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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
55話 会いたい
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「……朝?」
窓から差し込む光で目を覚ます。
麗かな日差しの中から、優しい残響が耳を通り過ぎていく。
『おはようございます、シリル。気分はどうですか?』
『良い夢が見れるといいですね。』
(アルベリーニ卿……。そっか、此処には居ないんだった……)
居ない筈の彼の幻を視た気がして、伸ばしかけた手を止める。
彼に触れると無意識に震えてしまう己を案じ、僕を思う一心で、彼はその身を引いて離れるという選択肢を選んだ。
馴染みの懐かしい実家に戻れば、きっと気持ちも落ち着いて、体の方も休まるだろうと。
けれど、彼と離れた途端、不意に寂しさが胸をよぎるのだ。
彼は恐らく誰よりも、僕の記憶が戻る事を望んでいる。
でも、もし戻らなかったとしても構わない、とも言ってくれた。
どちらの自分でも、受け入れてくれる。
何よりも、僕自身を想ってくれる存在。
それはどれほどに幸せなものだろう?
(初めて彼にキ……触れられた時は、ビックリして叩いてしまった。でも、また触れられても、嫌な気はしなかった。それどころか…)
また、触れて欲しくなった。
その優しい手で、触れられて、見つめられて。
空っぽの心が、少しずつ満たされていく様な。
離れてから初めて気付くその存在の大きさに、今になって実感させられる。
(彼に、会いたいな。でも……)
サフィルの事、嫌じゃない。
それなのに、震えてしまう。
怖いと、思ってしまう。
触れて欲しいとすら思えるくらいなのに、どうして……恐れてしまうのか。
この相反する感情は何なのだろう。
どうすれば、その答えを見つけられる?
思い出せる?
(思い出したい……彼の事。もし、思い出せなくても……記憶を失くす前の僕の代替でも、いい。)
身代わりでもいい。
「アルベリーニ卿……」
貴方に会いたい。
その一言を口にするだけなのに、出来ないでいる。
こんな中途半端な自分では、彼に向き合う自信が無い。
以前の僕はどうしていたのだろう?
誰かに聞けばいいだけなのだろうが、聞いても何処か他人事にしか聞こえず、自分自身の事と捉えられない。
やっぱり僕は空っぽのまま。
それを自覚し、溜息と共にベッドを出たら。
「おはよーございます!シリル様!」
底抜けに明るいレイラの突撃に、冷ややかな顔で見やると。
「もー、相変わらずなんですからぁ~シリル様。でも、私が来る前に起きられる様になって、やっぱりご成長なさったんですねぇ~。」
「巫子達に治癒してもらって体調が戻ったからだよ。」
「でもぉー、昔は登校時間のギリギリまで起きようとなさらなかったじゃないですか。」
「行かなくていいなら極力行きたくなかったからさ。」
相変わらずレイラは僕を手のかかる子供扱いして来る。
懐かしくもあるが、煩わしくもある。
でも、僕にとってはそれが侍女レイラだ。
以前は監視役みたいだったけど、実情はただのお節介な侍女。
家族とテオ以外では、一番身近な存在だから。
気負わず言葉を零した。
「でも、いざ行かなくなると、懐かしくなっちゃうね。」
「まぁ!そう思える様になられたのは素敵な事じゃないですか?ヒブリスが戻るにも時間が掛かるでしょうし、久々に懐かしの学び舎へ足を運ばれては如何でしょう?」
「行っていいのかな?」
「許可を取れば大丈夫でしょう。是非皆様で行かれては?シルヴィア様や巫子様達もきっと喜ばれると思いますよ。」
シルヴィアはともかく巫子達も言われて、僕はう“…っ。と呻いたが。
一人で行ったとしても、どうせ付いて来るのは火を見るより明らかだ。
ましてや異世界からわざわざ僕を心配して来てくれたのだ。
彼らを少々邪険にしてしまっているきらいがあるのを自覚している僕は、早々に諦めてレイラの提案に同意した。
窓から差し込む光で目を覚ます。
麗かな日差しの中から、優しい残響が耳を通り過ぎていく。
『おはようございます、シリル。気分はどうですか?』
『良い夢が見れるといいですね。』
(アルベリーニ卿……。そっか、此処には居ないんだった……)
居ない筈の彼の幻を視た気がして、伸ばしかけた手を止める。
彼に触れると無意識に震えてしまう己を案じ、僕を思う一心で、彼はその身を引いて離れるという選択肢を選んだ。
馴染みの懐かしい実家に戻れば、きっと気持ちも落ち着いて、体の方も休まるだろうと。
けれど、彼と離れた途端、不意に寂しさが胸をよぎるのだ。
彼は恐らく誰よりも、僕の記憶が戻る事を望んでいる。
でも、もし戻らなかったとしても構わない、とも言ってくれた。
どちらの自分でも、受け入れてくれる。
何よりも、僕自身を想ってくれる存在。
それはどれほどに幸せなものだろう?
(初めて彼にキ……触れられた時は、ビックリして叩いてしまった。でも、また触れられても、嫌な気はしなかった。それどころか…)
また、触れて欲しくなった。
その優しい手で、触れられて、見つめられて。
空っぽの心が、少しずつ満たされていく様な。
離れてから初めて気付くその存在の大きさに、今になって実感させられる。
(彼に、会いたいな。でも……)
サフィルの事、嫌じゃない。
それなのに、震えてしまう。
怖いと、思ってしまう。
触れて欲しいとすら思えるくらいなのに、どうして……恐れてしまうのか。
この相反する感情は何なのだろう。
どうすれば、その答えを見つけられる?
思い出せる?
(思い出したい……彼の事。もし、思い出せなくても……記憶を失くす前の僕の代替でも、いい。)
身代わりでもいい。
「アルベリーニ卿……」
貴方に会いたい。
その一言を口にするだけなのに、出来ないでいる。
こんな中途半端な自分では、彼に向き合う自信が無い。
以前の僕はどうしていたのだろう?
誰かに聞けばいいだけなのだろうが、聞いても何処か他人事にしか聞こえず、自分自身の事と捉えられない。
やっぱり僕は空っぽのまま。
それを自覚し、溜息と共にベッドを出たら。
「おはよーございます!シリル様!」
底抜けに明るいレイラの突撃に、冷ややかな顔で見やると。
「もー、相変わらずなんですからぁ~シリル様。でも、私が来る前に起きられる様になって、やっぱりご成長なさったんですねぇ~。」
「巫子達に治癒してもらって体調が戻ったからだよ。」
「でもぉー、昔は登校時間のギリギリまで起きようとなさらなかったじゃないですか。」
「行かなくていいなら極力行きたくなかったからさ。」
相変わらずレイラは僕を手のかかる子供扱いして来る。
懐かしくもあるが、煩わしくもある。
でも、僕にとってはそれが侍女レイラだ。
以前は監視役みたいだったけど、実情はただのお節介な侍女。
家族とテオ以外では、一番身近な存在だから。
気負わず言葉を零した。
「でも、いざ行かなくなると、懐かしくなっちゃうね。」
「まぁ!そう思える様になられたのは素敵な事じゃないですか?ヒブリスが戻るにも時間が掛かるでしょうし、久々に懐かしの学び舎へ足を運ばれては如何でしょう?」
「行っていいのかな?」
「許可を取れば大丈夫でしょう。是非皆様で行かれては?シルヴィア様や巫子様達もきっと喜ばれると思いますよ。」
シルヴィアはともかく巫子達も言われて、僕はう“…っ。と呻いたが。
一人で行ったとしても、どうせ付いて来るのは火を見るより明らかだ。
ましてや異世界からわざわざ僕を心配して来てくれたのだ。
彼らを少々邪険にしてしまっているきらいがあるのを自覚している僕は、早々に諦めてレイラの提案に同意した。
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