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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

60話 帰る場所があるという事

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日も沈みかけた頃、帰宅した僕を叔父様と叔母様は温かく迎えてくれた。
僕を心配して抱きしめてくれる二人は、幼かった僕を受け入れてくれた昔と変わらず優しい。
その優しさに甘えてばかりだったけれど。
大切に愛おしんでくれる。

「ありがとう……叔父様、叔母様。」

自然と口にした言葉に、二人はただ微笑んでくれて。
表へ飛び出して来たシャーロットとリチャードにもおかえり!と言われて、自然と笑みが零れる。
先に帰って来ていたシルヴィアやカレン、カイトだけでなく、ミストラルやレイラも出て来て。
皆に迎え入れられた。
夕食を終え、自室へ戻っていた子供達を見送ってから、僕は自室へ戻られた叔父様と叔母様の元へ失礼し、ハッキリと告げた。

「今日、学院でアルベリーニ卿に会いました。離れてみて分かったんです。僕、彼の事が好きです。……記憶はまだ朧気にしか思い出せないけれど、ちゃんと思い出したいって思いました。彼の為にも、自分の為にも。」

顔を上げてしっかりと言い切った僕に、二人は穏やかに笑んで頷いてくれたのだった。


朝。
まだ巫子達もぐっすり眠っている早めの時間。
そっと出ようとした僕を後ろから抱きとめたのは、シルヴィアだ。

「行くの?彼の所に。」
「……うん。もう少しで、思い出せそうな気がするんだ。」
「そっか…。怖くない?辛くはない?」
「正直怖いよ。でも、もう逃げたくない。こんなにも皆に大切にされているのが分かったんだもの。」

それを知ったから、目を背けず、向き合いたいと思えたんだ。
そう告げると、シルヴィアはその腕を解き、振り返る僕の額に己の額を重ね呟いた。

「行ってらっしゃい、お兄様。私は、巫子達と此処で待ってるから。帰ったら、また皆で一緒に遊びましょ。」

そう言って、見送ってくれた。

帰りを待ってくれる人が居る。
それは、迷子の様な今の僕には、とても心の支えになるものだった。

僕はテオを伴って、とある小さなお屋敷へと出向いた。

「お兄ちゃん!いらっしゃい!」

元気な声で飛び出して来たのは、僕より少し暗めのグレーシルバーの短髪とピーコックグリーンの瞳が綺麗な愛嬌のある少年、ウルだった。

「ウル…!こっちに着いたんだね。」
「うん!きのうの夜にね。」
「アデリートからわざわざ此処まで……ありがとう。」
「お兄ちゃん!ぼくねぇ、ビックリしちゃった!ほかにもこんなに魔術つかえる人がいるなんて!」

そう言って振り向いた視線の先に居たのは、僕と似た銀色の長髪を後ろで束ね、実母と同じ淡い紫色の瞳をした麗人、ヒブリス・ヴァルトシュタイン侯爵。
そして…。
その隣には、チャコールグレーの髪とアメジスト色の瞳が目を惹く……サフィル・アルベリーニ子爵令息。

「侯爵、長距離の移動大変でしたでしょう。僕の為に、ありがとうございました。」
「いいや。私がこうして動けるのも、お前に以前返してもらった魔力のお陰だ。だから、気にしないで欲しい。」
「そう言って下さるなら、分かりました。……アルベリーニ卿。」

まずは度重なる移動をしてくれた侯爵に礼を述べた後、卿の方へ向き直る。

「貴方も、ありがとう。常に僕を気遣ってくれて。」
「いいえ。私は何も出来ていません。」
「そんな事ないですよ。昨日も……僕の為に怒ってくれて、心配してくれて。大切にしてくれている事が嬉しかった。だから、どうして記憶を失うに至ったのか、その経緯をちゃんと知って……思い出したい。僕自身の事、貴方との事。」

その為の覚悟が、ようやく定まったのだ。
一人だけではきっと乗り越えられない。
でも、貴方が隣に居てくれるなら、きっと。

「お願いします。ウル、ヴァルトシュタイン侯爵。あの時何があったのか、この目で確かめたいんです。」
「分かった。」
「ウル、ごめんね。君にとってはきっと辛い事だろうに。」
「ううん。お兄ちゃんのやくにたてるなら、ぼく、がんばるよ。」

屋敷の中へと案内された僕は、此処の主であるロレンツォ殿下と王子妃のソフィア様とも再会した。
此処は以前殿下が、エウリルス学院に通われていた頃に借りておられたお屋敷だったそうで。
僕を心配し、長丁場になる可能性も勘案して、再度借りたのだそうだ。
母国の屋敷から数人だけ下男下女を呼び寄せ、当時の生活そのままにしばらく過ごされていた。
そして、此処に居るだろうとふんだヴァルトシュタイン侯爵が合流し、アデリート王宮のベルティーナ様の元へ置いて来たウルを、ロレンツォ殿下とソフィア様を伴って、数日をかけて移動に移動の術を重ね、この借り屋敷へ連れて来て下さったのだ。
礼を述べる僕に、殿下もソフィア様も柔和な笑みで受け入れてくれた。
ソフィア様は、少し涙ぐんだ瞳で。

「では、ウルの記憶を視てみよう。きっと全てが明らかになる筈だ。」

侯爵の言葉によって、部屋の壁に大きな画が、動く映像となって現れたのだった。
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