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第35話 巨乳はテンプレかと思いまして
しおりを挟む「よろしく!」
と、俺達にウインクをするルナに、俺は呆れつつも半ば感心していた。
なに、この適応力。
たった今転移してきたばかりなのに、不安など微塵も感じさせない。
これが若さか……。
「あれ!?」
ルナがびっくりした様子で大声を出す。
はいはい。今度は何でしょうか?
「無いっ!!」
随分と慌てている。
バンバンと上半身を叩いて、何かを探している様だ。
「何か大事な物でも置いてきたの?」とランジェが尋ねる。
「無いわっ!」
「だから何が無いんだ?」
とりあえず聞いてみる。
「胸が……無いっ!!」
はぁ?
「どこに行ったのよ!?」
ルナは太ももやお尻の方までパンパンしている。
いやーそこには無いでしょ。逆にそこにあったらやばくない?
「まじかぁ~」
がっくりと肩を落とすルナ。
まあ確かに胸は無さそうだな。
俺の中のヒロインの定説が、また一つ覆された。
「どーこ見てんのよ。お金取るわよ」
ルナにキッと睨まれた。
慌てて胸から視線をそらす。
「え? どこか見るところあるの?」
ナイスシュート! ランジェッ!!
「そこっ! 今なんて言った!?」
ルナはツカツカとランジェに近寄ると、両手でギューッと両方のほっぺを横に引っ張る。
ミョーンとほっぺが伸びる。
「ほ、ほへんなふぁいっ」
涙目になるランジェ。
「まぁまぁ。落ち着けよ。胸って転移する前からあったのかよ」
慌てて止めに入る俺。
「ううん。もともとなかったんだけどさぁ」
なんじゃいそれは……。
「いや~。巨乳はテンプレかと思いまして」
ルナはそういうとランジェを解放した。
気持ちはわからなくもないが、世の中そんなに甘くないぞ。
ふと、辺りがかなりの暗さになっていることに気付く。
見上げると空にはうっすらだが星が見える。
宿屋は空いてるかな? と少し心配になる俺。
「じゃー、そろそろ行くか」
「そうだね」
「えっ!?」
立ち去ろうとする俺達の前に、ルナがあわてて回り込む。
「ちょっとちょっと。あんた達、か弱い美少女を一人にするつもり!?」
「お前なら大丈夫だ。どこでも生きていける」
断言する俺。
「待ってって! これって、タイトル『異世界美少女転移。チート能力手に入れたのでとりあえず魔王を倒しに行きます』的な感じでしょー?」
ああ……。
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遠い目をする俺。
「悪いな。ちょっと急いで取りに行かなきゃいけない物があるんだ」
「えー。じゃーあたしも一緒にいくー」
うーん。なかなか手ごわい。
まー、本当に置いていく気は無いんだけども。
ちょっと異世界の厳しさを教えてやらねば。
「でも、魔物が出るかもしれないから危ないぞ」
「大丈夫よ。足手まといにはならないわ。ほら」
ルナが手のひらを上に向けて、意識を集中させる。
ボッ。
直径10センチ程の鮮やかな火球が手の平に浮かぶ。
おおっ。すごいな。
魔導士のスキル持ちか。
俺は素直に感心をする。
ルナは俺達より少し離れたところに立っているが、それでもほんのりと炎の温かさを感じられた。
はて。ルナの手は熱くないのだろうか?
「熱くないのか?」
素直に疑問をそのまま口にする俺。
「え? 当たり前じゃない。対熱魔法も同時にかかってるわよ」
ふーん。そういう物なのか?
「あたしこう見えても、元の世界では第二中距離魔導兵として前線にいたんだから」
「ええ? 兵士だったの?」
ランジェがぱちくりと眼を開いている。
「そ。戦場で戦ってて、捕虜になってたのよ。これからいよいよ尋問が始まるって時に、ちょうど転移が始まってねー。ラッキーよね」
うーん。ラッキーと言えばラッキーか?
尋問って事は、拷問の可能性だってあるのだろう。
「こっちの世界でも、魔法は問題なく使えるみたい。これならOKでしょ」
「いや、残念だけど俺達が向かうところは森なんだよ。火系魔法の出番は無いな。あとここは住宅街だ。早く火を消してくれ」
「あ。ごめんなさい」
そういうとルナの手の平に浮かんでいた火球はかき消えた。
うん。素直でよろしい。
「でも威力は高そうだったね。僕のファイアボールとは比べ物にならない感じだったよ」
「でしょー。他に水系魔法も使えちゃうんだから。」
「ええっ。相反する属性なのに? 凄いねー。」
「へー。水系魔法なら森でも問題はなさそうだな」
「でしょー。やっとヒロインが登場したと思って、一緒に行きましょうよ」
一体なんの話だ?
でも正直な話、パーティーに魔導士がいるのは心強いな。
「仕方ないな」
顔を見合わせる俺とランジェ。
「それじゃあ、まずはギルドでスキルを鑑定してもらおうか」
「スキルを鑑定? あたしそれも出来るかもよ。シジュールでもやってたし」
なんだと!!
それが本当なら是非うちのパーティーに来てほしい。
「じゃあ、試しに俺のスキルを鑑定してみてくれないか」
「OK。じゃあ、いくわよ~。むむむっ…………」
集中するルナ。
「うんっ! ほほいのほいやーっ」
かけ声、かっこ悪っ!
やがて何もない宙に、ぼんやりと文字が浮かび上がる。
-スキル―
【ふむふむ】LV-
効果 異なる言語を理解、使用出来る。
【ぽたぽた】LV1
効果 液体(15g以内)を操る力
【ころころ】LV4(↑1)
効果 球体(直径5cm以内)を操る力
【ぱくぱく】LV2
効果 上限を越えて少しだけ食べる事が出来る。
【ほかほか】LV52
効果 芋(全般)に素早く熱が通る。
次々と俺のスキルが表示されていく。
「どう? あってる?」
「あ、ああ。すごいな。驚きだがあってるよ……」
「でしょー。どれどれ」
ルナは宙に浮かぶ俺のスキルをしげしげと眺めると、笑みを浮かべながら俺の肩にポンと手を置いた。
「ドンマイ」
やっぱ腹立つな。
「でもなんか見た事無いスキルばっかりね。あたしの世界とはスキルの表記が違うのかな?」
いえ……俺のスキルが特殊なんです……。
「じゃ次はランジェね。」
ルナはむむっと集中を始める。
俺のスキル表示は既に消えている。
「うんっ! どすこいこいっーっ」
さっきと掛け声、違くないっ!?
-スキル―
【英雄】LV8
効果 全ての能力値が上がる
【魔法剣士】LV-
効果 剣士、魔導士両方のスキルを覚える
【語解】LV-
効果 異なる言語を理解できる
【魔法】LV10
効果 火属性の魔法を覚える
・ファイアボール LV7
・フレイムウォール LV5
【魔法】LV8
効果 聖属性の魔法を覚える
・ヒール LV5
・浄化 LV3
・キュア LV3
【切れ味】LV12
効果 武器の切れ味が鋭くなる
【瞬歩】LV9
効果 素早く移動ができる
「おおーっ。ランジェ、君いいねー。【英雄】とか主役っぽいねー」
ルナは感心したように、うんうんと頷きながらランジェのスキルを眺めている。
「自分のスキルも鑑定してみたらどうだ? 転移者は強力なスキルを持っている事が多いらしいぞ」
「まじで? でも【きらきら】とか【らぶらぶ】とかだったらどーしよー」
おお。ネガティブに見せかけたポジティブ。
しかしそんなスキルが無いとは言い切れないのが恐ろしい。
「【ぶよぶよ】かもよ。」
「そこっ! 今なんて言った!」
「何も言ってませんっ」
横では条件反射の様に、ほっぺたをランジェが押さえている。
おー可哀想に。
ルナはむむむっと集中を始める。
しばらくすると宙にぼんやりと文字が浮かんできた。
どうやら掛け声はあっても無くても良いらしい。
周りが随分暗くなってきたから文字が良く見える。
どれどれ。
-スキル―
【魔導士(極)】LV1
効果 四大属性の魔法を習得する
【語解】LV-
効果 異なる言語を理解できる
【火魔法】LV15
効果 火属性の魔法を覚える
・ファイアボール LV10
・フレイムウォール LV8
・レッドバースト LV5
【水魔法】LV15
効果 水属性の魔法を覚える
・アクアボール LV9
・ウォーターウォール LV5
・アクアミスト LV3
【土魔法】LV5
効果 土属性の魔法を覚える
・ロックバレット LV3
・ロックウォール LV3
・アースロック LV2
【風魔法】LV5
効果 風属性の魔法を覚える
・エッジウィンド LV3
・ウィンドウォール LV3
・スピアウィンド LV2
【スキル鑑定】LV-
効果 対象者のスキルの鑑定が出来る
「四大属性の魔法持ちだって!? すごいよ」
「おおー鑑定もあるな。すげーな!」
はしゃぐ俺達とは対照的に、ルナはなぜか満足していない様子だ。
「【不死】とか【時を止める】スキルとかだったら良かったんだけどなー」
そんな凄いの狙ってたの!?
全く……。これだから最近の若者は。
「じゃあ、そろそろ宿屋に行こうか」
地面に置いていた自分の荷物を手に持ち、ランジェが言う。
「そうだな。じゃルナは俺達の後をついてきてくれ」
「はーい」
◆
その後、数分路地を進むと、やっと大通りに出る事が出来た。
その大通りを渡った先の、右手には宿屋がもう見えている。
「やっと出られた―」ランジェの顔が綻ぶ。
「じゃまず宿をとってから、そのあとギルドに向かおうか」
ギルドは宿屋の五軒ほど隣にある。
とりあえずルナの冒険者登録を済まさないとな。
まー、本当に冒険者となるかどうかは、後は本人次第だ。
ルナを加えた俺達三人は、急ぎ足で宿屋へと向かうのであった。
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