99 / 262
踏み躙られてこそ花は香る
24
しおりを挟むちょっと、良く分かんない。
カエちゃんが、あれだけ、浅見さんと塩野さんから離れちゃダメだって言われていたのに、ルンルンで走って行ってしまった。
すっごく楽しそうに嬉しそうに、凄く珍しく、速く走って、行ってしまった。
「ああ、カエちゃん」
止める間もなかったんだけど?
「追いかけて」
「撮影されてんだぞ」
「いや、今、撮影されてるけど、放映は無しの特別演奏って事らしいです」
歩いてきた永井さんはとても楽しそうに、カエちゃんを見ている。
そして流れているのは、カエちゃんの好きな曲。
?
「カエちゃんELseedの曲、大概好きだよね?」
「これも好き、アレも好きで、これも当然好きだよね」
ミーの言葉にそうだよねと頷き、やっぱり聞き覚えどころか、歌えてしまう曲に、納得。
「一杯聞いたね、コレも」
題名知らないけど。
「うん。私は、クリスマスの奴が好き。でも、これも好き」
ミーと2人、音では聞いてきたその声を直接、多分、初めて生で聞く。
凄い、と思う。
男性の中ではかなりの高音。
だけど、そこにか弱さや頼りなさはない、力強い声。
そして、腰から響いてせり上がってくる震えるような声に、歌詞が口に上る。
ああ、確かに、これは凄い。
セイちゃんの声も綺麗。
だけど、高くて低くなって響いて震えるこの声は、独特なうねりでゾクゾクして、身体から、溢れて爆発しそうなほど…?
「カエちゃん、歌った?」
「アレ、この曲に入る女の人の声」
ああ、うん、そんな感じの声、覚えがある気がする。
「さっきからユウちゃん、カエちゃん見ながら、すっごく楽しそうに歌ってるね」
「カエちゃん、すっごく可愛いよね」
可愛いと云うか、嬉しそうと云うか…。
「グネグネ?」
「清牙さん、怒ってるねぇ」
ギターソロ、カッコイイ。
駆郎君より柔らかくて、だけど、音は確かに強く響いてて、優しい?
違う。
なんか、ドキドキする。
そして、ユウちゃんの声がカエちゃんに真っ直ぐ向かって…アレだね。
楽しそうで、それでいて…。
大人だ。
セイちゃんも大人だけど、なんか、ユウちゃんの方が意地悪な感じ?
意地悪言って、その反応見た聞いて、そして笑ってる感じ?
なんか、カエちゃん、みたい。
そしてまた、カエちゃんが消え入りそうに小さな声で、囁いた。
そして、崩れて…本当にステージでしゃがみ込んだカエちゃんを引っ張り上がてユウちゃんが、カエちゃんのほっぺにちゅう。
思わずセイちゃんに視線を流せば、舞人君振り切って駆け込んでくる姿が。
そのままユウちゃんに突進して、スーツ掴んで揺さぶってる。
揺さぶられているユウちゃんはゲラゲラ笑っているけど。
あれ、ユウちゃんがセイちゃんで遊んでる?
揺さぶられると痛いと云うか、苦しいと思うんだけど?
そこにはぁはぁ息を切らしたカエちゃんが帰ってきた。
「よしっ、逃げ切った」
優しいギターを弾くオジチャンの言葉に、浅見さんが唸る。
「いきなり何やってんですか!? 言いましたよね? ウチの女優は今、要警護なんだって!!」
浅見さん悪くないと思うよ?
笑顔で走って行っちゃったの、カエちゃんだし。
本番の撮影中だった訳で、普通は走って行っちゃいけないんだし。
悪いのはカエちゃん…でもないよね?
ユウちゃんに呼ばれた訳で。
ユウちゃんに呼ばれちゃったら、カエちゃんは何してでも行っちゃうだろうし。
「だから、誘導もウチのを使ったし、ここ迄俺が送ってきただろ」
「そう云う問題か!? あそこで、アンタの相方、ウチの清牙に胸ぐら掴まれてますけど!?」
「まあ、アイツが言い出しっぺだし、自己責任だよな」
浅見さんが怒って塩野さんがオロオロ。
そんな中、ギターの上手なオジチャンは、慣れない運動でヨレヨレのカエちゃんに笑いかける。
「楓ちゃん。楽しかった?」
そのまま、カエちゃんの頭を撫でて、カエちゃんの顔が真っ赤に。
恥ずかしいんだろうな。
そして、頭撫で撫でが嬉しいんだと。
「やっぱ、可愛いんだよねぇ」
ギターのオジチャンは嬉しそうに笑って、カエちゃんと近くなる。
すっごい、近い。
近過ぎない??
「「「「あああああ!!!」」」」
カエちゃんの口に、間違いなく、ぶちゅっと…。
それは一瞬だったけど、間違いなく、口と口が、ぶちゅっと。
「やべ。清牙睨んでる。またね。楓ちゃんも希更ちゃんも鈴鹿ちゃんも」
なんか挨拶したと思ったら、また走って行ってしまった。
後ろから追い越したスタッフジャンパー着た人と一緒に、スタジオの外に。
いや、今はそうじゃなくて。
くてんと地面に座り込んだカエちゃんに慌てて駆け寄る。
「「カエちゃん!!!」」
えっと、ちゅーで力尽き…ちゅー…。
「カエちゃん、生きてる!?」
ミーがおかしな事を言って、カエちゃんを揺さぶる。
「カエちゃん、激しく動かしちゃダメでしょ」
なんか倒れ込んだし、ここは休ませて。
「カエちゃん、松葉さんとのキスが刺激強すぎてのぼせちゃったのかな」
え?
「まあ、そうですよね。楓さんELseedの相当な、ファンですし」
塩野さんの言葉に、浅見さんは唸った。
「殺される」
なんか、すっごく怖い事言いだしたけど?
「あ、まあ、減俸ぐらいは」
「清牙のあの顔見て、お前は言えるのか!?」
浅見さん、ちょっと、怒ってる?
「塩野さん、揺さぶったら可哀想だよ」
「可哀想なのは自分です。絶対に、清牙と健吾に〆られる」
「ああっと、ちゃんと、カエちゃんが自分で行ったって、私も言いますから」
ミーの言葉に、浅見さんが頷く。
「お願いします。助けて下さい。降格は嫌だ」
なんか、良く分かんない?
「なんか、面白い事になって、面白いもの撮れたんだけど。私、アップしても良い?」
なぜか近くにいたギナちゃんの言葉が?
「社長に殺されるんで止めて下さい」
浅見さん、なんか、大変そう。
塩野さんは困った顔で、へたたり込んだカエちゃんを抱き上げたけど。
「重くない?」
「重くないですけど、楓さんを今、移動させるのは」
「清牙が突っ込んでくる。止めれ」
「あはははっ。SPHYはいっつも、にぎやかだよね」
「そう云う話じゃないと思うんですよ。ある意味、カエちゃんも被害者みたいな?」
「ママなら、オジイサン2人のベーゼにも、歓喜でご馳走でしょ」
「ギナ。止めろ」
そこで私を見るって事は、えっちぃ話なのかな?
でも、なんだろう?
「ミー。胸がグルグルする」
「え?」
自分でも、良く分かんない、んだけど…。
「さっきの、ユウちゃん達の歌? 胸でぐるぐるして、なんか…」
分かんないんだけど、苦しい?
違う。
なんか…。
「駆郎!!」
そしてまた唸る浅見さん。
「えっと、良く分かんないんだけど、さっきのELseedの歌、カエちゃんが混ざった歌で、何かあった?」
「分かんない。なんか、もう一回…なんか、聞きたい?」
「え? ごめん。今、ちょっと検索掛けるから」
ミーの言葉に、それも何かが違うと、また胸がグルグルする。
「ああ、ほらっ! SPHYの演奏始まりますよ」
塩野さんの言葉に、始まった駆郎君のG。
ただでさえ早い駆郎君の指が、余計に多く激しく動いている。
いつもより音多くて重い!
これ、探偵アニメの主題歌の…ってなんで、セイちゃんはいきなり叫ぶの?
「清牙、荒ぶってんね」
「やだぁ。これから修羅場?」
「楓さん、力尽きてるけど?」
永井さんの言葉に、ミーが睨みつけ、ギナちゃんがニヤリと笑う。
「おチビちゃん。私のメンバーが、さっきの映像撮ってるのよね。いらない?」
「いる」
さっきの、ユウちゃんの歌、もう一回、いや、多分、一杯聞きたい。
「なら、駆郎とジャイゴに、映像アップの許可貰ってくれない?」
「貰わない」
「えぇぇぇ」
「駆郎君とジャイゴにはそれぞれの仕事があって、出来る事をやってるのに、私が何か言うのは出来ません」
「やだ、この子、面白くなぁい」
「すげぇ。ギナ相手に啖呵切ってる」
「希更ちゃん。君はこっちに」
なぜか、筧さんに呼ばれて困る。
私は浅見さんと塩野さんの傍にいなくちゃいけなくて、今塩野さんはカエちゃん抱えているから、私は多分、浅見さんの傍にいるのが正解な筈で…。
「あぁぁぁぁああああああっ」
セイちゃんが吼えた。
いや、違う、唸った?
「荒ぶってるね」
「煩いわね」
永井さんとギナちゃんがとても嫌そう。
それ以上に、なんか、暑くてグルグルして気持ち悪い。
「ミーなんか」
「え? 希更、顔色悪いよ」
「ああぁぁっ! 清牙、それはダメですって」
浅見さんの言葉に、全員が凍り付く。
観客席ぶっちぎって、セイちゃんがステージ降りて直進してきたのだから。
なぜか駆郎君もGを舞人君に預けて走ってくる。
塩野さんがカエちゃん抱えてセイちゃんに近付こうとしたけど、セイちゃんは首を振って私を抱き上げ、背中を撫でる。
「駆郎」
今度はセイちゃんから駆郎君の腕に。
「希更ちゃん。何か思いついたんなら、ちゃんと聞くから、移動しようね」
そのまま駆郎君に抱きかかえられて、ほっとする。
「カエちゃんが歌って」
「ああ、さっきのオジサンの歌ね。途中、V以外の声が入るのが珍しかった? でも、あれ、今までにも何度も聞いてたんでしょ? 楓さんだから引っ掛かった? ああ、まあ、楓さんの声…まあ、音源は何とかするから」
「それ、私が持ってるから、そっちに渡すんで、アップ許可くれない?」
「なんの?」
「ママのキス2連発」
「キシャアアアア」
ああ、なんか、セイちゃん怒ってる?
「それは、そっちの撮った映像なんだから、好きにすれば。けど、ELseedと楓さんの映像は先に欲しい」
「良いの?」
「今更でしょ。今頃拡散してるだろうし」
「そう云う事なら今送るわ」
なんか、眠い。
「駆郎、君。頭がぽやあんとして」
「寝て良いよ。ちゃんと、あの音も、また、聞かせてあげるからね」
うん。
カエちゃんの声、なんか、今まで聞いたことないし、あの歌、身体が震えて、気持ち良かった。
そして今、眠い。
そのまま駆郎君に身体を預け、眠るしか、出来なかった。
いきなり、ごめんなさい。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる