運命なんて知らない[完結]

なかた

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雪のせいだよ

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今日はお見合いパーティーの前日、いつか着たスーツを引っ張り出して試しに着てみた。
髪の毛をセットしてないからか、学生に見える気がする。
「霜、どう思う?」
明日がお見合いなのにスーツも用意せずに霜は本を読んでいる。
「んー?」
本を読んでる時は、誰の声も届かないから、霜の気がすむまで待っている。
何の本か気になり、少し覗いてみると、それは僕が霜の誕生日にプレゼントした本だった。
事故に遭って記憶喪失になった友達の記憶を戻す話で、思い出すたびに事故が起きた理由や謎が増え、最終的には友達の心が壊れて主人公に依存する。
本屋さんのおすすめだったのであらすじも気にせずに買ってプレゼントしてしまったのだけど、誕生日にあげるような本ではなかったのは確かだ。
題名は、明日の夢。
霜は、最後の部分が好きらしい。
僕はどういう話なのか霜に聞いた程度だけど、霜のお気に入りなら僕も読んでみたい。
「待って、雪どうしたの?その格好」
もう読み終わったのだろうか、揶揄ってるような口調でいう。
「やっぱり?」
「高校生みたい。そっか、明日お見合いか。忘れてた」
「スーツ出しといたよ。あれでいいんだよね?」
「流石、雪。じゃあ、明日は髪の毛俺がセットしてあげるね」
「本当?じゃあ、前髪あげて」
「オールバック?」
「うん!それ」
「じゃあ、俺もお揃いにしよ」
「どっちがどっちか分かるかな」
「俺の方が少しだけ身長高いから、わかるよ」
「本当ちょっとじゃん」
霜の身長は僕より1センチだけ高い。
高校の時の身体測定で、保険の先生に
「弟くんの方が1センチ高いのね」
と言われ、霜の方が大きいのを初めて知った。僕は最初、自分も伸びて追いつくと思ったのに、追いつかず、そのまま止まってしまった。
霜は170ぴったりで僕は169、四捨五入すれば170だから、全然気にしてない。
本当に!



お見合いパーティー当日。
「雪、髪やるからこっちきて」
スーツを着て、後は髪の毛のセットだけだ。そう思うと時緊張してきた。
「雪、緊張してるでしょ」
「ちょっとね」
「やっぱり、髪の毛触んないでね。今、セットしたばっかだから」
「うん」
「霜は緊張しないの?」
「しないよ。雪がすごい緊張してるの見て、なんか冷静になった」
「それは、よかった?」
「そんな緊張しなくていいよ。あ、でもお酒飲むのはやめてね」
「うん。霜もね」
2人とも酒癖が悪く、僕は自分がしたことは覚えてないけど、霜が酔うと僕は大変な目に遭うので、お互い、飲まないように気をつけている。
酔った霜はやたらと僕を甘やかしたがる。
その上、全然寝ない。
布団に寝かしつけても、目がバキバキに開いてこっちを見てる。
もう、怖いくらいに。

「じゃあ、そろそろ、行こっか」
「うん」

電車に乗ってお見合い会場まで行く。
意外に近くてすぐに着いた。
煌びやかなライトアップ、綺麗な服を着た美人さん。
「すごいねぇ」
すごいとしか言いようがなく、そのまま
隣にいる霜に伝える。
「ふっ。確かにすごいけど」
「それしか出てこなかったんだもん」
「雪、離れないでね」
ライトアップに照らされてる霜は何だか様になっていて、いつもと違う感じがした。
「うん。霜も離れないでね」
約束をして、会場に入った。

美人さんや、明らかにお金持ちそうな人が
楽しそうに話してる。
「雪、あの人見て。テレビに出てた人じゃない?」
「本当だ!今、やってるドラマの人じゃん」
αとΩの恋愛ドラマでありきたりな話かと思っていたら、結構リアルで面白くて、人気のドラマだ。
「芸能人もいるなんてさすがだな」
「ね、なんか世界観が違う」
いつもの生活とはかけ離れていて、お金持ちってすごいなぁと思う。
周りに呆気取られていると、会場が騒がしくなってきた。
「なんかあったのかな?」
「次期社長が来たっぽい」
「あー。でも、隅にいればいいよね」
「見に行かないの?」
「なんか、住んでる世界が違いすぎて」
「そう」
お見合いパーティーにさえ、参加すれば資金のことは問題ないはずだし、隅で大人しくしてよう。
「雪、疲れてない?」
「うん。何時終わりだっけ?」
「今は6時だから、2時間後の8時だよ」
「暇だね。なんか食べる?」
「今日しか食べられなさそうなの食べよ」
「いいね。あれ食べてみたい。キャビアとかフォアグラとか」
「美味しいの?」
「分かんない!ただ、高そうじゃん」
「確かに、味は食べてからのお楽しみだな」
軽食があるほうに行き、お皿にキャビアがのったクラッカーを2つ取る。
霜はフォアグラのソテーを取った。
高い料理が揃ったところで2人で隅のほうによる。
「どっちから食べる?」
「クラッカーからいこう。ソテーが先だと味、分かんなくなりそうだから」
「了解」
霜は神妙な顔をしてる。
僕もきっと同じ顔をしてるだろう。
「いっせいのーで、でいこう」
「うん」
『いっせいのーで』
「食感はいくらを少し固くした感じ?」
「味はしょっぱい」
『美味しいのか美味しくないのか分からない』

「ははっ!綺麗に揃ったね。君たち双子?」

隅にいれば声なんてかけられないと思っていたのに。
「こんばんは。参加してくれてありがとう。櫻田川 三佳巳です」
「こんばんは。鮎川 霜です」
「こんばんは。霜の兄の雪です」
「キャビア、どうだった?」
「分かんないです。僕はあんまりって感じですかね」
「だよね。僕も美味しいとは思ったことないなぁ」
「意外ですね。普段から食べてそうなのに」
「普段は和食の方が多いかな」
こういうのはあれかもしれないけど、なんかめっちゃ普通の人だ。
αって感じの見た目だけど話しにくいわけではないし、気さくだ。
すごい意外だ。
「そうなんですね。僕も朝は和食が好きです」
「僕も、朝はお米だな」
「ですよね」
「あっ!これ、名刺よかったら」
「ありがとうございます」
名刺を渡すってことは、また会いましょうってこと?
「じゃあ、また今度」
ちゃんと2人分名刺を渡してどこかへ行ってしまった。
「霜、どうする?」
「どうしよもうないね。隠れる必要もなくなっちゃったし、もう帰る?」
「うん。そうする」
ご飯の会話だけなのに、どこに興味を持ったのだろう。
どちらにせよ、あまり気が進まない。
そそくさと、家に帰る準備をして、会場を後にする。
まさか、名刺をもらうなんて困ったな。
霜は不機嫌そうだ。
「霜?どうかした?」
「雪が可愛いから!こんなことになるんじゃん」
「は?何言ってんの?」
突拍子もなく怒る霜は何だか見覚えがある。
「もしかして、霜、お酒飲んだ?」
「うん。クラッカーに合うって書いてあったから飲んでみた」
「もー!何してんの?飲まない約束だったじゃん」
「気になって、お酒も高いのかなって」
「早く帰るよ」
「うん」
霜はやっぱり酔ってるようで、腕から離れない。
「歩きにくいよ。霜」
「寒いから、いいじゃん、兄さんでしょ」
「あー、もう、はいはい」
やっぱりお酒を飲んだ霜はタチが悪い。
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