泡沫の欠片

ちーすけ

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業界的展開の迷走

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その後、無事に撮影は終了。
ただ、最初の撮影予定よりハードになったのは、全部清牙の所為である。
無数にある噛み痕の為、メイクで不自然に誤魔化すよりはと、なぜか私は薬物依存で乱交に励んだ後での錯乱心臓呼吸停止からの死亡となった訳だ。
まあ、どうせ死ぬ予定だった訳だから、色々追加されても頑張るしかない訳で…。
「清牙には見せない努力はします」
「努力じゃなくて、して下さい。そもそもが、清牙の所為なので」
健吾君の言葉に噛みつくが、笑顔で流される。
服を脱いではいないけれど、まあ、不特定多数とそんな映像はまあ、撮られた訳ですよ。
全部清牙の所為なのに、な!
なんで私が、その事でさらに、清牙の機嫌を取らなきゃいけないのか?
そんな愚痴は当然流されて、問題は見られなければ良い。
見ないとイイネと先送りにして、本日は歌番組に付き添いで来てます。
「姐さん。私、これで良いんです?」
「これで良いのよ」
そう、さっきから私は、姐さんの横に座って手を繋いでおります。
姐さん初の歌番組。
それもSPHY従えての歌番組。
メインボーカルは姐さん。
なのに、普通に控室の表記は
『SPHY様
 甲池恵子様』
だったけれども。
ドラマの方も、初回放送から結構な視聴率だったらしく、その後も順調に伸びているとか。
第2弾を今年終わりか来年頭にって話まで出ている模様。
当然、姐さんの出演も決定している。
歌迄は知らんけど。
そんな、緊張で落ち着かないらしい姐さんと手を繋いで歌詞とにらめっこ。
その後ろでは、清牙がギーターを弄って…基、駆郎君に指導されております。
「清牙、遅い」
「ちょっと待て」
「曲は待たない」
「いや、動く! 動くから」
「動いてても遅ければ意味がない」
「だああああ!!」
清牙、実は、ギター触るの、かなり、久しぶりだったらしい。
指が思ったより動かなくなっていたとかで、一週間前から練習繰り返していたんだけど、駆郎君的にはまだ足りないらしい。
本当はもう少し複雑なコードだったのを、清牙の為に変えただとか何とか。
まあ、レコーディングの方はギターも駆郎君がやっていたので、更に複雑な技法が適用されている。
本日は音楽番組一発目なので、安全の為、緩い方でやるらしいのだが、次くらいは難しい方で行くらしい。
なので今は、難しい方の練習中。
清牙が駆郎君にダメだしされまくってる姿に、ざまあみろとか思ったりしても、罰は当たらない筈だ。
「もう、親父さんに頼んだが早くね?」
それを笑いつつ見ている舞人君の、情け容赦ない言葉。
「今回は、SPHYバックにって話なんで、無理よねぇ」
メグさんの厳しい一言に清牙が吼える。
「分かってる!!」
まあ、素人からすれば、十分出来てると思うんだけど、プロからすればコンマでも違えばアレな訳だし。
「大丈夫。イケる。俺は本番に強い」
「本番だけじゃなく、毎回出来て、当たり前だから」
駆郎君、厳しいですねぇ。
まあ、その通りなんだけど。
そんな風に騒いでいたら、軽いノックが響く。
部屋に控えていた本日の監視…付き添い、塩野君が扉を開けた。
私が撮影の時ついてくる確率が高い塩野君は、かなり有能らしい。
護衛に運転手と幅広く色んな資格を有してるのだとか。
私からすれば人当たりのイイ、SPHY第一の理想的下僕にしか見えないんだけど。
今も、にこやかな表情のまま扉を開け、そのまま入り口から3歩以上進ませないように場所取りしているその姿が頼もしい。
「あら、やだ。本当に清牙がギター弾いてる」
あぁ、なんか、この一言で分かってしまった。
間違いなく、昔、清牙と関係があった女性なんだなと。
正し、年齢は私やメグさんよりかなり上っぽい。
声は高く綺麗でしっとりとした艶がある。
だけど、顔も声も、ほぼ聞き覚えも見覚えもない女の人。
「今日は宜しくね。私も久しぶりにテレビに出るの」
誰だか分からない上に、目線が完全に清牙にあるので、この場にいる誰もが返事に困る。
挨拶くらいした方が良いのかもしれないけれど、清牙以外は眼中になさそうなので。
「後、久しぶりにご飯でもどう?」
あからさまなお誘いである。
だが、清牙は未成年がNGなのと、特定店舗以外での飲酒がNGなのを除けば、私生活ではさほど制限はない。
テレビに出るとなると、言動統制の嵐になるんだけど。
それがあるので、元々があまり出ない。
もしくは放映部分では一切口を開かない。
今も、清牙がただただ、無口で不機嫌になる。
「うるせぇ。邪魔。断る」
清牙、今現在、嫌そうです。
そんな嫌そうな相手と、致したの?
態々そんな相手とするまで不自由…わかんねぇな。
清牙だもん。
好奇心が先走ることもあるのか?
だが、致した後、完全に、無いと打ち切られてるっぽい。
っていうか、お姉さんには全く興味がなく、今はギターで忙しい模様。
さっきの一言で、清牙の中ではすべてを終わらせたっぽい対応である。
相手にはそれが、全く伝わっていないのか、それを都合よくスルーしてるんだけど。
「そう云うところ相変わらずね」
綺麗なのに、笑みが獰猛。
見た目綺麗な肉食獣が一杯。
業界人怖い。
「清牙らしいけど、収録終わる前に、気を変えてくれると嬉しいわ。またね」
かなりあっさり気味に出ていき、なぜか、私の手を掴んでいた姐さんに促されて控室の外に。
当然のようについてきたメグさんも含めトイレに入り、個室一個一個迄確認してから、姐さんが口を開く。
「あの人、瀬山まりかさんって言うんだけど…やっぱ知らないか」
姐さんの知り合い?
なのに、目もくれず、挨拶もしなかったけど、あの人?
「あの人、ミュージカルでは結構大御所。ファンティーヌで毎回呼ばれるくらいには」
うわぁ、かなりそっちでは有名な筈。
レミゼラブルの、最初の方の女性メインじゃん。
「舞台中心で、テレビや映画ではあまり見ない人だから仕方ないんだけど」
「テレビ映画で見ないんじゃなくて、出れないのよ」
そこに、メグさんが嫌そうに口を開く。
「有名なショタコン女王様だから」
げっ。
私の思いのままに、姐さんの顔が歪む。
「あの人、子供に迄、手を、出してたんですか? SM系ってだけじゃなく?」
え?
今、なんか特殊単語出た?
「まあ、そっちでは、あんまり子供が…ねぇえ」
そうですね。
ミュージカルや舞台だと、子供役も大人が普通にしてるもんねぇ。
余程の子供前面に出た舞台でもない限り、子供そのものが出るのは珍しい。
舞台だと特にお約束があって、子供の為の衣装って、デザインだの丈だの決まってること多いし。
そのお約束前面に出せば、制限扱いの難しい子供を無理して使う必要性が無くなる。
子供はやっぱ、心身共に、変動デカすぎるから、長期舞台では使いにくいのだ。
いや、まあ、今はそんな話どうでもイイけど。
「つまり、清牙が昔?」
「毒牙とかではないと思うわよ。清牙、だし」
いや、まあ、清牙だからね。
「えっと、清牙が?」
あの、一見大人な艶のある女性にSM的プレイで…。
「鞭とかロウソクとか、貧困な発想では、その辺りしか思いつかないんですが」
されるの?
あの清牙が?
するのも、なんか、違う、気がするんだよね?
アイツ、強い相手と組むのは好きだけど、弱い相手になんかするの嫌がるし。
「そこまでは知らないけど、清牙が言うには、アバズレらしいわよ。私がスタイリストについてからも、何度か接触合ったけど、清牙は相手にしてないわね」
あれ?
私、その話、聞き覚えがあるけど。
なんだっけ?
「ああ、思い出した」
そう、つい最近聞いたよ。
「チャレンジバトルで、女性アーティスト云々で、清牙の知り合いの、歌える唯一の女性とか言ってた」
「知り合いというより、連絡の取れる、清牙が呼べばホイホイ出てくる女の1人って事よね」
女王様なのに、ホイホイ出てきちゃうんだ。
「女王様の定義って何ですかね?」
「そこを私に聞かれても、私も、そっちのプレイの理解は深くないわよ」
深いとか言われても困るんですけどと、メグさんから姐さんを見れば、姐さんも溜息を吐く。
「初出演の男の子には、大抵先輩がついて、事前に注意勧告がなされてるって話ですよ」
うわぁ。
「なんでまた、ピンポイントで、今日、来るんですか?」
「どこぞのアニメスタジオの記念が、今年だからじゃない?」
「そう言えば、歌ってましたね」
そうか、その辺歌うぐらいには大御所なのか。
そら、清牙も認める女性アーティストだね。
人間性は、清牙も関わり遠避けるレベルみたいだけど。
そこに強めに叩かれる壁。
塩野君が誰か来たと合図してくれたので、慌ててそれぞれトイレに入る。
序だから出すもの出しましょうねと出て来てみれば、部屋は開いてるのに、瀬山まりかさんはにこやかにお立ちになり、出てきた私達を次々、上から下までじっくり眺めて微笑んだ。
「相変わらず、酷い趣味なのね、あの子」
えっと、すんげぇ誤解があるような気がしてならないけど、正直関わり合いになりたくない。
「幅を広げるためには仕方がないのかしら」
ごめんなさい。
なに視線なのか、さっぱり分からない。
早くここから抜け出したい、そう思ったら、また壁を叩く音。
「清牙さんが迎えに来てます」
なして?
思わずメグさんと姐さんを見れば、頷かれ、なぜか私の両手がとられる。
「本日は宜しくお願いしますね」
「失礼します」
私は宇宙人の連れ去りの様に外に連れ出され、そのままなぜか、迎えに来ていた舞人君により速足で楽屋に戻ることになる。
「塩野。絶対に、カエさんから目を離すな」
なぜに、私限定なんですかねぇ?
その答えは、数十分後に知ることになる。
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