全てを諦めた公爵令息の開き直り

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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

42話 傍に居て

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夕方になっても変わらずベッドから出て来なかったシリルだったが、ベルティーナ様とソフィアが顔を出しに来ていた。
またベッドに逆戻りしてしまったシリルにベルティーナ様は心配されたが、涙ぐむソフィアの脇をすり抜けて、元気一杯な塊が飛び込んで来る。

「お兄ちゃん!あそぼ!」

シリルのベッドに飛び乗ってはしゃぐウルは、周囲の雰囲気などお構いなしだ。

「こら、ウルちゃん。ダメよ、お兄さんはね…」
「あ。大丈夫ですよ、ベルティーナ様。頭痛は引きましたから。ウル、僕と一緒に遊ぼっか。」
「うん!やったぁ!」

シリルに軽々と抱っこされて喜ぶウルに、女性陣はまだ心配を滲ませたが。

「大丈夫です。夕食までには戻らせますから。ウルもたまには違うお部屋で遊びたいんだよね?」
「うん!」

シリルに言われて、側妃様とソフィアはそれ以上言わず、自室へと戻って行った。

「ちゃんとお昼寝した?」
「したよ!」
「本当に?ご飯の前に寝ちゃ駄目だよ?」
「だいじょーぶだもん。」

そんな他愛もないお喋りも、楽しい様だ。
気兼ねなく話すシリルの顔は、とてもリラックスして見えた。
ウルを抱っこしながら頭を撫でていると、この子も嬉しそうに身を寄せている。
そうしてしばらく、シリルはウルをあやしていたら、ふと零した。

「ウルはいい子だね…。寂しくない?」
「ベルさまもソフィアさまもやさしいし、お兄ちゃんもときどきあそんでくれるからすき。」
「ふふ、そっかぁ。」

小さな頭を撫でる手は優しい。
見つめる瞳も。
ご機嫌にシリルの腕に居るウルだったが、少し顔を曇らせた。

「でも、リム兄ちゃんにまた会いたい。」
「そうだね……。僕も、リックやロティーに会いたいな……。」
「え……。」

亡き実兄を想ってしゅんとするウルを憐れに思いながら、自身の気持ちを吐露するシリルの言葉に、私は思わず目を見張った。

「シリルは……エウリルスへ帰りたいんですか……?」

愕然とした顔で呟く様にして尋ねる私に気付き、シリルはハッとした表情を見せ。

「や、そ、そうじゃ…ないよ?ウルを見てたら、従弟達が懐かしくなっただけで。」
「此処では、いけませんか?此処なら、私や殿下にソフィア、ベルティーナ様も。アデリート国王陛下だって、貴方の事を気に掛けてらっしゃいます。此処で、この国で、貴方とはたくさんの思い出を作りました。それを、見て回るのではいけませんか?!」
「え。うん…分かった。それでいいよ?」
「…っ!貴方はどう考えてらっしゃるんです?!シリルッ!」

嫌だ。
行かないでほしい。
傍にいるって……絶対に離さないと、誓ったのに。

此処よりも、母国の方へ気持ちが傾いている様に見えて。
どうしても手放したくなくて、思わず彼の腕を掴んで叫んでしまう。

「い“っ!」
「私がずっとずっと傍にいます!不安に思うなら、ずっと支えますから!だからっ」

自分から引き剥がされて、急に乱暴に腕を掴まれたシリルを見て、ウルはビックリしてただポカンとしている。
シリルは痛がって顔を顰めてしまっているのに、私はそれでも手放す事など出来ず、縋る様な心地で詰め寄ってしまう。
だが、そこに入って来たのはテオだった。

「おい、サフィル!シリル様に何してるんだ!離せよ!」
「嫌だ!……いやだ。離したくないんだ。絶対に、離したくない!」
「ごめんなさい!僕は何処にも行かないから。貴方の言う通りにするから…。ちゃんと、思い出すから……っ」

駄々を捏ねる子供の様に離そうとしない私に対し、シリルは泣きそうな顔で必死に言って来る。
でも、私に従うと言いながら、掴んだその手は……また震えていて。

言葉とは裏腹に、彼は私に対して明らかに怯えている。
それを、今度こそまじまじと実感させられた。

「……すみません、ちょっと頭に血が上ってしまって。声を荒げてしまい、私の方こそごめんなさい。……頭、冷やしてきます。」

喉の奥から込み上げる熱いものをなんとか堪えて、私は彼から手を離し、部屋を出て行った。
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