TSしちゃった!

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TSしちゃった!

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「おいおい…これってまさか」

 朝起きて違和感を感じた。いつもよりなんだか、声が甲高い。まるで女性のような声だった。

 顔を洗うために洗面台の鏡を見ると、そこにいたのは銀髪の美少女だった。

「これが、よく創作とかに出てくるTSってやつなのか?…いや、まだ大事なことを確認していない」

 そう呟いて俺はパジャマのズボンをめくり下着をめくる。
 そして、男ならば誰しもが必ずあるはずのものがそこには存在していなかった。

「マジか。俺は本当に女になってしまったのか…」
  
 そして、俺は男であれば絶対に存在しない柔らかい膨らみのある胸を触った。

「…柔らかい。なんだこの感覚は天国かここは?」

「何してるの一輝いつき早く起きなさい!ご飯できてるわよー」

 母さんの声がする。極上の幸せから一気に現実に引き戻された。そう、俺は今女の子なのだ。いま行くべきなのだろうか。いまここにいるのは、男の頃の面影は微妙にあるもののほとんど別人となっている。
 宇佐美一輝という男ではなく女なのだ。
 両親が受け入れてくれるか不安だった。

「母さんどうしよう…女になっちゃった」

 とりあえず俺はありのままに自分のことを伝えることにした。

 母さんは寝ぼけたこと言ってないではやくご飯を食べなさいという呆れた表情をしてこちらをみた。

 そして、一度手元に目を移すが驚愕した表情に変わった。

「本当に一輝…なの?」

 声が震えていた。同時に皿が割れる音がリビングに鳴り響いた。父さんは出張でいないため心配して様子を見にくることはなかった。

「俺は俺。宇佐美一輝という存在以外の何者でもない」

「そのくどい言い回しは確かに一輝ね。でもどうしてこんなことに?」

「朝起きたらこうなってた。原因も不明。わからないことだらけだ」

 母さんは少し考えるといった。

「とりあえずご飯食べようか。考えるのはそれかりにしましょう」

 母さんのいうことに同意した。諺ことわざで『腹が減っては戦はできぬ』という言葉がある。それだけご飯の重要性を強調する言葉だ。

『それだは次のニュースをお伝えします』

 テレビからは普段の何も変わらないニュースが報道されている。
 しかし、俺が味噌汁を口に含んだ時にそのニュースは始まった。

『本日未明から10代の男女が突然性転換するという謎の現象が発生しました。確認されてるだけでも患者は203人でもし発症している場合はすぐにその地域で一番大きな病院を受診するように厚生労働省と国立高度専門医療研究センターは呼びかけています。なお、この件について海外でも同様のケースが確認されており世界各国の医療機関での連携が進められています。
 政府も事態を重く受け止め厚生労働省に専門チームを発足させ法整備などについて速やかに協議させると発表がありました』

 アナアンサーがそう言うと画面が突然切り替わってよくテレビで出てくる政府の会見場が写し出された。

『えーただ今から突発性性転換症候群に関する記者会見を行いたいと思います』

 そう言って出てきたのは官房長官だった。ここまで政府も速やかに動いていると言うことは本当に重い事態なのだ。

『おはようございます。さて、本日は先程もありましたように突発性性転換症候群について政府としていくつか申し上げたいと思いかのような場を設けた次第であります。
 このような事例は世界各国でも突発的に発生しており原因解明のために各国との連携を強めているところであります。
 また、戸籍などについても、このような場合は特殊ですので、今日にも法案を国会で採血する予定であります。
 その原案がこちらです』

 官房長官の言葉とともに、数枚の資料が記者たちに配られた。

『ここにあります通り、戸籍に関しては医療機関の正式な診断書が提示された場合は裁判所の手続きなしで性別を変更することができます。また、またの性別に戻ることができた場合についても診断書が提出されれば戸籍を戻すことも可能になります。
 ここからは政府としての措置ということになります。今回は事態が特殊であるため必要に応じてカウンセリングなども設けていきたいと思っております。
 こちらも早ければ一週間以内に実現させたいと考えております。
 そして、急に性別が変わってしまったと言うことですので色々と費用もかかりますので患者さんには一律10万円を補助金として支給したいと思います。こちらも今日国会で審議予定の法律に記載されていますので法律が施行され次第速やかに配布させていただきます。 
 財源などについては政府の予備費を使うものといたします。以上で記者会見を終了とします。質問に関しては申し訳ありませんが、明日ということでお願いします』 

「なんかすごいことになっているのね」

 母さんは開いた口が塞がらないようだった。

「ご飯食べたら病院行こうか」

「そ、そうね…」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 病院で俺はいろんな検査をされた。そして、診察室で俺と母さんは病院の先生から診察結果を聞いていた。

  「で、どうなんでしょう?やはり一輝は完全に女の体になっているんでしょうか?」

 母さんは聞いた。
 それに病院の先生は淡々と答えた。

「はい、宇佐美さんの体は生物学上は完全に女性のそれになっています。もう、報道は見られていると思いますが念のため説明をして起きます。
 これに関しては原因も不明です。しかし、こうして女性になってしまった以上は戸籍は変更する必要があります。役所にも連絡を入れて起きますのでこちらの診察書をもっていってください。それとこの近くの市民センターでカウンセリングは行うことができますので、よろしかったらどうぞ」

 そう言って先生は厳重に封がなされた診断書の入った封筒とカウンセリングの案内を俺に渡した。

 母さんと俺は頭を下げ診察室を後にした。そして、その足で役所に行って戸籍の性別を変更してきた。特に何も起こらず淡々と進んだ。

 そして、それが終わると母さんが受けて起きなさいと言ったカウンセリングに行った。

「さて、君が宇佐美一輝君…いやさんかな?はじめまして。私はカウンセラーの中里美希です。よろしくね」

 カウンセラーの人は若い女性だった。優しそうな雰囲気の人。

「中里さん。俺これからどうしたらいいと思います?」

 一番気になっていたことを聞いた。

「そうね、今のまま心は男として元の性別に戻るのを待つか…それとも、女として、生きていくかのどちらかかな。
 だけどどちらにしても今、女である以上はある程度女性としてのことは身につけておいてほしいな。それも含めてのカウンセリングなのよ」

「そうですか…俺が女に…そうなったしてもなんか考えられない」

「そんなものよ。えっととりあえず今不安なこととかない?まずはそこから聞いていこうかな」

「えっと後もう一つ不安というか聞きたいことがあります」

「なに?遠慮はしなくていいわよ」
  
 中里さんは優しく俺を見つめる。こんなに女の人にまじまじと見つめられたのは初めてだ。

「下着とか、生理のこととか…」

「そうね。女になってしまった以上は逃れることはできないわね。
 でも、だからこそそういったことに対して、きちんとした知識を持つことも大切なのよ。下着に関しては…付け方かしらね。サイズについては測ればいいから…あとは生理か。
 えっと君はそもそも生理とはなんのためにあるか知ってる?」

 その知識関しては俺も知っていた。保健の教科書とかにもなっていることだし何より知らないとしたら常識はずれもいいところだ。

「えっと、ようは赤ちゃんを作るために起こる現象ですよね?」

「ま、ざっくりいうとそうなるわね。症状だけ言っておくね。第一に体が妙に重くるしい。風邪をひいたようになる。お腹が痛い等様々。あとこれ大切なんだけど血が出るわ。下から」

「はい、一応それも知ってます」

「よかった。そこら辺は親御さんにきちんと聞いておいてください。取り敢えず今日はあんまり遅くなっても買い物とかに支障が出るだろうから、この辺にしておきましょうか」

「ありがとうございました」

 俺は頭を下げて市民センターを後にして、その前迎えにきてくれた母さんとともに下着など必要なものを買いに行った。

「それじゃ測りますね。お客さんいい体つきしてますねー」

 もし男が言ったら確実に変態扱いされる発言だが、女性同士ということで特に問題もないのだろう。
 実際俺のバストは結構いいものだった。
 89だ。結構大きい。カップにするとCカップ。個人的には俺の理想のサイズだった。
 そして、下着を着々と購入。服も身長が少し低くなっていたので購入した。

 月曜日からある学校はどうするのかと疑問に思い母さんに聞いた。 

「そういえば母さん学校はどうするんだ?」

「連絡はしたわよ。制服については用意してほしいと言われたけど、最大限できる範囲でのサポートはしていくと言っていたからあまり心配する必要はないと思うけど」

 母さんも不安そうではあった。当然だと思う。休み前まで男だった奴が突然女になっているんだ。いじめの対象とかにされても不思議はない。 
 俺自身はそんな辺なことしている人間ではないから大丈夫と信じたいけど。

 家に戻りその日は夕食を食べて風呂に入った。風呂は少し難関だ。髪をしっかりとしておかないといけない。俺は、普段から髪の毛に対しては強いこだわりを持っているのでそこまで髪の処理に困ることはない。ただ性感帯的なところに触れてしまうと、男よりも敏感なのか、結構辛い。力加減とかもわからない。
 悪戦苦闘しながらなんとか風呂を入りきると、体力も減少していたからかすぐに寝てしまった。

 翌朝、おきたのはいつもと同じ6時半だった。いつものように朝ごはんを食べて、歯磨きして、顔を洗った。その時鏡に映る銀髪の少女が自分だとはまだ、信じることができない。

 俺はこの日は土曜日だったしこのことを友達にも相談したいと思ったので、ある一人の親友に相談することにした。
 そいつなら、何か相談に乗ってくれるかもしれない。俺が辛い時支えてくれて、あいつが辛い時は俺が支えようとした。
 その唯一無二の親友である川本達成かわもとたつのりにメールで俺の家に来てほしい。相談してほしいことがあると言って来てもらうことにした。

「お邪魔しまーす。おーい一輝きたぞ。なんだよ相談って?誰?一輝に姉さんなんかいたってな」

 予想通りの反応に笑うしかなかった。

「いや、俺が宇佐美一輝だよ。これを言えばわかるだろう。俺が相談したいことってのもさ」

「はっ?えっ?ちょっとタイム。お前は男、そうだな?」

「そのはずだった」

「でも、今は女なんだな?」

「原因はー」

「あれか。ニュースでやってた突発性転換症候群」

 俺が説明する前に達成は答えに行き着いていた。

「で、相談は多分女として生きて行くかそれともこのままであるべきかってところか?」

「正解。それにしてもよくわかるな」

「何年の付き合いだと思ってるんだよ」

 達成は嬉しそうに言った。

「さて、取り敢えずこんなところでもなんだし、俺の部屋に行こうか」

 そうして、俺と達成の相談タイムが始まった。
  
「お前自身はどうなんだ?どっちがいいと思っているんだ一輝は?」

「俺自身はわからない。本当にこればかりはわからない。そもそも昨日の今日で俺自身が女って感覚も薄いんだよ」

「そうか、それもそうだよな。でも、これはいつかは決めなくちゃいけないことだとは思うけどな」

「だから、相談に乗って欲しかったんだよ。
 最も信頼のできる相手で一家族以外では最も俺のことを知っている達成にね」

「そうか…俺的にはどちらでもいいとは思う。でも、もしもしもだけど性別が戻らないのならその時は女として生きていくべきだと思う。そうじゃないと心と体の不一致に苛まれる事になるだろうからな。逆にもし、もどることができるのなら、その時には、このままの方がいいと思う。流石に事情を知らない人の前では一人称くらいはなんとかした方がいいと思うけどな。俺はやめとけ。せめて、僕だな。私は別に使いたくなけりゃ使わなければいい。
 俺から言えるのはそんなところだな」

「一人称…か。そうだな。流石にまずいか公のところで俺とか言ってちゃ」

「そう言えばお前学校ではどうするんだ?」

 達成はそう言えば思い出したという軽いノリで聞いてきた。

「んー取り敢えず体はこんな感じだから、制服は女子になるみたいだ。あと、サポートはちゃんとしてくれるらしいからそこまで心配はしていない。問題は、俺をみんなが受け入れてなれるかどうかだな」

「そればそうだよな。昨日まで男だった奴が突然女になりました。だから、よろしくって言ってもなかなか難しいよな…」

「だよな…」

 俺たちの間に沈黙が少し続いた。話すことがなかったのではなくそれだけ重いことを扱っていたため軽く言えない状況になっていたのだ。

 沈黙を破ったのは意外にも母さんだった。

「あら、二人とも黙り込んじゃっていつもみたいにもっとはしゃいでくれて構わないのよ。その方が母さんも安心よ。
 それから達成くん一輝のことよろしくね。あと、これ二人で食べてほしくて作ったんだけどいるかしら?」

 母さんが提示したのはクッキー母さんの作るクッキーは絶品だ。貰わないわけがない。達成もそれについては同意見だ。
 幼い頃から双方の家でたくさん遊んだ間柄。何があるかどんな感じかくらい簡単にわかってしまうのだ。

「「いただきます」」

「やっぱり一輝の母さんの作るクッキーは絶品だな。幸せだー」

 美味しいクッキーに湿っぽかった空気は一変し甘い空気がただやっていた。さらに、達成の腑抜けた顔を拝むことができた。

「なんだよ。俺の顔になんかついてるのか?」

 相変わらず察しのいい奴だ。そのおかげで俺も無駄な説明をせずに済んだのだが。

「いや、あんまりにも美味しそうにクッキーを食べるもんだからつい笑ってしまったよ」
  
「そうか。ま、いいやだって美味しいからしょうがない。以上!終わり!」

「何が終わりかはよくわからないけどそういうことにしといてやる」

「さてと話を戻そうか。お前が学校で受け入れてもらえるかだが。あんまり心配もいらないかもしれない」 

「どういうことだ?」

 何が何だか分からず達成に身を乗り出して聞くと、達成は顔を赤くしてしまった。

「お前、羨ましいよ。男でもイケメン。女では美少女ってな」

 少し、呆れ混じりのため息をつきながら言った。達成はもしかしたら、遠回しに俺のことを可愛いと言ったのかもしれない。そう思うと、なんだか嬉しかった。
 人に何か褒められて悪く感じる人はそうはいない。
 達成は、コホンと咳払いをすると、話を戻した。

「お前の人間性を使うんだよ。使うというかそれのおかげで多分大丈夫だ。もっと詳しく言うとお前を嫌いな奴なんて殆どいないんだよ。それは一輝自身の人徳によるものだ。だから、多分大丈夫だと思う。
 それに…もし何かあったら俺が守ってやる」

「ありがとう」

 この一言しか返すことはできなかった。

「親友だしな。俺たちはお互いに助けられた。常に。今回も何も変わらない。何か困ったことがあったら何も言わなくても手を差し伸べるそれが俺たちの今までもこれからも続いていく関係じゃないか」

「そうだな。なんだか吹っ切れた気がするよ」

 俺はただ達成の背中を見ることしかできなかった。
 その大きな背中は、全てを背負ってくれそうだった。

「で、一人称流石に俺はやめとけよ」

「おっおう。唐突だな」

「唐突ってきてすぐにも言っただろう」

 達成はやれやれと首を振りながら言った。少し俺はいたずらを思いついた。 

「分かった。それじゃ一応公では僕を使うことにしようかな。それと、これは相談に乗ってくれたことのサービスだ。女になった以上女っぽいことをするぞ」

「な、何をする気だ?」

 その達成の言葉を無視して、達成に近づいた。そして、体が密着して、顔と顔が15センチくらいになったところで一言。

「今日は私の為に相談に乗ってくれてありがとうね。これからもよ、ろ、し、く」

 そう言って微笑んだ。

「なんという攻撃力」

 達成の声が聞こえてくる。その顔はすごいものを見てしまったという顔だ。

「さて、俺からのサービスは以上だ。満足してくれたか?もし男に戻れたらなどとすることはできないししたとしたらそれは黒歴史になってしまうだろうな」

「感謝感激幸福」

「なんじゃそりゃ」

 言葉を羅列した達成はきっと興奮しているのだろうと、思いながらもいたずら成功と俺は喜んでいた。

 翌日学校に行く日になった。
  
 朝届いた制服を着た。一応母さんの手助けもあり切ることに対してはそこまで苦労はしなかった。

 教室に行く前に職員室に寄った。職員室で先生としっかりと話をした。その上で朝の連絡の時間で教室に入って事情を説明しようということになった。不安で押しつぶされそうになっていた。

「さて、連絡も以上だが、一つみんなに知らせておかなくちゃならんことがある。少し驚くかもしれないが受け入れてほしい。おい、宇佐美いいぞ」

 そう言われて一歩一歩踏み出して、教室に入った。教室に入った瞬間に誰コイツ?という目で見られた。その視線が体に突き刺さる針のようでなんだか痛い。しかし、達成は多分大丈夫だろうと言った。
 なら、することは一つ。

「えーっとこんな感じになってますけど宇佐美一輝です。なんでこうなってるかっていうと、ニュースで見た人もいるかもしれないけど突発性性転換症候群になりました。 
 なので完全に男から女の体になっています。いきなり受け入れろって言われても難しいのはわかってる、わかってるけど受け入れてほしい。そして、もしまた元に戻ることができたらその時はもう一度宇佐美一輝を迎え入れてほしい」 

「まぁ、そんなわけだ。一番困惑しているのは本人だからあまり刺激しないように注意してくれ」

 先生はそう言って朝活を終えて職員室に戻って言った。
 一限目の間俺は、みんなに囲まれていた。

「そうか、一輝が女になっちまったのか。そんなこともあるさ!」

 なんだか、クラス1イケメンで変態というタチの悪い奴が白い歯を輝かせて笑顔を向けた。そのいろんな意味で眩しい笑顔を目をとじそうになってしまった。

 その後も質問ぜめにはされたが、特に受け入れられないということもなくいつもと同じように宇佐美一輝として接してくれていた。本当にありがたいことだった。
 もし受け入れてくれなかったらと考えていたことが杞憂だと感じてしまうくらいに。

 しかし、自分は本当にこれでいいのかと感じてしまった。
 そう、まだ肝心の問題は解決はしていなかった。このまま現状維持なのかそれとも女として生きて行くのかその選択はいつかはしなくちゃいけない。今はまだ決めなくてもいつかは…。

 そもそも俺は本当に元の性別に戻るのか?戻るのならいい。でも、戻らなかった時はどうするる?
 いや、考えても仕方ない。絶対に元に戻る。信じたい…いや、医学の力を信じよう。

 そんな悩み方をしてから一週間が経った。結論はまだ、出ていない。出るわけもない。
 情報も特になかった。
 昼休みにぼーっとしていると達成が俺に声をかけてきた。

「おい一輝なんか突発性性転換症候群について記者会見があるらしいぞ。お前も見るか?」

「見る」

 短い返事をして、達成のある方に歩いた。
 何が発表されるのかわからないがいいことなのかもしれないと俺は感じていた。

 達成はそう言って俺と数人の男子を集めてスマホで記者会見を見始めた。

『えーそれでは、ただ今より突発性性転換症候群に関する記者会見をさせていただきます。
 まず、この謎の奇病の原因ですが、ある種のウイルスのようなものです。しかし、そのウイルスの発生源に関しては不明です。このウイルスを我々はTウイルスと名付けました。
 Tウイルスはある特定のホルモンに影響を受けて、成長されてーーーー』

 そんな長いよくわからない説明が淡々と続いた。しかし、会見も終盤になって脳裏から離れることは絶対にないと言える一言が研究者から発せられた。

『この病気の治療法つまり、元の性別に戻すことはできないことが明らかになりました。
 我々としても全力で研究しています。しかし、現段階では元に戻ることは不可能です』

 この言葉を聞いた全員が絶句した。おれ自身もどう反応していいかわからない。ショックや絶望を通り過ぎて感情が無になってしまった。

「ぶか?大丈夫か?」

 完全に思考が停止してしまって周りの音も何も聞こえなくなった。相当酷い顔をおれはしていたのだろう。みんなが心配そうにおれを見ていた。

 しかし、心配されても心が晴れることはない。

「ごめん俺もう今日はちょっと…」

「一輝、会議室行こう」

  一人のクラスメイトがそう言ってくれた。それに甘えるようにふらふらの体を支えてもらいながら会議室に行くと担任の先生が待ってくれていた。

 先生は連れて来た奴を外に出すと話を始めた。

「俺から言えることは何もない。だけどな宇佐美泣きたい時は泣いたっていいんだしどうしようもなくて叫びたい時は叫んでもいいんだ。もし、辛いことがあるのなら担任としても、教師としてもそして一人の人間としても相談にのる。おれの考えつく限りのアドバイスはする。
 今日もし辛いのなら、帰っても問題はないからな」

「すみません。帰らせてもらいます」

「そうか…親御さんにはこちらから連絡を入れて迎えにきてもらうから。ここでまっていてくれ」

 俺はどうしたらいいんだろう。わからない。もうどうしたらいいかわからない。もう二度と男には戻れない?もう二度とあの生活には戻ることができない?元の性別でない不本意な形で変わった体でこれから一生をすごさなくてはいけない?
 冗談じゃない!!そんなの嫌に決まってる!

 腹立たしい。怒りを感じる。誰だ?俺をこんな体にしたのは?

「一輝大丈夫?」

 母さんが迎えに来てくれた。母さんは心の底から心配そうな顔をして今にもはち切れてしまいそうだった。

「一応、カウンセラーの人に連絡を入れたんだけど今から行ってみる?」

 母さんはありがたいことにあのカウンセラーに連絡を入れてくれていたのだ。何階あの人と話せばこの気持ちもマシになるかもしれない。そんな藁にもすがる思いで、もう一度中里さんのカウンセリングを受けることにした。

「いらっしゃい。よくきたわね」

 笑顔で中里さんは迎えてくれた。この場に母さんはいない。

「俺はどうしたらいいんでしょうか!?もう二度と男には戻れないって!!!嫌だ!」

「大きく息を吸ってー吐いてー」

 突然に言われたその言葉。言われた通りのことをする。

「どう?すこしは落ち着いた?」

「はい、すこしは…」

 それを聞いた中里は安心したのかホッとしていた。

「実はね、性別が元に戻らないという報道が出てから、突発性性転換症候群にかかった患者が自殺するという痛ましい出来事が起きているの。君がそんな短気な行動を起こさなかったこと嬉しいしすこし安堵したの」

「そうですか…。でも、これから俺はどうしたらいいんでしょうか?やはり女として生きていくべきなんでしょうか?」

「もし今のまま行くのはすこし危険ね。心の性別と体の性別の不一致いわゆる性同一性障害になりかねない。だから、選択肢は二つ。
 女として生きていくか、男性ホルモンの投与による、男性化。
 ただ後者の方法は体に対する負担や、完全な男になりきれないことによる喪失感なんかによって精神的にも不安定になりやすいはずよ。まして、君は本当の男の感覚を知っている。他の人よりもなお一層精神的に不安定になる可能性は高い。だから、一人の医者としては前者を勧めます。ただカウンセラーとしては後者の選択をとっても別にいいと思っています。
 どちらを選択するかはあなた次第よ」

 体の影響。それは考えたことがなかった。俺はホルモンを打って手術をすればそれで終わりだともう一度あの生活に戻れると思っていた。でも、中里さんがさっき言った言葉。 
 完全な男にはなれない。

 この言葉を聞いて、二度目の絶望感に襲われた。体全身から汗が出てきて、今にも倒れてしまいそうだ。

「中里さん。もし、もしですよ俺が女になると決心して生きていけばいつか恋をすることもあるのでしょうか?」

「あるかどうかで言ったら分からないわ。それはあなた自身の感性だもの。でも、いつかはそういった感情も生まれてくるんじゃないのかな?」

 正直今の段階で女になることも考えられない。しかし、男になることも考えられない。今の俺はどっち付かずの半端者だ。

 その後も1時間程度グチや文句などを言って怒りをさらけ出して本音を出していた。

 カウンセリングが終わった時にはなんだか少しスッキリしたような気がした。中里さんにとてつもない感謝の気持ちが芽生えた。

「そういえば達成くんが家に来たいって連絡があったんだけどその返事を一輝してちょうだい」

 どうやら俺がカウンセリングをしてある間に達成から連絡があったらしい。大方心配だからだろう。

 電話ですることにした。

「もしもし、達成か?」

「一輝か、もう大丈夫なのか?それと聞いてるとは思うけど今から行っても大丈夫?」

「問題ないよ。心配してくれてありがとう。カウンセリングのお陰で少し気持ちが楽になったんだ」

「そうか…それは良かった」

 電話越しでも伝わる達成の安堵の感情。

 家に着くとすぐに達成が来た。

「良かった。顔色もいいし、取り上げずは大丈夫そうだな」

「だから、電話でも言ったじゃないか」

 俺は達成の慌てっぷりに苦笑しながら答えた。正直、達成のこんな姿を見るのは初めてだった。でも、それだけ俺のことを心配してくれているということなのだろう。嬉しかった。

「一輝、お前どうすんだ?」

 達成は単刀直入に聞いてきた。

「どうするか…わからない。ただカウンセラーには体のことを考えると、女として生きる道を勧めるって。もちろん選択は俺次第とも言っていたけど」

「そうか…もし、どちらの選択をしたとしても俺たちはずっと友達だ!」

「当たり前だろ?昔からのやくそくだからな」

 昔、俺と達成は、いつまでもどんなことがあっても友達でいようと約束をした。それはどんなことがあっても守りたいと思っている約束だった。

 突然達成が近寄ってきて俺のこと抱きしめたい。そして、頰に涙を滴らせて言った。

「ごめんごめんごめん、一輝。俺は何もできなくて。相談くらいしかできなくて、これじゃ親友どころか人間として失格だよな…」

 本当に辛そうだった。
 俺はそんな達成を見つめた。

「別に気にすることじゃないよ。今この状況は誰にもなんともすることができないんだから。むしろ俺は感謝してる。だってこんなにも相談に乗ってくれて、俺のために泣いてくれて、こちらの方が謝りたいくらいだよ」

 それでも、達成が涙を止めることはしばらくなかった。

 …同時に俺の心も悲しさとは違う感情ができていた。抱きしめられたからだろうか?この感情がなんだ?あの時や感情に似ているけど、まさかまだ、女になって少ししか経っていないし実際中身は男だ。体が変化すると心も変化すると言うかもあながち間違っていないのかもしれない。

 その日達成が帰った後俺は考えた。その後三日間くらい学校も休んで考え続けた。
 最初は全く考えがまとまっていなかったが徐々にまとまっていった。

 もう一度中里さんのところに行き両方のメリット、デメリットをきちんと聞いて、そこからも判断をしようとした。
 そして、考え始めてから丸四日で結論を出した。

 リビングで母さんと父さん、そして、帰省していた大学生の兄貴と妹の家族全員に俺が出した結論を聞いてもらうことにした。

「俺、一生懸命考えたんだ。これが正解なのかはわからないけど、俺は決心したよ」

「どちらでも、父さんたちはお前を支えていく。それが親の役割ってもんだからな」

 父さんはそういうと豪快に笑った。その言葉に兄貴も苦笑しつつも同意していた。

「俺は…女として生きていこうと思う。体のこととか色々考えたけど、もう二度と戻れない。それならこの体を自分が受け止めて生活した方がいいってそう思ったんだ。
 どうかな?

「どうもなにも一輝自身がその結論にたどり着いたのでしょう?なら、母さんたちがいうことはなにもないわ」

 父さんもその言葉に頷いていた。

「ありがとう」

 その言葉を残して、部屋に戻って達成にも報告しようと思い携帯を手に取った。
 しかし、今電話ではなく明日直接話そうと思い携帯を置いてその日は寝た。

 翌日、放課後に達成に時間を作ってもらい近くのファミレスに入った。そこはよく勉強なんかを一緒にしている場所で行きつけだった。

「で、なんだ?話ってのは」

「決めたよ達成。俺のこれから生きる道を」

「そうか…」

 ついにきたかという反応だった。

「俺は、女として生きていこうと思うんだ」

 その結論に達成は少し驚きつつも答えた。

「お前がそう選択したのなら俺がとやかくいうつもりはない。これからも守り続ける。守り守られ相互の信頼関係は続いていく違うか?」

「違わないな」

 二人はそう言った後で腹の底から笑った。俺が女として生きると決めた理由は、体のこともあるし自分の選択もあるけど、最後に押したのは達成の存在なんだ。君のことがどうやら俺は好きになってしまったんだ。

 この気持ちいつか言えるといいな。

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 夏休みが過ぎた。思えば突然性別が変わって女になってからもう四ヶ月が経った。
 もう自分自身宇佐美一輝という人間は二度と男には戻れないのだろうと思う。

「おーい一輝なにしてんだよ?早くいくぞ!」

 達成の声が聞こえた。

「今いくー!」

 夏休みに気持ちは伝えた。達成は素っ気ない表情でイエスといってくれた。嬉しかった。
 もう男だったころが嘘みたいだと感じる。でも、まだまだ女としては未熟だと思う。

 でも、私はこれからも走り続ける。
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