運命なんて知らない[完結]

なかた

文字の大きさ
上 下
24 / 53

言って欲しかった

しおりを挟む
霜と僕は双子じゃない。
そして、僕のお母さんはもういない。
だけど僕は母さんに愛されてた。
それを知れただけで良かった。
でも、まだ一つ分からないことがある。
「あの、まだ知りたいことがあって、何で霜には教えられないんですか?」
「教えても良いんだけど、私はあの子に会う資格がないと思ってるの。一度、手放してまた会いたいなんて我儘じゃない。それにあの子にはもう別の場所があるから」
「そんな、資格なんて......」
「あの子が会いたいなら別だけど。きっとそう思ってないでしょう。私の立場で言えることじゃないけどあの子のことよろしくね」
「はい!任せてください」
「ありがとう。長くなってごめんなさい」
「いえ、教えてくれてありがとうございます。じゃあ、三佳巳さんに連絡してきます」
「えぇ。いってらっしゃい」
電話が出来る場所に行って、終わったことを伝えた。
病院内のカフェにいたらしく、すぐに来るそうだ。
霜のお母さんのところで待ってよう。

「わっ!」
思いっきり、尻もちをついてしまった。
曲がり角で人にぶつかってしまった。
「すみません。大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ちゃんと前見てなくて」
「それは私も一緒です」
うわっ。αだ。匂いが少しする。お医者さんならαも多いか。しょうがない。薬飲んできて良かった。
「落としましたよ。これ」
「あっ、ありがとうございます」
尻もちをついた時に、ポケットから煙草が落ちたみたいだ。
あれ?この匂いどっかで嗅いだ気がする。
「体に悪いので程々にしてくださいね」
「はい。気をつけます」
あ、霜が持ってきたマフラーの匂いだ。
「あの、すみません。もしかして、鮎川 霜って知ってますか」
「え、あ。はい」
「僕、兄の雪です」
「何で分かったんですか?」
「霜がつけてたマフラーの匂いがして」
「さすがに鈍感なお兄さんでも気付きましたか?」
「鈍感って霜から聞いたんですか?」
「霜くん、お兄さんの話しかしないんですよ」
「そうなんだ。照れちゃうな」
「煙草、やっぱりお兄さんだったんですね」
「相談されたんですか」
「はい。煙草吸いたい時ってどんな時かとか」
「理由なんて無いですよ」
「煙草、やめないんですか?」
「そのうちですかね。なかなか禁煙できなくて」
「難しいですよね。俺も大変でした」
「吸ってたんですか?」
「はい。フェロモンを誤魔化すために吸ってたんですけど効果ないらしくて」
「そうなんですね。じゃあ、僕もやめなきゃ」
「俺ほどではないけど、雪さんもフェロモン強いですよね。高校で有名だったし。Ωでさえ抱きたい男だっけ?」
「それは、忘れてください。周りが勝手に言ってるだけですから」
「お互い大変だ。じゃあ、そろそろ仕事があるんで」
「一つ聞きたいことがあって」
「何ですか?」

「あなたと霜は運命の番ですか」

「...はい。でも、霜くんは番う気はないんですけど」

「やっぱり、そうなんですね。ごめんなさい。引き止めちゃって」

「いえ。じゃあ、これで」

運命の人がいたんだ。
教えて欲しかったけど、教えたくなかったのかな。
家に帰りにくいな。聞きたいけど聞けない。帰ったら気になって聞いてしまいそうだ。色んなことがごちゃごちゃだ。

「すみません。遅くなっちゃって」
30分くらい話してたみたいで病室にくるのが遅くなってしまった。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい。ありがとうございました」
「他に何かあればいつでも来てくださいね」
病院から出ると雨が降っていた。
「どうしようか。近くのコンビニで傘でも買う?」
「そうしましょう。寄りたいところあるんですけど付き合ってくれますか?」
「いいけど。この雨の中?」
「はい」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

処理中です...