運命なんて知らない[完結]

なかた

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聞けないお願い

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雪がまた発情期ヒートで意識を失ってから、担当の先生が来て安定剤を打ってもらった。
突発性ヒートが立て続けに来ているのは体に相当、負荷がかかる。
これ以上発情期ヒートが来るようなら長期入院をしないといけないそうだ。
安定剤を打たれ、死んだように眠る雪の細い腕には点滴のチューブが見える。
ストレスの原因について何か知っていることがないか聞かれた。
「雪と俺、双子じゃなかったんです。それを知った日に突発性ヒートになって」
中学の頃から俺達を知っている先生は驚いていた。
「他には分かる?」
「後は煙草ですかね。その日も煙草の匂いしてたし」
「ありがとう。雪くんのカウンセリングの記録を見てまた考えるね。霜くん、雪くん好きな人とか聞いたことある? 本能で好きな人を誘惑するために発情期ヒートになるって事例もあるから。一応聞きたくて」
「好きな人は分からないですけど、最近会っているαの人がいて...」
雪が誰かに恋してるなんて話したくなくて言葉に詰まる。
「そっか。ありがとう。霜くんがいると雪くん落ち着くみたいだし、このくらいで終わりにしようか。雪くんの側にいたいでしょ」
俺が言いたくないことに気づいたのか先生は気を遣ってくれた。
流石だな。先生には隠せてないみたいだ。
何年も見てれば分かるかもしれない。
本人は気づいてないけど。
雪のいる病室に戻ったら、看護師か先生が来ているようだった。
ドアが少し開いて人影が見える。
話声が聞こえてきた。
「雪さん。調子はどうですか?」
「だるいです...後、熱いかも」
雪、起きたんだ。良かった。
「後でまた安定剤をを打ちに来ます。その時に熱が下がらなかったら解熱剤も処方しますね」
「ありがとうございます」
「雪さん。今は体を休めることだけ考えてください。そうしたらいくらでもαを紹介します」
どういうこと?
αを紹介?
話が全く読めない。
「...なんでその話?」
「疲れているでしょう。休んでください。フェロモンが落ち着いてから話します」
「はい...」
「後でまた来ます」
この声、先輩?
でも先輩は脳神経外科だし。
そんなことを考えてたら、ドアが動いて先輩と目が合った。
やっぱり先輩だ。
「なんでここに先輩が...」
「しー...」
手を引っ張られ、少し離れた休憩所に連れてこられた。
「霜、来てたんだ。入れば良かったのに」
「入ろうと思ったら誰かいて、診察中だったら邪魔になるから待ってたんだけど」
「どこから聞いてた?」
「雪の具合聞いてるところから」
「最初からか」
「α、紹介するって。先輩、俺が雪のこと、」
「分かってる。でも、雪さんのヒートは」
「分かってないよ! 俺が1番、ずっと、側にいたのに。雪のこと...」
「雪さんは番が欲しいって思ってる」
「そんなの...」
「カウンセリングをした時、誰でもいいから番が欲しいって言っていた。その後に突発性ヒートになっていた。Ωは繊細で感情に健康が左右される」
「...本当にそうなの?」
「多分。番が欲しいと思うからヒートを起こして番を探してるんだ」
「なんで、いきなり、」
「聞いてみないと分からない。でも今、聞くと思い出してまた突発性ヒートになる可能性がある」
「先輩は脳神経外科じゃないの?」
これ以上知りたくなくて、話題を逸らす。
「雪さんのフェロモンに影響されない人が診察することになってるんだ。緊急搬送された時に、ほとんどの人がフェロモンに当てられて担当できる人が少ないんだよ。後、俺は2次性別の研究もしてるから」
「先輩、αじゃないですか。なんで当てられないんですか」
「研究中の薬品使ってるから。その代わり副作用が分かってない」
「先輩が当てられなくても、雪が先輩のフェロモンに当てられることは」
「フェロモンを完全に抑えてる。それに俺と雪さんは相性が良くないからね」
「先輩、本当に雪に紹介するんですか」
「嫌?」
「...いやです。先輩、お願いします」
先輩ならお願いを聞いてくれると思った。
けど、先輩は何も言わずに休憩所から去っていった。
番が欲しいなんて、知らなかった。
俺が絶対になれないのを望むなんて。
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