泡沫の欠片

ちーすけ

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業界的展開の迷走

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先日やっと、先生の鬼三部作のドラマ撮影の私参加が始まり、私は美凉華とは直接接触はないモノの、美凉華の演技を多少なりとも垣間見る事もあって驚いた。
やっぱ、徹底的に追い込まれると変わるな、と。
楽しい初めてに、ワクワクドキドキして、なにもかもがキラキラして、我武者羅にぶつかっていただけの時とは違う。
自分の不甲斐無さに泣いて苦しんで追い詰められて、それでもままならなくて、自分が本当にダメで何も出来ないでボロボロになった状態でも、何かを出そうと足掻く美凉華の姿。
まあ、今、ミー1人で、外に出しちゃ不味いんだろうなと云うのが、確実に見てとれた。
とにかく危うくて、今にも壊れてしまいそうなほどボロボロなのが見てとれたけど、私が今、接触する訳にはいかない。
だって私は愛人の恋敵の妻役。
存在は知ってはいても、直接の面識はない設定。
美凉華が滅多刺しにされるその瞬間までは、一切の接触が全くない、設定なのだから。
先生が折角、時間も金も無駄にかかるって言うのにわざわざ、順番通りに撮影してくれているのだ。
今会って慣れ合ったら、今まで積み上げていた美凉華の愛人像が一気に崩れる。
それぐらい、美凉華はぎりぎり一杯だった。
その為、それを理解していた事務所とマネージャーは、徹底的に外部との接触を絶たせている。
本当に、先生の演技指導か撮影がない日は、何もないスケジュール。
学校だって行かないでリモート出席させるぐらいに徹底させる中、それは起きた。
私の方も、先生の方の撮影が始まった為、役者業の仕事は絞られたが、身の安全と状態保全の為、スーパーの仕事は長期的に休み…と云う名の一時退職扱い。
仕方が無いので、塩野君が張り付いての送り迎え付きで事務所の雑務を行っていた本日、珍しく鳴るスマホを受けた私がびっくりした。
なにせ、電話が鳴ることがほぼない。
大体がメールかLINEで済まされるので。
仕事関連は健吾君を通してしか来ないし、最近私の専属っぽくなりつつある塩野君とメグさんくらいしか直通な業務連絡もない。
まあ、時々先生から、確認メールは来るけど。
後、清牙の我が儘や駆郎君や舞人君の愚痴に、希更の惚気ぼんやり報告くらい?
まあ、今まではこれに美凉華も来てた。
だけど、美凉華は今鬼修行中で、私との連絡を絶っている。
なので、時々マネージャーの御園さんと、付き人らしい、御園さんが付けない時にいてくれる筧さんから業務連絡的な経過報告みたいなものが来るくらいで、それもまたメールかLINE。
なので、電話連絡が来るのは、本当に珍しいのだ。
電話連絡は、我が儘ぶっこいた清牙関連か、スーパーからの緊急出勤依頼ぐらい。
まあ、大抵は断っているが。
音設定もほぼ弄ってないので、突然鳴った携帯にビビってみれば、なぜか御園さん。
「楓です。どうしました?」
緊急時、メグさんに出て貰う事も多々あるので、名乗って出れば、御園さんは慌てたようにまくしたてた。
『鈴鹿、近くにいませんか?』
「いませんよ」
『どこにいるかとか、これから来るとか、何か連絡ありませんでしたか?』
「いいえ。なにも」
と云うか、先生の意向で、私と美凉華の間では、緊急性がない限りは連絡接近禁止令が出ているのは、御園さんも知っている筈だ。
よっぽどのことがない限り、今の美凉華から、私に連絡はしてこない。
そして、今が一番大事な時期だと知っている私からしても、美凉華に連絡する気はない。
そんな状況なのに、それを御園さんも良く知っている筈なのに態々?
「何があったんですか?」
言いながら、スマホをハンズフリーにすれば、何事かと健吾君が眼鏡を押し上げて近付いてくる。
『鈴鹿と連絡が取れません』
それは大事ですね。
あの子が、現在第一の、自分の味方である御園さんや筧さんの連絡を疎かにするとは考えにくい。
って言うか、今無制限に連絡出来るのはこの2人だけなのだ。
先生が、本気で徹底的に美凉華を追い詰めているので、連絡先…それも制限までかかっているので、今、愚痴れる相手もまともにいない程、美凉華は追い詰められている。
まあ、そこまでして周り巻き込んで大勢の人に助けてもらって、演技を学んでいる最高の環境と言えなくもないのだけど。
そんな感じなので、御園さんからの連絡を無視するのは絶対に有り得ない。
状況的にも、性格的にも。
美凉華は結構律義で気にしいなので、後の反応を考えて、余計な事を考えて、周りに気を遣い過ぎて空回りした挙句にちょっと、マイナスに入り込むことがあるくらいなのだから。
「筧さんは?」
『鈴鹿のスマホの、最後の信号があった場所に』
つまり、スマホの位置情報も、現在アヤシイ、と。
只電源を落としているだけなのか、奪われたのか…。
まあ、電源を落とす理由はないわな。
美凉華には撮影中であろうと常に、御園さんか筧さんが傍にいる。
スマホは最中2人に預けるので、電源を切ることはない。
寮に一人なら、部屋に置いてはあっても電源を切る理由もない。
あの子は私程ズボラではないので、スマホの充電忘れなんて事もない。
テレビより、スマホを弄ってる時間の方が長い、現代の若者だ。
電源落としてなんて、間違いなく、何かしら起きている。
「最後の信号は?」
『学校です』
うん?
不特定多数が集まる、限定が非常に難しい場所。
その上、かなりな特殊空間である為、現在の保護者代理である事務所関係者であれど、簡単に出入りも出来なければ、当然、許可が出たからと言って、保護者代理枠が好き勝手自由に探し歩ける筈もない。
学校なんて、そこの生徒か教師以外は、目立って仕方がないのだから。
つまり、関係者以外が動けば目立って仕方がないので、警戒もしやすい。
学校関係者以外が学校内部で何かしようとしたら、誰でも気が付けるのだ。
美凉華自身も、只学校にいるだけの生徒も教師も。
そして、それは、学校内で美凉華を隠している可能性のある、学校関係者手引きの、犯人の可能性があるって事でもあって…。
犯人の方は、こちらが気付いて動けば、即分かるだろう。
なにかしらの動きがあった時点で、即、逃げるなりなんなり出来る、不確定要素が多過ぎる場所。
そこに美凉華の安全性があるかは、甚だ疑問ではあるが。
「美凉華は現在、リモート受講ですよね?」
パソコンで受講とは言え、最優先は先生のドラマなので、現在学校に行く必要性がほぼない。
元々の出席率だって、仕事を理由にパソコン受講ばかりだと聞いていた。
まあ、美凉華は新しい学校にも、親しい友人はいない。
なので、どうしても学校に行きたい理由もなかった。
勉強もあまり好きではないのも相まって、ダラダラ受講という名の教室観戦っぽい何かをしていただけのようだった。
なにせ、そっち業界御用達の学校である。
そっち業界の子供がわんさか通う為の学校なので、皆がライバル。
切磋琢磨とか、自分は自分で他人は他人って割り切って、お仕事の為に顔を売るオトモダチ造りくらいの頭と度胸があれば、話は別だけど。
美凉華だし。
田舎者で天然で、がむしゃら感が全く無いのに、SPHYの後ろ盾だとか何とかの無駄な前評判のある美凉華は、かなり、学校で浮いているって話だった。
まあ、友達が出来ないと落ち込んでいる時点で、美凉華は相当に甘いのだけど。
後ろ盾も欲も願望も飲み込んで、付き合いを覚えるべきなのに、SPHYで甘やかすから、事務所もかなり好待遇なもんで、現実があまり見えていないのだ。
一応、軽く注意はしてみたんだけどねぇ。
伝わっていた気がしない。
伝わらないのを理解させるのも面倒だし、言われて分からないものを分かる迄って、それこそ、甘やかし過ぎでしょ。
それをどうにかするのは、もう、美凉華本人にしか、出来ない。
まあ、それこそが、美凉華の天然無垢さで、良いも悪いもないんだろうけどさ。
『一応、学校に行くとの連絡は来たんですが、その後、電源が落とされたようで』
美凉華も、何もしていなかった訳ではないらしい。
ただ、学校に行くにも、御園さんか筧さんの迎えを待てよと言いたい。
まあ、事が起きてしまっている現状で言っても、仕方ないんだけど。
「筧さんからは、何か聞きましたか?」
『学校に入り、出た記録がない事だけは』
それはどうなんだろうねぇ。
特別感が大きな学校であるが、飽く迄も名目が私立高校である以上、施設規模もそう他とは大差がない筈。
学校の名目がある以上、必要な施設は必ずあり、その施設の目的上多岐に渡り…ぶっちゃけ、それなりの広さと部屋数に、緑の遮蔽物がある。
全部、虱潰しに探すことは出来ても、学生やら教員やらの関係者が手引きしているのであれば、動きを察知して逃げ隠れする事は可能な訳で。
正直、学校がから抜け出すのって、そんなに難しくないんだよね。
塀やら壁やらに繊細なセンサー完璧に張り巡らされているならともかく、決められた出入り口封鎖されるだけならば、ヤンチャな子供であれば、いくらでも抜け出しようはある。
壁高くしようと、内部から足場を組むのに、学校には備品が多過ぎるので、材料に事欠かないし。
「私が直接乗り込みます」
接触云々は言っていられない。
美凉華の安全確保が第一だし。
保護者代理が学校に強く出るにも限界がある。
同じ保護者代理でも、血縁者が直接言うのであれば、学校も、出してくる情報も変わってくる可能性が高い。
『一応、ブラックとレッドリストをこちらで潰してはいるのですけど』
一応は若手実力者美人女優。
敵は多いわな。
周り全てが同僚で敵。
事務所は守ってくれる部分はあるが、同じ立場にある同僚達には、何があるのか…。
同じ寮内でも、酷く反感買っていたのを、思い出す。
「そう言えば、えっと、確かピンク頭の…かのう? いや、なんか違う」
すんごいバサバサした、特殊メイク施した、頭悪そうなのに絡まれたのを思い出した。
『Kanoなら、うちをクビになり、地元でリポーターをやってる筈ですが?』
そう言えば、そんな名前だった。
即却って来た答えに、そっちには何かしらの追跡が行ってそうな気がしないでもなく?
でも、大手事務所馘になっても、地方事務所じゃ拾って貰えて、現状仕事まであるとなると、見た目に反して、出来る子、だった?
かなり、切羽詰まった、阿保っぽい事しか言ってなかったけど?
「あのお嬢さんの何がそんなに良かったの?」
大手が所属させるだけの何か。
今現在、仕事を任せられるだけの何かが、あるって事の筈で。
『さあ』
ヒヤリとした口調に、これ以上突っ込んじゃいけねぇと戒める。
っていうか、今、そんな話してる場合じゃ無くね?
「んじゃ今から「塩野が車を準備してます」」
健吾君流石。
「こっちでもリストは潰していきます」
眼鏡を押し上げての一言が怖い。
何のリストだかは、聞きたくないです。
「それなら俺も一緒行く」
そこでなぜか、会議室から顔を出した舞人君。
本日は清牙の置いて行った曲の歌詞の手入れをしており、辞書と格闘していたのだけど。
「いや、どうせ学校には関係者しか入れないし」
運転手の塩野君さえいれば…。
「俺、卒業生」
は?
「えっと、坊々じゃなかったけ?」
そっちの御用達学校としては有名なのだけれども、学力もセレブ感もそんなにない、かなりな特殊枠な学校の筈ですが?
「ボンボンですが何か?」
あ、嫌そうに開き直った。
「まあ、ウチから近かったのと、その頃はまだ、日舞の方でも公演あったし、どこぞの助っ人も色々やってた頃だから、普通の学校じゃ活動厳しくてな」
そう言えばこの子、国宝級の家系の人だった。
そっちは今じゃ本業じゃないが、子供の頃からの実績もあるので、知っている人は知っている。
そっちの技術は今でも多少なりとも惜しまれているらしくて、なんかお偉い人が、やたら話しかけてきたりするらしいんだよね。
清牙には絶対関わりない様な、厳かな人と普通に挨拶してる時点で、まあ、世界が違う訳だ。
本人の意向はともかく。
「塩野じゃ中分からないだろ。内部は俺のが詳しい」
まあ、卒業生ならそうだろうねぇ。
「因みに、清牙も駆郎も、そこの中退組。あいつらは入学しただけで、ほぼ通ってない。役には立たねぇだろうけど」
うわぁ、世界が広いのか狭いのか分からない、特殊業界。
まあ、2人がいなくて良かったと思うしかない。
清牙は間違いなく沸点は底辺だし、駆郎君も結構アレだから。
「希更泣く前に、美凉華連れ戻すよ」
じゃないと、駆郎君が荒れ狂う。
清牙もどんな暴れ方するか分かったもんじゃないし。
「まあ、安全第一だな。それに、美凉華はそこまでお馬鹿じゃないだろ」
いや、あれ、結構天然で、どうしようもなくお馬鹿ですけど?
かなり行き当たりばったりで、判断基準が清牙並みに野生だ。
ただ、清牙ほど短気ではないだけで。
怒ってる姿が、周りに分かりにくいだけで。
そんな言葉は飲み込んで、御園さんには何か分かったら連絡することを約束して動くことにした。
その顛末は、何とも間抜けな話になったのだけど。
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