運命なんて知らない[完結]

なかた

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それだけで

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三佳巳さんに、霜には話したと言って番になる話を進めた。
三佳巳さんの両親にも了承をもらって話は進んでいる。
他にもお世話になっている会社や親戚の挨拶に行ってから番になる。
番になるのは籍を入れてから。
今すぐにでも噛んで欲しかった。
決心が揺らいで、必死に我慢して来たものが崩れてそうで。
早く噛んで、後戻りできないようにして欲しかった。
三佳巳さんは、そんな事出来るよう様な人じゃないって分かってるけど。
霜が納得はしてないことは三佳巳さんには内緒だ。
フェロモンがやっと落ち着き、退院することになって退院する日は霜と一緒に家に帰ることした。
本当は退院すると同時に三佳巳さんのところに行くつもりだったけど三佳巳さんにそれは良くないと怒られた。
そんなに甘くないな。
病み上がりだからと三佳巳さんはタクシーを予約してお金まで払ってくれた。
久しぶりの外は晴れていて雲ひとつない快晴だった。
こんなにも晴れているのに心は沈んだままで家に帰れるというのに嬉しくなかった。
久しぶりに上がる階段。
部屋までこんなに遠かったっけ。
多分、体力が落ちているのだろう。
階段の軋む音が懐かしい。
「雪、荷物貸して」
霜はあれから口を聞いてくれない。
必要最低限のことしか話してくれない。
ねぇ、僕そろそろ居なくなっちゃうんだよ。
とか、言えたらよかったのに。
自分勝手な考えが過ぎり、やっぱり家に帰るべきじゃなかったと後悔した。
「......ありがとう」
先に行って、ドアの鍵を開けている霜の表情は読めない。
でも、いつもの無表情とは違う。
怒っているわけでもなく、疲れている時の無表情じゃなかった。
無言のまま家に入る。
先に口を開いたのは霜だった。
「荷物、俺が整理するから休んでて。後、夕飯にお寿司の出前取ったから楽しみにしてて」
霜のいつものような声にすごく安心して頷いた。
「......うん!」
黙って出て行こうとした自分が馬鹿馬鹿しい。
霜はこんなにも優しいのに。
少し冷たくされただけで悲しくなる自分が嫌になる。
やっぱり、霜の側にいる資格はないと痛感した。
「霜、話があるんだ。大事な話が。明日、聞いてくれる......?」
声は震えて、泣きそうになる。
霜はこっちを真っ直ぐ見つめている。
「......聞きたくないよ」
霜の声も震えていた。
「おねがい」
涙はとっくにに溢れていて、喉が痛かった。
霜は何も言わず、僕の涙を拭く。
「雪、もういいよ。本当に側にいてくれるだけで俺はそれだけでいいんだ」







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