泡沫の欠片

ちーすけ

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波状攻撃爆散

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牙は元々SPHYの生曲ってだけで盛り上がって爆発して、いつの間にか紳士的な何かに擬態出来る特異変質者集団達なので、問題はない。
でも流石に、ドームアリーナとなると、それ以外も入ってくる。
入って来なきゃ、ダメな訳で。
聞きたい歌いたい、盛り上がって、日頃のうっ憤ぶっ放したい。
そんな、ある意味健全なファン達だけなら、SPHY演奏ってだけで大納得して頂けるとは思うんですよ。
だけど、大型集客狙うと、どうしても、行けるんなら行ってみようかなって、にわかも増える訳で。
そのにわかからド嵌まりする人間も増える訳で。
そこは有り難いけれど、なんか勘違いな人間、出てくるんですよ。
どこそこのコンサートではああだったのにこうだったのにと、見当違いな事で、どうのこうの言って騒ぐ馬鹿。
自分は金払ってるお客様なんだからと、特別待遇強要してる時点で、お前の人間性が死んでるんだよ。
最早、害虫。
じゃあ、そこだけ行っとけ!
他に来るな!
お前いらねぇ!
言えればイイんだけど、現実は…ねぇ。
そもそもが、甘やかすからいかんのだよ。
そう云うのは、さっさと警察つき出しておけばイイのに。
人間でもないのはともかく、だ。
そうなれば当然、今までの野郎しかいなかった牙達とは一線を隔す。
「演出、男目線だけじゃダメだからね」
そこでなぜか、固まる男性スタッフ。
って云うか、座ってるの、私と希更以外、全員男なんだけど?
だから、ダメなんだよ。
「馬鹿なの? SPHYのルックス、女ファンいるよ。ライブ行かない…行けないだけで。現に、希更も美凉華も大好きだからね」
「お前もだろうが」
清牙煩い。
「清牙の発言は基本NGです」
男煽るのは良いんだけどねぇ。
そこにドン引きする女は多い。
勿論、ライブとなれば非日常なので、それに爆盛り上がりする、煽られ大好きな女も多い。
線引き雰囲気は、やっぱ難しいよね。
それがSPHYだって、突き抜けてしまうのもまあ、有りなんだけど。
その中で、どうしても口にしちゃいけない事と、やっちゃいけない事もある訳で。
「清牙に煽らせないと、ウチ、曲だけで終わるぞ」
舞人君の真剣な言葉に、会議がまたもや静まる。
「舞人君、マイク奪っちゃえば?」
「だから、それこそ、女の狙いは清牙だろ」
ですよねぇ。
舞人君の駆郎君も分野が違ってカッコいいのに。
清牙だって、見て歌聴いているだけ、なら。
だが哀しい事に、大半の人が、テレビで歌ってる清牙を見て聞いているだけなので、現実が分かってないのだよ。
喋らせるのか、コレに?
喋らせるより動かしとく方が無難だよね?
序に言うと、肌色増やす?
誤魔化せそうな、気がしないでもない。
「清牙に上半身だけでもお着替えさせれば、女子は萌える…かなぁ? 細「キシャアアア」」
煩い。
現実を見ろ。
清牙の腕を取って持ち上げる。
「細さだけなら私と大差ない。嫌、細い」
「俺のは筋肉、お前のは脂肪!!」
まあ、そうなんだけど、見た目で変わらんって凄くねぇ?
見ただけだと、私と体重変わらんように見えるぐらい、細くて折れそうなのに、結構あるんだぜ。
此奴、体脂肪率低いし。
全身ほぼ筋肉。
最早、アスリート。
あんだけ、暴飲暴食してるのに、なぜ脂肪がつかないのか?
「これ以上筋肉着けると、音域狭くなるんだよ!!」
それは切実ですね。
細くて折れそうに見えても、それが清牙のベスト体重。
まあ、細過ぎる気がしないでもないが、好みは人それぞれ。
「裸族。上裸くらいなんともねぇだろ。脱げ」
「い……良いけど」
それは良いんだ。
まあ、裸族だしな。
「下は脱ぐな」
「事案だな」
舞人君の言葉に皆納得。
なので「〇」項目に「清牙ステージ上、上着替え」「上半身裸」追加。
勿論「×」項目に「下半身死守」も追加。
「駆郎「絶対に嫌です」」
ですよねぇ。
駆郎君は生でのお着替えしてくれないらしい。
「舞人君は?」
「してもいいけど、誰が喜ぶよ?」
「一部ファンが」
「それにどこで? どのタイミングで?」
確かに、変だよね。
ドラムセット一々なぎ倒せないし、避けて回って、ステージ中央でストリップ?
「要相談!」
「まあ、それ、決定に従うけどな」
苦笑いに「〇」項目に「舞人ステージ上、上着替え?」追加。
「なんか、意見無い?」
周りを見回しつつ、ここでの重要人物、遠野さんを見る。
音響責任者、いわば、今までのイベント実行トップですし。
「もう少し絞ってくれんと、こっちからは何も。現状、自分らは今ある機材管理しか知りません。規模が大きくなるのは分かりますが、これから揃えて覚えて行かなきゃならんのです。それもどこまで広がるかよう分からんし、それも勉強と思って、専門の下につけてくれた方が有難いです」
どうしよう?
SPHYスタッフ責任者、幹部枠なのに、すっごく謙虚な、珍しい人。
オラオラじゃない…。
「規模がデカ過ぎて、経験も何もない。頼るより他仕方ない」
小規模のライブハウス中心だったからね。
精々が、珍しい大型ライブハウスを年に数回。
それでも、千いくかいかないくらい?
フェスでもやってるけど、そこは監督責任がフェス会場にある。
自分達単独のレベルでは、規模が爆上がり過ぎ。
桁が上がれば、やる事出来る事、出来ない事有り得ない事の、想像がつかないわな。
機材の種類って、どうなるんだろう?
正面画面だけでも、お幾ら?
セット資材デザイン、背っと組み立て要因人件費…恐ろしい金額になるのは間違いない。
まあ、それは、健吾君の考える事なんだけどさ。
余計な事を頭で打ち消し、一番重要だろう問題を突っ込む。
「そう云うのって、レコード会社は何か言ってこないの?」
普通はその辺の収益狙って、グイグイ来ると思うんだけどね?
実績もあるだろうし。
って云うか、この会議にそっちからの人間が、全くいない事こそが、まず不思議。
SPHYに、会議も含め公演だろうが収録だろうが、レコード会社からの人がついているのを、そもそも見た事がないのもまた、不思議。
ここ迄の稼ぎ手ともなると、あっちから様子を見させてくれって、言ってくるもんだと…。
仲悪いから突っぱねてる?
それでも…。
「やだ」
短音無表情、言い切り。
ああ、清牙の、何かが弾けたのね。
そして、こっちでやるからお前ら引っ込んでろと啖呵切ったと。
良く、契約続いているなぁと思わないでもない現状。
まあ、稼いでいるので、レコード会社も手放せないんだろうけど。
「健吾君?」
「こっちの演出プラン無い事には、あっちもどうしようもないでしょう」
その演出プランすら怪しい現状。
間に合うの?
まあ、Elseed様紹介…同じ所なら間違いなく、恐ろしい実績がある。
後は幾ら使って、どこまでひねり出せるか、だろうけど。
予算と実情、違うことも大きいので、普通は、かなり下に見積もるもんなんだけど…。
「予算は?」
「なんとでもします」
健吾君、カッコいい。
「他、なんか意見」
予算青天井とまではいかないけど、ひねり出す言ってる人がいる。
結構出来る事あるんですけど?
普通なら、活気賑わう会議の筈なのに、当人達のノリが悪過ぎる。
当人達がやりたいことを言わない以上、話も広がらないし、盛り上がらない。
コレ、どうしろと?
そこで笑いながら上がる声。
「僕ら、今日来ていきなり参加なんですけど、好き勝手言ってるこれって、おかしくない?」
玲央君、それを今更言うの?
「どうせ、やる俺らが何も分かってねぇ。何かあるなら全部聞いてから出来る出来ない決めた方が良いだろ。お前らは、俺らよりマシみたいだし」
清牙のプロとしてどうよって言葉に、真面目な慧士君は手を上げる。
「そもそものテーマは?」
どうしよう?
誰も、何も、言わなかった、最重要案件。
普通は、何より、そこから、である。
「清牙?」
「え? SPHY初、大型ライブツアーで、良くね?」
ああ、ご当人が一番、何にも考えてない。
「健吾君?」
冷静に、目を逸らす発言に、信憑性はない。
「こう云う場合、ツアー直前アルバムと被せてくるのでは? 清牙?」
「え? まだ、何にも決まってないけど?」
え?
「アンタ、ぷーすか、やってたよね?」
「取り合えず出してる曲、全部まとめるんじゃダメなんか? 尖った感じを今弄ってる」
あ、本気で何も考えてない奴だ。
「馬鹿なの? アレンジとかイメージとか、統合性とかあるよね?」
アルバムだよ?
纏めるんだよ?
並べて、聞くんですけど?
「それは駆郎の領分だろ」
あ、ムッチャ逃げた。
「清牙に言われたのは「Elseedよりエロく」だけど?」
馬鹿、なんだろうか?
いや、清牙は基本お馬鹿だ。
「もう、「エロス」とかにしとくかね?」
「おお、それでイイ!」
「「「「「良くねぇよ!!!」」」」」
皆の声が揃った一瞬である。
なので速攻で「〇」の部分に『ツアーテーマ』を追記。
序に『アルバムテーマとの統一性』も。
「もう、エロでイイだろ」
「お前は常にそれだろ」
舞人君の呆れた言葉に、希更の手が上がる。
「今のエロも、入れるの?」
いや、お前のPC記録がどうなってるのか、私からは見えないんですが?
何をどこまで記録しているのかねと不安になる私の目の前で、希更の記録するPCを覗き見る健吾君。
「ああ、まあ、それで良いですよ。どうせ、ウチの奴らしか見ないんで。ですが、希更は優秀ですね」
そしてなにより社長が、少女に甘い件。
そこに響く、お馬鹿娘のスマホ呼び出し音。
「希更?」
「ごめん…? てっちゃんから」
そうじゃなく、会議中は基本音は切れ。
そんな私の抗議は何のその、なぜか駆郎君を見る。
「え?」
「てっちゃん。駆郎君のパパ」
え?
一瞬? な顔をした駆郎君が叫ぶ。
「なんで、ウチの親を、そんな気持ち悪い呼び方してるの!?」
「え? そう言われたから?」
「ああ、もういい。希更、出ろ。ただし、聞こえる様にしろよ」
清牙の呆れなのか、どうでもイイのかの投げやりな言葉。
まあ、駆郎君通り越して希更に連絡が来る異常性を、心配してだろう。
『悪い。駆郎に繋がらんかった。近くに『もう、煩い!!』』
ああ、あれ、タテの声じゃね?
『楓いるか?』
「今、色んな人が聞いてるんだけどね」
「変態糞親父」
なんか余計な事言ってる人がいる。
「楓です。タテがなんかやらかしてます?」
合間にもギャンギャン声が聞こえてます。
『そっちの依頼で、俺とKが入って今『下手糞! もうやあ! キーちゃんが良い!!!』』
あんの、バカ女が!
「すみません。そこの馬鹿に聞こえるようにして頂けます? 怒鳴ります?」
『耳に中てる』
その言葉の後、ヤダのアだの言っていたタテが、震えるように声を出す。
『もしかして、カエちゃ「黙れ糞女」』
「いや、お前のダチだろ」
外野煩い。
『なんで、カエちゃんに言うの!? 怒られるし「既に怒っとるわ」うわあん。カエちゃん怖い』
「阿保が黙れ。シバキ倒すぞ」
『カエちゃん怖い! なんで、私に厳しいの!?』
「お前だけじゃない!」
『だから嫌なの! キーちゃんが良い!!』
「黙れ。今、忙しい。話聞いてやるから、出てこい」
『絶対怒るぅ』
「もう怒っとるわ」
『嫌あぁ』
「来い」
そこから嘘臭いすすり泣きに溜息。
「ウソ泣きは良い。明日は無理だから、明後日は?」
「明後日はフェスだろうが!」
若干名煩いのがいるが、私は知らない。
ですが、当の本人から嘘泣きの自己申告が。
『無理、です。明々後日、なら…あ、でも拓斗が』
「連れてこい」
『うううっ』
「いつも通り、昼過ぎな」
『うううっ、私、悪くないもん!』
「黙れ、マユラ。はった押すぞ」
『うううっ。行くけど、キーちゃんは?』
「黙れ。大人しく出頭しろ」
『カエちゃんの意地悪!!』
そこで通話が切れる、大人の女には有り得ない通話状況に溜息。
「私、スケジュールがら空きの筈なのに、無駄に予定が埋まっていくんですが?」
「類友なのでは?」
健吾君のにこやかな言葉に力尽きるのは私。
「なんか、これ以上は無理そうだから〆る。一応、なんかあんがあれば、俺か健吾に言ってこい。必要機材云々は、爺のトコでもなんでも良いから、健吾と遠野で確認しとけ。開場デザインも含め、次でまた相談する」
清牙の気が抜けた〆に、突如に始まったおかしな会議はおかしな形で締めくくったのである。
あのバカ女の所為で。
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