泡沫の欠片

ちーすけ

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全方位多忙

番外 どこにでも出る

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私も生活立て直しが急務だったとはいえ、未成年の姪を放置し過ぎだ。
言われるまでもない。
分かってる。
分かってるけどさぁと、見上げる、綺麗なワンルームマンション。
小綺麗でこ洒落た、高級そうなマンションは、一見すると、小さめのオフィスビル。
見た目はともかく、マンションの綺麗さや規模を考えれば、こっちの相場からすれば、普通に家賃2桁だよね。
ただ普通のマンションと違うのは、高めの壁に、重そうな門構え。
出入り出来る場所には強面ってだけでない、色々な資格やら経験持ったガードマンさんが、常に構えており、管理には専門業者が入るのに、それとは別に寮母さんが入る事。
序に言えば、食堂も完備されており、決まった時間であれば温かい食事が食べられる。
決まった時間じゃなくても、事前連絡があれば、夜食や早朝弁当などの調整もしてくれる。
つーか、中には食事制限されている子もいるらしく、食事が、寮で出されるもの以外はダメって子まで、いるらしい。
そんな、一見するとこじんまりしたビルに現れた不審なおばさん。
そら、ガードマンも警戒するわなと思いながら軽く頭を下げてから軽く説明。
「姪に会いに、っていうか、ご飯誘いに来ました。事前連絡してます」
その言葉に不審な顔しつつ、こちらを見つめられても?
「身分証明書やら書類一式ここで広げろと? 寮母さんに確認して頂く必要もあるんで、心配ならご一緒にどうぞ」
そう言えば、ごっついおっさんが無言で着いてくる。
まあ、お仕事ですしね。
文句はないですよ。
ただ、圧迫感ひでぇなとは思うけど。
そのまま、入り口インターフォンで管理室にご連絡。
「鈴鹿。拝田美凉華の叔母です。今日連れ出して明日返す予定で、ご連絡しております、上田楓です。書類一式持っておりますが、ここで広げろとか言いませんよね? 後ろのお兄さんも、怖いんですが?」
『あ、はい。今開けます。エントランスへどうぞ』
優しげな声に、後ろのお兄さん達ににっこり笑って中へ。
中は鏡窓で見えなかったが、ローテーブルにソファセットまで用意された、高級仕様。
まあ、娘に会いに来る親御さんもいるよねと、座って待っていたら、なんか目がばさばさのパッションピンク娘が怪訝そうに、話しかけてきた。
「誰かの保護者ですかぁ? 全然、見た事ないけどぉ」
私もお前を見た事ねぇよと、視線を流す。
「普通、どっかの親って、大体すんごい荷物抱えてて、名産品とか言って、頼んでもないお菓子だのフルーツだの持ってくるのに、手ぶらとか、見た事ないんですけどぉ? 本当に親? ちょっと、知らない人が入ってきたとか、止めて欲しいんだけどぉ」
お前のその、馴れ馴れしい態度を止めろ。
その、付けまつ毛とメイクで、原型留めない顔面ぶん殴るぞ?
こちとら仕事で疲れて荒ぶっとるのじゃ。
清牙並みに暴れてやろうかと、精神荒ませていたら、連絡聞いたのか、エレベーターから降りて来たミーに抱き着かれた。
「カエちゃん」
「ああ、よしよし」
1人で心細い思いさせてすまんな。
ちょいと会いに来ることは出来たんだけど、チラリと顔見せするだけの為に、面倒な手続きやら書類揃えたくなかったのよ。
まあ、それだけ、かっちりきっちり、預かったお嬢さんの面倒を見てくれているって事なんだけどね。
「うわぁ、ドブスの親か。貧乏なんだねぇ。土産すら用意してないとかさぁ」
その言葉にミーがピクリと震える。
これは、まあ、典型的な奴ですかね?
「上田さんですね。まあ、間違いないのは分かりますが、必要書類をお願いします」
寮母さんだろう。
ウチのオカンぐらいだろうおばさまに書類を渡しつつ、こちらをニヤニヤ笑っている女の子を示す。
「あの子、誰ですか? 大変失礼極まりないんですが?」
「ああ…Kanoちゃん、あなた」
「だって、知らない人が入ってきたら警戒するでしょ? それに、そこの新人ちゃん、見た途端泣きつくとか、なんか、私ら何かしてるみたいじゃない? その上、そこのおばさん手ぶらだよ? ありえなくなぁい?」
「Kanoちゃん」
つまり、馬鹿なんだな。
「御立派な教育ですね。とても、この子を預けるに足る、環境とは言い難いんですが?」
「受けるぅ。置かせてもらってるだけの、ドブスじゃん。田舎じゃそれなりでも、ここじゃ全然ダメだし。親の欲目ってこわぁぁいぃ」
「Kanoちゃん!」
ああ、只の、馬鹿なのか。
「失礼」
頭に来たので永井君に連絡を入れる。
留守電に繋がるかと思いきや、すぐに繋がったので、にこやかに言ってみた。
「ほんのちょっとぶり?」
『あれ? いきなりどうしました?』
「そちらの女子寮に入った途端、カノとか言う、不細工で頭の悪い娘に絡まれて非常に不愉快。これ、どうしてくれる?」
『アハハハっ、それ、流石に俺の管轄じゃないんで、上に伝えておきます』
「これ、次見たら、ミー引き上げるだけじゃ済まさないけど?」
『怖いなぁ。まあ、それは、どうしましょうか?』
おい。
『報復、ご自分でされます?』
報復ねぇ。
『まあ、俺も全員の名前知ってる訳じゃないけど、そいつはよく知らないですね』
まあ、お忙しい稼ぎ頭が、新人の名前、全部覚えていたら怖いわな。
『ちょっと、鈴鹿に代わって貰えます?』
何を言うんだかと思いつつ、抱き着いているミーの肩を叩いてスマホを耳に寄せる。
『それ以上不細工な面で収録来たら、毎晩添い寝するから』
あ、鬼だ。
流石の、清牙と同期生き残り。
言ってることが全然大差ねぇ。
「いいえ、あの、頑張ります。寝ます。ご飯食べます」
『宜しい。心配しないでも、新人の中じゃ、ダントツで美人だよ。演技下手だけど』
うわぁ、上げて落とすの典型技まで来ました。
『今日は、楓さんに甘えて愚痴っておいで。次引き摺ってたら…分かってるよね?』
「はいっ! 大丈夫です!!」
元気な声で、スマホを渡し…押し付けるように流される。
その流れを黙って見ていた寮母さんに、顔を歪めた不細工女。
「んじゃ、上に報告宜しく。報復はまあ、気が向いた時に?」
『しないんですか?』
「清牙と一緒にせんでくれ」
私は、あんな、誰彼構わず喧嘩売るようなことはしないって。
イラってきて即報復をすることは…あるねぇ。
今現在進行中。
不審な目といぶかしげな眼が見つめる中、にっこり。
「今の、永井博人君です。仲良しなので」
寮母さんの顔が引きつり、不細工の顔面が崩れた瞬間だった。
「では、この子、明日の門限迄には帰しますんで、持って行っていいですか?」
「ええ、はい。書類は揃ってますので勿論」
寮母さんの困った顔を確認してから、ギラギラした目でねめつけてくる不細工を見る。
「まあ、頑張って」
ふふんと鼻で笑って、何が何だか分からないミーの腕を取る。
「え?」
「このまま行くよ?」
「私、スマホしか、持ってないよ?」
「それだけあれば十分でしょ」
落ち込んでというより、ちょっと、甘えたな気分になっていたのだろう。
「カエちゃん強引」
「お肉食べるよ」
「カエちゃんも?」
「それはミーの御裾分けで十分」
「もぉぉ」
やっと笑ったミーの顔が、多少疲れていて心配になる。
だけど、自分で選んで決めた事だからね。
私が出来るのは、ささやかな事だよ?
また、清牙にキツイと笑われるんだろうなと思いながら、歩くのだった。





颯爽と出ていく、新人とその親の姿に反吐が出る。
なんなの、あれ?
あの、楽しそうな…あんなの、あり得ない。
アイツは、あんな根暗なブスは、さっさと田舎に帰ればいいのだ。
なのに、何もしてないのに、次々と、オーディションもしてないのに仕事が決まっていく。
「ムカつくんだよ、ドブスの癖に」
「Kanoちゃん」
「うっさいなぁ! 寮母が依怙贔屓してんじゃねぇよ!!」
多少可愛らしさがあるかもしれないが、化粧だってまともに出来ない。
踊りだって下手。
演技だって、色々言われてた割りには全然ダメ。
それでも、入って半年にも満たないのに、普通にドラマ出て、レギュラーとって?
「アイツ、ホント、コネばっかじゃん」
最初から言われていたのだ。
ちょっと可愛いからって、バックがついてる。
それが枕営業でもなんでもなく、ただ、可愛がってる人気バンドのコネだって。
それも、その関連で、ウチのトップクラスの先輩とかにも当たり前に名前覚えられていて、偉い肩書の人だって名前を知っている。
何より、デビューだって怪しい様な時期から、当たり前に人がついていた。
マネージャーだけでなく、人がついて、世話を焼かれるのが当たり前。
挙句に、永井さんとも、知り合い?
いや、親が知り合いなのか?
だとしても、普通に、スマホで話してたよな?
「何? アイツ、今のドラマもコネで取ったの? ド下手のドブスの癖に?」
「Kanoちゃん!」
「うっさいんだよっ!!」
結局は、上とどれだけお話しできるか、そこから、なのか。
実力も見た目も関係ない。
親が、知り合いだから、仕事がある。
歌もダンスも演技も、結局のところは、関係ないのだ。
「なら、もういいよ」
そんな手で渡り歩いていけるって言うなら、もっと単純な、もっと分かり易い方法が、あるじゃない。
「あんな糞ブス、ぜってぇ潰す」
そのままスマホを弄り、連絡出来るだけ連絡を取る。
「これから、夜間営業、増えるから宜しくね」
「Kanoちゃん。そういうことは、営業部を通して」
「うっさいなぁ! その営業が何もしてくれないから自分でやるって言ってんだよ。別に、未成年でもないし、とやかく言われる覚えもないし?」
あぁ、ガタガタ五月蠅い。
生まれてからこれまで、会う人皆に、可愛い、美人で、明るくて楽しくて、一緒にいると元気になれると、ずっとずっと言われてきた。
それがこっちに来てみれば、他への態度が悪い、謙虚さがなく、努力が感じられないって、今までにはなかったウザイ話ばっかりされる。
中にはなぜか、私には全く合わない、厚化粧だの肌が汚いだの、散々な言われようで…。
地元に帰れば、なんで売れないんだよって怒ってくれる奴らが一杯いるのに何で、何でっ‥‥。
あぁいう、コネだけの実力の欠片もない奴が、偉そうにしてるから、あるべき人間がそこに行けない。
それは多分、こっちの世界の闇とか裏とか、現状ではどうしようも無い、事なんだ。
だったら、こっちも手段は択ばない。
這い上がって叩き潰す。
あんな、周りにちやほやされるだけのドブスに、現実見せてやるのだ。
その為なら、なんだってやってやる!!
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投稿は毎週水曜日と土曜日と日曜日になります。
今更ですが、不定期に、予告報告なく、先の話との帳尻合わせで投稿分も改稿します。
現在11章書いてますが、壊変になったらごめんなさい。
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