運命なんて知らない[完結]

なかた

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好きだよ(中編)

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雨は土砂降りって訳じゃないけど傘が必要なくらいには降っていた。
「だから、傘持って行ったほうがいいって言ったのに」
少し不満そうに傘を開く。
「嫌?」
「嫌じゃないけどさ、恥ずかしいよ」
「なんで?兄弟だから恥ずかしいことなんてないじゃん」
兄弟だから、自分で言って傷ついている。
「霜、元気ない?」
見抜かれてるなぁ。雪にはやっぱりバレてる。
「そんなこと...あるかも」
「あるんかい!どうしたの?」
こういう時、明るく振る舞ってくれる所とか本当に...。
「別に。話すほどの事でもないよ」
雨が顔にあたる。
振り返ると怒ったような顔をして爪を鳴らしている。寂しい時によくやっている癖。
「ばーか。大体知ってる上で聞いてるの。」
「俺が酷いやつだって?」
「なんでそんな風に言われてるのか分かるのに分からない」
「どういうこと?」
「よくない事して言われるのは分かる。でもさ、霜がしたって本当なの?僕は霜がそんな事してるって信じられない」
何をしたと聞かされたのだろう。
冷たい振り方だろうか。
それとも、尾ひれが付きに付いた彼女にした事だろうか。
「してないって言ったら信じてくれるの?もし、してたとしてどうする?」
雪なら信じるんだろうな。
俺だって雪がしてないと言ったら信じるし、してたとしてどうせ許してしまうんだろうけど。
「信じる。でも、してたとしたら怒る」
「怒るの?」
「うん。霜が改心するまで怒る。ずぅーっとね。」
「ずっと?」
「うん。霜がダメなことしてたら僕が怒ってあげる。だから、霜は安心していいよ」
「雪はダメなことしないの?」
「そうしたら、霜が怒ってくれるでしょ?」
怒れないよ。雪みたいに真っ直ぐじゃないからさ。きっと、雪と同じ方向に行く。
「だから、ちゃんと僕を見ててね」
俺に傘を傾け、真っ直ぐ見つめる。
「濡れちゃうから、先行かないでよ。僕が止まったら一緒に待って」
「何それ」
身勝手だなぁ。ずっと振り回されてる。
本当は俺がしたこと全部知ってるんだ。
怒れてないよ。ずっと優しい。
「霜。僕に接するみたいに皆んなにしてあげてよ。そしたら勘違いも嫌われることもないよ」
「...出来ないよ。雪が特別なんだよ」
「ふふっ。僕が特別?変なの。ずっと一緒にいるのに」
「ずっと特別だよ」
「変わらないねぇ。僕がそんなに好きなの?」
猫と戯れてる時のような優しい声でニコニコと聞く。
「嫌うところがない」
「僕は霜の嫌いなとこあるのに」
「なに?」
「僕よりずっと早く大人になってるところ。置いてかれてるみたい」
「雪の方がずっと大人だよ」
「それは霜の前ではお兄ちゃんだからね。あと、僕も霜が特別なんだよ」
簡単にそういうことを言う。
そのせいで期待したくなる。
「雨あたるから、雪も中入ってよ」
「うん」
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