上 下
2 / 20

第2話 カウントダウン

しおりを挟む
――カウント3

「しかし……まさか乗り込んで来るとは思わなかったな」
                
「やはり例の作戦がまずかったのだと思いますわ」
                
 そう言いながら、ふらふらと空中を飛んできたのは、三大幹部の紅一点【デスクイーン】だ。
 上半身は妖艶な美女であり、背中には蝶の羽根を持つ。
 しかし下半身は巨大な蜂の腹部となっており、そこから人型の脚が二本生えている。
                
 妖魔帝国でもトップクラスの戦闘能力を兼ね備えた彼女は、正に蝶の様に舞い蜂の様に刺す、妖魔帝国のアイドル的戦士だ。
 だが今では、針は無残に『く』の字に折れ曲がり、羽根には大小いくつもの穴が開き、髪の毛は何があったのかと驚くほど乱れている。
 これは青の魔法少女【封申印 れおな】と戦った結果である。
                
「例の作戦って……あれか?」
                
 例の作戦といえば、「栗ようかん買占め作戦(都内)」である。
                
 都内の栗ようかんを買占め、大好きな栗ようかんを食べる事が出来なくなった都民たちのフラストレーションを高める。
やがて必然的に起こる暴動によって、東京の中枢機能をマヒさせた後に、楽々と東京を制圧するという作戦であった。

「まだ作戦開始三日目ッスよ。早く無いッスか」

「あの眼鏡のいつもおとなしい娘。【戌山崎 しずか】だっけ? 眼がヤバかったわね」

「ぞいぞい」
                
 赤いだるま男爵の色が青くなっている。
 ロッドで殴られた時の恐怖を思い出したのだろう。
                
「しかしあの強さじゃ、今まで送り込んできた部下の妖魔達が次々と病院送りになる訳だな。はぁ」
                
妖魔大王は、これまでの魔法少女との戦闘報告を思い出しながら、深く納得する。

――カウント2
                
そんな妖魔大王に三大幹部が話しかける。
                
「大王様。世界征服なんて、もう諦めましょうよ」
                
「そうッスよ。征服なんてした後の方が大変ッス」
                
「またみんなで仲良く地底で暮らすぞい」
                

 妖魔大王は三大幹部を見渡し、深く大きく頷いた。
                

「そうだな。太古の昔より我らを忌み嫌っておった人間どもに一泡吹かせてやりたかったが、やはり復讐心など何も生み出さぬな」

「さすが大王様ッス。俺、実は地底に戻ったらモヤシを育ててみたいッス」
 
 暗黒騎士が嬉しそうに言う。

「それは良いぞい。地上で食べたモヤシ炒めは美味かったぞい」

 だるま男爵がごろごろ転がる。

「あたしはお肌を休めたいわぁ。日光ってお肌に合わなくって」

 デスクイーンは日焼けした肌を気にしている様だ。

――カウント1
                
 (ここが引き際であろうな)
                
 妖魔大王は静かに決意を固める。

 そして、力強く玉座より立ち上がると、眼下にいる妖魔達を見渡した。
 そこには無傷な者等、誰一人いない。
                
 その光景に心を痛め、三つの目を閉じる妖魔大王。

 (皆すまなかったな。一時の復讐心に流され、敵の戦力を見誤り、挙句民を傷つけてしまった愚かな王を許してくれ)
                
 そして全ての目を静かに開くと、ゆっくりと言葉を発した。
                
「皆の者、心して聴け」

 地の底から響いてくるような低く重い声。
 先程までの弱り切った妖魔大王はそこにはいない。
 堂々たる立ち振る舞いは大王と呼ぶにふさわしい威厳と貫禄に満ちていた。

 三大幹部をはじめ、何千といる妖魔達が一斉にひざまずく。

「皆の者、今日まで本当によくやってくれた。礼を言おう。」

 そういうと妖魔大王は皆に頭を下げた。

 ほんの一瞬だが妖魔達の間に動揺が広がる。
 妖魔大王が公に頭を下げる事など滅多に無い事だ。
                
 妖魔大王は頭をあげると、意を決したような声で皆に告げた。

「遺憾ではあるが、本日をもって地上征服作戦は終了とする。各自速やかに撤収作業に移れ」
                
「ははっ!!!」
                
 妖魔達の一糸乱れぬ返答。
 妖魔大王は心から満足する。
                
「それとだ」

 大王の次の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾ける妖魔達。
 忠誠心が形となって表れ、大王の間は痛いほどの静寂に包まれる。
                
 そんな妖魔達を眺め、妖魔大王はニヤリと笑い、次の言葉を告げた。
                

「宴の準備を忘れるな!! 残念会だ!!」


「おおーーーーーっ!!!」
                
                
 その瞬間、ひざまずく妖魔達から一斉に歓喜の声が沸き上がったのだった。
                 
                
――カウント0
                                

 ぐにゃり。
 突如、歪み始める時空。
                
 空間の歪みは振動となり、大王の間を激しく揺れ動かす。
 無事だった数本の柱が倒れ、天井からいくつもの小さな破片が落ちて来る。
                 
「わわっ! な、なんッスか!」

「地震ぞいー! 早く机の下に……」

 ダルマ男爵が凄まじい速度でゴロゴロしている。

「これは……」
 
 妖魔大王は虚空を見上げ、一帯の魔力が増大していくのを感じ取っていた。
                
 それは魔法少女が去り際に残していった最終奥義「時空転移」。
 どこに転移するのかは術者でさえわからない、禁断の術である。
 自らを巻き込まぬ為に、時限式で発動させたのだ。
                 
 数秒後、目の眩むほどの強烈な光が妖魔帝国一帯を包みこんだ。

 そして妖魔帝国は地球上から跡形も無く消え去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【毒僧】毒漬け僧侶と呼ばれた俺だが、魔族の力に目覚めて精霊術士の少女を全力で救う

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 【旧タイトル:毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした】  ■ ■ ■ 毒漬け僧侶――そう揶揄された通り名をつけられる程度の存在だった。 長寿で孤独な根無し草。歳月の経過もわからない無為な日々。 変わらない生涯を、男はただ諦観していた。 そんなとき出会ったのは、故郷の復讐を決意して突っ走ろうとする精霊術士の少女・ミリアだった。 精霊術士を狙う組織と戦う覚悟を決め、魔族の力を持って男は進み出す。 たとえ滅びの結末になろうとも――。 一人の男が大切な少女を救うため、運命に立ち向かうバトルダークファンタジーが幕を開ける。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 苦手な方はご注意ください。 ↓pixivに登場人物の立ち絵一覧、舞台裏ギャグ漫画を公開しています。 ※がっつりネタバレあり※ https://www.pixiv.net/users/656961

異世界マイスターの知恵は一番強いチートだった

Impulse
ファンタジー
自称異世界マイスターを語る男は、本物の異世界に転移して、何を思うのか。 幸せを求めて、強さを得て、悲しみを乗り越え生きていく。 見たこともないものを異世界の知恵だけでは絶対に乗り越えられない。 「自意識過剰」がどう自分の弱さを感じ、「成長」の2文字をどう痛感するのか。 どうにもならない「異世界転移」という運命を、青年はどう受け止め、どう生きていくのか。 幸せいっぱいでバトルたくさんの異世界ファンタジー、今開幕!!

おこもり魔王の子守り人

曇天
ファンタジー
現代世界がわかれていた異世界と一つに戻ったことで、普通の高校生だった小森見 守《こもりみ まもる》は生活のため冒険者となる。 そして世界が一つになったとき現れた異世界の少女アディエルエと知り合い、アディエルエのオタク趣味に付き合わさせられる日常を過ごしていく。

シュバルツバルトの大魔導師

大澤聖
ファンタジー
野心的な魔法の天才ジルフォニア=アンブローズが最強の宮廷魔術師を目指す物語です。魔法学校の学生であるジルは、可愛い後輩のレニや妖艶な魔術師ロクサーヌ、王女アルネラ、女騎士ゼノビアなどと出会いながら、宮廷魔術師を目指します。魔法と智慧と謀略を駆使し、シュバルツバルト王国の「大魔導師」に成り上がっていく、そんな野心家の成長物語です。ヒロインのレニとの甘酸っぱい関係も必見です!  学園モノと戦争モノが合わさった物語ですので、どうぞ気軽に読んでみてください。 感想など、ぜひお聞かせ下さい! ※このお話は「小説家になろう」でも連載しています。

処理中です...