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変わらないよ
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雪は飲みすぎたあの日結局何も覚えておらず、ごめんなんか変なことした?って聞いきた。
いつも通りだと言ったら、よかったと言って特に気にしてないみたいだった。
ずるい人だなって思う。覚えていればいいのに。
今日は先輩と会う水曜日だ。
講義が終わったら、すぐに行けば間に合うかな。
電車に乗って歩いたら喫煙所がある。
いつもは大体、四時半くらいに会っていた。
待ち合わせなんてしてなかったけど、先輩はいつも来ていた。水曜日は雪が部活でいなかったから、一人でぴー太郎に会いに行ってた。
先輩は水曜日しかいなかった。
だから、会うのは水曜日の喫煙所の放課後って決まってた。
学校では一度だけ会った。
空き教室の窓から煙が薄く上がっていて、気になって行ってみた。
その日は金曜日で雪が発情期で学校休んでいて一人だった。雨が降りそうで空を見上げて、煙が見えた。
四階の教室に行くと先輩がいた。
「風紀委員会?」
先輩は明らかにイライラしながら聞いた。
先輩の怒ってる姿は初めてみてびっくりしたのを覚えてる。
「違います。たまたま気になって来ただけで」
「先生に言わないでくれる?」
「言いませんよ。だって言ったら退学じゃないですか。先輩、お医者さんになるんでしょ?」
「そう。だから言わないで秘密ね」
「煙草、体に悪いですよ」
「知ってる」
「俺がやめてって言ったらやめてくれる?」
「何それ。面倒くさい彼女みたい」
そう言いながら、先輩は結局、煙草の火を消した。
駅から喫煙所まで五分もかからない。
先輩はいつも俺より先に来ていた。
今日は昔より早いから、俺が先に着くはずだ。
この塀を曲がると喫煙所が見える。
久しぶりですごく懐かしい。
そう思いながら、日が落ちてきた方を見る。
懐かしい姿が喫煙所の前にいた。
「先輩、いつも何時に来てたんですか?」
「さあ?待ってる時間も楽しいからいいの」
「早く着いたなら連絡してくださいよ。待ってる時間より、俺といる時間が多いほうがいいでしょ」
先輩はいつも先に来ている。必ず先に来て俺が来る方を向いて待っている。
「霜、話したいことってなに?」
「先輩、まだ煙草吸ってますか?」
「霜がやめろって言ったのにそんなこと聞くの?」
「本当にやめたんですか?」
「やめたよ。体に悪いんでしょ」
意外だ。てっきり、あの場だけで続けるのかと思った。煙草って依存性あるし、絶対吸ってると思ったのに。
「じゃあ、煙草を吸ってた時はどういう時か教えてください」
「別に。何もないけど」
「そうですか。じゃあ、悩んでるときに吸いたくなりますか?」
雪はいつも悩んでる時に吸う。煙草のことはよく分からないから先輩に聞きたかった。
「最初はそうだったかな。でも、途中から匂い消すために吸ってた」
先輩はαだからか。高校の時すごく女子にも男子にも人気だったけど、彼女はいなかった。
授業が終わるとすぐ帰ってしまうらしく、クラスの女子が告白すら出来ないって怒ってた。
Ωの子は先輩の匂いは格別だって言っていた。
俺は全く分からないけど、鼻が詰まってるのだろうか。
「先輩、俺、鼻が詰まってるみたいなんですけど診察してくれませんか」
「俺は内科じゃないんだけど。それに鼻が詰まってるみたいな声じゃないから大丈夫」
詰まってなかったみたいだ。
先輩の匂いはずっと嗅ぐには不快らしい。Ωの子が言っていた。Ωには強すぎるって。βでちょうどいいぐらいらしい。先輩の匂いなんて分からないけど柔軟剤の匂いが少しするだけ。櫻田川は少しだけする。でも、好きな匂いではないしαの匂いって感じ。今度、雪はどんな匂いに感じてるのか聞いてみようかな。
「そっか。先輩、医者になれたんだ」
「うん。脳神経外科にいる」
脳神経外科か。よく知らないけど、きっと頭がいいんだろうな。医者だったら皆んないいと思うけど。
「忙しい?」
「そりゃあ。もちろん」
「今日も?」
「今日は仕事終わらせてきた」
「じゃあ、まだ話せる?」
「うん。どっか入る?近くにカフェあるよ」
「ううん。ここがいい」
「いいけど。風邪引く。なんでそんな薄着なの」
先輩がしていたマフラーを巻いてくれた。
今日はそんなに寒くないのに。
「先輩が寒くなるじゃん。やっぱりカフェ行く?」
「ここがいいんじゃないの?」
「先輩、忙しいのに風邪引いたらダメじゃん」
「心配するくらいなら、最初からあったかい格好して来いよ」
「今日は一日中暖かいって天気予報で言ってたから」
「寒いだろ」
「うん。ちょっと寒かった。今は大丈夫」
「それ、あげるよ。後、俺は医者だから風邪引かない」
医者だったら風邪引かないなんて無茶苦茶だな。
先輩らしいけど。
「先輩、やっぱりカフェ行きましょう。俺が奢ります」
「いいの?」
「先輩が風邪引くのはダメだから」
「分かった。じゃあ行こう」
「先輩はエスプレッソ飲めますか?」
「飲めない。エナジードリンクでカフェインは摂取出来るし。飲む必要がない」
「雪も同じこと言ってたな。わざわざ苦いものを飲む理由が分からないって」
「兄貴か、霜の兄貴に会ったことないのにどんどん詳しくなっていくんだけど」
「だって、俺、雪のこと大好きだから。一緒にいる人の話は必然的に増えるものでしょ?」
「そうだけど。それにしてもって感じ」
暖かいカフェに入り、今まで会えなかった分の話をした。時間はあっという間に過ぎた。
話す中で、先輩が変わったのが分かった。前も優しかったけど、余裕ができて大人びた感じになっていた。前は不器用な感じだったのに。
いつでも、結局、先輩は優しい。
「先輩ってさ、気づいてるから俺に優しいの?」
「気づいてるって言ったら今までと何か変わる?」
「変わらないよ。ずっと何もかも変わらないで今まで通りだよ」
いつも通りだと言ったら、よかったと言って特に気にしてないみたいだった。
ずるい人だなって思う。覚えていればいいのに。
今日は先輩と会う水曜日だ。
講義が終わったら、すぐに行けば間に合うかな。
電車に乗って歩いたら喫煙所がある。
いつもは大体、四時半くらいに会っていた。
待ち合わせなんてしてなかったけど、先輩はいつも来ていた。水曜日は雪が部活でいなかったから、一人でぴー太郎に会いに行ってた。
先輩は水曜日しかいなかった。
だから、会うのは水曜日の喫煙所の放課後って決まってた。
学校では一度だけ会った。
空き教室の窓から煙が薄く上がっていて、気になって行ってみた。
その日は金曜日で雪が発情期で学校休んでいて一人だった。雨が降りそうで空を見上げて、煙が見えた。
四階の教室に行くと先輩がいた。
「風紀委員会?」
先輩は明らかにイライラしながら聞いた。
先輩の怒ってる姿は初めてみてびっくりしたのを覚えてる。
「違います。たまたま気になって来ただけで」
「先生に言わないでくれる?」
「言いませんよ。だって言ったら退学じゃないですか。先輩、お医者さんになるんでしょ?」
「そう。だから言わないで秘密ね」
「煙草、体に悪いですよ」
「知ってる」
「俺がやめてって言ったらやめてくれる?」
「何それ。面倒くさい彼女みたい」
そう言いながら、先輩は結局、煙草の火を消した。
駅から喫煙所まで五分もかからない。
先輩はいつも俺より先に来ていた。
今日は昔より早いから、俺が先に着くはずだ。
この塀を曲がると喫煙所が見える。
久しぶりですごく懐かしい。
そう思いながら、日が落ちてきた方を見る。
懐かしい姿が喫煙所の前にいた。
「先輩、いつも何時に来てたんですか?」
「さあ?待ってる時間も楽しいからいいの」
「早く着いたなら連絡してくださいよ。待ってる時間より、俺といる時間が多いほうがいいでしょ」
先輩はいつも先に来ている。必ず先に来て俺が来る方を向いて待っている。
「霜、話したいことってなに?」
「先輩、まだ煙草吸ってますか?」
「霜がやめろって言ったのにそんなこと聞くの?」
「本当にやめたんですか?」
「やめたよ。体に悪いんでしょ」
意外だ。てっきり、あの場だけで続けるのかと思った。煙草って依存性あるし、絶対吸ってると思ったのに。
「じゃあ、煙草を吸ってた時はどういう時か教えてください」
「別に。何もないけど」
「そうですか。じゃあ、悩んでるときに吸いたくなりますか?」
雪はいつも悩んでる時に吸う。煙草のことはよく分からないから先輩に聞きたかった。
「最初はそうだったかな。でも、途中から匂い消すために吸ってた」
先輩はαだからか。高校の時すごく女子にも男子にも人気だったけど、彼女はいなかった。
授業が終わるとすぐ帰ってしまうらしく、クラスの女子が告白すら出来ないって怒ってた。
Ωの子は先輩の匂いは格別だって言っていた。
俺は全く分からないけど、鼻が詰まってるのだろうか。
「先輩、俺、鼻が詰まってるみたいなんですけど診察してくれませんか」
「俺は内科じゃないんだけど。それに鼻が詰まってるみたいな声じゃないから大丈夫」
詰まってなかったみたいだ。
先輩の匂いはずっと嗅ぐには不快らしい。Ωの子が言っていた。Ωには強すぎるって。βでちょうどいいぐらいらしい。先輩の匂いなんて分からないけど柔軟剤の匂いが少しするだけ。櫻田川は少しだけする。でも、好きな匂いではないしαの匂いって感じ。今度、雪はどんな匂いに感じてるのか聞いてみようかな。
「そっか。先輩、医者になれたんだ」
「うん。脳神経外科にいる」
脳神経外科か。よく知らないけど、きっと頭がいいんだろうな。医者だったら皆んないいと思うけど。
「忙しい?」
「そりゃあ。もちろん」
「今日も?」
「今日は仕事終わらせてきた」
「じゃあ、まだ話せる?」
「うん。どっか入る?近くにカフェあるよ」
「ううん。ここがいい」
「いいけど。風邪引く。なんでそんな薄着なの」
先輩がしていたマフラーを巻いてくれた。
今日はそんなに寒くないのに。
「先輩が寒くなるじゃん。やっぱりカフェ行く?」
「ここがいいんじゃないの?」
「先輩、忙しいのに風邪引いたらダメじゃん」
「心配するくらいなら、最初からあったかい格好して来いよ」
「今日は一日中暖かいって天気予報で言ってたから」
「寒いだろ」
「うん。ちょっと寒かった。今は大丈夫」
「それ、あげるよ。後、俺は医者だから風邪引かない」
医者だったら風邪引かないなんて無茶苦茶だな。
先輩らしいけど。
「先輩、やっぱりカフェ行きましょう。俺が奢ります」
「いいの?」
「先輩が風邪引くのはダメだから」
「分かった。じゃあ行こう」
「先輩はエスプレッソ飲めますか?」
「飲めない。エナジードリンクでカフェインは摂取出来るし。飲む必要がない」
「雪も同じこと言ってたな。わざわざ苦いものを飲む理由が分からないって」
「兄貴か、霜の兄貴に会ったことないのにどんどん詳しくなっていくんだけど」
「だって、俺、雪のこと大好きだから。一緒にいる人の話は必然的に増えるものでしょ?」
「そうだけど。それにしてもって感じ」
暖かいカフェに入り、今まで会えなかった分の話をした。時間はあっという間に過ぎた。
話す中で、先輩が変わったのが分かった。前も優しかったけど、余裕ができて大人びた感じになっていた。前は不器用な感じだったのに。
いつでも、結局、先輩は優しい。
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