運命なんて知らない[完結]

なかた

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言って欲しかった

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霜と僕は双子じゃない。
そして、僕のお母さんはもういない。
だけど僕は母さんに愛されてた。
それを知れただけで良かった。
でも、まだ一つ分からないことがある。
「あの、まだ知りたいことがあって、何で霜には教えられないんですか?」
「教えても良いんだけど、私はあの子に会う資格がないと思ってるの。一度、手放してまた会いたいなんて我儘じゃない。それにあの子にはもう別の場所があるから」
「そんな、資格なんて......」
「あの子が会いたいなら別だけど。きっとそう思ってないでしょう。私の立場で言えることじゃないけどあの子のことよろしくね」
「はい!任せてください」
「ありがとう。長くなってごめんなさい」
「いえ、教えてくれてありがとうございます。じゃあ、三佳巳さんに連絡してきます」
「えぇ。いってらっしゃい」
電話が出来る場所に行って、終わったことを伝えた。
病院内のカフェにいたらしく、すぐに来るそうだ。
霜のお母さんのところで待ってよう。

「わっ!」
思いっきり、尻もちをついてしまった。
曲がり角で人にぶつかってしまった。
「すみません。大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ちゃんと前見てなくて」
「それは私も一緒です」
うわっ。αだ。匂いが少しする。お医者さんならαも多いか。しょうがない。薬飲んできて良かった。
「落としましたよ。これ」
「あっ、ありがとうございます」
尻もちをついた時に、ポケットから煙草が落ちたみたいだ。
あれ?この匂いどっかで嗅いだ気がする。
「体に悪いので程々にしてくださいね」
「はい。気をつけます」
あ、霜が持ってきたマフラーの匂いだ。
「あの、すみません。もしかして、鮎川 霜って知ってますか」
「え、あ。はい」
「僕、兄の雪です」
「何で分かったんですか?」
「霜がつけてたマフラーの匂いがして」
「さすがに鈍感なお兄さんでも気付きましたか?」
「鈍感って霜から聞いたんですか?」
「霜くん、お兄さんの話しかしないんですよ」
「そうなんだ。照れちゃうな」
「煙草、やっぱりお兄さんだったんですね」
「相談されたんですか」
「はい。煙草吸いたい時ってどんな時かとか」
「理由なんて無いですよ」
「煙草、やめないんですか?」
「そのうちですかね。なかなか禁煙できなくて」
「難しいですよね。俺も大変でした」
「吸ってたんですか?」
「はい。フェロモンを誤魔化すために吸ってたんですけど効果ないらしくて」
「そうなんですね。じゃあ、僕もやめなきゃ」
「俺ほどではないけど、雪さんもフェロモン強いですよね。高校で有名だったし。Ωでさえ抱きたい男だっけ?」
「それは、忘れてください。周りが勝手に言ってるだけですから」
「お互い大変だ。じゃあ、そろそろ仕事があるんで」
「一つ聞きたいことがあって」
「何ですか?」

「あなたと霜は運命の番ですか」

「...はい。でも、霜くんは番う気はないんですけど」

「やっぱり、そうなんですね。ごめんなさい。引き止めちゃって」

「いえ。じゃあ、これで」

運命の人がいたんだ。
教えて欲しかったけど、教えたくなかったのかな。
家に帰りにくいな。聞きたいけど聞けない。帰ったら気になって聞いてしまいそうだ。色んなことがごちゃごちゃだ。

「すみません。遅くなっちゃって」
30分くらい話してたみたいで病室にくるのが遅くなってしまった。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい。ありがとうございました」
「他に何かあればいつでも来てくださいね」
病院から出ると雨が降っていた。
「どうしようか。近くのコンビニで傘でも買う?」
「そうしましょう。寄りたいところあるんですけど付き合ってくれますか?」
「いいけど。この雨の中?」
「はい」


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