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業界的展開の迷走
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しおりを挟む学校に行く時、初めては御園さんの車、その次は筧さんの車で始業時間前に付いていた。
その後は始業時間に行けたのは3回。
その内1回だけ、午前中だけは授業に出れそうだと御園さんに連絡して返事を聞く前にバスに乗って行ったことがある。
なんでか、バスを降りる時にカメラや携帯を向けてくる人が一杯いて、御園さんも筧さんもそこにいて、凄く怒られた。
御園さんによると、有名人でもいくつかのパターンがあるのだという。
画面とは違い過ぎて全く気付かれない人。
有名人だと気付いても、近付いて行こうとは思えない人。
如何にも芸能人で、歩いているだけで取り囲まれて大騒ぎになって身動き取れなくなる人。
芸能人だと誰もが気付くけど、そっと見守るだけで、中にはこっそり写真撮って終わるだけの人。
芸能人だと気が付いて、馴れ馴れしく触ってきたり、当たり前に写真撮って自分達の友達みたいにそのまま連れていかれそうになる人。
私は最後のパターンらしい。
因みにカエちゃんは、全く違い過ぎて近付かないか、気付いても近付こうとは思えない人らしい。
清牙さんは気付いてもこっそり撮影されるぐらいで近付けない人、らしいけど。
永井さんは気付いて写真撮ったり手を振ったりするくらいで、あまり近付かれない人だとか。
業界の人も色々ある、らしい。
中には自分からテレビに出てますと大声で言って、周りの人が目を逸らして逃げていく人もいるらしいけど。
なので、私は1人歩きが基本禁止である。
コンビニ行くのにも、御園さんや筧さんが送ってくれる車の途中でしか寄れない。
ぼーっとした田舎者なので、人の流れのまま誘拐されかねないから、らしい。
そこまではぼーっとしてないと言いたいのだけど、都会の交差点の人の多さを見た時、思わず御園さんの手を握って助けを求めた経験もあるので、心配されても仕方がないとは、思う。
未だに、決まった通学路バスに乗るのと、事務所とSPHY事務所に行くバスに乗るくらいは出来るのだけど、電車は無理。
どれに乗ればいいのかも分からなければ、どの路線がどの改札口かも分からない。
なんで、都会の改札口はこんなに複雑なのかが理解出来ない。
当然、その後は間違いなく学校の送り迎えをされるようになった。
始業時間前だろうと、途中参加だろうと。
多分、テレビ局でトイレに行くのに迷子になった事も、心配されている原因なんだと思う。
カエちゃんに言わせると、私とママは1人歩きさせちゃいけない生き物らしいので。
でも、あっちじゃ普通に、電車とバス乗り継いで学校行ってたから!
そんなに複雑な路線じゃないし、決まりきった時間に決まったものに乗るだけだったし、同じ方向に行く同じ制服がいたので、何の問題もなかったと言われれば、それまでなんだけど。
本日も、決まりきった、乗り換えもないバスに乗るだけなので、間違うこともなく普通に学校に到着。
久しぶりに制服着た気がすると正門の前で生徒手帳を出すより早く、警備員さんに声を掛けられる。
「鈴鹿さんですよね? 連絡が来ています」
うん?
警備員さんに迄、文化祭に参加しろって連絡来てるの?
「御案内しますので」
そう言って、警備員さんは、門の前から離れようとする。
だけど、学校前の門から人がいなくなったのを私は見たことがない。
大丈夫なんだろうかと、後をついて行けば、教室とも職員室とも関係ない場所。
多分、部活棟?
体育館の裏だから、そんな気がする。
ごめんなさい。
学校そんなに来ていないので、教室と職員室と学食に体育館くらいしか分からない。
「こっちで、何かあるんですか?」
「今授業中なので、特別室を借りて相談会があるらしいです」
授業中に、特別室を借りる?
ん?
授業中は授業受けなきゃいけないと思うんだけど?
そもそも、特別室ってこんな遠くにあるの?
学校行事なんだから、クラスで連絡するもんじゃないの?
そんな疑問のまま案内されたのは、やっぱり部活棟の一部屋にしか見えない。
この学校の部室棟には初めて来たけど、中学の時テニス部だったので、その雰囲気造りは分かる。
そんな部室棟の一室に入るのは良いんだけど…と戸惑っていたら、腕を引かれて…と云うか力任せに中に引き込まれた。
そこにいたのは、なぜかのKanoさん。
相変わらずの濃いメイクにピンクの髪に、なんで、この人がと思う。
「ウチの学校、でしたっけ?」
「あ゛?」
違うらしい。
だよね?
確か成人越えてて…??
「今、アワモリに行かれたって」
「青森だよ!!」
あれ?
私、活舌悪くなってる?
いや、今、多分、すんごく混乱している。
だって、目の前にKanoさんと繋ぎを着たおじさんに、入り口前に警備員さんがいる。
「えっと、私今、閉じ込められてます?」
「はぁぁ? 馬鹿じゃねぇ?」
ああ、うん。
よく言われます。
特に、カエちゃんとか清牙さんとか、永井さんとか。
後、希更にも言われます。
でも、私、そんなにお馬鹿じゃないと思うんです。
取り敢えず、スマホにつるしているキーホルダーの電源を入れて外し、制服のボタン外して胸元に押し込む。
カエちゃんほど大きくはないけど、録音中継機材を押し込む隙間ぐらいはあるので。
そしてスマホの電源を落として窓の外に放り投げた。
それらを見ていた皆さんは『あ』だの『は』だの言って、私を見てからKanoさんを見ている。
「アンタ、何のつもり?」
何のつもりも何も、緊急時に、やるべき事だと教わったモノ。
「スマホは指紋認証なので、放り投げれば、あなた達には何も出来ないし、あのケースはSPHY特別モデルで、バックナンバーあるから、特定直ぐされます」
って言うか、あれ、限定30とか言ってたから、私のだってすぐ分かる。
だって、私以外はSPHY関係者しか持ってないし。
カエちゃんすら持ってない。
いや、そのカエちゃんがいらないって言ってたので、私が貰ったんだけど。
「そして今現在、盗聴器の電源を入れました。これ、中継器? 良く分からないけど、音声をどこかに飛ばして録音されています。全部、録音されています。Kanoさんと用務員さんと警備員さん? 全部証拠に残りますからね」
そう言えって、健吾さんに言われてる。
実はどうなってるのか、私には良く分からない。
只録音撮影機材には、電源入れない限り影響は絶対に与えないものなので、何があっても肌身離さず持っていて、何かあったら迷うことなく電源入れろとは言われたけど。
電源入れたら即、救出に向かうからとも。
「直ぐに、捕まっちゃいますよ。ごめんなさい、しましょ?」
ああ、こういう時、どう言えば良いか分からない。
カエちゃんだったら、清牙さんでもきっと、カッコよくビシッと言えると思う。
なんか、どう言えばビシッとなるかも良く分からないし。
って言うか、なんか、怖くない?
まあ、怒ってる清牙さん見ていれば、オドオドKanoさん見ているおじさん2人を怖いとは思えないんだけど。
状況は多分、怖い筈!
と云うか、笑顔の監督の「違う」に比べれば、全然?
混乱はしているけど、怖いと云うか、どうにかしなきゃって焦りが、なぜか、自分の中にない。
「アンタ馬鹿なの!? もういい!! 今すぐやっちゃって!!」
ん?
そう思っていたら後ろでガチャガチャ音がして、ウチの制服を着た男の子が入ってきた。
「Kanoさん。これ、鈴鹿ちゃんのスマホ…本物!!」
眼鏡をしたひょろっとした男の子に見覚えはないけど、制服には見覚えがある。
幾ら通う回数が少なくても、ウチの男子制服ぐらいは分かる。
「やっぱ、可愛いですよね」
「どこがよ!!!」
「厚化粧いらないところ?」
「ふざけんな!!!」
「Kanoさん、化粧に亀裂入りますよ」
「死ね、ゴミが!!!」
そこでKanoさんが履いていたサンダルを男の子に投げて、男の子が避けるまでもなく警備員さんに当たる。
そしてオロオロする用務員のオジサン。
「えっと、良く分からないけど、仲間割れ?」
「「仲間じゃない」」
Kanoさんと男の子は仲間じゃないらしい。
「ほんと、鈴鹿ちゃん可愛いよね」
「何よ、こんなドブス!!」
「化粧なしでコレですよ? ホント、目が腐ってますよね?」
「アンタの方が腐ってんじゃないの!?」
「まあ、性根はそうかもしれませんけど、こんな頭悪いことする人と比べられたく無いなぁ」
そう言って、スマホに頬ずりして舐める。
うわぁ。
ちょっとあれ、触りたくないかも。
「アンタが手引きしたんでしょ!!」
「しましたよ。こんな近くで鈴鹿ちゃん見れるなんて、一生ないだろうし」
そう言って男の子が近づいてくるのが気持ち悪い。
思わず後ろに下がり、そして用務員さんが前に出て来てKanoさんが笑う。
「ホント、ぶっさいく。ビビッて田舎者が震えてる写真!」
そう言ってスマホで写真撮られたのは分かるんだけど、近付いてくる男の子がグイグイ来るので気持ち悪くて、逃げ場と云うか行く方向がない。
ここ、狭いし。
「あの、近付かないでください」
「無理。この為に、こんな頭の悪い作戦乗ったんだし」
「頭、悪いんですか?」
「そこのKanoさんがね」
ああ、まあ、カエちゃんも同じような事言ってたけど、私にはあんまり関係ないと云うか、面倒な人でしかないまま、いなくなった人だし。
「その人ね、そこのオジサンたちとセックスして、鈴鹿ちゃんを滅茶苦茶にしてやるんだって」
うん?
「そこのオジサン達と、その…そう云うことして、なんで、私、滅茶苦茶になるんですか?」
「今から、君を、僕達が、好きにしていいんだって」
好きに?
え?
「えええええっ!?」
そう云う事なの?
今、私、とっても危険な状態?
え?
「あの、嫌なんですけど」
普通に。
「でも、鈴鹿ちゃん好きに出来るからって僕はこんな危ない賭けに乗ったんだけどね。まあ、未成年だし、大した罪にもならないし、やるなら今かなって。そっちのオッサン達がどんな重罪になるかは知らないけど」
えっと、なんか、私、物凄くヤバい?
いや、そう云う可能性もあるからって、永井さんとか健吾さんとか、舞人さんとか駆郎さんにも色々言われたんだけど…。
「私、犯罪しなくても、良いと思うんですよ」
「じゃあ、普通に告ったらやらせてくれるの?」
「それもちょっと」
普通の見た目なのに、この男の子の言ってることが怖い。
って言うか、良く分からない。
嫌がってる人を無理やりって、物語の…いや、映画とかではよくあって、駄目だ。
頭の中ゴチャゴチャしてきた。
「あの、悪いことは、良くないと思うんですよ」
「でも、悪い事しないと出来ないこともあるんだよね」
いやいや。
悪い事しないのが大前提…??
悪い事して迄、そうしなければ、叶えられない、コト?
「あの、このまま行ったら、間違いなくSPHYの関係者とかウチの事務所の人とか来ると思うんですよね」
「それまでに、出来る事はあるよね」
そう言って、男の子は逃げ場のない私の腕を掴んで、そのまま手を握り込んで腕を引き寄せようとする。
鳥肌立つし、吐き気するし、気持ち悪いし、全身がぞわぞわする。
「すんごい、細くて華奢で、いい匂い」
「ひぃぃぃぃっ」
気持ち悪い。
これ、ホントダメ。
どうしよう?
そう思ったら、身体が動いていた。
腕を引かれて逃げよう、距離を取ろうとするから、引き合う力が強くなる。
相手を油断させる為にも、力任せに引き寄せられたなら、自分から勢いつけてその内にわざと入り、飛び込む勢い全力を叩き籠め。
清牙さんの言っていた言葉の通りに気持ち悪いのを我慢してウチに入る勢いのまま胸に肘を押し込む。
そのまま体をひねって裏膝に踵を叩きこんでから頭を地面に叩き付ける。
あ、思ったより簡単だった。
男の子が一瞬で地面でクタッたとなり、それを見ていた用務員さんが慌てたように後ろに下がる。
そして警棒を構えた警備員さんにどうしようと思う。
警戒されていなければ出来る、護身術とかは習ったけど、プロや警戒している男の人相手に出来る技は、さすがに知らない。
力は結構ある方だと思う。
無駄に身長高いし。
手足長いし。
でも、男の人に勝てるだけの力はないと思う訳で…。
えっと、緊急時は迷いなく急所を狙え、だったっけ?
そう思っていたら突然飛んできたバスケットボールを蹴り飛ばし…たら、なぜか強く跳ね飛んでKanoさんの顔面に。
それはもう、跳ね返った勢いのまま避けることなく叩き付けられてひっくり返るKanoさんに警備員さんが駆け寄る。
「Kanoちゃん!!」
心配そうな警備員さんが抱き寄せるのを見ながら、用務員さんがなぜか土下座。
「俺は金を貰っただけで、悪くない!!」
えっと、なんで、いきなり土下座?
そして、土下座されても、おじさん、Kanoさんの仲間ですよね?
どうしようと思っていたら、なんか人の声とか足音がして、部屋の扉が開いた。
そして飛び込んできた舞人さんが私を抱き上げて外に連れ出して、そこにカエちゃんも筧さんもいる。
あ、塩野さんも。
えっと、結構な大事になっている気がする。
いや、盗聴器電源入れたから、もっと大事になっていてもおかしくなかった?
なによりも、だ。
「清牙さん、いないですよね?」
「アイツはモデル仕事の打ち合わせでいなかった」
ああ、良かった。
多分、大袈裟なことにはなってない筈。
「舞人さん、どうしよう?」
力が抜けるのに任せて舞人さんに抱き着いたら頭を撫でられる。
「もう大丈夫だ」
「今すぐ台本読みたいかも」
「はあ?」
今なら多分、婚姻関係にある男の人をどうしても奪い取ろうとした、アホな心情が理解出来る気がする。
犯罪だろうと、誰かを巻き込もうと、自分は未成年で逃げ道があり、やってしまえばなんとかなる気がするという気持ち悪い心理が。
「そういう事ならホレ」
そう言って横から伸びてきたのは、カエちゃんの手にある台本。
「いや、この状況で台本?」
「そこで目覚める瞬間って、あるにはあるんだよ。若いねぇ」
カエちゃんにも有ったのかなと思いつつ、ヨレヨレになった本を受け取って読む。
「美凉華。制服汚れるからな。抱き上げるぞ」
なんか、舞人さんの声が聞こえるけど、今、私、結構忙しいので。
私はされるがままに抱き上げられつつ、そのまま台本を読みながら移動したのだと、後から聞いたけど、その時は余裕がなかったの!!
これ以上、長谷監督の「違う」を聞きたくなかったんだもん!!!
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