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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
35話 手放したもの
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「記憶…喪失……」
「何で、シリルがこんな目に……」
皆が愕然と固まる中飛び込んで来たのは、ジーノが連れて来た王宮の侍医だった。
あまりの衝撃に茫然としたまま侍医に事情を説明し、その診断を待ったが……。
その者の診断はやはり。
記憶喪失。
そう、告げられた。
しかし、自身の名前や従者のテオの名前は憶えており、また、シリルが口にした内容が。
『ここは何処ですか?僕の部屋じゃないみたいですが……。』
『アデリート?!何で隣国に?!……もしかして、僕はエウリルスを追放でもされたんですか?!』
『……僕はクレイン公爵家の者で、エウリルス王立学院に通う生徒の一人に過ぎず、貴国とは何の関りも無い筈です。それなのにどうしてっ』
話せば話す程酷く混乱し出したシリルは、頭痛を訴えてテオに縋り付き、私を含む周囲の人間を恐れて遠ざけてしまった。
心配になって手を伸ばしかけるも、顔を背けて拒絶され、抱きしめる事もままならない。
仕方なく、テオに側付きを任せ、私達は彼の休む部屋を出て、ベルティーナ様の部屋に集まった。
でも、この事態を受け止めきれずにただ茫然とするしか出来ない。
「シリル様……テオ様以外、誰の事も分かってらっしゃらなかった……。」
「私達はおろか、サフィルの事まで憶えてないだなんて……どうしてこんな事に…。」
涙を浮かべて呟くソフィアに、隣に寄り添う様にソファーに座られたベルティーナ様も涙ぐまれる。
その後、シリルが幾分落ち着いたのを見計らって、改めて侍医が診察して出た結論は。
「……俺達に出逢ってからの記憶を無くしている…」
「えぇ。正確には、救世の巫子カイトさんが降臨される前までの記憶しかありませんでした。侍医様が退室された後、尋ねてみたんです。そうしたら、実は前世の記憶があって、前世はシルヴィア様であった事やユリウス王太子殿下やカレンさんと関係がこじれてしまった事は覚えていらっしゃいました。そして、貴方方がエウリルス学院に留学生として在籍しているという事は認識されていましたが、直接拝見した事は無いからお顔は知らない、と仰っていましたよ。サフィル、お前の事も同様だった。」
シリルが眠ったのを確認してから、自室の応接間にてテオから状況を聞いた私達は、改めてその事実に打ちのめされた。
口にするテオもまた心苦しい様子ではあったが、それでも詳細を丁寧に教えてくれた。
侍医曰く、その時の詳しい状況は分からないので何とも言えないが、マルシオ達に捕まっていた際に頭を強く打ち付けてしまったのか、もしくは、何らかの精神的ショックを受けた事により、記憶障害が起きているのだろう。
急に突然記憶が戻るかもしれない、徐々に戻って来るかも知れない。
しかし、場合によっては一生戻らずこのままかも知れない。
……と。
「魔術による影響……は、考えられないだろうか?」
テオ達は、シリルが解放した膨大な魔力の渦を目にして、その居場所を特定する事が出来た。
それなら、その事が原因で、今回のこの状況が起きてしまったのでは?
シリルの中から自身の存在が消えてしまった事に絶望しながら、それでも尚、微かな希望に縋り付きたい。
虚ろな目で尋ねる私に、テオはぐっと表情を歪めた。
「その可能性も、あるかもしれない。……もしそうなら、ヴァルトシュタイン侯爵の見立てに縋るしかないが……。侍医様が言ってたんだ。もし、何か強い心理的負荷がかかり、それで辛い事を忘れる事で自己防衛をしたのなら、シリル様は……辛くて、忘れたくて、その記憶を手放してしまった可能性がある。その場合、その記憶を取り戻すのは、シリル様にとってかなりの苦痛を伴う筈だから、慎重に対応しなければならない、って。」
「辛くて、忘れたいって……」
「俺はそれに思い当たる節がある。……ここ最近、シリル様は様子がおかしかった。酷く落ち込んでいらっしゃる様に見えたんだ。でも、俺が尋ねても曖昧に笑うだけで答えて下さらなかったし。ただ、見ていて分かった。サフィル、お前との間で何かあったんじゃないか?」
「……っ!」
落ち着いた声音で尋ねられ、瞳の奥を探られる。
しかし、向けられるその視線に、私は逸らす事しか出来ない。
「何か意見の食い違いか、喧嘩でもしたのか?」
「そんな事はっ!ない…けど……」
「けど、何だよ。」
「私も……分からないんだ。ほんの数日前から…急に。あの夜の事は、途中から私も記憶が定かじゃなくて……。沸騰した頭で、何か酷い事を口走ってしまっていたのかと思って、次の日シリルに謝罪したんです。何か失礼な事を言ってしまったのなら、って。でも、シリルは……」
深い眠りから醒めて、昨夜の余韻も抜け、やっと意識がはっきりして。
隣で身じろぐシリルを抱きしめて、おはようと耳元で囁いたら。
泣きそうな顔で、力なく呟く様な返事が戻って来て。
それで、きっと自分が何かやらかしたのだと思い至って、ベッドの上に土下座し、必死になって謝ったのだが。
『サフィルは何も悪くないよ。』
そう、口にされるのみで。
悲しそうな、苦し気な表情を見せるのに、その理由を決して口にはしてくれなかった。
「俺も尋ねたけど、何も答えて下さらなかった。」
きっと、シリルを悲しませた元凶であろう私に、それでも怒りを滲ませる事は無く、むしろ、支えに成りきれなかった自身を悔やむ様に、テオはギュッと拳を握りしめる。
「……はぁ。いい感じに打ち解けてきたと思ってたのに。忘れられるって、結構キツいもんだな。」
深い溜息をついて、殿下は項垂れた。
いつも威勢よくしておられる分、落ち込みが大きい様に見受けられる。
そして、その背後に立つジーノも、同じくショックを受けていた。
「アイツ、物覚えの悪い俺なんかにも、貶したりせずに根気よくゆっくり教えてくれるんだ。ホントに良い奴なのに。もう、あんな風には戻れねぇのか……?」
誰に問うでもなく零されたジーノの言葉は、私には到底受け入れられなかった。
「そんな筈ないっ!シリルなら絶対思い出せる!また笑ってくれる筈だ!!」
そう、叫んで。
勢い良く立ち上がると、居ても立ってもいられなくなって、私はシリルが眠る自室の寝室へ飛び込んで行った。
「シリルッ!」
「はい?……あ。」
ベッドに横たわっていた彼の眠りを妨げてでも、応えて欲しくて。
名を叫んで部屋へ飛び込んだら。
シリルは目を覚ましていた様で、体を起こして枕を背に当てて凭れていた。
「あ。すみません、大きな声で。」
「ううん。こちらこそ…………さっきは失礼しました。いきなりでビックリしたとは言え、貴方の頬を、その、叩いてしまって。」
目が合うと彼は、先程の己の所業を恥じて、詫びてくれたが。
それよりも、若干他人行儀に話すシリルに、寂しくなる。
「気にしないで下さい。驚かせてしまった私が悪いのです。」
「え…と、その。貴方はアルベリーニ卿……なんですよね?」
「はい。サフィル・アルベリーニです。」
「サフィル……アルベリーニ…。エウリルス学院にロレンツォ殿下の側近として留学に同行されてらっしゃる、というのは聞き及んでいたのを覚えているんですが。貴方は確か専学科でしたよね?普通科の僕とどういった接点があったんでしょう?」
本当に、私達が出逢う前までの事しか、覚えていないのか。
キョトンとした顔で尋ねて来る彼の言葉に、私は改めて現実を突き付けられた。
私は、こんなにも貴方を知っているのに。
「恋人です。ですから、目覚めた貴方に私はキスを…」
「え?…は?…え。恋人?……いや。いやいやいや。僕を揶揄ってるんですか?嘘でしょう?!」
「嘘なんかじゃないっ!私はっ」
よりにもよって、貴方に!
最愛の貴方に、自分達の関係を嘘だと断じられて。
身を割かれる想いだった。
吐かれた言葉を信じたくなくて、私は彼の頬を両手で掴んだ。
そして、顔をグッと寄せる。
酷い事を口にするその唇を封じたくて、己の唇を重ねようとしたら。
「やっ!」
少しやつれて細くなってしまった彼の両腕で、突き飛ばされてしまった。
「サフィルッ!お前、何してんだよ!」
決して強い力ではなかったが、それ以上に精神的ショックが大きくて、私は後ろに大きくよろめいた。
その様子を目にしたテオによって、シリル様を奪われる。
「記憶の無い今の状態のシリル様に無体を働くなんて、いくらお前でも許さねぇぞ!」
強い口調で窘められて、ようやくハッとなって目線を上げると。
テオに庇われて、カタカタと震えながらも明らかに怒りを滲ませているシリル様の姿が目に入った。
「シリル…」
「はぁ、はぁ…っ!何、しようとするんだよ。貴方と恋人?僕が?……なんだよ、僕はこれでも一応男なんだけど。いくら女顔って揶揄われた事があるにしても、ここまでの扱いを受けるなんて……っ!それとも、何か貴方の不興を買う様な事をしてしまいました?」
「シリル様、落ち着いて……っ」
「いくら引き篭もりのつまらない奴だからって、こんな揶揄い方、酷過ぎる!罵りたければ好きなだけ罵ればいいけど、こんなっ…こんな……あれ……?」
興奮して怒りを顕わにするシリルだったが、急にその藍色の美しい瞳が滲み、涙がポロリと零れ落ちて。
そして、頭を抱えて呻き出した。
「う…っ!い、痛…っ頭が…」
「シリル様、しっかり!」
肩をテオに支えられて、シリルはその腕の中に縋り付き、痛みに呻いてしまう。
「シリル!」
私が再び彼の名を叫んだ時、彼はまた気を失ってベッドに頭を沈めてしまった。
「何で、シリルがこんな目に……」
皆が愕然と固まる中飛び込んで来たのは、ジーノが連れて来た王宮の侍医だった。
あまりの衝撃に茫然としたまま侍医に事情を説明し、その診断を待ったが……。
その者の診断はやはり。
記憶喪失。
そう、告げられた。
しかし、自身の名前や従者のテオの名前は憶えており、また、シリルが口にした内容が。
『ここは何処ですか?僕の部屋じゃないみたいですが……。』
『アデリート?!何で隣国に?!……もしかして、僕はエウリルスを追放でもされたんですか?!』
『……僕はクレイン公爵家の者で、エウリルス王立学院に通う生徒の一人に過ぎず、貴国とは何の関りも無い筈です。それなのにどうしてっ』
話せば話す程酷く混乱し出したシリルは、頭痛を訴えてテオに縋り付き、私を含む周囲の人間を恐れて遠ざけてしまった。
心配になって手を伸ばしかけるも、顔を背けて拒絶され、抱きしめる事もままならない。
仕方なく、テオに側付きを任せ、私達は彼の休む部屋を出て、ベルティーナ様の部屋に集まった。
でも、この事態を受け止めきれずにただ茫然とするしか出来ない。
「シリル様……テオ様以外、誰の事も分かってらっしゃらなかった……。」
「私達はおろか、サフィルの事まで憶えてないだなんて……どうしてこんな事に…。」
涙を浮かべて呟くソフィアに、隣に寄り添う様にソファーに座られたベルティーナ様も涙ぐまれる。
その後、シリルが幾分落ち着いたのを見計らって、改めて侍医が診察して出た結論は。
「……俺達に出逢ってからの記憶を無くしている…」
「えぇ。正確には、救世の巫子カイトさんが降臨される前までの記憶しかありませんでした。侍医様が退室された後、尋ねてみたんです。そうしたら、実は前世の記憶があって、前世はシルヴィア様であった事やユリウス王太子殿下やカレンさんと関係がこじれてしまった事は覚えていらっしゃいました。そして、貴方方がエウリルス学院に留学生として在籍しているという事は認識されていましたが、直接拝見した事は無いからお顔は知らない、と仰っていましたよ。サフィル、お前の事も同様だった。」
シリルが眠ったのを確認してから、自室の応接間にてテオから状況を聞いた私達は、改めてその事実に打ちのめされた。
口にするテオもまた心苦しい様子ではあったが、それでも詳細を丁寧に教えてくれた。
侍医曰く、その時の詳しい状況は分からないので何とも言えないが、マルシオ達に捕まっていた際に頭を強く打ち付けてしまったのか、もしくは、何らかの精神的ショックを受けた事により、記憶障害が起きているのだろう。
急に突然記憶が戻るかもしれない、徐々に戻って来るかも知れない。
しかし、場合によっては一生戻らずこのままかも知れない。
……と。
「魔術による影響……は、考えられないだろうか?」
テオ達は、シリルが解放した膨大な魔力の渦を目にして、その居場所を特定する事が出来た。
それなら、その事が原因で、今回のこの状況が起きてしまったのでは?
シリルの中から自身の存在が消えてしまった事に絶望しながら、それでも尚、微かな希望に縋り付きたい。
虚ろな目で尋ねる私に、テオはぐっと表情を歪めた。
「その可能性も、あるかもしれない。……もしそうなら、ヴァルトシュタイン侯爵の見立てに縋るしかないが……。侍医様が言ってたんだ。もし、何か強い心理的負荷がかかり、それで辛い事を忘れる事で自己防衛をしたのなら、シリル様は……辛くて、忘れたくて、その記憶を手放してしまった可能性がある。その場合、その記憶を取り戻すのは、シリル様にとってかなりの苦痛を伴う筈だから、慎重に対応しなければならない、って。」
「辛くて、忘れたいって……」
「俺はそれに思い当たる節がある。……ここ最近、シリル様は様子がおかしかった。酷く落ち込んでいらっしゃる様に見えたんだ。でも、俺が尋ねても曖昧に笑うだけで答えて下さらなかったし。ただ、見ていて分かった。サフィル、お前との間で何かあったんじゃないか?」
「……っ!」
落ち着いた声音で尋ねられ、瞳の奥を探られる。
しかし、向けられるその視線に、私は逸らす事しか出来ない。
「何か意見の食い違いか、喧嘩でもしたのか?」
「そんな事はっ!ない…けど……」
「けど、何だよ。」
「私も……分からないんだ。ほんの数日前から…急に。あの夜の事は、途中から私も記憶が定かじゃなくて……。沸騰した頭で、何か酷い事を口走ってしまっていたのかと思って、次の日シリルに謝罪したんです。何か失礼な事を言ってしまったのなら、って。でも、シリルは……」
深い眠りから醒めて、昨夜の余韻も抜け、やっと意識がはっきりして。
隣で身じろぐシリルを抱きしめて、おはようと耳元で囁いたら。
泣きそうな顔で、力なく呟く様な返事が戻って来て。
それで、きっと自分が何かやらかしたのだと思い至って、ベッドの上に土下座し、必死になって謝ったのだが。
『サフィルは何も悪くないよ。』
そう、口にされるのみで。
悲しそうな、苦し気な表情を見せるのに、その理由を決して口にはしてくれなかった。
「俺も尋ねたけど、何も答えて下さらなかった。」
きっと、シリルを悲しませた元凶であろう私に、それでも怒りを滲ませる事は無く、むしろ、支えに成りきれなかった自身を悔やむ様に、テオはギュッと拳を握りしめる。
「……はぁ。いい感じに打ち解けてきたと思ってたのに。忘れられるって、結構キツいもんだな。」
深い溜息をついて、殿下は項垂れた。
いつも威勢よくしておられる分、落ち込みが大きい様に見受けられる。
そして、その背後に立つジーノも、同じくショックを受けていた。
「アイツ、物覚えの悪い俺なんかにも、貶したりせずに根気よくゆっくり教えてくれるんだ。ホントに良い奴なのに。もう、あんな風には戻れねぇのか……?」
誰に問うでもなく零されたジーノの言葉は、私には到底受け入れられなかった。
「そんな筈ないっ!シリルなら絶対思い出せる!また笑ってくれる筈だ!!」
そう、叫んで。
勢い良く立ち上がると、居ても立ってもいられなくなって、私はシリルが眠る自室の寝室へ飛び込んで行った。
「シリルッ!」
「はい?……あ。」
ベッドに横たわっていた彼の眠りを妨げてでも、応えて欲しくて。
名を叫んで部屋へ飛び込んだら。
シリルは目を覚ましていた様で、体を起こして枕を背に当てて凭れていた。
「あ。すみません、大きな声で。」
「ううん。こちらこそ…………さっきは失礼しました。いきなりでビックリしたとは言え、貴方の頬を、その、叩いてしまって。」
目が合うと彼は、先程の己の所業を恥じて、詫びてくれたが。
それよりも、若干他人行儀に話すシリルに、寂しくなる。
「気にしないで下さい。驚かせてしまった私が悪いのです。」
「え…と、その。貴方はアルベリーニ卿……なんですよね?」
「はい。サフィル・アルベリーニです。」
「サフィル……アルベリーニ…。エウリルス学院にロレンツォ殿下の側近として留学に同行されてらっしゃる、というのは聞き及んでいたのを覚えているんですが。貴方は確か専学科でしたよね?普通科の僕とどういった接点があったんでしょう?」
本当に、私達が出逢う前までの事しか、覚えていないのか。
キョトンとした顔で尋ねて来る彼の言葉に、私は改めて現実を突き付けられた。
私は、こんなにも貴方を知っているのに。
「恋人です。ですから、目覚めた貴方に私はキスを…」
「え?…は?…え。恋人?……いや。いやいやいや。僕を揶揄ってるんですか?嘘でしょう?!」
「嘘なんかじゃないっ!私はっ」
よりにもよって、貴方に!
最愛の貴方に、自分達の関係を嘘だと断じられて。
身を割かれる想いだった。
吐かれた言葉を信じたくなくて、私は彼の頬を両手で掴んだ。
そして、顔をグッと寄せる。
酷い事を口にするその唇を封じたくて、己の唇を重ねようとしたら。
「やっ!」
少しやつれて細くなってしまった彼の両腕で、突き飛ばされてしまった。
「サフィルッ!お前、何してんだよ!」
決して強い力ではなかったが、それ以上に精神的ショックが大きくて、私は後ろに大きくよろめいた。
その様子を目にしたテオによって、シリル様を奪われる。
「記憶の無い今の状態のシリル様に無体を働くなんて、いくらお前でも許さねぇぞ!」
強い口調で窘められて、ようやくハッとなって目線を上げると。
テオに庇われて、カタカタと震えながらも明らかに怒りを滲ませているシリル様の姿が目に入った。
「シリル…」
「はぁ、はぁ…っ!何、しようとするんだよ。貴方と恋人?僕が?……なんだよ、僕はこれでも一応男なんだけど。いくら女顔って揶揄われた事があるにしても、ここまでの扱いを受けるなんて……っ!それとも、何か貴方の不興を買う様な事をしてしまいました?」
「シリル様、落ち着いて……っ」
「いくら引き篭もりのつまらない奴だからって、こんな揶揄い方、酷過ぎる!罵りたければ好きなだけ罵ればいいけど、こんなっ…こんな……あれ……?」
興奮して怒りを顕わにするシリルだったが、急にその藍色の美しい瞳が滲み、涙がポロリと零れ落ちて。
そして、頭を抱えて呻き出した。
「う…っ!い、痛…っ頭が…」
「シリル様、しっかり!」
肩をテオに支えられて、シリルはその腕の中に縋り付き、痛みに呻いてしまう。
「シリル!」
私が再び彼の名を叫んだ時、彼はまた気を失ってベッドに頭を沈めてしまった。
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