泡沫の欠片

ちーすけ

文字の大きさ
上 下
60 / 122
業界的展開の迷走

しおりを挟む



本日は、ネグレクトで旦那の遺産使い潰した挙句、オーバードーズでお亡くなりになる、馬鹿女役でテレビ局に来ていた。
取り敢えず、小学生の子供放置で遊び歩いてる場面は終わり、オーバードーズに嵌まる、そして亡くなる場面の撮影待ち。
衣装もメイクも変えて、病み感出していくってんで、切り替え時間をって事らしいけど、間が長い。
私としては、ちゃっちゃと切り替えて、さっさと終わらせてくれた方が楽だったんだけど、そうもいかず。
一旦メイク落として、衣装も待て状態で、ネルシャツにスウェット下という、実にラフな格好である。
着替えやすく跡がつかない。
そんなダラケた格好で、メグさんと、待ち構えている鬼仕事についてオハナシしていたんですが、なぜか、激しく控室の扉が叩かれる。
「もう、出番ですか?」
出番まで後2・3時間はあるって話で、1時間前には言いに来るって話だったのに?
そう思いつつ扉を開けたら、本日初めましてのスタッフさんだった。
「あ、M展のスタジャン」
メグさんの言葉通り、ご長寿な歌番組のロゴの入ったジャンバーを着た眼鏡のお兄さんは、滝汗で青褪めた顔で、深々と頭を下げた。
「助けて下さい!!」
あっぁぁぁ、コレ、アレだ。
「もしかして、近くで、清牙が何かやらかしてます?」
「desusaizさんと」
ああ、なんか分かる気がする。
お互い才能はあるけど、世界が全く違うからね。
清牙は俺様で細身で超身長の美形で、歌も見た目も高評価に知名度が高い。
desusaizさんは、成人女性の平均身長より低くて横に広くてとにかく丸いけど、曲だけは大変人気がある。
曲が売れて、その後にルックスが公開された形なので、分野は真反対に近い。
対局は間違いなくアイドル様だろうけど。
そのアイドル様…特に女子との相性が悪い清牙も、どっちもどっちとかは、言ってはいけない。
分かっているのは、どっちも唯我独尊で、間違いなく相性は悪い。
「メグさん、知ってます?」
「まあ、あんまり評判は良くないわね。清牙よりはマシだけど」
ああ、性格、やっぱ宜しくないんだ。
セルフプロデュースって、やってる人、結局、アレなんだよね。
自分のやりたいを詰め込みたい、その気持ちは分かる。
ただ、本当にやること多くて、よっぽど出来る人じゃないとダメな感じなんだけど、同時に、自我がかなり激しく強くないと、わざわざ全部を自分で全てひっかぶるなんてこと、したくないもんだしねぇ。
つまり、セルフプロデュースは、自分大好きで、何をしても自分が一番の王様でないと気に入らない、唯我独尊な超ナルシスト気質でないと、絶対にやらない。
特に、人の話が聞こえない人が、やりたがる。
清牙は自分が一番の我が儘猪王子だけど、セルフプロデュースはしない。
歌う以外の仕事は、したくない。
だから、歌う仕事以外はなるべく、他に振ってしまいたいので。
一応人の話は聞くけど、やりたく無い事は邪魔を殴り飛ばしてもやらない。
序に言えば、自分大好き我が儘猪王子である事実も揺るがず。
自己アピールというより、仕事はなるべく他に投げて、歌う以外…歌っていても、ふんぞり返ってる感じ。
総合して判断するに、個性と個性のぶつかり合いは、大変危険になる事が多い。
そもそもが、清牙も含め、SPHYは短気で喧嘩っ早いので、敵は無駄に多い。
売られなくても、盛れなく、SPHY自身が、喧嘩は売りまくっている。
清牙だけでなく、メンバー事務所関連者も。
健吾君も、結構、アレだからね。
扱い厳重注意、なのだ。
「行ってくるんで、メグさん、ちょっと説明留守番お願いします」
「駄目よ。今日はシオちゃんもいないし」
なぜに、私に迄監視が必要なのか、激しく聞いてはみたいところだけど、青褪めたスタッフさんを見るに、結構な緊急事態だろう。
舞人君も駆郎君もいる筈なのにコレって、絶対、皆でちょっとブチ切れちゃってる感じじゃないかと。
「大丈夫です。ちょっと説教かまして戻ってくるんで」
多分、そんな事態なら、健吾君にも連絡行ってる筈なので、何かしらの対処は始まっていると思いたい。
私が清牙の気を引いて時間稼ぎが出来れば、なんとか?
「ちょっと楓ちゃん。私も」
「だから、留守番を」
「誰かぁ、私達、ちょっとM展のスタジオ行ってきますね!!」
誰とはなしに、廊下で叫ぶメグさんも強引。
そんなに、私の1人歩きはダメなんだろうか?
まあ、言っても考えても仕方がないと、「お願いします」と走り出したスタッフさんを慌てて追いかける。
階段駆け降りて、下の階のスタジオ前には、凄い人だかり。
「通して下さい!!」
スタッフさんが叫ぶが、動きそうにない人だかりから、聞き覚えのある威嚇音が聞こえる。
「キシャアアア」
あ、清牙が怒ってる。
「清牙、本当に動物よね」
メグさんの呆れ声のままに、辺りを見回せば、見覚えのある長身発見。
清牙よりは小さいけど、ギャラリー男性陣より頭一つ以上高い、華奢な存在に声をかける。
「ギナちゃん!!」
「あらぁ、ママ呼ばれちゃったの?」
喉で笑いながら周りに目配せして道を作ってくれたことに感謝しつつ寄っていけば、清牙を後ろから羽交い絞めする舞人君と、駆郎君を羽交い絞めする長髪のオジサマがいた。
そしてその向かいでは、スタジャン来たスタッフ3人がかりで抑え込まれている丸い人が。
「すみませーん。SPHYの関係者です」
無理やり人ごみかき分けて、清牙の前に入って荒ぶる腕を掴むが、腕によって体を強制移動。
「引っ込んでろ!!」
うわぁ、お怒りMax?
「清牙、私、仕事抜けて来てんだけど?」
「呼んでねぇ!!!」
そのまま私の肩から横に薙ぎ払う様に手を強引に動かしたところで、オジサマの足が清牙の膝に入った。
「女に暴力振るうような躾、した覚えはねぇぞ」
「キシャアアア」
今度は後ろに迄威嚇。
「はんっ。顔だけは良くても、女はそんなもんかよ!!」
あ、デブがなんか言ってる。
そもそも、清牙は私を薙ぎ払おうとしたんではなく、多分抱き込んで、余計な事をさせない様にしようとしたんだと思われるのだが、それをここで声高に説明する意味もないし。
ましてやここで「そういう関係にはありません」なんて宣言するのは、あまりにも場違い過ぎる。
「こんなデブに、偉そうな顔で仕切られるんじゃ、たかが知れてんな!!」
あ、駆郎君の目と舞人君の目がヤバい。
「はいはい。清牙、一旦控室戻るよ。ホラホラ皆さん道開けてね」
清牙の腕を取れば、今度は振り払われはしないけど、手首掴んでくる力に、骨がミシミシ言ってます。
実に痛い。
これはもう、最終手段しかあるまい。
「清牙」
後ろから踏ん張ってる舞人君ごと清牙に抱き着いて肩をポンポン叩いてから、駆郎君に向き直って頭を撫でる。
「控室で甘やかしてあげるからいらっしゃい。他所様に迷惑かけない」
「はぁぁ? この程度の女、3人で兄弟ってか!? 笑わせる!!!」
「キシャアアア」
だからもう、何で一々煽るかなぁとデブを見てから溜息。
「ほら、私、このまま仕事戻るよ?」
「キシャアアア」
今度は私に迄威嚇…したと思ったら、舞人君を振り払って、私の肩を抱いて歩き出した清牙。
それを見て、舞人君もおデブさんを見て…睨んでから、オジサマに抱えられた駆郎君の首根っこ掴んで引き摺りだした。
舞人君もお怒りとは珍しいけど、まあ、冷静さは多少なりとも残ってる感じ?
「ママ。簡単に収めないでよ。折角面白そうだったのに」
「ギナちゃんの綺麗な顔に傷でも入ったら、私もウチの娘達も泣くよ。こういう時は、危ないから引っ込んでなさい」
「やだぁ。私、やるのは良いけど、やられるのはちょっと」
どんな話と笑いながら通り過ぎて、先導するスタジャンに促されるまま、控室に入る。
その間、じろじろ色んな目に見られていたけど、気にするだけ無駄。
何も言わないまま部屋に入り、スタッフさんが「申し訳」と言いかけるのを止める。
「ちょっと時間下さい。落ち着いたら呼びますんで」
スタッフさんも何か言いたそうな顔をしてたけど、氷のような清牙の顔を見て、身体を震え上がらせて退室。
静まり返る中、鏡台に座って清牙を呼ぶ。
「ほら、胸貸してやるから」
腕を広げて待ちの体制でいるのに、なぜか清牙が動かない。
「どう云う…」
言いかけて、駆郎君まで氷のような張りつけた無表情で扉を睨んでいる。
これって、相当なお怒りだよねと、舞人君を見れば、不機嫌な表情のまま大きく深呼吸してから私を見てくる。
「カエさん。美凉華に、desusaizには絶対に近づくなって、今すぐ伝えて下さい」
あれぇ?
もしかしてお怒りなのは、ミー関連?
あのデブ、何言ったの?
「まあ、Lineぐらいはすぐに送るけどさぁ」
君達も知ってるんだから、同じ内容なら、あんま意味なくない?
そう思いつつも一応送ってみたら、なぜか速攻で返事が来た。
『舞人さんと駆郎さんからも、同じのがちょっと前に来たけど、何があったの?』と。
私にも現状良く分からんから話聞いて説明電話するから、とにかくdesusaiz関係には係わるなとだけ送って締める。
どうしようかねぇと思ったら、またノックが響いて、返事をする前に扉が開く。
そしてメグさん連れた、さっき、駆郎君押さえていたオジサマがいた。
「取り合えず、お前ら後回しにして貰ったから、頭冷やせ。女に迷惑かけてんじゃえぞ、糞ガキ共」
ガツンガツンと、清牙と駆郎君の頭に拳骨が落ちた。
避けもせずに大人しく殴られて、清牙に至っては自分から頭持って行った。
身長差があるからね。
平均身長ある男性でも、清牙の後頭部に拳を入れるのは結構厳しい。
そんな、珍し過ぎるくらい素直な態度。
そして結構痛かったのか、文句も言わずに大人しく頭を押さえている辺り、この人とは結構な知り合い…??
「あれ? 駆郎君に…違う。駆郎君が似てるって」
「駆郎の親父だよ。楓ちゃんだっけ? 馬鹿息子共が迷惑かけてすまねぇな」
それはつまり、あの、Elseedのサポートギターを長年やっておられる、あの…。
「お会いできて光栄でギャ」
その貴重な手を取ろうとしたらなぜか、近くにいた駆郎君に抱き着かれた。
「今Elseedとか言ったら、大声で泣きます」
ああ、そんな気分じゃないのね?
まあ、色々あったし、その手の話は聞きたくないよね?
まあ、自重しますとも。
「駆郎、お前が、女に自分から抱き着くとはなぁ」
「黙れ色ボケ」
あ、なんか、駆郎君がヤサぐれてる。
良く分からんけどと、緩く抱かれた駆郎君に向き直ってから、思いっきりハグして頭を撫でる。
「なんか分からんけど、暴力は良くない。清牙が暴れるのはいつものことだけど、ギターリストが暴れるのはダメ…ダメでしょうっ!!」
なんで、そんな貴重な手で、石頭の清牙とかの頭殴ってんの!?
Elseed禁止令が出たので、全部は言わないけど、その貴重な手を暴力に使っちゃダメとオジサマを見れば、なぜか笑われた。
「そこいらの小僧とは年季が違うからな。ちゃんと加減は弁えてる。なんともねぇよ」
と手をヒラヒラさせるその手はやっぱ赤い気がする。
「メグさん」
「この人、昔から色々やらかしてるから、指折れててもギターは弾けるのよ。心配ないんだけど、まあ、冷やします?」
え?
指折れてギター弾くってナニ?
心配いらない、折れた指のギターリストってナニ?
頭の中がグルグルする中、オジサマは平気平気と控室のクーラーボックスから水を取って3人にも水を投げる。
「炭酸水」
清牙はねぇ、しゅわしゅわ好きだからねぇ。
「投げたら大惨事だろうが」
その通りですねぇ。
仕方がないと、駆郎君の背中を撫でてから離れ、クーラーボックスから炭酸水を取り出して水と交換する。
蓋を開けてから清牙に渡し、清牙の水を受けっとって飲めば、今度は清牙が後ろから抱き着いてきた。
珍しい。
胸じゃない。
「で、何があったの?」
そのままオジサマを見れば、首を振られた。
「俺が見た時には、駆郎が殴りかかろうとしてたから、止めに入ったんで、よう知らん」
もう、始まってたと。
それにしても、駆郎君が殴りかかるって、かなりの事じゃね?
手に何かあると演奏に差し支えるので、自重する。
そして、清牙も手は使うなといつも煩い。
それが手でとなると、相当キレてた?
思わず、舞人君を見れば、溜息を吐かれた。
「あんま、言いたくないんすけど、まあ、俺が言わないと、此奴らも言わねぇだろうし」
嫌そうな顔で水を飲んだ舞人君は、渋々と話し出した。
しおりを挟む
投稿は毎週水曜日と土曜日と日曜日になります。
今更ですが、不定期に、予告報告なく、先の話との帳尻合わせで投稿分も改稿します。
現在11章書いてますが、壊変になったらごめんなさい。
感想 0

あなたにおすすめの小説

研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
研修医と指導医「SМ的恋愛小説」

今日はパンティー日和♡

ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨ おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕

カフェの住人あるいは代弁者

大西啓太
ライト文芸
大仰なあらすじやストーリーは全く必要ない。ただ詩を書いていくだけ。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...