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踏み躙られてこそ花は香る
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しおりを挟む一度SPHYからの横槍は入ったが、そのまま割と順調に撮影は進む。
まあ、私の色気が無さ過ぎて、華と云うか、濡れ場の盛り上がりに欠けて、再度壮太にボロクソ言われた。
またもや飲みに連れ出され、今度は座敷で押し倒されたけど、まあ、べろちゅーは避けた。
その代わり、がっつりキスマークはつけられ、当然それも撮影された模様。
って云うか、メグさんがそのキスマーク撮って大笑いしてた。
酷い。
なので、今回はメグさんもいたので、言い訳にはなると思いたい。
ギナちゃんに迄肩を竦められた挙句、赤の肌襦袢で縛られた経緯は忘れたい。
まあ、大抵の日本女性は、赤の肌襦袢で色気が爆上がりする。
それを縛っとけば、華にエロはある。
そんな映像裏事実はどうでもイイのである。
それよりも、今の現状をどうにかしてほしい。
永井君にギナちゃんに、清牙揃い踏みとは、何事なのか?
思わず、にこやかな先生を見れば、穏やかな声で、とんでもない事を言い放つ。
「マユラ君は楓君の守護天使なので、マユラ君が堕天しなければならない程、男共に翻弄されましょうか」
何を、言っているのか、最早理解したくない。
これ絶対、希更の意見、欠片ぐらいしか残ってないよね?
希更連れてこい!
いや、連れて来られてもやり難くて堪らんのですが…。
何より、そこで不機嫌に睨んでくる清牙をどうしろと?
「永井君に弄ばれ、有り金だまし取られ、清牙君に恐怖を叩き付けられ、浮気三昧の旦那に諦め、金で男娼であるギナ君を買い、壊れる寸前の貴方に舞い降りてくる、傷つき堕天した天使が、マユラ君です。最後の力を振り絞り、愛を歌って儚くなる」
どうしてそうなった?
あの歌詞のキラキラ可愛い世界観の欠片も、今聞く映像に見当たらない。
「マユラ君と希更君とも話したのですが、曲は綺麗なままで、不条理を映像にぶつける事で、対比で曲が盛り上がるのではないかとの、結論に達しました」
そんな結論いらねぇ。
って言うか、間違っても、希更の意見では無い筈だ。
あの娘に、そんな汚れた発想はない。
いや、なんか、私を酷い目に合わせるようなことを言っていたような、無かったような?
「順番として、永井君との撮影からギナ君で、清牙君です。清牙君の強いご希望なので」
それ、間違いなく、清牙の脅し、入ってるよね?
今後使わせない云々の条件緩和策だよね?
それをどうして、今初めて、現場に来た私に言うの?
って言うか、私のPV撮影、どうして行き当たりばったりなんですか?
誰か事前説明下さい!!
「楓さん、随分面白い事になってますね」
永井君のにこやかな顔が実に恨めしい。
それ以上、聞きたくもないのよ?
既に衣装もメイクも終了。
実に大人しい、地味なOL風シャツスーツに安心していたら、こんな落とし穴があるとは。
普通の、そこに至る過去を撮るって言うから、安心してたのにっ。
もしかしたら…って、不安の欠片が確かにあったけれど、普通の服だったから、大丈夫って言い聞かせた途端…。
「生活に疲れた、新生活に慣れないで、落ち着かない初々しさをお願いします」
先生、何がそんなに楽しいんですか?
私は全然、そう思いつつ、スマホやり取り…。
新生活で一気に広がる人間関係から、どうしてかピックアップされた、顔だけの悪党との、可愛らしくないスマホのやり取りを経ての、呼び出しとか云う、細か過ぎて伝わるのか良く分からない撮影が終わる。
そして、いきなりベッドはおかしくないか?
いや、PV時間無いから、途中経過の省略巻は仕方ないけど、コレ、ぶっ飛び過ぎじゃね?
それ系撮影の為の、チューブトップに短パンはまあ、良いんだけどさぁ。
「なんで、見学者が出て行かないんですかね?」
普通、濡れ場では、最低限のスタッフ以外は出ていく。
序でに言うのなら、今はコーディネーター、もしくはカウンセリングのプロがつくのが普通。
まあ、SPHYの時に、着いたことないけど。
「別に、押し倒して終わりじゃない。これぐらい良くない? 私の時にも、もっといたわよ」
ギナちゃん、余計な事、言わんでくれんか?
君の場合は、私より、演技出来ない初演技出演のギナちゃんを心配して、だからね?
いきなりの演技で濡れ場ってのが、そもそも、おかしいし。
濡れ場って言っても、脱がないで、縛られてたんですけど、私。
ギナちゃんだって、上半身しか脱いでいない。
まあ、清牙と対張る細さだけど、立派なクン力で男らしかった。
つけ胸なければ。
まあ、今、それ言っても仕方ないよね?
ドラマ放映で、皆様確かめてくれ。
それよりも、だ。
清牙の薄っすらとした笑みが怖い。
どこ見てんのかね?
いや、私の方なんだけど、意識はしたくないと云うか?
目を、合わせたくない。
「俺、わざわざ撮影だって呼ばれて来たのに、ベッドに倒れ込んで終わりとか、物足りないなぁ」
永井君、黙っていようか。
「さっさと終わらせましょう」
なんか、清牙の目が怖いし。
清牙の視線と云うか、存在を意識から無理やり放り出して…。
設定として大前提に、初めての男にドキドキ設定なので、怯えとか不慣れ感とかあっても全然OK。
そのまま、ベッドの片隅で背中向けてスマホ弄る永井君に手を伸ばして、払いのけられるシーンまでで、取り敢えずの区切り。
ギナちゃんは、お金を渡し、傅かれるとか、全身をマッサージなのか戯れれているのか分からない怪しい映像から、何度連絡しても繋がらず、そのまま着信拒否になって私が壊れて笑い出す、逝っちゃったシーン。
なぜに、同じベッドなのか解せぬ。
そして、清牙が信じられないほど静かに立っており、やっと口を開いたかと思ったら、にこやかに聞こえなくもない声で宣った。
「よお、久しぶり」
いや、いや、何?!
え? 怖過ぎるんだけど?
そんな私の一瞬の怯えを見て、清牙の笑みが深くなる。
いや、獰猛になった。
「お前ら邪魔。って言うか、関係ない奴出てけ」
えっと、何様?
いや、清牙様、なんだろうけど。
「はいはい。まあ、次に期待って事で」
永井君なんの話?
いや、出て行かないで欲しいかな?
「私、交ぜて…はくれないわよね。まあ、約束守ってくれるならいいけど」
え?
何の約束?
私の思いは上滑りするまま、人口密度は減っていく。
最早、先生と清牙に、カメラマンさんに撮影助手くらいしか、広いスタジオにいない。
「楓着替えろ」
セット端にある衝立に顎を向ける清牙の目の、ギラつきが恐ろしい。
「えっと、普通に、控室でメグさん」
あまりにも、ギラつく清牙の目に、言葉を飲み込む、
先生を見れば、にこやかなまま…言うだけ無駄とも云う。
まあ、どうせ見えないしと、衝立で、用意された、下着からシャツからスカートの一式に大人しく着替えるんだけど、出ていきたくない。
出なくても、見なくても分かる。
清牙の視線が痛い。
でも出なければならなくて、恐る恐る顔を出せば、思いの外近くにいた清牙に腕をがっしり掴まれた。
「そのまま、清牙君に任せていれば良いです。余計な演技はいりません」
余計な演技ってナニ?
このままって演技ですらないって事じゃない?
混乱のまま、清牙に腕を引かれるまま、セットの部屋に入り、そのままベッドに押し倒される、この状況。
え?
身体を起こすよりも先に首に噛みつかれ、服が裂け、肩を抑え込んで、スカートをまくり上げられる。
ちょっと待て!
これはないと暴れようと足が開けば、スカートが広がる訳で。
困惑のまま、下着にかかる清牙の長い指先に、両手で抗おうが、その手首をまとめて押さえ込まれ、また首に噛みつかれ、上半身の布が取り払われる。
そのままスカートが腰まで捲くり上がって、やっと「カット」の声。
全身で息をしつつ、清牙を見上げれば、獰猛な顔で唇を舐める。
「このまま、突っ込んでやろうか?」
いや、それは嫌って言うか…この状況、ナニ?
こっ恥ずかしいと云うか、何と云うか、ホント、逃げ出したいんですが?
「そのまま、次のカット行きますよ」
次のカットってナニ?
訳が分からないまま、清牙の腕が降り上がり、殴られると首を竦めた瞬間、また「カット」の声が響く。
殴られる、いやその振り下ろされた腕が当たる寸前の動きだった。
恐る恐る目を開ければ、左頬の真横に清牙の腕が、手の甲がある。
右手は、私の両手を抑えたままに。
そのまま、清牙は首筋に吸い付いて、胸元を噛んでから、膝を前に押し込んで後ろに下がり、ニヤリと笑ってからふくらはぎに噛みついた。
そのまま顎を掴んできて、押し上げ、首の、喉元に食らいつく。
痛みしかないそれに、目眩を起こしながら声を押し殺して響く「カット」の言葉。
最早、どこから撮影で、どこからが戯れなのか分からない。
痛みなのか苦痛なのか恥ずかしさなのか分からないまま、清牙を見上げれば、清牙は獰猛な目で唇を舐める。
「カット」
それすらも撮影だったのか…と混乱するまま、見上げた瞬間、清牙は身を起こし、首を回してから先生を見る。
「イイですよ。終了です」
「あ、っそ。じゃあ」
そのまま歩いて行く清牙の後ろ姿に、訳が分からない。
あんなに懐いていた清牙が…。
いや、違う。
そっけないとかではなくて、確かに獰猛に獲物を嬲るように私を扱っていた清牙が、今も背中にあんなに怒りを称えて、何かを、感情を爆発させそうなのに、何を口にすることなく歩いて行く清牙の意味が、分からない。
だが、私にも、清牙にかける声もなければ、清牙に立ち止まる気配もない訳で。
只見送るしか出来ない。
「楓君、終わりましたよ」
まあ、そうなんだよね。
そう言われつつ、先生自ら差し出してくれたガウンを受け取り羽織り、納得がいかないと云うかなんか…。
「清牙君、やっぱ良いんですよね。役者、してくれませんかねぇ」
そんな、先生らしい言葉に、ささくれだった意識が緩む。
けど、あれ、清牙、怒ってって、ソレでもなんか…なんか、なんだよ。
そのまま控室に戻り、着替えて、そのまま帰宅。
それからそのままその後も、忙しい清牙とは顔を合わせることなく、『3部作』の放映が始まるのであった。
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投稿は毎週水曜日と土曜日と日曜日になります。
今更ですが、不定期に、予告報告なく、先の話との帳尻合わせで投稿分も改稿します。
現在11章書いてますが、壊変になったらごめんなさい。
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