上 下
20 / 20

第20話 緊急会議3 パイプラインと食料について

しおりを挟む

「んじゃ、稲荷町に対して至急準備しないといけない事ってなんだと思う?」

「はっ!」

 シュテンが勢いよく挙手をする。

「おっシュテン君。いいねーその積極性。いいよー。」

 シュテンはかつてオニと恐れられ、暗黒騎士と死闘を繰り広げた男だ。
 そんな男が今では妖魔帝国の事を第一に考え、日々業務に勤しんでいる。

「人間達にも、水、食料、それに電気が必要かと思いまする」

「ふむふむ、そうだな。まあ、水と食料は一旦ほねぞうが配給してくれるからいいとして……」
 
 こくんと頷くほねぞう。

「電気はうちの発電所から引っ張ればいけるのかな? ミケ」

「にゃ。発電量も技術的にも余裕にゃ」

 ぺろぺろと毛づくろいをしながら答えるミケ。

「ただ……」

「ただ?」

「町に一番近い、A-4出入り口からでも相当な長さのケーブルが必要にゃ」

「それって結界や壁の外から町の中へとケーブルを引っ張る事になりますよね。今後の管理的にも難しいですね」

 ほねぞうはそう言うとコップの中の牛乳をぐびりと飲んだ。
 その様子をハラハラしながら見つめる妖魔大王。

 こぼれないのだろうか……。

 不思議な事に牛乳が骨の隙間からこぼれる事は無い。
 
 うーむ。
 いつみても不思議だなー。
 どこで消えてるんだ?
 胸の辺りで消えてるのか?? 
 
 妖魔大王の視線に気づいたほねぞうが、さっと両手で胸骨を隠す。

「やだ。どこ見てるんですか」

「大王様ー。またほねぞうの胸の谷間を見てたッスかー」

「いや! 違くてだなっ。お前は何とも思わないのかっ」

 ほねぞうは実は女性である。
 生前はジャンヌと言う名前だったらしい。

「もー。ちょっとお花摘みに行ってきます」

 そういうとほねぞうは会議室を出て行った。

「大王様、セクハラですよ」

 デスクイーンに厳しい目で睨まれる。

「ええー。……はい、すいませんでした。で、どこまで話したっけ?」

 今一つ納得が出来ない妖魔大王であったが、しぶしぶ会議を続ける。

「A-4からケーブルを引くのは難しいって話ですよ」

「そうにゃ。にゃから町の中に直結した出入り口を新たに作って、そこからケーブルを引っ張るべきにゃ」

 ミケがテーブルの上で一休みをしていたコバエにネコパンチをする。
 が、間一髪コバエは逃げていった。

「あーなるほど。じゃ稲荷神社の境内まで穴を開けるか」

「えぇっ! 大丈夫ッスか? 狐のおばさん怒るんじゃないッスか?」

 不安そうに妖魔大王を見つめる暗黒騎士。

「大丈夫大丈夫。わし町長だもん」

 自信満々に答える妖魔大王であったが、もちろん大丈夫な訳はなく、後日おでこに100枚の札を貼られる事になる。

「モグライオンどのくらいで穴は出来そうだ?」

「はいモグ。真上に掘り進むだけなら一日あればいけますモグ。たぶんスタート地点は大広間になると思うモグ」

「掘った時に出る土はどうするッス?」

「なるべく壁に土を押し付けて、妖力で固めながら掘り進むモグ。だからあんまし土は出ないと思うけど、下で回収班を用意して別の場所へ運搬するモグ」

 モグライオンを筆頭とする掘削部門は、鉱物資源の採掘や新たな地下資源の探索などを主任務としているが、妖魔帝国の地下領土の拡大も行っている。
 彼らに任せておけば問題は無いだろう。

「頼んだぞ。じゃ水道管もその穴からつなぐ感じでOK?」

「それで大丈夫にゃ。ただそれでも帝国の水処理場から地上まで数キロあるにゃ。二日程、時間が欲しいにゃ」

「なにぃ!? 駄目だ。半日で終わらせろ」

 キリッとした顔でミケの提案を却下する妖魔大王。

 先日見た深夜映画で、渋い上司が部下に対して言っていたセリフだ。
 それを視た妖魔大王は「カッコいい……」と感銘を受けた。

 つまり、言ってみたかっただけである。

「無理にゃ。しゃーっ!!」

 毛を逆立てて妖魔大王に威嚇をするミケ。
 席が離れているから良かったものの、隣の席だったら引っ掻かれていただろう。

「パワハラはいけませんぞ。大王様」

「そーよ、良くないわよ」

「どうせ言ってみたかっただけッス」

「先日の深夜映画の影響だぞい」

「ああ、あれですな」

「そもそも半日じゃ穴も開いてないモグ」

「わがままはだめだよ、ダイちゃん」

 その場にいる全員から総非難される妖魔大王。
 サラにまで注意されてしまった。

 うう。
 言ってみたかっただけなのに……。

 もう二度とさっきのセリフは使わないと心に誓う妖魔大王であった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...