
「白、だと……?」
ざわざわざわ。
ふと見ると、その場にいたマルガレーテ以外の全員が激しく動揺して険しい顔でささやき合っていた。
何もわかっていないのはマルガレーテただ一人のようだ。
「白というのは……どういう意味ですか……?」
たからレイテの魔術師たちは、それを完璧に隠す術を身につけることをまず一番の目標として生きる。まさかあえて使おうなんて考える人はいない。
それに魔女たちの隔離されたあの世界では、一応は魔術を知識として学ぶのでマルガレーテもいくつかは試したことがあったのだが、特に得意というほどの魔術は見つからなかったのだ。
というよりはどんなものも最低限出来たり出来なかったり、つまりはどれもがとうてい他の魔女たちの平均にさえ届かなかった。そのためもあって、いつしかマルガレーテは魔術を使おうとも考えなくなっていた。
なので、マルガレーテは正直にこう答えるしかなかった。
「私は魔術をほとんど使ったことがありません。なので、なんの魔術が得意なのかはわかりませんわ」
しかしそれは、このルトリアでは考えられない返答だったようだ。
王子が即座に怒ったように叫んだ。
「そんなことがあるものか! 自分の使える魔術を知らない魔術師なんて聞いたこともない! もしや我々に有害な魔術を隠そうとしているのではないだろうな? だとしたらなんて下手な嘘なんだ! ルトリアを馬鹿にするのもいいかげんにしろ! 生意気な!」
でも王でさえ「はあ?」という顔をしているということは、本当にルトリアではあり得ないことなのだろうとそこでマルガレーテは初めて理解した。
なので、あらぬ疑いを持たれてしまうのを恐れて慌てて言った。
「母国では、魔術は一切禁止されておりましたので。レイテではもし魔術を使うことがわかれば国を追われます。そのため魔術は危険すぎて使えないのです」
「なんと。それが本当だとしたら、レイテは貴重な魔術師をなんと考えておるのやら。しかしそれでは赤子同然ではないか。なんの訓練もしていないのですか。せめてどんな魔術を使えるかくらいは判定しておくべきでしょうに」
王妃様が呆れて言った。
そしてマルガレーテはといえば、ただただびっくりしていた。
判定……? そんなことが出来るものなの?
マルガレーテの今までの人生では、そんな話は聞いたことが無かった。
「しかしわからぬのでは仕方がないな。ではガウスを呼んで判定させよう。ガウスを呼べ!」
王がその場で言った。
そしてマルガレーテはあれよあれよという間に、どうやら神殿らしき場所に移動させられたのだった。
そこは大きな部屋だった。
装飾も重厚な、いかにも格式も高く重要そうな雰囲気に満ちた部屋だ。
マルガレーテはもうその雰囲気にすっかり縮み上がっていた。
今まさに自分の知らない、予想していなかったことが始まろうとしていることだけはわかった。
でも……。
部屋の中心には、ちょうど腰の辺りまでの台座の上に鎮座している大きな水晶玉のような球が鎮座していた。
透明のような、それでいて虹色のような。透明な球の中に、うっすらとした様々な色の光がゆらゆらとゆらめいている。
今はその球の周りに神殿の重鎮らしき威厳を滲ませたひとたちが何人も立っていて、そしてルトリアの王と王妃、そして王子がマルガレーテの正面に置かれた椅子に座っていた。
なんだか大変なことになったと、マルガレーテは困り果てていた。
おそらくはあの球で「魔力を判定」するのだろう。
しかしマルガレーテにはどんなに思い返してみても、人並みに使えた魔術がないのだ。
私は「レイテの王女」という身分以外には何も持っていないのに。
私が差し出せるのは、この立場しかないのに。
それだけでは、この国には不足だったのだろうか。
しかしガウスと呼ばれたどうやら神官長らしき人がマルガレーテの横に来ると、重々しく言った。
「それではマルガレーテ様、この水晶玉の上に両手を置いてください。あなた様の魔力に応じてこの球が光ります。その光の色で私が魔力の種類を判定いたします」
そう言われると、逆らうことは出来なかった。
マルガレーテは仕方なく、恐る恐る言われるままにその大きな水晶玉の上に両手を置いた。
水晶玉はひんやりとして、固い。
左手にはめていた金属の指輪が、球に当たってカチリと音を立てた。
マルガレーテがそのままじっとしていると、次第に水晶玉の中の薄い様々な色が激しくぐるぐると回り始め、そしてきゅっとまとまったと思った瞬間、発光を始めた。
明るい、とても明るい……眩しいほどの光。
マルガレーテは眩しすぎて、思わず目を瞑った。
キイイイイィーーーン――――
水晶玉が光に反応するように高い澄んだ音を響かせる。そして。
「なんと……まさか…………! だが……白! 白です!」
神官長が驚いたように叫ぶ声がした。
その声にびっくりしたマルガレーテが球から手を離すと、そのとたんに水晶玉の音は止み、光も消えてまた元の姿に戻っていった。
「白……?」
「白、だと……?」
ざわざわざわ。
ふと見ると、その場にいたマルガレーテ以外の全員が激しく動揺して険しい顔でささやき合っていた。
何もわかっていないのはマルガレーテただ一人のようだ。
「白というのは……どういう意味ですか……?」
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