運命なんて知らない[完結]

なかた

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願ってる

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 目が覚めたら、体がだるかった。
発情期は、まだ先のはずだけどなってしまったならしょうがない。
「霜、起きて」
だるい体を起こし、霜を軽く揺さぶる。
「うん、」
「発情期きちゃったから」
「うん、えっ?雪、まだのはずじゃない?」
焦ってように霜が飛び起きた。
「分かんないけど、だるいし、熱い」
「待ってて、抑制剤持ってくる。ゼリーなら食べられる?」
「うん、ありがとう」
僕は発情期がくると、身の回りのことがあまり出来ない。施設にいた時も先生が世話してくれていた。
「桃のゼリーでいい?薬はここに置いておくから」
桃のゼリーを少しずつ食べ、抑制剤を飲む。
「とりあえず、寝よっか。今、寝ないと多分、辛いだろうし」
「うん、」
発情期がいよいよ本番となると、体が疼いて寝れなくなってしまう。
「なんか欲しいのあったら言って」
「分かった」


熱い。苦しい。

欲しい。誰が欲しいかなんて、まだ分からないのに、体は欲しがる。

「雪、夕飯いる?」
「いらないかも、水と抑制剤だけ置いて欲しい」

兄弟だから、見られたくない。
自分が発情してる姿ところを見せたくない。そう思っているのに、発情期は寂しくなる。側にいて欲しいのに見られたくない。熱い、苦しい。

「雪、大丈夫?」
「出てって、見られたくない」
「分かってるよ。でも、薬とか置くのは許してね」
「ありがとう。ごめんね」
霜は僕を心配してくれてるのに、強く当たってしまった。
「霜、行かないで」
朦朧とする意識の中、霜の驚いた顔が霞む視界に映る。
「手、握って。側にいて」
「うん、うん。泣かないで、雪。熱上がっちゃう」
いつのまにか、涙が止まらなくなっていた。
「後は?何でもするから、言って」

「側にいて」

近くにいて欲しい。霜が感じれたら、今はそれでよかった。
「うん。ずっと側にいる」
熱くて苦しいのに、その言葉を聞いたら安心して僕はすぐに寝てしまった。

朝になると発情期も少し落ち着いて、冷静になれた。
隣には眠っている霜が、手をしっかり握っている。
昨日のことを思い出してしまった。
霜に我儘を言って、側にいてもらうなんて自分が頼んだとは思えなかった。
見られたくないって思っていたのに、発情期ってこわい。
「雪? 大丈夫?」
「うん。昨日はごめん」
「何が?」
「言わせないでよ。恥ずかしいから」
「雪が甘えるなんて久しぶりだったから、もっと甘えてよ」
「うん」
「珍しい、今日は素直だね。発情期だから?」
「甘えていいんでしょ」
「発情期じゃなくても、ずっと甘えていいのに」
「ふーん」

 発情期はだんだん落ち着き、1週間後には終わった。
お見合いが近づいて来ていた。
「霜、お見合いの詳細について届いてるよ」
読んでみるとお見合いはパーティー形式で行われるらしい。
次期社長に名刺をもらうと、また会いたいってことらしい。
そう言う感じなら目立たなければいいだけだ。影を薄く、隅っこで立ってればきっと気づかれないはずだ、と近づくお見合いパーティーに備えて計画を立てた。
もし、社長が運命の番だったら、そんなことを少し考えたけど、やっぱり違う感じがしてお見合いパーティの案内を霜に渡す。
「へー。こういう感じなんだ」
「ね、でも全然想像できない」
「じゃあ、大丈夫かな」
「うん? 多分」
何が大丈夫なのか分からないけど、お見合いへの不安はもう、なかった。
社長に僕が選ばれることはきっとないだろうから、安心だ。
僕は分からないけど、霜が選ばれてしまったら、今みたいな生活が終わってしまう。
それは寂しいと思った。
社長が僕たちに気づかなければいい。
お願いだから、もう少しは霜といさせてください。
僕はまだ、弟離れ出来ずにいる。
弟離れは霜が恋人を連れてきたらにしよう。
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