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第5章 幻々の森
2.『梨沙』の家族
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更新できたー(・∀・)
────────────────
不思議そうに見ていた母は私に近付き、エプロンのポケットから取り出したハンカチを私の頬に当てた。
幻のはず、なのにハンカチから母の匂いがした。
「梨沙が涙なんて…。
何か悩みがあるならお母さんに相談してみない?」
涙……?
ウィンク付きで言われ、ハンカチを当てられていない右の頬に手で触れてみたら濡れていて、本当に私は涙を流していた。
そして私は心のままに母へ抱きついた。
「まあ、梨沙が抱きついてくるなんて子供の頃以来ね。
んー、相談じゃなく泣いた方がスッキリするかもしれないわねぇ。
よぉし!
今日はペタンコな母さんの胸でいーっぱい泣いちゃいなさい、ね?」
ぎゅっと抱きつく私の頭を、いい子いい子という風に優しく母は撫でている。
幻…のはずなのに母の体や手は暖かくそして、母の好きな練香水のシトラスの香りが鼻腔いっぱいに広がった。
「おー?
母さん、そんな所に突っ立って何して……って梨沙が泣いてる?!
梨沙…誰に泣かされたかお父さんに正直に言いなさい。
今からそいつの所に行って血祭りにあげるから」
いつもぽやぽやーっとしている父が指をポキポキ鳴らし準備運動を始めた。
私の記憶が反映されて現れるはずの幻なのに、私は前世でこんな好戦的な父を見たことがない。
どういうこと?
「あれー何騒いでるのー?
ね、姉ちゃんが泣いてる、だと?!
俺が転んで手に持ってたカエルを誤って姉ちゃんの顔面にカエルを飛ばしたり、釣り竿を振って針を遠くへ投げようとして姉ちゃんのスカートに引っかかって、小学生なのにセクシーな黒レースのパンティを大勢の釣り客に晒した時でも泣かなかった姉ちゃんが泣いてるっ?!
姉ちゃんっ仇は俺が討つから泣かした奴の名前教えて!」
お、弟よ。
私の嫌だったり恥ずかしかったりして思い出さないよう記憶の奥深くに封印した記憶を、父や母のいる前で言うなんてー…って、ここは幻なのだから幻であるはずの父や母に知られても何も問題ないか。
いや、私の精神は間違いなく攻撃を食らったが…。
「…二人共、別に誰にもいじめられたりしてないから。
この涙はー…嬉し涙だよ」
「なんだぁ、嬉し涙だったのか~…ふぅ」
「そっか、でも姉ちゃんが泣いてるの始めて見たからちょっと焦ったやーへへ」
幻だとわかっているけど、心配されると嬉しいな。
父と弟のことも母同様もうあまり思い出せなくなっていたのに、この幻ははっきりしていて…あぁそうだこんな顔をしていた、と再び“家族”の記憶を鮮明にさせてくれた。
本当はもう忘れてしまった方が良いのかもしれないけど、覚えていられる間は思い出したい。
だから、この幻に感謝したいくらい心が歓喜していた。
涙がだいぶ落ち着いてきて別のことが気になった。
父が、なぜか少し残念そうに見えるのですが…もしかして戦いたかったの?
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不思議そうに見ていた母は私に近付き、エプロンのポケットから取り出したハンカチを私の頬に当てた。
幻のはず、なのにハンカチから母の匂いがした。
「梨沙が涙なんて…。
何か悩みがあるならお母さんに相談してみない?」
涙……?
ウィンク付きで言われ、ハンカチを当てられていない右の頬に手で触れてみたら濡れていて、本当に私は涙を流していた。
そして私は心のままに母へ抱きついた。
「まあ、梨沙が抱きついてくるなんて子供の頃以来ね。
んー、相談じゃなく泣いた方がスッキリするかもしれないわねぇ。
よぉし!
今日はペタンコな母さんの胸でいーっぱい泣いちゃいなさい、ね?」
ぎゅっと抱きつく私の頭を、いい子いい子という風に優しく母は撫でている。
幻…のはずなのに母の体や手は暖かくそして、母の好きな練香水のシトラスの香りが鼻腔いっぱいに広がった。
「おー?
母さん、そんな所に突っ立って何して……って梨沙が泣いてる?!
梨沙…誰に泣かされたかお父さんに正直に言いなさい。
今からそいつの所に行って血祭りにあげるから」
いつもぽやぽやーっとしている父が指をポキポキ鳴らし準備運動を始めた。
私の記憶が反映されて現れるはずの幻なのに、私は前世でこんな好戦的な父を見たことがない。
どういうこと?
「あれー何騒いでるのー?
ね、姉ちゃんが泣いてる、だと?!
俺が転んで手に持ってたカエルを誤って姉ちゃんの顔面にカエルを飛ばしたり、釣り竿を振って針を遠くへ投げようとして姉ちゃんのスカートに引っかかって、小学生なのにセクシーな黒レースのパンティを大勢の釣り客に晒した時でも泣かなかった姉ちゃんが泣いてるっ?!
姉ちゃんっ仇は俺が討つから泣かした奴の名前教えて!」
お、弟よ。
私の嫌だったり恥ずかしかったりして思い出さないよう記憶の奥深くに封印した記憶を、父や母のいる前で言うなんてー…って、ここは幻なのだから幻であるはずの父や母に知られても何も問題ないか。
いや、私の精神は間違いなく攻撃を食らったが…。
「…二人共、別に誰にもいじめられたりしてないから。
この涙はー…嬉し涙だよ」
「なんだぁ、嬉し涙だったのか~…ふぅ」
「そっか、でも姉ちゃんが泣いてるの始めて見たからちょっと焦ったやーへへ」
幻だとわかっているけど、心配されると嬉しいな。
父と弟のことも母同様もうあまり思い出せなくなっていたのに、この幻ははっきりしていて…あぁそうだこんな顔をしていた、と再び“家族”の記憶を鮮明にさせてくれた。
本当はもう忘れてしまった方が良いのかもしれないけど、覚えていられる間は思い出したい。
だから、この幻に感謝したいくらい心が歓喜していた。
涙がだいぶ落ち着いてきて別のことが気になった。
父が、なぜか少し残念そうに見えるのですが…もしかして戦いたかったの?
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