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一章「1人目の奴隷」

朝から買い物です

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「ご主人様、朝ですよ」

 その優し気な声で目を覚ました。この数か月一人だった上にこの世界には目覚まし時計のような便利なものもないため、寝坊はしょっちゅうだった。だから昨日の夜朝起こすようにとも頼んでおいたわけだ。朝きちんと起きると気持ちいな。

「おはようルナ」

 起き上がってルナを見ると、昨日の夜につけた拘束具が朝日に照らされて輝いていた。どうやら昨夜のことは夢ではないということに少し複雑な気分になったが仕方がない。

「ルナ、それ外すからこっち来い」
「はい」

 外すときには素直になるんだな。まったく何なんだろう。拘束を外して着替えるように言うと、昨日着ていた簡素な服を着た。奴隷ということをこれでもかと強調するかの如きものだが、これしかないのだから仕方がない。今日はルナに必要なものを買うからそこまでの我慢だな。こんなみすぼらしい恰好しかさせない人間とは思われたくない。

「今日はお前の服とか防具、それと武器も買うからどんなのがいいか考えておけよ」
「武器ですか。出来るなら武器を見に行くには最後にしていただいた方がいいと思います。おそらく時間がかかると思うので」
「よくわからんがそういうことなら武器は最後にしようか。あー、でも最初に俺の武器のメンテンナンスをしてもらいたいから初めによりはするからな」
「私の了解をいちいちとる必要はありませんよ」

 そうか、別にそれもいいのか。どうもどうやって接していいのかまだ判断がつかないな。まあ、さっさと俺も準備を整えて出発しよう。やることは沢山あるんだ。ぐずぐずしていたら。あっという間に日が暮れてしまう。朝ご飯はないけど、精算どうこうで宿屋のオヤジのところにも行く必要があるな。

「それじゃ、行こうか」
「はい」

 反抗的なこともなく、俺についてきた。本当にこいつの反抗的な面は演技だったのかと疑いたくなるな。

「おい、オヤジ、差額分払いに来たぞ。計算は終わったか?」
「おう、終わったぞ。すまんな昨日のうちに出来なくて。ああ、それと前の部屋の荷物も大丈夫だったか?」

 オヤジは謝ってきたが、まったく問題もないのでそう言って、金を払った。別にどうということもない。ルナの購入資金がだいぶ余っていることもあって俺の懐は結構暖かい。よってルナのものもケチらずに色々買えるだろう。

「ああ、確認したけど荷物は大丈夫だった。鍵は返すよ。ありがとう助かったよ」

 このオヤジはガタイもいいし、強面で堅気の人間には見えないが、実際にはしっかり堅気だし気遣いもできて人格者でもある素晴らしい人であると感じる。いい出会いもあるものだ。

「そうかい。お前さん、あの嬢ちゃんを買ったと思うんだが、大切にしろよ。人ってのは見ていないようでそういうところを結構見ているものだからな。説教臭いかもしれないが年長者からのアドバイスと思っておいてくれや」
「心に留めておくよ」
「それなら、今日もバリバリ稼いでこいよ!」

 本当にこのオヤジは……。言いたいのはルナに変な扱いはしないほうが良いということだろう。というか、奴隷に対して変な扱いをするなということか。奴隷自体は合法でどのような扱いをしても良いとはいっても、人であることに変わりはない以上、粗雑にすれば人間性を疑われるということだろう。本当に、見た目は人を痛めつけて楽しんでいそうな風体をしているのに真っ当なことを言ってくるのだからありがたいことこのうえない。この世界での常識のない俺にとっては誤った方向に行かずに済んだ恩人ということになるのだろう。

「さあルナ行こうか」
「あ、はい」

 耳をピコピコさせている。機嫌がいいのかもしれない。それにしても風呂にしっかり入って、陽の光に当てると毛並みが綺麗だ。薄い茶色、光の当たり方によっては黄金色にも見えるかもしれない。明るい日の下でこそ、活動できるのはルナなのかもしれない。今は、何が正解かわからないけどいつかそれをつかみ取って見せよう。でもハーレムは作りたいからルナ一人だけを見続けるのは中々難しいのが少し残念かもしれない。

「最初に武器屋に行って、俺の剣のメンテナンスの依頼をするから。頼んでいる間に欲しい武器を少し見ておくんだ。夕方にまた武器屋によって俺の剣を回収するからその時にルナの武器を買おう」

 ルナはうなずいた。特につながれることもなく自由に歩けていることが嬉しいのかその足取りはどこか弾んでいるように見える。少なくとも嫌な気分になっていないのなら何よりだ。
 武器屋は宿屋のすぐ近くにある。たまたまではあるが便利な場所にあって助かっている。最初の剣もこの店で買った。この数か月で何本かかったがこの店のは質も良く、満足のいくものを購入で着ている。魔法のための武器も売っているので両方使っている俺には結構助かっているのだ。

「武器のメンテナンスを依頼したいんだが」
「お前さんか。今日の夕方に取りにこい。それまでには終わらせておく」
「それじゃ頼む」

 店主のおっさんと短いやり取りをして剣を預けると魔法の杖を見ていたルナに声をかけた。

「ルナは魔法を使えるのか?」
「それで戦ったことはありません。ですが、私たちは種族的に魔法の力も高い傾向にはあります。ですが、個人差はあるの私自身に戦闘に使える程度の魔法適性があるかは分かりませんが」
「そうなのか……それなら両方やってみるのもいいかもしれないな。俺もそうだし」
「ご主人様はどのように戦っているのか想像が出来ません。不思議な方ですね」

 ルナは俺を変わったものを見るように眺めてきた。なんか複雑な気分だな。でもこれもチートの一つと言わればそれまでだしな。まあ後でいやでも分かるだろうし、今説明することもないだろう。論より証拠、百聞は一見に如かずってやつだな。

「ま、武器についてはここにまた来るしその時にきちんと選ぼう。次は服を買いに行こう。そんな服装をいつまでもしてほしくない」
「もうメンテナンスの依頼をなされていたんですか。随分とはやいんですね」

 ルナももう依頼が終わっているととは思ってもいなかったようだ。あまり店の中で大きな声を出すのも良くないと思ったのか、店を出てから聞いてきた。本当、どこが反抗的なんだろう。

「ここには結構な頻度でメンテナンスをしてもらっていて顔を覚えてもらっているからすぐに面倒なことなくすぐに依頼できるんだ」

 数か月でも2~3週間に一度は絶対にメンテナンスを依頼していれば覚えられもするだろう。珍しいだろうしな。それに結構武器も買っているしな。

「そうだったんですか。では服屋さんも行きつけなのですか?」
「さすがに服は頻繁に買うものでもないから常連ではないよ」

 服屋はたしか武器屋からは離れたところだし買い食いしながらッて云うのもいいかもしれない。朝ご飯ものみものだけだったし。

「ルナは露天で何か買って食べるか?」
「いただけるのなら朝も食べていないのでほしいです」

 朝だし、お肉のようなそんなに重たいものを食べるのもちょっと違う。パンでもあれば助かるのだけど。あるいは米とか。でもこの地域ではイモと麦みたいな作物は結構栽培されているみたいだけど、米みたいな穀物を見ていない。多分、この世界にない、あるいは、存在したとしてもこのあたりにはないのだろう。

「っとちょうどいい所にパンが売ってるな。あれを買おうか」

 この世界ではパンが主食でもあるので結構安く売っている上にそこら辺中にパン屋がある。しかし種類は少ないのが現代の飽食の時代に住んでいた人間としては寂しい限りだ。クロワッサンみたいなものもあるけど、そもそもバター自体がかなり高価なのでそこまで作られないのかもしれない。まあ詳しくはないから俺には何が何だかさっぱりわからんが。

「そのパンを二つ頼む」
「お買い上げ、ありがとうございます」

 パンを二つ受けとって、1つを横にいるルナに渡した。

「いただきます」

 二人で仲良く立ち食いだ。そこまで行儀が良い行為でもないけど、同じようなことをしている人も多いし、そもそも買っても座る場所がないからどうしようもない。

「美味しいですね」
「本当だな。俺もここでは初めて買ったけどあたりみたいだ」

 パンでしっかりと腹を満たして幸せな気分だ。しかもパンは焼き立てなので腹も心も温かくなった。
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