泡沫の欠片

ちーすけ

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微妙な再開

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私は一体、何を聞かされているのだろう?
迎えが来るから急いでるっつったのに、このパワハラ男はさっきからネチネチと。
「レジは、スーパーの顔でしょ。最後に気持ち良く帰って貰わないとさ、お客の不満も高まる訳。そんな時にお友達とお喋りって、仕事としてどうよ? 相手は芸能人で、自慢とかしたい気持ちは分かるけどさぁ。お友達なら、猶更、仕事場とは別でやってくれないかな? 周りの雰囲気とか分かってる? 最近、お客様もそうだけど、他の従業員からも、評判悪いよ?」
確かに、清牙と長く話し過ぎた。
その上奴は芸能人様なので、オーラが違う。
目立ち過ぎる。
ちょっとの事でも大きく長く感じてしまう。
それは分かる、のだ。
分かるんだけどさぁ。
「アレ、お友達、なんだよね? 結構有名なんだよね? だったら、店の迷惑とかさ、言わなくても分かるもんじゃないの? 普通、あんなに長々話してく? そう言う世界の人ならば当然、一般人の事、意識するもんじゃないの? そもそも俺、全然、見たことも聞いたこともないからよく知らないんだけど? 少しでもテレビ出てるって言うんなら、もう少し配慮しない? 上田さん、友達なんだよね? 普通、もっと、気を遣わない? 気を使わないなら使わないで、ソレ、上田さんが当たり前に言うべきでしょ? お友達なんだから。こんな事、わざわざ言わせないで欲しいんだけど」
言ってしまえるものなら言ってしまいたい。
つまりなんだ?
営業妨害だから、芸能人は店に来るな来させるなってか?
芸能人はスーパーで買い物すると犯罪なのか?
スーパーのおばちゃんと世間話したら、営業妨害になるのか?
芸能人とだけは世間話するなと?
良く知らないならほっとけよ。
言いたくないなら言うな。
面倒臭ぇ。
そう、言い切れたら楽なんだけど。
って言うか、何時まで喋ってるんだろう、この人?
清牙が迎えに来たら、またややこしいことになりそうなんだけど…。
そんな心配は、考えたら最後、的中するのである。
「楓。なにやってんの?」
だからなぜ、わざわざバックヤードに迄回ってくるのか?
お前、方向音痴の自由人だろう?
なぜに態々…まあ、待てなかったんだよね。
清牙に待つなんて言葉はない。
17時半過ぎて顔を出している当たり、奴にしては気を遣った方である。
「腹減ってんだけど」
そう言って、まっしぐらに歩いてきた清牙は、私の肩を抱いてから初めて、面倒臭いパワハラセクハラモラハラ正社員木永さんを見る。
「何? こいつもストーカー?」
違うけど、迷惑具合は似たようなものである。
「片付ける?」
それは物理で?
それとも社会的に?
どっちも怖いので辞めてほしい。
この人に厚意は一切ないが、別に、田舎に引き込んで一生出てくるなとまでは思っていないので。
「今日、ちょっとやらかしちゃったからね」
「ふうん。仕事時間終わってるのに、大変だ」
すげぇ棒読みありがとう。
なんでもいいから早く行こうぜの副音声が聞こえる。
なんか言いた気な木永さんも、清牙目の前には言葉が続かないらしい。
「もう、帰っていいよ」
いや、勤務時間終わってるから、普通に帰りますけどね?
そんな私の思いが清牙にシンクロしたのか、清牙の腹減り短気が噴き出したのか。
「勤務時間って、契約がきっちりあるのに、自分にお伺い立ててから帰れとか言われてる? それって、すげーブラックなんじゃねぇの? こちとら、ガキの頃からこっちの世界で、一般常識分かんねぇんだわ。ましてや、芸能人はスーパーに来るなとかって、何かの法律? 俺、初めて聞いたんだけど? どの法律か教えろや。てめぇが楓拘束してる時間の10分の1もない時間で、サボりってか? 何がどうサボりなのか、俺にも分かるように説明しろよ。ああ? 面倒臭ぇな。いっそ潰すか?」
清牙、短気過ぎる。
それじゃあ、下っ端やくざである。
そして何より、地獄耳。
どこから聞いてたんだろう?
大人しく聞き耳立てて待っていたとか?
あの、清牙が?
ありえねぇ。
「すみません。こっちに…ああ、いた! なに、やってんの? 急にいなくなるから心配するだろ」
そこに爽やかな駆郎君登場。
助かった…んだよね?
駆郎君、常識人に見えて、時々外す。
天然で、ちょっと分からないところにスイッチがあるので。
一部情報によると、清牙と一緒になってキレて暴れる事もあるらしい。
見た目だけで言えば、大人しそうで、そう言うのとは無縁そうでしかないのに。
「こいつがムカつくから」
「清牙は大抵の人にムカついてるだろ」
「楓が相手、なんだけど?」
「それはストーカー?」
「違います」
何で、そこで変なスイッチ入りそうになるの?
駆郎君、今、目が一瞬恐かったよ?
そこにかかる天使の声、ならぬ、天の声。
「あら、上田さん。今日は急ぐんじゃなかったの? まだいた…」
にこやかな女子力高めなおば様、事務の河野さんが、清牙を見て駆郎君を見て目を輝かせる。
「本物」
なんの本物かは言うまでもないが、河野さんはがっつりSPHYを知っている模様。
いや、公式見てどうのとか言ってたぐらいだから、知ってるんだよね。
まあ、テレビあんまり見ない私でも知っているのだ。
知らない方がどうかしていると思う。
時代劇と相撲しか見ないような人以外は。
「本物は…美人さんなのね。そっちはギターのクロ君でしょ。中学生のころから有名どころのバックバンドとか、凄いわよねぇ」
凄いのは河野さんです。
私はそんな話、初めて聞きました。
流石、趣味は動画サイト漁り。
多岐に渡り知識がお広いようで。
「ELseedにも「え?」」
思わず、駆郎君を見る。
「どれに参加した? ライブ? 収録?」
「え? いや、その、収録で父の序に」
お父様までも!?
そういや、駆郎君のお父さんって結構有名なギターリストだった。
「どれ? え? 嘘? あれ? CD見れば載ってる? えっと? どれ?」
私の単語が死んでいく。
「チョイ待て、楓。その大興奮はどこから来た?」
清牙が煩い。
「だまらっしゃい! 駆郎君、その辺詳しく」
慌てたように、首を振る駆郎君の謙虚な事!
誰かさんも見習えや。
「え? 詳しくも何も、俺、普通に言われた通りにギター弾いただけなんだけど?」
「いや、ちょっと待って! 姫は? 姫と一緒?」
「ひ、め?」
なぜに分からない。
いや、これ、古参のファンしか知らない呼称だった。
「姫、松葉さんがいるから、ギター助っ人ってほぼないじゃない」
「デモとか、仮とかでも呼ばれるし、重ね撮り合わない曲もあるんで…って、ELseedさんは、まあ、あんまないかも」
「駆郎君、最高です」
思わず駆郎君の手を取った瞬間、清牙の手によって叩き落された。
「お前ぇ」
「清牙煩い。駆郎君、その辺を今日は詳しく!」
「いや、あれ? カエさん、顔どうしたんですか?」
「大丈夫、ちょっと激しい肌荒れだから」
どうしよう。
なんか大興奮してきた。
「河野さんお疲れさまでした!」
「はぁい。清牙君もクロ君も頑張ってね」
にこやかに河野さんとお別れし、ルンルンで駆郎君と手を握って歩いていたら、清牙によってまたもや手を叩き落される。
面倒臭いなぁと、溜息交じりに清牙を見る。
「仲間に入れてほしいの?」
「いらねぇよ!!」
だったら邪魔するなとばかりに、生で直接見たお二人の話を聞きだすので夢中で、清牙の機嫌の悪さは完全に蚊帳の外だった。
当然、後々、祟ることになるのだが。
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