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踏み躙られてこそ花は香る
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しおりを挟む何で私は、午前中からメグさんの店に呼ばれて、ドレス宛がわれて、何度もお着替えしてから全身マッサージ受けて、髪のセットからメイクまでみっちりやられているのだろうか?
確かに本日、ELseedのライブには行きますけど。
ドレスは、なくない?
何でも、本日、ギナちゃんは青黒のスパンコールドレスらしいので、いや、途中でパンツになるんだったか?
とにかく、青と黒は避けろと言われたので、クリスマスカラーである。
季節感は良いのか?
赤と緑。
胸をがっつり強調したチュニックに、おしゃれな紙袋みたいな膝丈スカートにロングブーツ。
頭にはそれこそクリスマスみたいな花と葉っぱが飾られています。
そして待ち合わせの時間が16時。
何で、準備に5時間もかかったのか不明。
そのままメグさんに会場まで送られて、受付に挨拶したら、ギナちゃんが出てきた。
本日も妖艶でお美しい。
「ギナちゃん。がっつりだね」
メイクも相当どぎついですが?
それこそ、今から本番と言わんばかりの姿である。
「だって、今日、QEENBEのシークレットライブだもの」
「は?」
「そこに、あの年寄り達便乗してきたのよ。困ったものよね」
にこやかに腕を引かれ、頭の中が? で一杯。
そしてグイグイ引っ張られて連れ込まれた先に、黒スーツ着たお二人がいて。
「ちょっ!!」
「お疲れ様です。本日のもう1人のゲストの、上田楓さんです」
「ギナちゃん!!」
何で、いきなり、ご御大??
思わず腰引けて逃げ出そうとしたのに、全力で背中押し出されてはどうしようも無く?
「あの、上田楓です…? いや、ちょっと待て! ゲストってナニ!?」
「だから言ってるじゃない。今日はウチのライブ。こっちのオジサマ達はゲスト前座。ママもゲストだから、着飾って貰ったんでしょ?」
何当然とばかりに言い切っているんですか!?
「聞いてないってっば!!」
「だって、今言ったもの」
「だからなんで!?」
「言ったら逃げるじゃない」
いや、そうかも、だけど!!
メグさん迄グルだったの!?
なに、この状況…いや、そうじゃない!
憧れの御2方がポカーンとした顔で、私見て、そして笑い出した。
「何、ギナが、なんか可愛いの連れて来たけど」
「稲本。その子、清牙の女優だ」
うわぁ。
なんでか、私の事を、姫が知っている!?
いや、可愛いとか、言って貰いましたよ、あの、稲本様に!!
「ギナちゃんンンん!!」
バンバン腕叩きたいけど、本番らしいので、傷つける事は出来ないので、取り合えず、ギナちゃんの背中を押して後ろに下がる。
「嫌だ。なに、乙女みたいになってるの、ママ?」
「無理ぃぃぃ!!!」
無理無理。
なんで、こんないきなり、何の覚悟もないまま、お二方。
「ごめん。鼻血出たらごめんなさい、メグさぁぁん!!」
「まあ、メイクなら、私が直してあげるけど、なんか、ムカつくほど可愛いんだけど?」
「ホント勘弁して。私泣きそう」
「ホント、頭来るわね。これ、私のライブだつってんだろうが」
いや、そこで声太くされても、だよ。
「カッコいいよぉ。ダメ。今間近で直視は無理」
「はああ?」
「ぶふっ」
「ああ」
軽く吹き出しての苦笑いのコンボとか、ご褒美が大き過ぎる。
「私、今すぐ帰って、記憶整理して、保存したい!!」
「馬鹿なの? さっきから言ってるけど、ママ、ゲストなの。タダで帰す訳ないでしょ」
いや何、ソレ?
「本当に、聞いてないんですが?」
「だから、今から言うのよ。私の曲で叫んで」
「はあ?」
意味が分からず首を傾げ、思い出す。
「『希望』の冒頭、女の子叫んでたっけ?」
「それ、やって」
何をいきなり云うのか?
「いきなり今日?」
「出来るでしょ。人、あんなに簡単に殺せるんだし」
「簡単じゃねぇわ!! 姪っ子何回殺す度……」
叫びつつ視線を感じて黙る。
信じられない。
ELseedのお2人目の前にして、なんと……。
「精神病んだんで、帰って良いですか?」
「だから、ママに叫んで貰わないと、今日、音源無いから」
「ギナちゃん!!」
「三流ホラー張りに、高々叫んで頂戴」
無茶苦茶である。
「ソレ良いな。ウチでもやってよ」
そこにかかった声の、甘い、揶揄う声に、心臓がバカ高く鳴り響く。
その声の元に思わず視線を向けて、その尊さに、恥ずかしくなって、ギナちゃんの後ろに再移動。
「ホント、大概頭に来るんだけど? 私にも博人にも全然普通じゃない。清牙は良いんだけど。この扱いの差、頭に来るんですけど?」
「いや、だって、無理」
どうしよう。
今、稲本様と目が合って笑われたの。
姫が、とても慈愛の目で苦笑いされていて…。
「恥ずかしい!!」
「いや、あんた、どこの誰よ!?」
前面に出さないでぇ。
ギナちゃんと力比べに負けた私は、前面にお2人を迎えて、顔が暑い。
って言うか、顔、上げられない。
「上田楓ちゃん、俺らの『幻想』分かる?」
それはもう、よぉぉぉくっ、知っております。
毎回ライブで叫んで、ノリノリでございます…と、本能のまま首を縦に振る。
「その、間のセリフ、分かる」
分かりますよ。
女の人の、ですよね。
妙に色っぽい、アレ。
大体は音源だけど、時々女性ベースの人とか入って、直接言ってる、アレですよね?
「あれ、言ってよ」
「ちょっと待って。ウチの前座迄は良いけど、ウチの演出と被ってくるのは、遠慮して欲しいんですが?」
「被るって、全然違うだろ」
「稲本」
「松葉さん。合間のアレだけだろ。それも、女の叫びとは真反対の、あの一言だ。被る要素が全くないだろ」
「だが、何もかもいきなり過ぎだろ。上田さんも困るだろうが」
「困るの?」
グイっと、もう、顎がクイっと持ち上げられて、稲本さんの顔がドアップ……。
プルプル震える。
どうしよう。
近い。
呼吸出来ない。
「いや?」
困った顔で優しく言われては、もう首を縦に振るしか出来ない。
でも顎クイされてるので動かせなぁぁぁい!!
有り得ない!
「ほら」
顎から指が離れて、肩に置かれた手が熱い。
うううううっ、死ぬ。
呼吸が出来ない。
「いや、お前、ソレ、言わせてるから」
「そんなことないよね?」
そう聞かれれば、その通りと頷くしかない。
「タイミングさえ合わせてくれればそれで良いよ。まあ、ズレてもこっちで何とかするし」
うわぁ。
もう、どうしろと?
「何、勝手に決定出してるんですかね? こっちの演出は?」
「だから、こっちは声だけでイイって言ってんだから、問題ないだろ。全然、被ってない」
「稲本」
「なにより、上田さん本人の許可、出てるんだけど」
「くそじじい」
「爺は止めろ」
どうしよう。
いやもう、稲本さん唯我独尊、カッコ良過ぎです。
「ママ! 浮かれてないで、ちゃんと聞いてるの!?」
ギナちゃんの言葉に、何度も頷く。
「大丈夫。あっちの感じと声は被らないようにするし、って言うか、叫び声とあのセリフじゃ、被せようないし、何とでもなるから」
もう、稲本様に、ここまで言われてしまっては、どうしようもなく?
期待に応えねば、私の人生が終わってしまう!!
「上田さん、大丈夫? 無理させてない?」
姫に迄、お気遣いのお言葉を頂いたのだ。
私は後十年、生きられる!!
「大丈夫です。ですけど…」
ちょっと烏滸がましいかもしれないんだけど、やっぱ、最終確認は必要で。
「あの、儚げなって言うか、どうなっても構わないくらいに、消え逝く感じで、良いんですか? 今、言ってみます?」
「ああ、それなら、ちょっと、やろうか」
そう言って姫がギターを握る。
「途中ラップは、稲本が行くから」
そう言ってギターが鳴り、その前のサビが、稲本さんの生歌が!!
いや、痺れてる場合じゃないんだけど。
これは死ぬほど聞いてきたので、世界観は分かると云うか、私の思い込みなんだけど。
そのまま稲本さんのラップを聞いて、合わせる。
好きで好きで仕方がない。
何をされても構わない。
このまま壊れてもいい。
だから…。
「「「「「……」」」」」
静まり返る空気に、しまったと思ったら、なぜかギナちゃんに腕をつねられる。
「本気で、ムカつくんですけど!!!」
そしてなぜか、怒られた。
「えっと、なんか、ダメなとこあれば、言っていただければ、調整をば」
「いい。そのままで」
稲本さんの、にこやかなOK出ました!!
「上田さん。そのままで、本当に、大丈夫だから、宜しく」
姫、優しい。
「ママ、行くわよ!!」
そしてご機嫌斜めなギナちゃんに、無理くりお2人の控室から連れ出された。
慌てて頭を下げて出て来て、ギナちゃんの控室らしい、揃ったメンバーにぎょっとした顔をされた。
そんなの気にすることなく現在、私、ギナちゃんに壁ドンされています。
「何度も言ってるけどコレ、ウチのライブなの? あんな声、爺共に出しておいて、私のステージで、中途半端な事したら許さないんだけど?」
「あ! あれ、ラストにもあるんだけど、それも言った方が良いかな?」
「今、そんな話してねぇだろうが!!」
だから揺さぶらないで。
それに、偉いドス効いてたから。
「でも、重要じゃない? 最後は音源あるなら良いんだけど、無いと中途半端」
いや、あっても、私とは声が違ったら、それこそおかしくない?
「誰か!!」
そのギナちゃんの言葉に、誰かが扉から出ていく。
「それで、ウチの叫び声は、どこまでやってくれるのかしら、ママ? ウチのライブなの。あっちにあそこまでするのなら、こっちはそれ以上でやって貰わないと、こっちも、メンツ立たないんだけど?」
良く分からんけど…。
「叫び声はホラー映画でイイの?」
「嘘臭い声だったら、その場で衣装ひんむくわよ」
やっぱ、ギナちゃんは、清牙と同類である。
同じ国の人。
これ以上Sの国の人の知り合い、いらんのだけど。
そんな事を思っていたら、駆け込んでくる誰か。
「ラストも付けて欲しい、任せるとの事でした」
ああ、多分、あの感じのままで行けって事なんだろう。
「同じ感じで行きますって伝えて下さい」
そのままスタッフさんは、返事もせずに走っていったけど大丈夫だろうか?
それはそれ、こっちはこっちである。
なんか、ギナちゃん、機嫌悪いし。
「ホラーの叫びって基本、嘘臭くない?」
特に、冒頭で殺される金髪姉ちゃん。
何故に、あそこまで下手糞ばかりを使うのか?
なのにホラー映画設定とは、どうしろと?
「じゃあ、どうするの?」
「それはギナちゃん次第でしょ。どう云うのがご希望?」
その言葉に、一瞬、ギナちゃんが固まる。
「震撼惨憺知らしめる感じ」
それはつまり?
「恐怖のどん底に落とし込めと?」
「出来るの?」
出来ると云うか、私が、だよね?
落ち込んでいくの。
「殺される恐怖を叫んで誤魔化す感じ? それとも、恐怖で気が狂う寸前?」
「え?」
「多分、聞いてて怖いのは後」
「んじゃ、それで」
はあ。
「今ここでやると、相当、煩いと思うけど?」
「まだ、客は入れてないからイイわよ」
良いんだ。
まあ、やれと言えばやりますよ。
昔、これで、同期と遊んだ記憶を思い出す。
色んな声の出し方発声、お互い罵り合って遊んだものだ。
感情を引き出して、その世界作り出して、いきなりではなく唸ってからの心からの身体からの叫びを。
思いっきり腹からの声に、自分でも煩いなと思う。
当然、間近のギナちゃんは相当煩かったのか、何度か首を振って捻ってからまた、私の腕をつねってくる。
「煩いじゃない!!」
「だから、煩い言ったよ」
何で、人の話を真面目に聞かないのか。
「これ、マイクなしの方が響くと思うんだよね。袖じゃなくて、会場後ろからやって、引っ込む感じでイイ?」
「え?」
「前からより、後ろからの方が、心拍数絶対上がるって」
「え?」
いや、私が聞きたいんだけど?
そう見ていたら、頭を抑えたギナちゃんが唸る。
「誰か、ママについて。絶対に、身の安全は確保して」
身の安全って大袈裟な。
そう思っていたら、また誰かが叫びに来た。
「客入れ始まります。あの、上田さんには袖に控えて欲しいと」
そうですよねぇ。
ステージに上がらなくても、そら、居場所は確定しとかないと。
って云うか、何の説明もなくいきなりだから、時間ギリギリじゃん。
言ってくれたら、もっと前から入れた…のか?
準備、馬鹿みたいにかかったから。
メグさん次第な、気もしないでもないけど。
「んじゃ、後の誘導も必要だから誰か寄越してね。ってか、ギナちゃん怨むよ。私、純粋に、ライブ楽しみに来たのに!」
これじゃあ、全然楽しめないじゃないか。
いや、まあ、御大に直接拝謁してご聴示戴けたのですから、おつり以上の何かはあるんだけど。
それでも。
普通に見て聞いて、純粋に、楽しむだけが良かった。
何でこんな事になっているのかが、いつもながら、さっぱり分からない。
分からないけど、まあ、やるしかないよね。
ELseed様からのお願いだし。
なんだかんだと、楽しいかもしれない。
最近の演技鬱屈してたし。
そんなルンルンで、私は促すスタッフさんに言われるがまま進むのであった。
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