25 / 53
第20話 盗賊との戦闘1
しおりを挟む「お客様の中に冒険者の方はいませんかっ! いたらお力を貸して下さい」
あ。なんかドラマでこんなのみたことある。
飛行機かなんかで重病人が出た時に「お医者様はいませんか!」ってCAさんが尋ねるあれだ。
ただし、決定的にドラマと違っている事が一つあった。
それは俺とフォルダー以外全員手を挙げている事だ。
驚きの冒険者率だ。
とは言っても、馬車内にはフォルダーと俺達以外には五名しか乗っていなかったのだが。
挙げた手の中にはしわしわの手や、ネコっぽい手や、水かきのついた手も見える。
なんか頼りないなー。
「ヨースケも冒険者だろ」
そうでした。
俺もしずしずと手を挙げる。
「おおっ。冒険者が七人もっ! 既に馬車の周りは盗賊に囲まれています。どうか力を貸してください!」
「ふぁ~あ。盗賊は何人位いるのかしら」
あくびをしながら魔導師っぽい杖を持った女性が尋ねる。
「見える範囲では三十人くらいかと……」
三十人!数では完全に負けている。
戦う気なのか?
しずしずと手を下げる俺。
しかしみんなはやる気の様だ。
「馬車の中にいたままじゃ不利だ。さっさと外に出よう。」
と、黒髪短髪の男が言葉通りさっさと馬車から降りる。
「そうじゃな」としわしわの手の老人が馬車を降りる。
「ニャー」と真っ白いネコの獣人らしい娘も続く。
みんな次々と馬車を降りてゆく。
「はぁ。はぁ。水……」
と言いながら出て行ったのは半魚人だ。
あの人大丈夫!?
最後に降りるのは俺だ。
ちらっと馬車内を見るとフォルダーが心配そうな顔で「お気をつけて」と言ってくれた。
馬車後方から降りて周りを見渡すと、緑色の肌をしたゴブリン達が馬車の左右から少しずつ近づいてくるのが見える。装備はぼろぼろの皮鎧もしくは布を纏い、手には一様に剣やこん棒等の武器を持っている。
馬車前方の道には大きな岩が置いてある。
なるほど。こうして立往生した馬車を狙うんだろうな。バックして迂回するのは馬車の構造上、簡単そうではない。
しかし冒険者がこんなに馬車に乗っているとは思ってもいなかったのだろう。
盗賊達はすぐに攻撃してくる気配は無く、馬車からはある程度距離をとっている。どうすればいいのか戸惑っている様だ。
ランジェは馬車の上に飛び乗ると大剣を手に取る。
と、――しわしわの手――、背の高い立派な髭の老人がランジェに話しかける。
「お若いの。わしの槍もとってくれんか?」
「はいどうぞ。」
馬車の屋根からランジェの大剣にも負けない程の大きな槍が顔を表す。
いかにも重そうなその槍を、ほい、と老人に手渡す。
女子高生が友達に鉛筆でも渡すかの様な気軽さだ。
そんな渡し方で大丈夫かっ?
「すまんのぅ。最近腰が痛くてのぅ。」
腰をさすりながら、老人は軽々と槍を受け取った。
俺の心配は無用だった様だ。この世界はどこか狂っている。
「敵は馬車の左右に展開しながら近づいて来ています。距離は約十m。ゴブリンが大半を占めていますが、右手の奥にはオーガが一体。敵の司令官だと思われます。弓兵や魔導師は見当たりません」
ランジェが馬車の上から周囲を見渡し、みんなに伝える。
「じゃ余裕だな。俺は右行くぜ。」
と言うと、黒髪短髪の男が走り出した。
「あたしは左ニャー。」
獣人娘も猛スピードで駆け出す。
四足歩行だ。口には短剣をくわえている。
「わしも左にしようかの。」
槍を構えた老人は左へと向かう。
「わたしは魔法で援護するわね」
魔導師っぽい杖を持った女性はフワリと重力を感じさせない動きで馬車の屋根に飛び乗った。
やはり魔導士の様だ。
「じゃ僕は右へ行ってくる。ヨースケはここに残ってフォルダーさんと御者さんの護衛をお願い出来るかな」
「OKだ。気をつけてな」
ランジェは馬車の屋根から飛び降りると右手に向けて走り出した。
みんながんばれよー、と見送る俺に御者さんが話しかけてきた。
「私は馬を狙われない様に馬車の前方を守ります。馬車の後方をお願いしても宜しいでしょうか。なぁに私も元冒険者ですから御心配には及びません。」
「あ。はい。わかりました。」
御者さんは馬車の前方へ駆けていく。
そうなると馬車の後方には俺と半魚人だ。
「はぁはぁ。エラ呼吸したい……」
半魚人は苦しそうにしている。
俺達の布陣はこうだ。
<馬車前方>
御者
<馬車右側>
ランジェ
黒髪短髪の男
<馬車左側>
獣人娘
槍をもった老人
<馬車屋根>
魔導士の女性
<馬車後方>
俺
死にそうな半魚人
馬車後方が不安で仕方が無い。
俺はみんなを応援しつつ、こっちに敵が来ないように必死に祈るのであった。
その頃、馬車右方向では既に戦闘が始まっていた。
黒髪短髪の男「ジャイ」は徒手空拳の使い手である。
あっという間に盗賊との距離を詰めると、右ストレート一発で一体目のゴブリンを沈める。
視界の隅で別のゴブリンがこん棒で殴り掛かってくるのを確認すると、その攻撃を最低限の動きで躱し、右フックから左ボディ、前かがみになったところにショートアッパーと連撃を叩き込む。
そして右足を軸に凄まじい速さで回転すると、強烈なバックブローで、後ろから襲い掛かろうとしていたゴブリンの、構えた剣と兜ごと頭蓋を叩き割った。
「っしゃあぁぁぁっっ! どんどん行くぜっ!!」
少しだけ遅れて戦闘に参加したランジェは、そんなジャイの戦闘を横目で見つつ、大剣を横に薙ぎ払い、二体のゴブリンを一刀両断にした。そして、彼にこの場は任せても問題ないなと判断すると、司令官であろうオーガの元へ向かうことにした。
しかしオーガの元へとたどり着くにはまだ四~五体のゴブリンがいる。
邪魔だなと思うより早く、背後から頭の上を眩い光弾が通り過ぎていき、そのゴブリン達を吹き飛ばした。
振り返ると、馬車の屋根の上にいる魔導士がこちらに向けて手をかざしている。
何かしらの魔法で援護してくれたらしい。
ありがたい。
邪魔なゴブリン達はもういない。
ランジェはそのまま一気に跳躍すると、オーガに向けて切りかかった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる