運命なんて知らない[完結]

なかた

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悪い嘘

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「ただいまー」
「おかえりー、新しいマフラー買ったの?」
行く時は、マフラーなんてつけてなかったはずだ。
「貰った」
「うわぁ、匂いすごいんだけどもしかしてαから貰った?」
αに会ってきたってことは櫻田川さん?
でも、櫻田川さんとの匂いは違う。
「あ、やっぱり?」
すごい匂いだ。マフラーだけなのに強い。
多分、強いαだ。知らなかった霜の知り合いにαがいたんだ。
「ごめん。別の部屋に置いてくるね」
「ねえ、それいくらか知ってる?」
「くれるくらいだから安いと思うけど」
「3万だよ」
僕が好きなブランドだから分かる。
冬物のところに載ってた。
「え?マジか」
「付き合ってたりする?」
「ないよ」
流石に付き合ってたら、僕に言うよね。
でも、明らかにΩに分かるくらいマーキングされてる。向こうは絶対好きだと思う。
「誰か聞いてもいい?」
「高校の時の先輩。聞きたいことあって」
「僕、知ってる人?」
「噂なら知ってると思う。αでフェロモンがすごい強い先輩って分かる?」
「あー、強すぎるって有名だったよね」
「そう。その人、俺は匂いそんなに分からないから」
「強すぎてむせちゃう。匂いすら分からないんだよね。苦しいって感じ」
「やっぱり、俺、鼻詰まってるのかな」
「相性の問題じゃないの?」
「確かに。櫻田川とは違う匂いだし」
相性がいいのか悪いのか分からないけど霜は先輩の匂いを不快に思ってない。
霜が先輩を好きになったら、番になることもあるだろう。
「そういえば、雪って櫻田川どういう匂いに感じてる?」
「フローラルな石鹸みたいな」
嫌いではないけどおしゃれな匂いで好みではない。落ち着くような匂いが好みだから、おしゃれな匂いは抵抗がある。
「そういう感じなんだ。俺は全く匂いはするけど、いかにもαって感じで」
「そうなんだ。霜は先輩の匂いどういう風に感じてるの?」
「柔軟剤の匂い。ほんのり甘いやつ」
「じゃあ、いい匂いって思ってるんだ」
「そうとは言ってない」
自分で言ったこと忘れてる。
孤児院を離れた時二人暮らしするってなった時に言っていたのを僕は覚えてる。

『柔軟剤は甘い匂いがするのがいい』

霜は多分、先輩の匂いが好きなはずだ。
でも、高校時代に会ったって事は先輩の甘い匂いが好きだっていうのが先かな。
先輩の匂いが好きだから甘い匂いの柔軟剤がいいってことだったんだろうか。

「僕はいつも霜に話すけど、霜は話してくれないよね」

気づいたら、言葉が出ていた。
今まで言うつもりなんてなかった。
多分、今までずっと思っていたのが爆発した。霜から先輩のことなんて一度も聞いたことがなかった。

「雪だって話してくれないこといっぱいあるじゃん」

「そんなことない。だって話す人は霜しかいない。霜以外に相談なんてしなかった。霜以外、信用してなかった!」

「煙草は?」

「なんで、知ってるの?」

まさか、三佳巳さんが言った?
でも、いつ? 家に行った時とか? 
それとも、見られてた?

「気づいてないとでも思ってた? あんなに煙草の匂いさせてたら気づくよ。最初は煙草吸ってる人と会ってるのかと思ったのに、白衣に煙草入ってたし」

白衣に煙草? 霜に白衣借りた時に出し忘れたのかな。
最悪だ。バレてたなんて。

「それに俺には言わないくせに櫻田川には言ってさ」

「それは、霜にバレたくなかっただけで三佳巳さんはどうでもよかったからで」

「なんでバレたくなかったの?」

「だって、霜は煙草嫌いだから! 煙草吸ってるなんて言えなかった」

「別に吸ってても、良かったよ。雪、俺が煙草嫌いな理由考えたことある?」

煙草を吸ってる僕をどう思うのか想像できなかった。
なんて言うのかいつもは大体想像つくのに分からなくてなんて言われるのか怖くて言えなかった。

「分からないよ。考えても分からなかったから言えなかった」

「別に吸っててもいいから理由、教えてよ」

煙草を吸ったのは20歳。
理由はαの匂いを忘れたいから、別の匂いで上書きしたかった。何かされた訳じゃない。
ただ、αが怖かった。一度、学校で発情期ヒートが来てしまった。先生も霜もいたから大事にはならなかったけど、その時のαの目が匂いが全てが怖かった。それからずっと匂いに敏感になった。
ある日、道端で煙草を吸ってる人がいた。
煙草の匂いを初めて知った。この匂いなら自分の匂いも消せそうだと思ったし、αの匂いも忘れられると思った。今では考えたい時にも吸ってるけど。

「理由なんてないよ」

言ったら、霜の心配が増えるだけだ。
それに言うほどの理由でもない。

「本当に?」

「うん」

初めて、霜に嘘をついた。
きっと、嘘だとバレてるけど心配をされるくらいなら、嘘つきになった方がいい。
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