運命なんて知らない[完結]

なかた

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もう知ってるけど

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運命の番に会うことも、本当に好きになる人にも出逢えないまま大学に入学した。
相変わらず、霜とはずっと一緒だ。
大学生にもなると施設を出て行かないと行けなかった。
抑制剤のこともあり、お金がなかった僕達は当たり前のように2人暮らしを始めた。
「霜!朝ごはんー、起きて!」
「おきてるよ」
「もう、バイトはいいの!?」
「っ!起きた!ありがとう」
大学は奨学金でなんとかなっているけど、生活費がキツい。自炊を頑張ったり、深夜までレポートを2人でやったりした。2年間くらいは慣れない大学生活でレポートに追われてたりバイトをしたりとずっと忙しかった。それでも大学生になって自由に出来る時間も増え、生活を楽しんでいた。

そんなある日、孤児院から手紙が届いた。
簡単に言うとお見合いしないかという内容だった。
孤児院には資金援助をしてくれてる大企業がいた。
その大企業の次期社長が番を探してるそうだ。
「霜はどうする?会ってみたい?」
「別に。あんまり興味ないかも。雪は?」
「会ってみたいかも。でも、ちょっと怖い」
今までαにあったことはない。
有能なαに出会うとΩはαに当てられ、発情期でなくても、発情してしまうなど色々な話がある。
好きでもない人に、一時的な感情で体を許してしまいそうで怖かった。

「じゃあ、行かないで」

「え?」
驚いた。霜はこういう時、いつも興味なさそうに返事するだけだったから。
「俺が口出せる立場じゃないけどさ」
開いた窓から差し込む夕暮れに染まる目が、揺れるカーテンから見える霜の表情があまりにも淋しそうで目が離せなかった。

「行かないよ」

気づいたら、そう言っていた。
霜は口角を少し上げて、頷いた。

涼しい日が増えた頃、僕たちは生活が落ち着いてきたので顔を出すついでとお見合いの件について孤児院に行くことにした。
孤児院に行くと嬉しそうに先生が出迎えてくれた。
良い暮らしはしてないが、楽しく過ごしてるということから霜の寝起きの悪さは変わってないなどのくだらない話もたくさんした。霜は僕が文句を言うと、すかさず僕の文句を言ってそしてお互い睨み合う。
そんな僕たちを見て先生は昔と変わらず微笑んでいた。
話がひと段落した時に、お見合いの話を切り出した。
お見合いと言っただけで先生は顔を曇らせた。
「なんかあったの?」
「それが、お見合いしてくれるΩを施設から数人出さないと資金援助を打ち切るって言ってて」
αの次期社長は一般人とお見合いなんてするのだろうか?
普通、婚約者がいたりすると思うんだけどαの次期社長ってなったら引くて数多だろうし、怪しい。
「強制はしないけど、行きたい子はいないか探してたの」
行かないって霜に約束してしまった手前、自分から行くとは言えない。
「俺が行くよ」
先生も僕も、霜が行くとは思わず、沈黙してしまった。
「先生ちょっと2人で話してもいい?」
霜の手を取り返事も聞かずに出て行く。
僕たちが使ってた部屋へと急ぐ。
部屋は荷物こそないがあの時のままだった。
扉を閉め、懐かしさを振り払う。
「霜、興味ないって言ってなかったっけ?」
頭の中を整理しながら、前に言っていたことを思い出す。
「行かないとは言ってないけど?」
揚げ足を取られた気分で霜に突っかかってしまう。
「人には行かないでって言うのに自分は行くんだ。本当は自分が行きたかっただけなんじゃないの?」
そんな訳あるはずがないのに、霜が引き止める理由がそれしか思いつかない。
「雪は分かってるでしょ?そんなはずないって」
「霜が行きたくないのは分かる。でも、それ以外全部分からない」
「俺だって雪のこといつでも分かるわけじゃないよ」
「理由を教えてよ。そうやって、はぐらかさないで」
「別に。理由なんてないけど」
そう言いながら髪の毛を捻っている。
嘘つき。髪を捻る癖。それだけで嘘って分る。でも今は嘘だと分かりたくなかった。
「じゃあ、僕も行くから。お見合い!」

「兄さんは行かないって約束でしょ?」

ずるい。ずるすぎるよ。
やっぱり霜は僕のことをよく分かってる。
Ωだと分かったあの日から、兄さんと呼ばれたらなんでも聞いてあげたくなるのをお前の淋しそうな表情に僕が酷く弱いのも全然知ってるんだ。

「そんな顔しないで兄さん。絶対に帰ってくるから」


「やだよ。霜、僕も一緒に行かせて」

本当は分かってた。分かりたくなかっただけで、霜が資金援助のために行こうとしたのにも気づいてた。
鈍感なふりをした。
資金のことなんて霜が気にする必要ないのに。
霜は優しすぎる。
「自分が行きたかっただけなんじゃないの?」
って言ったのも
「そんなこと無いし。そんな風に言われるなら行かない」
って返してくれると思ってた。
霜の言うことは大体想像できたから。

「おねがい。霜、僕も連れてってよ」

泣くつもりはなかったのに、霜があまりにも優しくて、その優しさで胸が痛くて涙が溢れる。
僕を頼ってよ。お兄ちゃんなんだから。
霜が僕を守ろうとするたび、僕も同じくらい霜を守りたいって思うのに、霜はいつも1人で守ろうとする。

「おねがい」

涙を止めようと思ってるのに、止まらない。
霜が涙を拭うけど、それでも溢れる涙に嫌気がさす。
でもね霜、僕も知ってるんだ。
霜が僕の涙に弱いこと。
これじゃあ、僕もずるいじゃないか。

「分かったよ。雪、一緒に行こう」






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