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2巻

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 するとあっという間に領都の外壁が近づき、入口の門に到着した。

「バン、わたしゃ子供たちを見ておくから、領都に入り、急ぎ薬師ギルドへ行っておくれ。そしてこの手紙を受付で渡しておくれ」
「わかった。それならばあさん、俺のマジックバッグを預かっててほしい。持っていると検問で止められて、時間を食うからな」
「あいよ。バンも予防で薬湯を飲んでから領都に入りな」
「わかった。すぐに戻る。ニールもその間、みんなを守ってくれ」
「ブルルル~(まかせて~)」

 領都への街道から外れた、草むらに馬車を停めておく。
 俺一人、領都の門を通るための列に並ぶ。できれば日が沈む前に中へと入りたい。
 冒険者でなく旅人として目立たないよう入るつもりだったのだが、後ろから貴族の紋章が入った馬車の行列が、並んでいる俺らを追い越し門へと入っていく。

「よう! 久しぶりだなバン、元気か?」
「えっ、レオンの兄貴!」

 突然、声を掛けられた。
 振り向くと、駆けだし冒険者時代から世話になっている兄貴分のレオンだった。

「兄貴、久しぶり。でも領都のギルドマスターの兄貴が、なぜ貴族の護衛なんか……」
「流石に断れね~よ、領主様からの指名依頼は。それに最近は事務仕事が多くて……気分転換も兼ねてな! はっはっはっ」
「兄貴、緊急事態なんだ。どうにかすぐに入れないか?」
「どうしたバン? 理由を言え」

 俺が経緯を話すと、兄貴はすぐに貴族の馬車を停めて扉をノックした。
 小窓が開き、中にいる貴族へと話しかける。
 それからすぐ、兄貴がこちらに戻ってきた。

「バン、こっちの列に加われ。このまますぐに領都に入れてやる。検問もなしだ。すぐに薬師ギルドから人を呼んでやる」
「マジか! 助かるよ、兄貴」
「おう、それとこれからは、人前ではギルマスって呼べよ」
「わかった、ギルマス」

 本当に助かるよ兄貴。


 そんなわけで、ギルマスこと兄貴のおかげで時間を掛けずに領都へ入れた。
 冒険者ギルドからも使いが来て、俺を鑑定し、感染うつってないことを確認した。

「事が済んだら冒険者ギルドに報告に来い」
「ああ、本当に助かったよギルマス」

 そう兄貴と挨拶を交わし、すぐに別れて薬師ギルドへ小走りで向かう。
 兄貴と一緒にいた貴族の護衛騎士は、流行り病と聞いて驚いていた。
 しかしそれにしても、ずいぶん緊張しすぎていた気もするが…… 
 まさか! 俺の『ギルマス殺し』っていう、物騒な異名を話したのか、兄貴。
 同行している他の騎士たちも俺と距離を取っている感じだったし……


 領都に入り教えてもらった通りに進むと、だんだんと薬特有の匂いが強くなってきた。
 そして一番強い匂いを発している建物の前にたどり着く。たぶんここが薬師ギルドだろう。
 建物の中に入り、受付へと向かう。

「いらっしゃいませ、薬師ギルドへようこそ。ご用件はなんでしょうか?」
「突然申し訳ない。頼む、急ぎこの手紙を読んでくれ」

 挨拶もそぞろに、急いで手紙を渡した。

「はい………えっ! まさか! 少々お待ちください」

 渋々といった様子で受付が目を通すと、突然席を立って慌てて奥へと向かっていった。
 するとすぐに長い白髪で、ローブをまとった老人と一緒に戻ってくる。

「わしは薬師ギルドマスターを務めておるウッディーじゃ。おぬしがマチルダの手紙を持ってきたのか?」
「はい、バンといいます。冒険者ですが、馭者と護衛を兼ねてばあさ……マチルダさんに同行しています」

 ばあさんの名前ってマチルダっていうのか。初めて知ったぞ。
「早速、職員たちを連れて向かうぞ。道案内を頼めるか?」と立ち上がるウッディー。

「はい、よろしくお願いします」
「ほれほれ、急ぐのじゃ皆の者。あと、領主邸と冒険者ギルド、教会への連絡も頼むぞ」
「「「はい!」」」
「わしは先にコヤツと行っとるからのう」

 一斉に動きだす薬師ギルドの面々。
 突然慌ただしくなり、他の客たちが驚いているが、それを無視してあちらこちらに動きまわる職員たち。

「ほれほれ、さっさとマチルダのところに案内せい、バンとやら」
「はっ! はい、こっちです」

 そんな光景に俺が見入っていると、ウッディーから持ってる杖で突かれ、急かされた。
 気を取り直し、みんなを案内しながら向かう。


 領都の外に出てウッディーと共に、子供たちのところへ向かう。
 そしたらニールの馬車を取り囲むように、ガラの悪い男たちが群がっていた。

「はぁ~~~~~」

 俺は肩を落として盛大にため息をいてしまう。
「バンとやら、どうした?」とウッディー。

「すいません、先に行ってなんとかします」

 自身に身体強化魔法を掛け、俺は一人先に急いだ。
 馬車に近づくにつれ、言い争う声が聞こえてくる。

「だ~か~ら~、俺たちが、その魔物を引き取って退治してやるって言ってんだよ~、ばあさん」
「そうそう~」
「こんなに大人しい魔物なら楽勝だぜ~」
「いくらになるだろうなぁ~」

 くそっ、この忙しい時に、こいつら……

「だから何度も言ってるだろ! この子は魔物でも従魔じゅうまで、ちゃんとあるじがいるんだよ。私らは襲われないし、もうすぐその主も戻ってくるさね。いい加減によそへお行き。この三下ども!」

 ばあさんが追い払おうとするが、男たちはしつこい。

「おお! 怖い怖い」
「「「へへへへへ~」」」

 しまった! これは俺のせいだ。
 まだ従魔登録をしていないから、登録証をニールはつけていない。
 しかしばあさんには感謝だな。
 子供たちの看病で大変だったろうに、ニールをかばって前に出て、奴らを止めてくれている。
 ニールの怒りも伝わってくるが、必死に我慢しているようだ。
 しかしこいつら、ニールを退治だと⁉ 殺すってことか? 俺の相棒を? 息子を?
 どうしてくれよう……

「マチルダさ~~~~~ん」

 俺は走りながら、大声でばあさんの名前を叫ぶ。
 そして絡んでいた奴らの気を引き、全員を俺の方に向かせた。
 そして奴らとばあさんの間に割って入り、体勢を整え、指の骨と首の骨を鳴らしながら言ってやった。

「俺の従魔とツレだ。文句あるか?」
「ああ! なんだよ、おっさんは」

 一人が俺の胸ぐらを掴んで絡んできたので、とりあえず相手の腹に一発。

「ぶっふ~~~」

 なんか出てはいけないモノを吐き出しながら前のめりにくずれ落ちる。汚ねえなぁ~。

「こいつ!」
「囲め!」
「後ろの荷車に寝ているガキを人質にしろ」

 武器を抜いたり構えたりと、こいつらわかってないのか?
 素手ならまだ罪は軽いのに、武器を向けた時点で極端に重くなる。
 それに殺されても文句は言えない。

「バン、っておしまい!」

 マチルダばあさんは、ここぞとばかりに言ってくるなぁ~。それだけ頭に来ていたのか。
 しかし、殺しはまずいだろう。ここで子供たちを治療するのに、血で汚したくないしな。

「ああ、任せろ。ニールは子供たちを守ってくれ」
「ヒヒーン、ブルルー(こいつらきらい、おにいちゃんがまもるぞ~)」

 子供たちもニールに懐いていたし、ニールも子供たちが大好きだ。しかもどちらも自分が兄や姉だと主張しているのが微笑ほほえましいんだよな。
 そんなことを思い出してニールを見ていると……

「どこ見てんだよ、おっさん!」

 背後から一人、叫びながら襲ってきた。

「ふん」

 ――バキバキ

「ぎゃぁぁぁぁ~」

 すかさず俺は回し蹴りで、武器を持ってる相手の手を砕く。
 背後から襲う時には黙って静かにるべきだ。
 こいつら、素人同然だな……

「ヒヒーン」

 ――ドゴーン

「ぶふぉぉぉぉ~~~」

 子供を人質に取ろうとニールの背後に回り込んだ男は、ニールに後ろ足で蹴られ盛大に吹っ飛んでいってしまった……
 しかし数が多いな。流石に素手のままではが悪い。
 ……と思っていたが、他の奴らは恐れて近寄っても来なくなっていた。

「目障りだ、失せろ。俺に剣を抜かせたいのか? それともニールに蹴られて吹っ飛ばされたいか?」
「お前ら、逃げろ~~~」
「「「うわぁ~~~」」」

 リーダー格らしい男が叫ぶと、奴らは蜘蛛くもの子を散らすようにバラバラと逃げていった。

「ふう~~~」
「バンや、お疲れ様さね」

 息を吐いて気持ちを整えると、マチルダばあさんが預けてあったマジックバッグを投げ返してきた。

「おう、ありがとなマチルダさん」

 俺が名前を呼んで礼を言うと、ばあさんがどこか恥ずかしげな表情だった……なんでだよ。


 こうしてチンピラどもを追い払った後、すぐに薬師ギルドの職員たちが合流し、子供たちの診察に取りかかってくれた。

「マチルダ、久しぶりじゃのう~」

 ウッディーがマチルダに声を掛ける。
 そういえば、名前を知ってたってことはこの二人、知り合いなんだよな。

「ウッディー、すぐにここで薬を飲ませて治療にあたるよ。薬草は?」
「大丈夫じゃ。ほれ皆の者、始めるぞい」
「「「はい」」」

 先程の残党がいないか警戒しながら治療の様子を見ていると、徐々に子供たちの顔が穏やかになり、かなり楽そうになったのがわかる。
 本当によかった。間に合ったんだ。
 そう思っていると、ニールも俺の横に来て、子供たちを見て安心した様子だ。

「ブルル~(よかったぁ~)」
「ああ、本当によかった。よくやったな、ニール」

 褒めてやりながら首筋を擦ってやると、嬉しそうに頬をり寄せてきた。
 すると治療が一段落したウッディーとマチルダが、今後の打ち合わせをする会話が聞こえてくる。

「一晩ここで様子を見よう。まだ領都には入れられぬ」
「そうさね、教会の治療院に入るにはまだ早すぎるさね。それに病状を判断する鑑定士の手配は?」
「抜かりない、冒険者ギルドにも使いを出しておる」

 なるほど、じゃあ今日はここで一泊か。
 そうと決まれば早速と、ニールの食事の準備に取りかかっていると……

「それにしても、立派な従魔じゃのう」
「この子は強いだけじゃないさね。賢く優しく、力強く速い。とてもいい子さね」

 老人二人がニールを褒めだす。
 なんだか俺も嬉しくなるが、そのドヤ顔はやめなさい、ニールくんや……
 その顔がなんともおかしく、笑いをこらえながら食事の準備を続けていると、突然後ろからコツコツと何度もニールに小突こづかれる。
 俺が笑っているのに気付いたのか? それとも食事の催促か? 

「ニール、お疲れ様。たくさん食べてくれ」
「ブルルルル~(いただきま~す)」
「明日はたくさん走らせてやるからな」
「ブルル? ヒヒーン(ほんと~? やったぁー)」

 村からの道中、いろいろと我慢をさせてきたからな。
 明日、手続きを終えたらニールとたくさん遊んでやらないと――


 ◆


 そう考えていたら、ここで目が覚めた。
 少し寝坊したのかうっすらと明るく、まぶたを閉じていても光を感じる。
 なんとも懐かしい夢だったな。
 そういえば、ばあさんがきっかけだったな。こうして、乗合馬車を始めたのは。
 あれは子供たちも無事回復し、元気になったみんなで村へと帰る道中のことだった。

「お前さん、このまま乗合馬車でもやったらいいんじゃないかね? 稼げるし、お前の腕なら護衛もいらんじゃろ。フッフッフッ」
「護衛は最低限雇うさ。負担がデカすぎるし、ゆっくりしたいからな。だがそうか……乗合馬車か……」
「まあ、村へ帰ってからゆっくり決めたらいいさね」
「ああ、考えてみるよ」

 そんなマチルダとのやり取りがあり、単純な俺は結局、乗合馬車を始めて馭者をやっている。
 が、なぜか女王に気に入られ、騎士になることが決まってしまったのはどうしたものか……
 そう思ってベットの隣を見ると、そこには彼女――リタのかわいい寝顔がある。



 2話 騎士叙任


 翌日、俺は朝からリタに怒られていた。

「せっかくあんなに素敵な部屋で一夜を共にできたのに、すぐに寝ちゃうなんて……」
「すまん……」
「いくら気疲れしてたからってひどいわよ!」

 昨日俺は、女王に泊まらせてもらった宿屋の部屋がきらびやかで豪華すぎなので落ち着かなかった。
 でもそう感じるのは俺だけみたいで、リタはとても喜んでいた。
 俺は満腹で酒も入り、部屋でリタ以外いなくなった瞬間、緊張が解けてすぐに寝落ちしてしまったんだ……途中で昔の夢を見て起きたけど、その時はリタも寝てたし……

「申し訳ない……リタと二人っきりになった瞬間安心してしまって……本当にすまない……」
「もう~、仕方ないんだから♪」

 言い訳すると、最後はこちらに笑顔を向けてくれるリタ。
 どうにか許してもらえたようだ。助かったぁ~~~。
 今日は限られた人たちだけで、簡単な騎士の叙任式をするらしい。
 叙任式のため、身支度を整えようとすると……

「バン様、お任せを」
「「「お任せください」」」

 宿屋のメイドたちに囲まれ、もみくちゃにされてしまった。
 誰だ? そこは支度に関係ない場所だぞ!
 おい! いつまで二の腕を触っているんだ? 
 いろいろと思うことはあったが、黙ってされるがままになっていた。
 それを見ていたリタも楽しそうだったのでよしとしよう。


 王城に行くと、執務室に招かれた。
 入口からまっすぐに敷かれた赤い絨毯じゅうたん、その先には豪華な玉座。
 そこには五百歳のくせに未だに現役で、この国最高ランクの冒険者『オリハルコンのアルティミシア』ことアルティのババアの他、三人の男性が正装で玉座の脇に立って待っていた。

「「皆様、申し訳ございません。お待たせいたしました」」

 その光景が目に入ってすぐに、リタと一緒に謝罪する。
 装いから考えても、男性たちが上位貴族様だとわかったからな。

「気にするでないよ。リタ嬢、頭をお上げ」

 なぜババアが答える? それに俺は気にしろと?
 そう思いながら、俺もリタと一緒に頭を上げると……ほらみろ! 三人の男性たちがババアの迫力に顔を引きつらせているぞ。

「皆様、初めまして。バンという冒険者です」
「皆様、お初にお目にかかります。同じくリタという冒険者でございます、閣下方」

 場の空気を変えるため、自己紹介をする。
 うん、なんだろう?
 俺がリタの引き立て役にしかなってないが、まあ男の役割はそれでいいはずだ。
 しかしリタは場慣れしているなぁ~。

「ほれ! さっさと挨拶しないかい?」

 完全にババアが仕切っているが、気にしたら負けなのだろう。
 三人の貴族様方も、咳払いをした後に自己紹介をしてくれた。

「北の辺境伯、オーブリオンだ。よろしくな」
「東の公爵、ラフィットと申す。よしなに」
「南の侯爵、ラトゥールだよ。よろしくね」
「「はっ」」

 おお! 国の守護たる四大貴族中、三人がいるとはなんなんだ?
 ちなみに西のムートン元公爵は俺が仇討ちをした相手の父親で、地位を追われて行方をくらましている。
 しかし、たかが一騎士の叙任式に女王陛下夫妻が来るってだけでもすごいのに、ここまで大物たちが集まる理由がわからない。
 俺は冒険者の癖で、俺は彼らの戦種を想像してしまう。
 辺境伯様は、俺と同じ前衛で戦士職だな。あの大柄な身体に筋肉の力強さ。攻撃力も防御力もすごそうだ。
 東の公爵様は遊撃タイプだろう。あのスラッとした引き締まった身体は、速さを武器に戦う感じか。それに腰の獲物は『刀』と呼ばれる東方の武器か。久しぶりに見たぞ。
 南の侯爵様は魔導師まどうしか。小柄で細身で優しそうな外見に反して、凶悪すぎる量の魔力を秘めていそうだ。
 しかし全員俺と同世代といった感じだな。
 なんて考えていると……

「マルゴー女王陛下、並びにブライトン王配陛下、ご出座~」

 おっ! 今声を出したのは宰相さいしょう様か? その掛け声を聞き、全員が玉座に向かってひざまずく。
 なのにアルティのババアは立ったままだ。
 え! 流石に跪かないとだめだろう、ババア……と思ったら、流石に礼はして頭は下げるのね。
 心臓に悪いわ。クソッ!


 こうして女王陛下夫妻が来て滞りなく式が進み、俺は騎士になってしまった。
 そして……

「それでは引き続きリタ殿の叙任式をいたします」

 俺とは違って優雅に式をこなしたのは、流石リタと言うべきだろうな。
 自慢の仲間で……まあ……その……なんだ……
 うん……あれだ……あれ……
 愛しい人だ……


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