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第29話 ごりごりごり
しおりを挟む「残念だったね」
ランジェが伏し目がちに呟く。
俺達はスピネルへと向かう乗合馬車内にいた。
うう。こんなはずでは……。
トンテンカンテンの試用場で、【ころころ】とペレットクロスボウの相性実験を、大成功で終えた俺達は、意気揚々と商店街にある八百屋さんへと向かっていた。
お目当ては芋だ。
芋といっても色んな種類がある。その中でも俺が欲しいのは、一番安価で、どこの店にも売っている「ほろほろ芋」と言う種類の芋だ。
そう。いよいよ俺は「【ほかほか】で粉塵爆発大実験」を決行しようと考えていたのだ。
【ころころ】の相性実験はこれ以上ない大成功を迎えた。
今度も上手く行くに違いない、と根拠の無い自信に満ち溢れていた。
トンテンカンテンをでて、しばらく歩くと、程なく八百屋さんに到着した。
お店にはいろんな野菜が置いてある。
「今日は人面キャロットがお買い得だよー」
お店のおばちゃんが声を掛けてきた。両手に持っているのが、その人面キャロットかな。
「人面キャロット」
その名の通りニンジンの表面に目、鼻、口が浮かんでいる。
老人の顔したものもあれば、おっさんの顔もある。
共通しているのは、ものすごい笑顔である事だ。
笑顔であればあるほど値が高くなるらしいが……俺は絶対に食べたくない。
「わーいい笑顔」とランジェが食いついている。笑顔ならお前も負けてないぞ。
俺はおばちゃんからすっと目をそらし、売り場に置いてある様々な商品を眺める。
すると、おや。見慣れた食材が目に入ってきた。
ペク芋ちゃん、久しぶりー。
このお店に置いてある野菜の中では一、二を争う高値が付けられている。
おー。高級食材って本当だったんだなー。工場のみんなは元気にしてるかな?
クサリバナナは……やっぱし置いてないな。
お店の隅の方に目をやると、お目当てのほろほろ芋が山の様に積まれていた。
あったあった。
ほろほろ芋はジャガイモによく似た芋だ。
おばちゃんに頼むと一袋に七~八個詰めてくれた。
それを俺は五袋も購入した。安いとはいえ、これだけの量だと中々の出費だ。
おばちゃんに礼を言うと、次に向かったのはギルドの裏にある、「武技訓練所」という冒険者専用の訓練施設だ。この施設はギルドカードがあれば自由に使用することが出来る。お金を払えば基礎訓練なども受ける事が出来るらしい。
そこには試用場もあるので、そこで実験を行おうと思ったのだ。
武技訓練所に入ると無愛想な男が受付けに立っていた。
「試用場ならあっちだ」と指を指す。
男が指を指した先には四つの通路があり、上に「近接武器」「遠距離武器」「魔法」「道具」とそれぞれ看板が付けられている。
系統毎に、場所が分かれているのか。
ふと足が止まる。
芋ってなんだ?一応道具になるのだろうか?
両手には、ほろほろ芋が大量に入った八百屋の袋をぶら下げている。
訓練所に芋を持ち込む奴なんて、始まって以来の事だろう。
とりあえず「道具」と書かれた入り口から入ると、少し長めの通路が続いていた。
重い荷物を持って、ひぃひぃ言いながら歩いていくとようやく出口が見えてきた。
通路の先、そこは屋外となっていた。
四方を高い壁に囲まれてはいるが天井は無い。
太陽が真上に出ていて、汗ばんだ身体に心地よい風が吹いている。
「ヨースケ。これこれ」
とランジェが手招きする。
ん?
呼ばれた先に、立て看板が立っているのに気づく。
どれどれ。どうやらこの試用場を利用するにあたっての注意事項が書かれている様だ。
・壁に向かって道具の使用は禁止。
・毒煙玉を使用する際は事前に受付にて許可を得る事。
・火薬の試用は20gグラム迄
・ブーメランは道具ではありません。遠距離武器です。
等々
色々規則が書いてあるなー。
「良かった。芋は大丈夫みたいだねー」
うむ。そんな規則あってたまるか。
ここの試用場は<トンテンカンテン>の地下の試用場よりもちょっと大きいかも知れないな。
さすがギルドの施設だな。
じゃー早速始めますか。
用意する物は、雑貨屋で購入した、すり鉢とすりこぎ棒。
あとは八百屋さんで購入したほろほろ芋。
あとはロングソード。
たったこれだけです。
他の冒険者の邪魔にならない様に、隅っこに座りながら作業を開始する。
とはいっても道具の試用場には俺達以外には男が1人しかいない。
まずは、ほろほろ芋をロングソードで角切りにする。
うう。初めて斬る物が芋でごめんよ。と俺はロングソードに心の中で謝った。
サクサクサクッ。
しかし新品だけあって良く斬れるわー、この包丁……じゃなくてロングソード。
そしてすり鉢に入れて、と。すりこぎ棒で、ごりごりと芋を潰す。
と、
ぼんっ。
軽い爆発音がした。
何事かと音のした方を見ると、試用場に一人いた男が、ちっちゃい爆弾を手で放り投げている。
なかなかの遠投力だ。爆弾は地面に着弾すると、小さい爆発音と共に、着弾地点付近に紫色の煙を広げる。
何となくだが、あの煙には毒とか麻痺の効果がありそうだな。
ごりごり。
爆弾は野球ボール位の球体に見える。もう少し小さければ【ころころ】で操作出来そうだ。
ごりごり。
ペレットクロスボウで発射は出来ないだろうが、手投げ式なら問題ないだろう。
ごりごりごり。
これは検討の余地ありだ。
ごりごりごり。とほろほろ芋を擦りながら考える俺。
ごりごり。
ごりごりごり。
あーいつまでやってればいいんだ!
「ほろほろ芋」はいくらすり潰しても粉になる気配がない。
潰しても潰しても口当たりが滑らかになっていくばかりである。
うーん。まずは乾燥させるべきだったか?
てか芋ってどうやったら粉状になるんだ??
どんどん生産されていく大量のマッシュポテト。
くそー。
「すごいふわふわ。美味しいよ」
マッシュポテトをつまみ食いするランジェ。
……塩をかけるんじゃない。
どこから取り出したのか、ランジェは塩を振っている。
まったく。でも俺も腕も疲れたし、ちょっと休憩するかー。
小腹も空いたしな。ひょいとマッシュポテトを口に運ぶ。
あら?
美味しい。
確かにふわふわで、口の中で瞬時にとろけていく。塩加減も絶妙である。
温かかったら、もっと美味しいかな?
俺はマッシュポテトに【ほかほか】を発動させる。
これぞ正しい【ほかほか】の使い方であろう。
が、いくら【ほかほか】をあてても、ほかほかにならない。
あれ?
どーした?
一口食べてみるが冷たいままである。ちっとも温まっていない。
これはもしや……
嫌な予感がして、試しに切る前の「ほろほろ芋」に【ほかほか】を発動させてみる。
ほわほわほわ~とあっという間に湯気が立ち上り、ほかほかになった。
次は角切りにした、すり潰す前の「ほろほろ芋」に【ほかほか】を発動させる。
これも問題なくほかほかになった。
どうやら、角切りから、マッシュポテトになるどこかの段階で、芋とは認識されていないらしい。
俺の脳みそが、マッシュポテトは芋だと認めていないのか!?
これは芋だ、これは芋だ、と念じながらマッシュポテトに【ほかほか】を再度発動させるが、結果は変わらず。芋の定義とは一体……?
原型が残っている【材料】としての「芋」はOKで、原型が残っていない【原料】としての「芋」はアウトだという事か?
あーーーーーーっ!
ここで大事な事に気付いた。
じゃ粉状なんて、もっとダメじゃん!!
ああ。さらば真・紅蓮鳳凰波。
さらば鳳凰。
俺の脳内で、鳳凰が「くえ~」と鳴きながら、ばっさばっさと羽ばたいていく。
そもそもスキルが発動したとしても、粉塵爆発が起きたかどうかも怪しいもんだ。
おぉ。考えれば考える程、穴だらけの計画だったな……。
こうして「【ほかほか】で粉塵爆発大実験」は、俺の心と財布に大ダメージを与え、失敗を迎えた。
そして俺達は失意の内にレーベルを離れるのであった。
※大量のマッシュポテトは、この後ランジェが美味しく頂きました。
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