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波状攻撃爆散
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しおりを挟むどうするかねぇ。
いや、どうしようもないんだけどさぁ。
「浅見さん。健吾君、完全に希更が独占してるんだけど大丈夫なの、コレ?」
そう、夕方…晩御飯前時間くらいに戻ってきて、簡易スタジオに入った希更。
それから2時間くらいして、突然、電話終わらせたばかりの健吾君を、希更はスタジオの方に連れて行ってしまったのだ。
まあ、こちらは一時間置きに水分とおやつを運んでいるのだけど、見る度に、いつもなら駆郎君がいる位置に健吾君を座らせ、希更が何かしている。
当然水もおやつも手付かずだった場合、拘束して口に突っ込んでいるのだが、それが今、日付変わるちょっと前まで続いている訳で。
晩御飯は「いらない」と言い切られ今現在。
流石に、希更が限界だろう。
いい加減、強制的に引っ張り出すかと思っていたところで、希更を抱えた健吾君登場。
希更はどうも爆睡中。
「シャワーは明日でもいいでしょう。希更を寝かせてきます」
あ、はい、お願いします。
なんで、ここの男共は、成人女性身長平均値を上回る子供を抱きかかえて移動するのか?
確かに、希更は軽い。
とにかく細いから、軽いけども!
甘やかし過ぎである。
「社長が出て来たなら、私も帰りますね」
こんな時間まで残業続けてくれていた岡野さんは、とてもにこやかに素早くお帰りになられる。
健吾君を希更に拘束されちゃったから、その他業務を岡野さんに押し付けるしか出来なかった訳で、申し訳ない。
そして上着手にした健吾君は疲れたように自分の席に座り、温くなっているであろう水を飲んでいる。
「コーヒー淹れてこようか?」
「いりません。それより、食事は?」
「まあ、適当に」
塩野君がコンビニ走ってくれたし。
問題は貴方の食事と、これからの仕事では?
「健吾君の携帯、岡野さんが受けてたよ」
「ここにメモがあるので、今から対処します。くれぐれも、おかしなことをしないで下さい」
だからなぜに、事務所にいるだけの私に、そんな注意事項が必要なのか?
機嫌があまり宜しくないらしい健吾君からそっと…逃げる様に、畳のない小さな会議室に移動。
だって、いつもの3割増しで、眼差しキツくなって、イケメン度上がってましたが?
当然ついてきた浅見さんと塩野君。
「結局、希更の爆発に健吾君付き合ってお疲れって事? いや、なんで、健吾君付き合えるの?」
「社長、ベーシストなんで」
え?
「再デビュー前までは、SPHYでベーシストしつつ、駆郎が行き過ぎた改変しない様にプロデュースもしてたんで、あの機材、社長も使えます」
え?
「なんで、今社長なの?」
「ベーシストとして、自分の腕くらいなら幾らでもいるし、駆郎が同じくらい弾けるので、こっちに専念すると」
いや、あの人、器用貧乏通り越してない?
駆郎君も凄いけど、社会一般的な評価は、断然、健吾君が上でしょ?
やってる事、その成果結果が、半端ないし。
「念の為言っておきますが、多分、社長は疲れたんではなく、希更ちゃんの思う様な手伝いが出来なかった事に、自分に苛立って、機嫌が悪いのではないかと。普段はそう云うの、見せる人ではないんですけど、今、一気に起こり過ぎてますし、流石に、余裕がないのでは、と」
え?
「希更ちゃんの要望、駆郎でも泣きが入るレベルなので、社長には厳しかったのではないかと」
あの子、なんなの?
プロ振り回して…素人だからこそ、なのか?
あの子がイカレているのかは、私では分からない。
「やっぱ、現状、駆郎君いないと、あの子の対処、厳しいんだよね?」
「まあ」
浅見さんの言葉に、ちょっと…。
思わず浅見さんを見て、塩野君を見て、2人の目が泳ぐのを見て確信する。
この2人も気付いている。
この七面倒臭いドタバタ現状に絡む、甘酸っぱい面倒事に。
なぜに、今、突っ走るのか、駆郎君!?
叫んでしまいたいけど、色恋なんてねぇ…そんなもんだし。
「やっぱさぁ、結構早急に、駆郎君以外のアレンジャーと云うか、指導者が、必要じゃないかなと、私、思う訳ですよ」
「それは現状、厳しいのでは?」
ですよねぇ。
それは分かってる。
分かっているけど、絶対に必要じゃない?
あそこ拗れたら、希更どうなるのさ!?
駆郎君頼み、頼りっきりは、現状、厳し過ぎるって!
「心配せずとも、明日明後日と、玲央と慧士を呼びました。璃空も連れてくると言っているので、少しは気が紛れる筈です」
突然の声にぎょっとすれば、ネクタイ外してシャツを緩めた健吾君が入り口に立っていた。
「音立てて扉、開けてくれませんかね?」
「あなた以外は気付いてますから」
どうせ、私は鈍いです。
「それで、今後の対応は?」
「玲央と慧士が絡めば、最悪、Elseed引っ張り出せますから」
無茶苦茶である。
「大御所に、ド素人全開の、小娘の面倒見させようと?」
「ド素人なら、自分で何とかなった筈なんですがね」
いや、怖い事言わないで下さい。
「なにより、清牙はどうするのさ?」
Elseed様出したら、奴の機嫌は、最低値にまで下がる。
過程や出来がどうの関係なく、ELseed様ってだけで。
「あなたがなんとかして下さい。可愛い姪の事ですよね」
クソッ、足元見やがって。
「それに、QEENBEのMV撮影もありますから」
あ、完全に忘れてた。
「いや、でも、その爆発抱えたままで、なんとかなるの?」
「駆郎も帰ってきますし、まあ、そこまでは持つでしょう」
大丈夫なの、ソレ?
そんなこちらの心配は何のその。
浅野さんの軽い確認事項。
「護衛、どうしますか?」
「希更を外に出すなら、塩野だけでは無理です」
「社長も同道するのに、ですか?」
「私は護衛には向きません。緊急時、塩野には、希更を抱えて貰う必要もありますから」
ああ、まあ、力尽きる事も、あるよね。
希更の場合、寝落ち、とかも。
「夏芽…では不安ですね」
あの子も相当な戦闘狂だしね。
常識がある様で、通用しない怖さがある。
「ユキさんに頼みます」
う…ん?
「ゆっ君来てるの?」
「マサさんも来てますよ」
「つまり、清牙の今のお守り、双子がしてんの?」
「ええ」
なるほど。
的確な人員補充である。
清牙はなぜか…戦闘能力で敵わないからか、双子には比較的大人しく従う。
戦闘能力で序列を決めるの、止めてくれませんかね?
そこにタイミング図ったかのように鳴るスマホ。
「あ、ゆっ君からだ」
「浅見、塩野」
明日以降の話があるのか、2人を連れて、健吾君は出ていく。
そして私は、大人しく通話を。
『カエ。おっぱいまだでっかくなってたね』
「それ、ブラと職人技だからな」
多分、あの、『3部作』ドラマの事だと思われる。
当然あれにも、メグさんが関わっており、そらぁ匠の技が光りました。
私の武器なんて、そこしかないもの。
私も色々説明受けて頑張っているのだけど、甘いらしい。
頑張れば、もう1カップ上げられるとか恐ろしい事言わないで欲しい。
今でも十分邪魔なので。
まあ、一応、時間もあったので、役に向けて、引き絞ったのもあるんだろうけど。
「それで今、清牙の子守やってんだって?」
『大変だよ、兄貴が』
ですよねぇ。
面倒事はマー君担当。
分かり易い兄弟である。
『でも、清牙以上に、駆郎が面白いことになってるかなぁ』
え?
「もしかして、あの地雷女、また現れたの?」
『地雷なんだ』
プークスクスと笑い出したゆっ君に、ゆっ君に直接接触があった訳ではないことは覚る。
覚るんだけど、これを言い出すからには、直接ではない何かの接触もあったって事で。
『駆郎、恋する乙女でLINEやり取りしてたよ』
笑いながらの言葉。
だけど、笑いごとで済ませて良いのか…。
つまりは、駆郎君は既に、連絡先交換を済ませている事になる。
「もう、時間の問題だね」
『カエは反対なんだ』
反対も何もない。
それは駆郎君が自身で決める事。
だけど、自身で決めたつもりでいても、根本を理解出来てない事に、大きな問題がある訳で。
間違いなく、絶対拗れる。
それも、希更が巻き込まれるのは想定済み。
皆して、今来るか、いつ来るかと待機待ち。
色んな準備はしてはいるんだけどさぁ…。
「ゆっ君も見れば分かるよ…いや、それだけじゃ無理か」
『なんの話?』
「口で説明出来ない話」
『それはどうしようもないねぇ。もう、煽っちゃったし』
「おい」
『あははっ。時間の問題なんでしょ?』
まあ、そうなんですけどね。
「多分、清牙、相当ピリピリしてるから頑張れ」
『え? 清牙ってば、駆郎の事まで心配して、神経過敏になってる訳? ウケるぅ』
「お前、本当に悪魔だな」
『いや、だって、清牙ってば、なんだかんだと、もう19だよ? 今更、友情からの恋愛事変で、それも他人事に神経過敏って、そんなキャラじゃないじゃん。どうしてそうなった?』
笑い事じゃねぇよ。
「立て続けに色々あって、そこに、駆郎君…まあ、口で説明が、本当にシンドイ」
『まあ、何となく分かった。あんまり暴れるようなら、歌える範囲で潰しとくね』
「潰さないで、鎮圧して下さい」
『えぇぇ? 面倒』
おい、こら。
『それ、カエさんですか?』
そこにかかるのは舞人君の声。
『どうした? オイタはダメだと』
『そうじゃなく、一応、報告しといた方が良いかなと』
『駆郎がお花畑は報告したよ』
『それもあるんですが、健吾がどこまで姐さんに言うか分かんないんで、俺から言っといた方が良いでしょ』
『なんの話?』
『あの女、清牙の古巣と手を組んだかも』
うわぁ。
『なになに? すんげぇ泥沼化? そこんとこ詳しく』
『健吾に聞いて下さい』
ですよね。
『清牙、壮絶不機嫌ですからね。余計なことしないで下さいよ』
『あははっ。カエってば大変』
お前、完全他人事にすんなよ?
お前ら一蓮托生だからな!?
そんな私の思いは空しく、聞き慣れた声が。
『それ、楓だろ! 繋がらないんだよ!!』
あ、猪王子が吼えている。
「じゃあ、切るんで、そっちで清牙宥めて下さい。私のスマホは電池切れです」
『カエってば酷い』
笑いながら言うな?
そのままスマホの電源落としてシャワー浴びたの迄は良いのだけど、なぜか、疲れ切った健吾君にスマホを押し付けられる。
「清牙が盛大に拗ねてるので連絡して下さい」
なぜ、そんなに皆して、清牙に甘いのか?
仕方無しに清牙に連絡してみれば、ブスくれた清牙の愚痴に1時間付き合う羽目になった。
本当に、私、忙し過ぎませんかね?
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