泡沫の欠片

ちーすけ

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怒涛の催事

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娘さん達は駆郎君と舞人君にドナドナされ、私は炎天下の中黒服のお兄さんにドナドナされた。
一瞬えっ?と思ったけど、黒服のお兄さんは健吾君の名刺を持っていたので、健吾君からの使者である。
名刺には確りと、「王子が解き放たれます」と書いてありました。
それ、どこぞの追いかけっこバラエティですかね?
私秒で捕まる自信がありますが?
そして大人しくドナドナされた現在、清牙にがっつり確保されています。
テーブルの上に座らされて、その手前に椅子を置き座り、人の胸に顔押し付けて動きません。
汗臭いんだがな。
まあ、ここから動けないんだから、シャワーなんて浴びている時間も意味もない。
汗だけ拭いて、シャツを着替えたらしい。
我が儘な猪王子は、頑なに、フェスTシャツは着ないらしい。
Tシャツは厚くて暑いから、嫌なんだそうな。
薄くても、汗で張り付けばシャツはうっとおしいと思うんだが?
暑さも変わらんだろ?
って言うか、私も歩き回って汗かきまくってるので、そこそこ臭いと思うんだけどねぇ。
奴が離してくれないのでどうしようもない。
「さっきさぁ、QEENBEのギナちゃんに会った」
「‥‥俺らのステージブッチして、見に行ってた、糞蜂どもな」
藪蛇?
いや、でも、ずっと無言は厳しい。
清牙向けの極寒仕様ブース。
まあ、お子ちゃま体温な清牙がくっついているので寒いよりは熱い寄りなんで、何とかなっているけど。
「なんかお願い言ってたけど?」
「許さん」
なんか、ご立腹。
勝手に何らかが起きて、何かが終わっていた模様。
清牙、様、だからなぁ。
「別に、そこまで清牙が嫌がってることするつもりはないんだけどね」
「俺らのステージ以外見に行くな」
無茶振りである。
「フェス来て色んなステージ見なきゃ意味ないじゃん」
狙い目から気になるところから、普段はかすりもしないようなものまで。
生で見るからこそ、楽しくはっちゃけるもんだろ!
「俺だってなっ、行きたいんだよ! 冷やかしたいんだよ」
それは知らん。
って言うか、関係者なんだから、事前連絡の上、袖から見てればいいじゃん。
ずっと、バックヤード籠ってなくてもいいと思うけど?
「お疲れって、何暑苦しいことしてんの?」
そこに現れたのは、良かった。
新顔じゃない。
昨日見た永井博人君。
お綺麗な顔でニヤニヤせんでくれ。
「ご機嫌斜めで愚図ってんの」
そんな端的な理由説明に、またもやニヤニヤ。
「ああ。SPHYのステージスルーしてQEENBEに行ったんでしょ。終わりに戻ってきてたけど、俺らのは聴いてくれなかったんっすね」
詳しいね。
筒抜けか?
私ら、身バレし過ぎじゃね?
「ギナともバトってたって聞きましたけど?」
そんな事実はないな。
「駆郎君がキャンキャン吼えて、娘達を回収していっただけだよ」
ギナちゃんは、終始穏やかだった気がする。
短時間過ぎて記憶にないが。
「ああ、ギナ、ド変態だから」
ドを付けるな。
その内容は聞きたくない。
「永井君が来たって事は、もう、インタビュアーさん来るかな」
「まあ。……どうするんっすか、ソレ?」
視線で、人の胸に張り付いて動かない大き過ぎる子供をニヤニヤ見られても、だねぇ。
私に聞かれても、だよ。
私の力でどうにかするのは基本無理。
さっきから声掛けしてるんだけど、希更より酷いイヤイヤ攻撃である。
「お仕事ですよ」
「やだ」
やだってお前。
「仕事しないなら、帰っちゃうぞ」
「‥‥」
顔を上げたジト目が、大変怖い。
「本当に仕事しろや。とりあえず、無関係な「楓いないなら喋らん」」
何様なんだろうか?
ああ、そう言えば、清牙様だったね。
「ジャイゴ、いないんですか?」
本当にねぇ。
あの人、なんか言って消えて、戻ってこないのよ。
「取り合えず、そのままでも話くらいは出来るっしょ」
それでいいのか?
っていうか、私が非常に居たたまれない。
「失礼…」
言ってる傍から来ちゃうし。
フェスTシャツ着た男性インタビュアーさんは、こちらを見て固まったかと思うと笑い出す。
「清牙君。サービス良いねぇ」
「楓、あっち」
やっとこさ離れた清牙の嫌そうな一言に頷き、奥で手招きするスタッフさんの所に移動。
そう、世話係なのか監視なのか、黒服じゃないスタッフジャンバー来たお兄さんは、清牙が張り付く前からずっといたのだ。
何の拷問と思ってはいても、私の力じゃ清牙の馬鹿力と超身長は如何ともしがたく…。
少し離れた位置で、にこやかなインタビュアーさんに永井博人君と、ブスくれ清牙が座って喋りだす。
初めから質問内容は聞いていたのか、スラスラ話し、2人仲良く並んで写真撮影。
インタビュアーさんがカメラまでやるんだと、ぼんやり、ただただ眺める。
嘘臭い笑顔で永井博人君に肩を組まれて、目が全く笑ってない殆ど無表情と言いたくなる、口の端仕上げただけの作りまくった笑顔を張り付けた清牙とのツーショットで終了。
この間30分も満たない。
「清牙」
インタビュアーさんが何か言いかけたのを清牙は指先を振ってしっしと追い出す。
「次が来る。これ以上はナシ」
「なら、なんで、置いとくかな?」
何で、こっち見るんですか?
どこまで身バレしてます?
ややこしいのはごめん被る。
そんな私の心の声を受けたのか、ご機嫌斜めなままなのか、清牙は嫌そうに顔を顰める。
「次から拒否る」
「はいはい」
笑顔でインタビュアーさんは退場。
そして残った永井博人君にガン付け。
「俺睨んでも解決しないだろ」
その通りですね。
「ばいばい」
完全な棒読みで出て行けと促す清牙の機嫌は、まあ宜しくないよね。
「楓さん」
「キシャアアア!」
清牙?
あんた、今どっから声出したの?
何時から獣…前からだった。
「くっくくく。じゃあ、また。楓さん「キシャアアア」」
清牙の威嚇を笑顔で往なし、出ていく永井博人君に頭を下げる。
そして、ブスくれた清牙に指先で呼ばれた。
「そっちで、こっちに顔向けないで待ってろ」
いや、普通に、私このままホテルに行けばいいんじゃないかな?
そして、あっち行け言いながら、胸に頭預けようとして身長差に苦しんでモゾモゾするのは止めないか?
座ってるならともかく、立ったままの調整はどう考えても不可能だろう。
身長差、普通に40㎝近くあるからな?
そして場所が定まらなかったらしく、顔を上げて吼える。
「面倒臭ぇ。俺はVo。歌だけ歌ってたいんだよ!!」
気持ちは分かるが、社会通念上、間違いなく不可能である。
歌だけ歌っているプロの歌い手さんはいない。
「その俺の歌をスルー?」
声が低いってば。
つーか、だ!
「イテェってばっ」
人の胸を鷲掴むのは止めなさい。
「すげぇ柔い」
「力を抜けばいいってもんじゃない」
基本触るな。
なぜ、勝手に触るのか。
「楓」
そう、ギラついた眼を眇め、なぜだか近付いてくる顔。
なんかすげぇ、近い。
何で、そこから伸びあがってくるのか?
やけにゆったりした動きだった為、余裕で、その額を叩いて距離を取る。
「普通逃げるか!? この状況で!?」
「馬鹿が。それ以外の何がある」
「ここは覆いかぶさってくるところだろ!!」
知らねぇよ。
「つーかナニとち狂ってやがる」
「ふざけんなよ!」
ふざけているのはお前だろうが。
「汗臭い」
「お互い様だろうが」
「ならくっつくな」
「逃がすか!」
なぜか、またとっ捕まって、首筋に噛みつかれた。
「キシャアアアア」
だから、その威嚇音はどこから出してんの?
喉の負担になるから止めなさいと清牙を見れば、扉を睨んでおり、にこやかな健吾君が立っている。
「仲良しですね」
どこをどう見たらそうなるんだろう?
「邪魔」
いや、別にそんなことはないが?
「時間です」
ですよね。
なんか、インタビュー、何件かあるからって言ってた言ってた。
「それよりも、清牙。貴方、その顔でインタビュー受けたんですか?」
健吾君の笑顔がへにょんと情けない。
ですよねぇ。
汗にまみれ、人のTシャツに顔押し付けていたので擦れるはドロドロだわ。
完璧に準備してきた、爽やかにしか見えない永井博人君との対比がそれはもう、酷かった。
元は、永井君にも負けないくらい綺麗な造りの筈なのに。
「メイク「やだ」」
出た。
我が儘猪王子。
「もう、押してるんで呼びますよ」
いいの?
ドロドロのままだけど?
そんな私の心の声に、健吾君はにこやかに言い切った。
「清牙を数分で説得して、メイクをさせろと?」
「メグさんは?」
「フェスなんてどうせドロドロになるんだから、自分で好きにさせておけ、と」
それ、専属メイクとして良いのですか?
いや、それぐらいでないと、清牙のメイクは出来ないのか。
「アイツ、色々塗ろうとするから、ヤなんだよ。元がいいんだから、さっさと終わらせろって言っても聞かねぇし」
それ、当たり前ですよね?
何の為のプロなのか…。
「メグには触らせてるだけ、マシ、なんですけどね」
ここで浮上する、清牙の女性嫌い疑惑。
まあ、子供の頃からこっちの世界にいれば、男も女も関係なく、色々有りそうなもんだけどね。
「清牙」
助け舟、出しとくかな。
「何にどう載るのかは知らんけど、その顔見たら、フェスの思い出が興ざめ。希更にボロクソ言われるよ?」
「…………直す」
相変わらず単純な。
かなり雑にメイク落として軽く塗って線引いて、口紅塗って終了のお手軽メイク。
気合は全く入ってないが、ドロドロよりはマシである。
「んじゃ「許さん」」
がっつりと掴まれた腕に溜息。
なぜに、私は拘束されるのか?
「あちらで雑用手伝って下さい」
そしてこの瞬間、健吾君って監視迄ついたのね。
逃げられないのねと、不毛なインタビュータイムに付き合わされるのであった。
感想は?
清牙、お前間違いなく、アイドルだったんだよな?
笑顔どこやった?
おざなりなりの受け答えは確かにあったインタビュアーの人達よりも、お仕事が満足に出来てないだろうカメラさんが可哀想でした、まる。
ただ、この時の私は知らない。
清牙には制限が掛かっており、その危うい性格から余計な事を言わないしない様に、言ってイイ事悪いことがきっちり決まっていたなどと。
決まった質問に決められた言葉を繰り返すだけのインタビューに、清牙がやる気の欠片もなくなるのは仕方がないかなと思えるのは、もう少し先の話である。
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