運命なんて知らない[完結]

なかた

文字の大きさ
上 下
43 / 53

好きだよ(前編)

しおりを挟む
「側にいるだけってさ、辛いんだよ。霜」

 雪はもう全て決めてるってこと知ってた。
でも、気づかないふりをして一緒にいようとした。
馬鹿だな。俺。
煙草の時も知らないふりして痛い目見たのに。
「分からない。分かんないよ。言ってよ。俺になにが足りないのか」
「僕を突き放せないとこ。僕が幸せにできないとこ。他にもあるけど...」
「そんなの俺が直せば!」
幸せにできないなんて言わないで。
側にいてくれれば幸せなのに。
なにもいらない。雪だけで本当にいい。
なんでダメなんだろう。
兄弟なんて関係ずっといらなかった。
死ぬまで二人でいたい。
世界に二人だけならよかった。

 「一番はαじゃないとこ」

なんだ。
そんな理由か。
それなら、それだったら。

 「そっか」
  
本当に本当に大好きだったんだ。
ずっと側にいて、それでも側にいたいと思えた人。
なんでこんなに好きになってしまったのだろう。
自分勝手に悩んで結論をだすところが嫌いだ。
煙草を吸うところが嫌いだ。
俺を振り回すところが嫌いだ。
それでも、笑う顔が好きだ。
俺が全部に疲れた時、分かってるかのように隣で話を聞いてくれるところ、それでいて欲しい言葉をくれる。
 
 雪は覚えてないだろう。

「霜くんっていつも冷たい!人の気持ち理解しようとしたことあるの!?」

中学の頃、別れ話で彼女にそう言われた。
告白されてなんとなく付き合った。
周りの雰囲気とかに流されてたのもあったし、雪を好きになったのはおかしいことだと思っていた。
兄を好きになる。
それは俺の中ではいけないことでおかしいこと。
付き合ってみたら、この子を好きになるかもしれない。
雪への気持ちは兄弟愛だって分かる気がした。
でも、違った。
どんなに笑いかけてくれても頭の中には笑う雪が出てきて、甘えられても雪の甘ったるい声が聞こえた。
結局、雪を重ねてしまい冷たい態度をとってしまった。
彼女にも申し訳なくなって別れを切り出した。
彼女もやっぱり自分を好きじゃないことに気づいていたみたいで好きじゃないなら最初から付き合わないで欲しかったと言われた。
ごめんと謝ることしか出来ず、彼女の怒りが収まるまで別れ話は続いた。
繰り返される言葉が何年も脳に染み込んで離れなかった。

「人のこと考えたことある!?」

「人の気持ち分かろうとしないよね」

「察してよ」

分からないよ。
俺が好きな奴の気が知れない。
兄弟のこと好きになる気持ち悪い奴で好きでもない相手と付き合うようなクズ。
告白してきた相手に嫌悪感が増えていった。振り方も酷くなる一方、告白する人は減った。
噂が広まって、雪にまで届いた。
なんて聞いたのかは知らない。

 その日は雨の日で、傘を持っていなかった。昇降口で雪が来るのを待っていた。湿気と散らつく視線が嫌で堪らなかった。

「霜!お待たせ」

 声を聞いただけで気持ちが浮ついて、さっきまでの鬱陶しさが消えた。


 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

処理中です...