全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

77話 ドタバタ劇

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ヴァレンティーノ王太子殿下やベルナルト王太子殿下達も居られるこの場をそれぞれの護衛騎士達がしっかり守ってくれている、とはいえ。
お祭り騒ぎのこの空間だ。
周囲は人で溢れかえっていて。

「キャッ」
「大丈夫?シルヴィア。」
「あ、うん。ちょっとぶつかられただけ、大丈夫。ありがと、カイト。」

はしゃいでやんちゃに走って行った子供に、背中をぶつかられた様でふらついたシルヴィアは。
すぐにカイトに抱き留められて。
単に礼を言っていただけだったが。
僕は見逃さなかった。
シルヴィアがちょっと照れて頬を少し朱に染めていたのを。

「~~~~!」
「シリル、カイト様は優しい、良い方だと思いますよ?」

言葉にならない怒りを湧き上がらせた僕の隣から、宥めるつもりだったのだろうが、サフィルがトドメの様にそんな事を言って来るもんだから。

「サフィル?!」

僕は予想外の反応に信じられない顔で振り向くと。
ソフィア様と手を繋いでいたウルが、サフィルの方へ抱き付いて。

「サフィル兄ちゃん!ぼくもそうおもうー!」

なんて、楽しそうに言うものだから。
くぅっ!
味方が居ない!

虫の居所が悪い僕は、彼らに背を向けて先に歩き出した。
この何処にもぶつけ様のない感情をどう処理しよう。
周囲が皆楽しく喜びに満ちている中で、一人場違いに負のオーラを纏いだす。

「あ、シリル!」
「シリル様!」

後ろでサフィルが呼ぶ声が聞こえ、拗ねた僕は膨れっ面をして振り向いたら。
同じく声を上げたテオによって素早く庇われ、そのテオが、荷物を担いでいた者とぶつかってしまった。

「大丈夫ですか?」
「うん。ごめん…ありがと。」
「いえ。人が多いのでお気を付けて。」
「うん。」

テオは流石、ふらつく事も無くしっかり僕を守ってくれたが、ぶつかった相手は担いでいた荷物を落としてしまい。
僕はテオの腕から抜け、その者の前へ出た。

「あ。すみません!大丈夫ですか?お荷物も…」
「チッ。いえ……こちらこそ、すみませ…」

どうやら商いをしている様相の青年だったが、こちらの声掛けに仕方なさそうに返事をして来て。
目が合って、固まった。

「………ジルベール。」
「…クレイン卿!これはこれは。」

それは、先日学院で十年ぶりに再会したジルベールだった。
彼は、ぶつかった相手が僕だと分かった途端、それまでの謙虚な姿勢を翻し、急に凶悪な笑みを浮かべる。

しかし、今日は彼にとって状況が悪すぎた。

前回と違ってテオも、僕を追って来たサフィルも、直ぐ警戒の体制を取り。
後ろからはベルナルト殿下をお守りしている護衛騎士も大勢いる。

それでも、彼はカッとなると周囲が見えなくなる質なのか、悪い顔で笑ったまま、僕にじりじりと迫って来ようとした。

「シリル!」
「シリル様!」

サフィルがすぐに僕を抱き締めてくれて、テオがその僕らの前に立ち、盾になってくれたが。

「二人とも、ありがとう、もう大丈夫だから。」

僕を守ってくれる二人に礼を言い、その警戒網をすり抜けた。
心配そうにする二人を背に、僕は彼に向き直った。

「この前はどうも、ジルベール。」
「男二人に守られて、相変わらずいいご身分ですね。そうやって二人ものを咥え込んで、」
「…黙れよ。」

品性下劣な言葉を吐き出しかけた奴の口を凍らせてやった。

「!~~~~~っ」

そもそも、イライラを募らせて機嫌が最悪だった僕は。
相も変わらず最低な態度しか向けて来ない、目の前のこの男へなど、もう遠慮の欠片も感じなかった。
ただの少しも憐憫の情を感じない。
要は、もう完全に愛想が尽きたのだ。
そんな僕は、奴に対して冷笑して。

「昔と同じと侮るなよ。あ、そうそう。君が所属してるマルセル商会のご商売、調べたけど…随分手広くやってる様だけどさ、中々にマズい物もたくさん取り扱ってるみたいだねぇ。怪しい薬とか人身売買とか。その内調査が入るらしいから、品卸の責任者として、しかと準備しておくといいよ。」
「?!……うぁ……うわぁぁあ!」

奴にとっては見た事も無い強気の僕に、いや、冷ややかに嗤う僕に、言われたその内容に。
可哀想になるほど真っ青な顔になって、凍らされた口の氷も砕け散らせて叫び、ガクブルしながら運んでいた筈の大事な荷物も放り出して、逃げ出そうとする。
其処へ飛び込んで行ったのは、カイトとイチャついていたシルヴィアだ。

「うおりゃあーっ!」

式用のドレス姿なのにも関わらず、頭から突っ込んでいったシルヴィアは、ジルベールに頭突きをして。
その際に術を発動させて、ジルベールを路地裏の方へ吹っ飛ばした。
周囲の出店の商品が数個、その術に巻き込まれて宙に舞ったが、周囲の人々は驚いても、喧嘩でも始まったのか?!と、別のお祭り騒ぎに興じようと喜んでいる。

観衆の興味を引いてしまったジルベールは、反撃はマズいと悟った様で、路地裏の奥へ逃げ失せようとしたが、それは叶わなかった。

「ヒブリス!!」
「分かった。」

追撃する代わりにすかさずヒブリスおじさんを呼ぶと、間髪を入れずに彼は奴に術を放ち、拘束の術でジルベールはお縄となった。
サフィルから簡単に事情を聞いたロレンツォ殿下が、ヴァレンティーノ殿下にお伝え下さり、王太子殿下の護衛騎士によって、エウリルスの警護の騎士に引き渡された。

滞在中にサフィルにも手伝ってもらって、ジルベールの事を調べていたのだ。
あまりに酷い奴の態度に違和感を覚えた僕は、その素行を調査しようと思い、商いを生業にしていた奴の事を調べていて、先程僕が奴に言い放った悪行の数々を知り得たのだった。
特に、奴隷の売買では、あの処刑されたマルシオから買い取っていたのだ。
この婚姻式を終えたら、アデリートに帰国前に突き出そうと思っていたが、とんだ手間が省けたものだ。
向こうから飛び込んで来るとは。

しかし、そんな奴に頭から突っ込んだシルヴィアには心底驚いた。

「危ないじゃないか!シルヴィア!」
「だって!お兄様に敵意剥き出しで睨んでたんだもの。お兄様だって、氷の術を使ってたし!」
「それにしたって…」
「それにしても、許せないわ!ジルベールの奴。やっぱりあの悪癖は今世でも変わらない様ね!これでちょっとは反省させないと。」

奴がかなりあくどい商売をしていたと知ってしまったシルヴィアだったが、昔のあの淡い記憶から、悲しむかと心配したが、そんな事は無く。
憤慨するだけのシルヴィアに、ヒブリスおじさんがあまり無茶をするんじゃない!と怒った事に、むくれていた。
でも、二人の息、ピッタリだったな。
なんて、僕は心の中で思った。

そうして、ふふ。と笑っていると、後ろから抱き締めてきたのはサフィルで。

「貴方もですよ。もう無茶ばかりして。」
「本当ですよ、シリル様。」

横からテオまで苦言を言って来る。

「ごめんって。でも、サフィルもテオも居てくれるから、臆さず対峙出来たんだよ。」

そう言って笑うと、サフィルが更に強く抱き締めて来た。

「あー!また二人なかよしー!ぼくもー。」

ソフィア様の手を引っ張って、ウルが目敏く見つけてやって来た。
自分も抱っこと両手を上げてねだるウルに、シルヴィアが抱き上げた。

「わーい!」
「んふふ!私達、同じ銀髪同士ね。」
「うん!……あ。姉さま、手が。」

優しく抱っこするシルヴィアに、ウルは強く頷いていた……が。
びっくりした声を出したものだから、僕らもそちらへ視線を向けると。
シルヴィアの手が薄く透けていた。

「あ。……ネオのケチ!もっとゆっくりさせてくれたっていいじゃない!!」

遂に元の世界へ帰る刻を悟ったシルヴィアは、しかし、その帰りを促す魔術師に大いに不満をもらし、天に向かって大声で叫ぶ。
でも、叫んで抗議をしてみても、手から腕へと薄くなっていって。
仕方ないと受け入れた彼女は、消え入りそうな体でウルをギュッと抱きしめた。

「ねぇ、ウルちゃん。私、そろそろ巫子達と帰らないといけないの。だから、私に代わってシリル兄様達の事、よろしく頼むわね。」
「分かった!シルヴィア姉さまとのやくそくね。」

囁く様に言った彼女の頼みに、幼いウルは、元気一杯に頷いたから。
シルヴィアはホッとした顔をして、ウルをそっと腕から降ろした。
そして、フワリと浮きかけた体で、義父上と義母上の方へ寄って行って。

「叔父様……いいえ。ルーファス義父様、グレイス義母様。私はもう巫子達と共に戻らなければなりません。大切にお育て頂いたのに、何の孝行も出来ないまま、此処を離れる事になり、ごめんなさい。」
「シルヴィア!」
「シルヴィアさん…」
「今まで、本当にありがとうございました。どうか心配なさらないで。私は向こうの世界で元気に楽しくやっていますから。リックも、ロティーも…ありがとうね。お兄様をよろしくね。」

涙ぐむシルヴィアに、子供二人ももらい泣きをしてるのか、その瞳を潤ませながら強く強く頷いていた。

「ルーファスさん、グレイスさん!」
「リックくん、ロティーちゃん。」
「「お世話になりました!」」

カイトとカレンは二人息ぴったりに、僕の家族に礼を言って。

それから。

「ヒブリス!奥様大事にしないとダメだからね!」
「あぁ。分かったよ。」
「ロレンツォ殿下!ソフィアさんを大切にね。これからもシリル達をよろしく!」
「もちろん。分かってる。」

シルヴィアとカレンが、ヒブリスとロレンツォ殿下にそれぞれ一言口にして、それに対し、二人とも笑顔で頷いていた。
そして、カイトは僕の方を見て。

「シリル、また来るね。」
「あぁ。向こうでも元気で。」
「次会う時はきっと俺も働いてるだろうから、仕事の愚痴聞いてよ。シリルの愚痴も聞いたげるからさ。」
「そうか。お前も仕事頑張れよ。」
「うん。お互い頑張ろう。……元気でな!」

初めて出会った時より少し逞しくなった顔でニカッと笑ったカイトに、僕も笑みを返した。

そうして互いに別れの挨拶をしている内に、彼らの体はどんどん宙に上がっていって。
賑わう街の人々も、巫子達が異世界に帰るのだと分かって、皆、巫女様ー!巫子様~!って言って、手を振っている。

「ねぇ!折角だから、最後にいっちょぶちかましてやりなさいよ。」

いたずらっぽく笑うシルヴィアに、巫子達はポカンとした顔をしたが、すぐに気付いて顔を合わせた。

「ネオ!…ゼルヴィルツ!!一発どでかいの頼んだわよー!」

天に向かって叫んだシルヴィアは、巫子二人を見ると、頷いて。

「よぉ~し!最後にいっちょ、やったりますかー!」
「最後の最後に見せ場、持ってっちゃいましょー!」

消えかかってる体で、上空でそう叫んだ巫子達は、ふぅ、と大きく息を吐くと、大きく腕を広げて。

「結婚おめでとうー!」
「私達、巫女達から、皆様に感謝と祝福をー!」

そう言って、この場に居る大勢の人々に対して、実に広範囲に救済の術を施したのだ。
キラキラと輝く黄金色の光と共に、その場一体が救世の巫子の恩寵に包まれていた。

その様に驚き見惚れていると、もう、彼らの姿は目を凝らさないといけない程、消えかかってしまっていて。

しかし。

「わ!っとと。」
「シルヴィア!離れると危ないよ。」
「ありがと。カレンも、手握って。」
「うん。上手くいったみたいで良かった~。」

仲良く三人で手を取り合って、その姿は消えていったが。

「~~~カイト!僕はまだ、お前の事認めてないからなー!」

妙にシルヴィアとの距離が近いと訝しんだ僕は、もう何も無い空に向かって、カイトに向かって吠えていた。
隣でサフィルは苦笑し、ロレンツォ殿下は面白がって豪快に笑っていた。

「でも、心配して来て下さるなんて、良いご友人ですね。」

ポツリと呟いたサフィルに、僕はまだ消化不良の顔をしていたが。

「……そうだね。いつも突然だけど、一緒に泣いて笑って、してくれる……無二の親友なんだ。」

そう言って、寄り添ってくれる愛しい人に、僕はニコリと笑い返したのだった。
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