運命なんて知らない

なかた

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分かってないよ

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もう、辺りはすっかり暗くなり寒くなった。冷たい風が吹き抜けるなか2人で帰る。
「ひゃぁっ!?」
首に冷んやりしたものが触れた。
「霜!何すんの!」
「仕返し」
「何に対する?」
冷たい霜の手を温めるように握る。
「俺がさ、雪に泣かれたら何でも許しちゃうの分かってるでしょ。だから、ずるい手使った仕返し」
「霜だってずるいことしたのに」
「あぁ、兄さん呼びのこと?」
「分かっててやったんだ?」
「うん」
握った手が少しずつ暖かくなってきた。
「兄さんって呼ぶなら僕のこと頼ってよ」
「いつも、助けてくれるじゃん」
そういうことじゃないんだ。
「分かってないなぁ」
分かるわけないか、迷惑かけたくないとかそんなのずっと一緒にいるんだから気にしなくていいのに。
気づいてあげられなかった時も
頼ってもらえなかった時の僕の気持ちなんて霜が分かるわけないもんね。
「何が?」
「ううん。何でもないよ」



雪だって分かってない。
側にいてくれるだけで良いのに。
雪の言葉で仕草で、優しさで俺がどれほど救われてるか、その言葉で仕草の一つでどれだけ悩ませているのか。
分かってないよ。
きっと、ずっと、変わらないまま、俺を悩ませてくれるんだ。

「霜、今日は鍋でいい?」
「うん。みぞれ鍋がいい」
「了解!」
笑顔で答える雪の鼻が寒さで赤くなっていた。雪のマフラーを少し上げる。
「早く、帰ろ」
「うん!」



夕飯を食べ、お風呂にも入って、後は寝るだけだ。
「霜、髪乾かしたー?」
「まだ、やってくれるの?」
「しょうがないな」
霜は嬉しそうに僕の前に座る。
「あったかいのと冷たいのどっちがいい?」
「あったかいのがいい」
霜の髪を乾かすのなんて、小学生以来だ。
昔はよく乾かしあいっこしてたな。
今日は本当に色々あった。
言い合いなんて久しぶりだったし、泣くのも、髪を乾かすのも、まるで、昔に戻ったようだ。
「熱くない?」
「うん。大丈夫」
湿っていた髪がだんだん柔らかくなって猫の毛みたいにふわふわになってきた。
「乾いた?」
「うん。櫛で解かさないと」
ゆっくりと櫛を動かして絡まないようにする。
ふわふわの髪がだんだんいつものようにまとまっていく。
「雪、今日は一緒に寝ようよ」
「なんか、昔に戻ったみたいだね」
狭いアパートではベッドは場所を取ってしまうから、僕たちは布団を使っている。
いつもは霜が一つしかない部屋で寝ていた僕はリビングで寝ている。
「じゃあ、霜のところに布団持ってくね」
「分かった。手伝うよ」
「ありがとう」
霜は布団を足早に持って行く。枕だけを持った僕はゆっくりと付いてく。
重い方を当たり前のように持ってくれる。
優しいなぁ。
部屋に着くと霜はもう布団を引いていた。
僕も急いで枕を置いて寝る準備をする。
「電気、消すよ」
「小さいのはつけといてね」
真っ暗すぎるのは苦手だ。
「うん」

「雪、お見合い本当についてくるの?」
「うん。絶対、ついて行くから!」
「ふーん。分かった。じゃあ、絶対、俺から離れないでね。雪はフェロモン強いし、何があるか分かんないから、俺が助けられるところにいてね」
「分かった。抑制剤もこまめに飲むね」
「うん」
「でも、霜に何かあったら、僕が絶対助ける!だから、霜も離れないでね」
「俺が雪から離れるなんて殆どないけどね」
「霜、もし、運命の番がいたらどうする?」
「どうもしないよ」
「えー、何でさ」
「運命より好きな人がいいから」
「好きな子いるの?」
「いないよ。雪は運命に会ったらどうするの?」
「まずは、霜に話す。それからよく考えて、相手のこといっぱい知って、それで好きになったら、付き合って、一生、側にいていいと思えてから番う」
「そもそも、運命の番なんているの?」
「いて欲しいとは思うけど、どうなんだろう?」
「雪はロマンチストだな」
「霜は?」
「居ても、居なくてもいい」
「どっちでもいいの?」
「そう」
今日は色んなことがあったから、まぶたがすごく重い。
「雪、眠い?」
「うん、もう、寝そう」
「そっか、おやすみ」
「おやすみ」
少し腫れたまぶたを閉じて、眠りについた。






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