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二章「奴隷との初めての冒険」

お肉が手に入りました

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「さあ、ここからのことを確認しておこう」
「はい」

 情報のすり合わせは大事だからな。きちんとやっておこう。ルナにとっては初めてのことだらけだろうし、見た目では気合十分でも昨日のこともあるから様子はきちんと見ておかないといけない。

「まず、依頼の内容だけど昨日は言った森の最奥に住んでいる魔物の生態調査。森とは言っても起伏もある上に、周囲に魔物も沢山いるわけだから危険が伴うし、数日かかるからそんな中で野営をする。以上がざっくりとした依頼だな」
「生態調査って具体的には何をするんですか?」

 やったことのない人間からみれば具体性に欠けるということか。

「森の最奥にどんな魔物がいて、なん匹位目視できたとか、あるいは変な兆候がないかといったことを丁寧に確認するんだ。まあ、この依頼の難易度が高いとされているのは魔物がたくさん住んでいる森の中を突っ切らないといけないからだな。最終的な目的自体は冒険者なら出来るだろうけど、そこまで行くことが大変っていいうことかな」

 実際、基本的に一人では受けさせてくれない。例外的に、冒険者としてのレベルが突出していたり、緊急事態が生じても脱出できる明確な保証があったりすれば一人でも受けさせてくれる。俺もその例外としてこの手の依頼は結構受けていた。だから旅をしてみたいと思ったのだ。森や山、ダンジョンの奥に行くことばかりで街から街へということは今までになかった。

「そんな大変そうなのに私は足手まといにはならないんでしょうか」

 ルナは自分が戦力になるかを心配しているようだ。ここは正直に言ってしまったほうが本人の立ち回りの関係上、都合がいいだろう。

「正直に言えばあまり戦力にはならないと思う。だから弱い魔物であれば、練習のためにルナに倒してもらって俺は後方支援という形にして、強い魔物のときは俺が戦ってルナが後方にいて欲しい。それから倒した魔物の魔石や素材の回収も手伝ってほしい。今まではそれも一人でしていたから効率が悪かったんだ。大丈夫、こんな危険なことをしてもらうんだ。命の保証くらいはするさ。俺、そこそこ強いからな」

 ルナはあっけにとられようだ。ぽかんとしてからすぐに笑った。

「ご主人様が私のことを戦力にならないって評価でなんだか安心しました。私、ご主人様の横に立っても迷惑にならないように頑張ります」
「まあ、初めてのことも多いだろうから無理して戦おうとするなよ。それが命取りになりかもしれないからな。それに魔物っていうのは分かりやすい見てくれをしているとも限らなくて、植物型の奴だっているから慎重に進まないといけない」

 ルナは真剣に聞いている。気が付けば街を出て、もう目の前に森があった。この街は入るときは厳格に調べるが、出るときにはそこまででもない。まして冒険者として頻繁に外に出ている上に、門番とも良好な関係を作っている俺は出るときに限定すれば顔パス状態だ。

「もう森に入りそうだな。ここからはゆっくりと進んでいくことになる。ゴブリンとかスライムみたいな昨日倒した魔物はどこにでもいるけど、奥に進めば進むほど魔物もどんどん巨悪にそして強くなっていく。それはゴブリンでもスライムでも例外はないから絶対に侮るなよ」
「はい。肝に銘じます」

 ルナは昨日のことを思い出したのか少し汗をかいている。このまま何とかもってくれるといいけど、血を見てしまったら昨日と同じ状態になる可能性が高い。解決方法はないから、対処は出来ないけど、ルナの精神面に気をしっかり配ることが大切だろう。しっかり見ておくことだな。あれ、正しいことしようとしているはずなのに、16歳の少女をストーカーしようとしていると聞こえなくもないな。なんか身震いがしてきた。

「じゃ、行こう」

 ルナに前を歩かせないように常に俺が先導して進む。

「ルナ! スライムだ!」
「はい!」

 素早く魔法を打ちこんで3匹現れたスライムを倒した。倒したことを確認してから魔石を二人で回収する。スライムは小さな魔物なので魔石も回収しやすいので時間はかからなかった。

「さっきの反応はよかったぞ」
「えへへ、ありがとうございすう」

 褒めたらすごく喜んでくれた。

「そしたら進もう」

 そうして魔物が出るたびに倒していく。幸いなことにここまで連続してスライムが出てきてくれたため、ルナはまだ魔物の血を見ていない。このまま、もうしばらくスライムが出続けてくれると嬉しいけど、そんなことはありえないよなあ。

「ご主人様、なんだかすごいスピードで走ってくる魔物です!」

 考え事をしていたせいで少し感知が遅れたが俺もこちらに向かってくることが確認できた。おや、この反応は……俺たちはラッキーかもしれない。この段階でこいつに出会えるなんてな。

「ルナ、今から突っ込んでくるのは魔物じゃなくてただの動物だ。それもここで出会えるのはラッキーだ。今日の夜ご飯が保存食メインにならなくて済むんだ。絶対に仕留めるぞ!」
「なんだかよくわからないですけど、美味しいお肉が食べられることは分かりました!」

 ルナよ、それは分かっているうちに入るのか。別に明確に間違ってはいないのだが。

「今からくるのはボアっていう動物だ。牙が二本あってそれなりには危ないから気を付けるんだ。一応、俺が狩ることにするからルナはよく見ておくんだ」
「はい」

 食べられるし、一刺しで仕留めたほうがいいだろう。俺が剣を構えるとすぐにボアは現れた。

「行くぞ!」

 ボアは俺たちを気にすることなく猛スピードで走っているので一瞬で剣を入れないと逃げられて今日以降の食事が貧相なものになってしまう。それだけは絶対に避けなければ。
 幸いボアはよく見えているので脳天に刺さるように構え、その一番いい場所に来たところで剣を思い切り刺した。

「ブゴォ・・・・?・・・!」

 ボアはすぐに自分が刺されたことに気が付いたが時すでに遅しで倒れこんだ。当然。急所を一突きにしたのだから。むしろ鳴き声を上げられただけでもこいつの耐久力のすごさを褒めなくてはいけないだろう。

「さあ、倒せはしたけど、肉にするんだから血抜きをさっさとするぞ、それに周りは毛皮として重宝されるからそれもきちんと処理しないとな」

 俺はボアの血抜きを魔法で行った。物理的にする方が楽だが、ルナの精神的負担ができるだけかからない方法を選ばないけれなならないという判断だ。

「あの、今、の魔法って何ですか?」
「ああ、あれは水魔法の一種だよ。ルナもすぐに血抜きくらいならできるようになると思うぞ」
「練習してみます」

 ルナは魔法の方に興味津々のようだ。実は便利な魔法なので覚えておけば役に立つだろう。そうして血抜きもあっという間に終わったので次に解体をして内臓を取り除く。取り除いた内臓は食べることもできる部位もあるが、下処理も必要でそのための道具もない上に腐りやすいので魔法で燃やして処分する。こうしないと魔物が寄ってきて危ないので仕方がない。ちなみに、抜いた血は大きめの穴を掘ってその中に捨てた。一応、土をかぶせたし、今までも同じやり方で何ともなかったので大丈夫だろう。

「こんなにお肉あっても持ちきれないですよ?」
「大丈夫だ。アイテムボックス」

 アイテムボックスは収納魔法だ。たくさんの道具をしまうことができる。この中に昨日準備した保存食やポーションをしまっている。そもそもルナは俺が収納系のアイテムか魔法を持っていることに気が付いているかと思っていたけどどうやらそうではなかったようだ。

「ご主人様、収納系の魔法を使うことが出来たんですね」
「まあな」

 とは言っても、普段から沢山使ってるわけではない。。理由は入れたものがわからなくなるからである。

「さて、これで今日から食事には困らないぞ。やったなルナ!」
「食事に困らないのは嬉しいです!」

 ルナはよほどうれしいのか小躍りしている。喜び過ぎかもしれないが、確かにあの大食漢であればあれだけの量の肉があるというのは安心するのかもしれない。
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