君は今日から美少女だ

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前日②

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「おーす、なんだ今日も朝から疲れた顔をしやがって。もう少し元気出していこうぜ」

 教室に入って話しかけてきたのは柏木蓮。サッカー部に所属するスポーツマンだ。運動神経もいいし一緒にいて楽しいが暑苦しい。それは特に朝見ると、こっちもげんなりする。

「お前みたいな脳まで筋肉でできているようなやつと一緒にするな」

「そうかい。でも、そうは言ったってお前だってがっつり運動部じゃないか。それで俺を脳筋扱いするのは違うんじゃないか?」

 それを言われると反論のしようもない。あいつはサッカー部だが俺は陸上部。走るのを楽しいと云い練習でかなりの距離を走るいうなればドM集団だ。つらくても走りたくなる。これが陸上を好きになったものの定めだ。

「ゴメンナサイ」

「棒読みで言うなよ。俺が脳筋であることは事実ではあるんだし」

 蓮は俺の迫真の演技に騙されてくれたようだ。あるいは、俺の演技には気が付いていてあえて乗ってくれているのか。

「さてさて、茶番はこのくらいにしておいて、宿題を助けてくれ」

 意外性はない。なぜなら、蓮が朝から暑苦しく絡むときは大抵俺に頼みごとをする時だからだ。中でも宿題関連の頼み事はかなり多い。それも蓮が悪いというよりも、高校の課題量がおかしいほどに多いというのが理由だろう。蓮の所属するサッカー部は練習もかなりはハードだ。それであの課題の量を終わらせろというほうがおかしい。とは言っても、サッカー部に所属している人でも終わらせる人もたくさんいる。

「頼む。一生の頼みだ」

「宿題は確かに多いけど、もう少し真面目に取り組んだらどうだ。それいがいはしっかりやっているんだから出来るだろう」

 数学の課題を渡したところ、蓮は分かってはいるんだけど中々難しいんだよな。正直、課題を真面目にやって、予習復習までしていたら、体がいくつあっても足りなくなる」

 そう、蓮が課題を終わらせることができない最大の理由はしっかりと復習と予習に励んでいる点にあるのだ。

「まあ、それもそうだな。でも課題はちゃんと出しておかないといくら成績が良くても、先生に目をつけられるぞ」

 一年生の段階から目を付けられるのはあまり褒められた行為ではないと俺は思う。俺はそこまで成績のいい方ではないが、提出物だけは出すようにしている。そうすれば、成績表が最悪なことにはならないと聞いているからだ。

「大丈夫だよ。朝にやっているとはいえ、ちゃんと出してはいるんだから」

 確かにそうだ。こいつは宿題の提出が遅れたのは数回しかない。まあ、中身は分からないが。

「それにしても、今日も穏やかな日だよなあ」

「どうしよう、恵也が現実逃避を始めたのかもしれない……」

 蓮はかなり大きな勘違いをしているようだ。これがきっちりと訂正する必要がありそうだ。

「現実逃避じゃない。五月も終わりで暖かくなってきたし、過ごしやすいから言ったんだよ。他意はない」

 本当かといったが、それはないと即答してやった。こんな関係性がもう幼稚園の頃から続いている。本当に腐れ縁だと思うし、これからも続いてほしい腐れ縁である。蓮は口を動かしてもいるが手も動かしている。器用な奴だとつくづく思う。外見も悪いわけではないので女子にモテるとは思うのだが、付き合っているという話が聞いたことがない。不思議なことが世の中にはあるものだ。

「ありがとう。おかげで終わったよ」

「早いな」

 いつ見ても驚かされる速度だ。こんなに速攻でできるのなら家でやればいいんじゃないかと思ってしまうのも無理はない。
 ここからは特に変わったことはない。授業を受けて、昼飯を友達と食って、また授業を受けて、それが終わったら部活をして帰る。これが俺の高校生活だ。宿題を除いては不満なこともない。
 随分と充実した高校生活を送っていると思っている。
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