始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです

夢々(むむ)

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第1章 迷々の森

※おじいさん side②

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あれから幼子は、余っていた部屋のベッドへ寝かせオルトゥム自身もすぐに就寝した。

そして、いつも通りの起床時間に目覚め自分の分の食事、プラス消化に良さそうな食事を用意しておいた。



自分の食事を終えたし、一度様子を見にゆくかの…。





―――ガチャ―――





ドアを開けて入ってみれば、幼子がベッドから起き上がっていてわしを見ていた。

近づきながら幼子をよくよく見てみたが、やはり少し痩せているようじゃな。

茶髪の少々毛先がくせっ毛なのかクリクリしていて、少しタレ目気味のぱっちりした瞳は緑色をしていて日に当たる新緑を思わせる。

もう少し、子供らしくふっくらしたら可愛らしさが増しそうじゃな。




「お?起きとったか。まだ寝てると思って、ノックせずに入ってしまってすまんかったのぅ」




ベッドサイドの椅子へと腰掛け、幼子の様子を見ながら話しかけた。




「いやいや、昨日の夜に森で君のような幼子が、木にもたれて眠っていてとても驚いたよ。

あんな所で放置もできんから、とりあえず連れてきたのじゃが……。

何か、訳があって夜の森…しかも『迷々の森』と呼ばれる厄介なとこに入ったのじゃろ?」




訳を聞いた途端、澄んだ瞳が影を作り新緑が鬱々とした森になったようじゃった。

辛いかもしれんが、この子を育てる為にはきちんと聞いておかねばな。



「うん…。

あ、あのね、私が5歳の誕生日を迎える前に逃げたかったの。

逃げないと………両親に売られてしまうから。

私の上の兄たちも、みんな5歳を迎えたら両親に売られておじさん達に連れて行かれたのよ。

本当は、弟妹たちも連れてきたほうが良かったのかもしれないけど、3歳、2歳、1歳を連れて逃げるなんてまだ5歳の私には無理だったし…」



幼子は、話している途中からだんだんと俯いていき、目に涙も滲んできて今にも頬へと流れてしまいそうだったのに我慢していた。

優しい子、じゃな。

だから自然と幼子に手を伸ばし泣けるように頭を撫でたのだが…………不思議そうな顔をして首をひねっていた。

涙は引っ込んでしまってようだが、なぜ不思議がったのじゃろう?

疑問は頭の片隅に置き、今は別のことを聞かなくては。




「そうかそうか。

よく逃げてきたのぅ。

…環境が良くないのによく心優しくさだったものだ。




お前さんの逃げてきた村と両親の名前はわかるかい?」




「えっと…ロローシュ村だった、はず。

両親の名前はー…父がケビンで母がマリーです。

家名は知らないです。



知ってどうするの?

私を………家に戻すの?」




いかん。

いらん恐怖を与えてしまったようで、少し距離を取られてしまった。




「そ、そうじゃのぅて、わしの記憶にある噂がその村と人物と同じかと思うてなぁ。

決してお前さんを、家に戻すためではないので安心しておくれ」




「?

私の村と家がおじいさんが聞いた噂と似ているの?」




「んー………とても似ているのぅ。

よし、ちーと気になるから少し覗いてくるかのぅ。

噂通りなら……そろそろじゃろうし。



きっともうすぐ、お前さんの弟妹たちも救われるはずじゃ。

すごく心配じゃろうが大丈夫、というわしの言葉を信じてくれんか?」




最近、この森の近くのある村で違法売買があるので、摘発すると連絡が来ていた。

その村と何人かの名前も挙げられていたからもしや、と思って聞いてみたが…そうじゃったか。




「むむむー………。

んー………おじいさんは私をここまで運んでふかふかベッドで寝かせてくれたし、おじいさんから悪いものは感じないし…………。

うん、よしっ!

弟妹たちは大丈夫だって信じる!」



な…なんとも可愛い!

初対面の、よく知らない爺さんに信じてくれと言われ信じてくれるとは、なんていい子なんじゃ!

ちと素直すぎて心配ではあるが、それはおいおいでいいじゃろう。
















可愛くてついつい頭を激しく撫でてしまったが、鳥の巣頭の姿もまた可愛いからOKじゃな!

少し、膨れていたように見えたが気のせいじゃろぅ…。








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