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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
40話 改めて知る想い
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「随分話し込んでたな。……あのさ、」
シリルがお昼寝で休んだのを見届け、寝室を出て、応接間のソファーに腰掛けた私の顔を目にして、テオはかけて来た言葉を切った。
「?」
「いや、いい。それより、シリル様…何を言われてたんだ?」
「………。」
些か真剣な面持ちで尋ねられて。
眼前に座ったテオに対し、私は躊躇いつつも観念する様にして口を開いた。
「……シリルに、恋人である私達の関係性を尋ねられた。どの程度のものだったのかと。」
「それで?」
「ざっくりとしか言わなかったが、正直には答えたよ。」
「体の関係があるって?」
「!……あぁ。」
単刀直入に言って来るテオに若干の気後れを感じながら、それでも言葉を紡いだ。
「そうしたら、まぁ…案の定、驚かれたけど……こっちの方が驚かされた。」
「?」
「体の関係があるって言っているのに、ベッドへ手招きされて、隣に座ってと言うし。椅子で失礼して話をしたら、『貴方の事、よっぽど好きだったんだねぇ。』ってしみじみと言われて、涙する私を抱きしめてくれたよ。」
「……え。お前の事、思い出した訳でも無いのに?」
「そう。」
愕然とするテオに頷いた私だったが。
彼はハッと表情を変えた。
「あぁ、でも……表面的には思い出せなくても、心の奥底では消えずに残ってんのかな…」
「君がそんな期待を持たせる様な事言わないでくれ。……なんかもう、色々限界なんだ……。」
テオの言葉は何よりも甘美な希望だったが。
あれはただ単に私を憐れんで慰めてくれた、彼の本来持つ優しさ故なのだろう。
目覚めた時に私の頬を叩いた後も、すぐに申し訳ないと謝ってくれたし。
虚ろな目をして視線を落とす私を一瞥してから、それでもテオは口を開いた。
「……シリル様な。前世でお前と最悪な出逢いをしたのに、今世でまたお前と再会してさ。あれは……夏季休暇が終わって、後期授業が始まったすぐの頃だったかな。真っ赤に目を腫らして帰って来られた事があって。まだ前世を思い出す前のお前だったけど、好きになったと気付いて……絶望したんだって。」
「え……。」
「お前を好きになっても、想いを告げる訳にはいかない。恐らく、この貴族社会で生きていく為に、お前と一緒になる事は出来ない。お前を本当に大切に想うなら、手放さないといけない想いなのに…どうしても諦められなくて、もういっそ体を使ってくれるだけでもいいって。……お前を想って想い詰めて、酷く苦悩されていたんだ。」
「……。」
そんなにも思い詰めていたとは、知らなかった……。
あの寒い冬の日に、攫われたシリルを見つけて、自身の前世の記憶を思い出して。
その記憶に打ちのめされて、彼を拒絶してしまった。
その時流した彼の涙は、何よりも悲しみに満ちていた。
それは今でも、覚えているけれど。
「…なんで。シリル……。彼の立場なら、私を好きに弄んだって、何の問題にもならない。こちらは文句すら言える立場でも無いのに。どうして、そんな風に……」
「あんなにシリル様を何度も抱いたんだろう?だったら分かんねぇ?シリル様にとって、身分なんて足枷にしか過ぎないのかもな。いつも、お前が好きで、大切にしたくて、喜んで欲しくて、それだけ一生懸命だったんだよ。それだけは確かだ。」
「………うん。」
「あの冷静で慎重なシリル様が、お前が絡むと途端に無茶をなさるのも、只々お前を想うが故だ。諦めなければいけない筈だったお前と一緒になることが出来て、あの方にとって、これ以上とない幸福だったんだろう。そんなあの方を、傍でお支えして、お守りして差し上げたかったのに……。俺はまた、守れなかった。情けないかぎりだ。けど、落ち込んでばかりもいられない。」
後悔を、己の握る拳に込めるテオが、パッと顔を上げる。
「記憶を失くされたシリル様は、昔以上に不安の只中にいらっしゃる。どのような状態でも、あの方をお支えするのが俺の役目だ!だったら、俺は俺のするべき事をするまで。……お前は?」
強い決意を示した彼が、私にはただ静かな目で問うて来る。
「……私は。シリルが好きだ。愛している。だから、私は私なりに、シリルを支えたいと思う。彼の記憶を取り戻せる様に、出来る限りの事をする。」
「…………そうか。」
苦しかった胸の内は。
未だ苦しいままではあるが。
さっきのシリルの言葉とテオの話を聞いて、想いはより確かなものとなり。
自分のするべき方向性が見定まった事で、ほんの少し、前を向ける気になれた。
シリルがお昼寝で休んだのを見届け、寝室を出て、応接間のソファーに腰掛けた私の顔を目にして、テオはかけて来た言葉を切った。
「?」
「いや、いい。それより、シリル様…何を言われてたんだ?」
「………。」
些か真剣な面持ちで尋ねられて。
眼前に座ったテオに対し、私は躊躇いつつも観念する様にして口を開いた。
「……シリルに、恋人である私達の関係性を尋ねられた。どの程度のものだったのかと。」
「それで?」
「ざっくりとしか言わなかったが、正直には答えたよ。」
「体の関係があるって?」
「!……あぁ。」
単刀直入に言って来るテオに若干の気後れを感じながら、それでも言葉を紡いだ。
「そうしたら、まぁ…案の定、驚かれたけど……こっちの方が驚かされた。」
「?」
「体の関係があるって言っているのに、ベッドへ手招きされて、隣に座ってと言うし。椅子で失礼して話をしたら、『貴方の事、よっぽど好きだったんだねぇ。』ってしみじみと言われて、涙する私を抱きしめてくれたよ。」
「……え。お前の事、思い出した訳でも無いのに?」
「そう。」
愕然とするテオに頷いた私だったが。
彼はハッと表情を変えた。
「あぁ、でも……表面的には思い出せなくても、心の奥底では消えずに残ってんのかな…」
「君がそんな期待を持たせる様な事言わないでくれ。……なんかもう、色々限界なんだ……。」
テオの言葉は何よりも甘美な希望だったが。
あれはただ単に私を憐れんで慰めてくれた、彼の本来持つ優しさ故なのだろう。
目覚めた時に私の頬を叩いた後も、すぐに申し訳ないと謝ってくれたし。
虚ろな目をして視線を落とす私を一瞥してから、それでもテオは口を開いた。
「……シリル様な。前世でお前と最悪な出逢いをしたのに、今世でまたお前と再会してさ。あれは……夏季休暇が終わって、後期授業が始まったすぐの頃だったかな。真っ赤に目を腫らして帰って来られた事があって。まだ前世を思い出す前のお前だったけど、好きになったと気付いて……絶望したんだって。」
「え……。」
「お前を好きになっても、想いを告げる訳にはいかない。恐らく、この貴族社会で生きていく為に、お前と一緒になる事は出来ない。お前を本当に大切に想うなら、手放さないといけない想いなのに…どうしても諦められなくて、もういっそ体を使ってくれるだけでもいいって。……お前を想って想い詰めて、酷く苦悩されていたんだ。」
「……。」
そんなにも思い詰めていたとは、知らなかった……。
あの寒い冬の日に、攫われたシリルを見つけて、自身の前世の記憶を思い出して。
その記憶に打ちのめされて、彼を拒絶してしまった。
その時流した彼の涙は、何よりも悲しみに満ちていた。
それは今でも、覚えているけれど。
「…なんで。シリル……。彼の立場なら、私を好きに弄んだって、何の問題にもならない。こちらは文句すら言える立場でも無いのに。どうして、そんな風に……」
「あんなにシリル様を何度も抱いたんだろう?だったら分かんねぇ?シリル様にとって、身分なんて足枷にしか過ぎないのかもな。いつも、お前が好きで、大切にしたくて、喜んで欲しくて、それだけ一生懸命だったんだよ。それだけは確かだ。」
「………うん。」
「あの冷静で慎重なシリル様が、お前が絡むと途端に無茶をなさるのも、只々お前を想うが故だ。諦めなければいけない筈だったお前と一緒になることが出来て、あの方にとって、これ以上とない幸福だったんだろう。そんなあの方を、傍でお支えして、お守りして差し上げたかったのに……。俺はまた、守れなかった。情けないかぎりだ。けど、落ち込んでばかりもいられない。」
後悔を、己の握る拳に込めるテオが、パッと顔を上げる。
「記憶を失くされたシリル様は、昔以上に不安の只中にいらっしゃる。どのような状態でも、あの方をお支えするのが俺の役目だ!だったら、俺は俺のするべき事をするまで。……お前は?」
強い決意を示した彼が、私にはただ静かな目で問うて来る。
「……私は。シリルが好きだ。愛している。だから、私は私なりに、シリルを支えたいと思う。彼の記憶を取り戻せる様に、出来る限りの事をする。」
「…………そうか。」
苦しかった胸の内は。
未だ苦しいままではあるが。
さっきのシリルの言葉とテオの話を聞いて、想いはより確かなものとなり。
自分のするべき方向性が見定まった事で、ほんの少し、前を向ける気になれた。
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