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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
31話 捜索
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「シリル様?!」
「…え?」
急に主人の名を叫んだ俺、テオドール・ランベルトの声に驚いて、腕の中で顔を顰めていたソフィア様は思わず振り向かれる。
「シリル様が、サンマルティーニ嬢を追って、人混みの中へ!」
「!!…人がどんどん増えてる。私の所為で、なんて事…。すぐ行って下さい!」
「はい!ソフィア様はカルラ様と先に戻って下さいね!足を痛められている様ですので!」
「……はい、すみません。」
泣きそうになられる彼女を側付きの侍女に任せて、俺はさっき見た人混みの中へ飛び入った。
やや乱暴に周囲の者に下がる様に怒鳴り付けると、人々は怪訝な顔や怯えた顔をしながら俺を避けたが。
「コレ……シリル様の。」
人々が避けた事で見えた地面に転がっていたのを、俺は震える手で拾い上げた。
それは、シリル様が履いておられた片側の靴だ。
でも、周囲を見回しても、目に入って来るのは俺を訝しい目で見て来る者達だけで、主人らしき人影が見当たらない。
そうこうしている内に伯爵家の馬車は到着し、伯爵夫人がヴィオラ様と共に場を取り仕切っている。
「エリアナは?あの子は何処に?」
娘の姿が見当たらないのに気付いた夫人は、急に落ち着きを失くしてキョロキョロと周囲を見回したが。
「馬車の到着の遅れを気にして呼びに行こうとされ、すれ違ったのやも。うちのシリル様も彼女を追ってお姿を消されました。」
「何ですって?!」
「シリル様も?!」
夫人と共に、ヴィオラ様も驚愕される。
「夫人は、ヴィオラ様と共に、カルラ様と足を負傷したソフィア様をお連れして、先に王宮の方へ行って下さい!大丈夫です、お二人は必ず我々が見つけますから。」
周囲の護衛騎士数名に視線を送ると、意味を理解した騎士らは軽く頷いてくれた。
「娘をお願いします…!」
酷く心配する夫人に再度強く頷き、不安げに瞳を揺らすソフィア様を馬車へと促し。
俺は護衛騎士らに連れられて王宮へ戻る馬車の後姿を見送った。
そして、シリル様とエリアナ嬢の捜索の為に残ってくれた三名の騎士らに、先程目にした状況を伝え、協力を願い出た。
「……という訳なのです。すみませんが、どうぞお二人の捜索の方、ご協力をお願い致します。」
「分かった。急に馬が暴走した事と言い、嫌な予感がする。気を引き締めて、急ぐぞ。」
「ハイッ!」
「了解」
俺の申し出に、三名の騎士達は強く頷いてくれ、直ぐに動き出してくれた。
そうして、周囲一帯をくまなく探し、散り散りに去って行く人々にも捕まえては尋ねたが、皆その時の意識は倒れていた王女様の方に向いており、誰一人としてその視線と反対方向へ走って行く令嬢も令息の事も、全く記憶に留めていなかった。
小一時間探し回っても、最初に手にしたシリル様の靴以外見つからず、気持ちばかりが焦りながら途方に暮れていた時。
ブワ————ッ。
自身の背後から物凄い嵐が宙に狂い穿つのを感じた。
ゾワリと全身の毛が逆撫でされる。
……この気配を、俺は知っている。
以前にも感じた、この感覚。
途轍もない膨大な力の渦が、嵐の様に逆巻き、荒れ狂う。
(————あの時と同じだ。)
シリル様!!
この力の暴走は、この気配は。
以前、彼の方が姿を消され、己の魔力を解放されたあの時と……同じ。
驚く騎士らを先導し、俺は一目散にその力の渦巻く方へ向かって行った。
「…え?」
急に主人の名を叫んだ俺、テオドール・ランベルトの声に驚いて、腕の中で顔を顰めていたソフィア様は思わず振り向かれる。
「シリル様が、サンマルティーニ嬢を追って、人混みの中へ!」
「!!…人がどんどん増えてる。私の所為で、なんて事…。すぐ行って下さい!」
「はい!ソフィア様はカルラ様と先に戻って下さいね!足を痛められている様ですので!」
「……はい、すみません。」
泣きそうになられる彼女を側付きの侍女に任せて、俺はさっき見た人混みの中へ飛び入った。
やや乱暴に周囲の者に下がる様に怒鳴り付けると、人々は怪訝な顔や怯えた顔をしながら俺を避けたが。
「コレ……シリル様の。」
人々が避けた事で見えた地面に転がっていたのを、俺は震える手で拾い上げた。
それは、シリル様が履いておられた片側の靴だ。
でも、周囲を見回しても、目に入って来るのは俺を訝しい目で見て来る者達だけで、主人らしき人影が見当たらない。
そうこうしている内に伯爵家の馬車は到着し、伯爵夫人がヴィオラ様と共に場を取り仕切っている。
「エリアナは?あの子は何処に?」
娘の姿が見当たらないのに気付いた夫人は、急に落ち着きを失くしてキョロキョロと周囲を見回したが。
「馬車の到着の遅れを気にして呼びに行こうとされ、すれ違ったのやも。うちのシリル様も彼女を追ってお姿を消されました。」
「何ですって?!」
「シリル様も?!」
夫人と共に、ヴィオラ様も驚愕される。
「夫人は、ヴィオラ様と共に、カルラ様と足を負傷したソフィア様をお連れして、先に王宮の方へ行って下さい!大丈夫です、お二人は必ず我々が見つけますから。」
周囲の護衛騎士数名に視線を送ると、意味を理解した騎士らは軽く頷いてくれた。
「娘をお願いします…!」
酷く心配する夫人に再度強く頷き、不安げに瞳を揺らすソフィア様を馬車へと促し。
俺は護衛騎士らに連れられて王宮へ戻る馬車の後姿を見送った。
そして、シリル様とエリアナ嬢の捜索の為に残ってくれた三名の騎士らに、先程目にした状況を伝え、協力を願い出た。
「……という訳なのです。すみませんが、どうぞお二人の捜索の方、ご協力をお願い致します。」
「分かった。急に馬が暴走した事と言い、嫌な予感がする。気を引き締めて、急ぐぞ。」
「ハイッ!」
「了解」
俺の申し出に、三名の騎士達は強く頷いてくれ、直ぐに動き出してくれた。
そうして、周囲一帯をくまなく探し、散り散りに去って行く人々にも捕まえては尋ねたが、皆その時の意識は倒れていた王女様の方に向いており、誰一人としてその視線と反対方向へ走って行く令嬢も令息の事も、全く記憶に留めていなかった。
小一時間探し回っても、最初に手にしたシリル様の靴以外見つからず、気持ちばかりが焦りながら途方に暮れていた時。
ブワ————ッ。
自身の背後から物凄い嵐が宙に狂い穿つのを感じた。
ゾワリと全身の毛が逆撫でされる。
……この気配を、俺は知っている。
以前にも感じた、この感覚。
途轍もない膨大な力の渦が、嵐の様に逆巻き、荒れ狂う。
(————あの時と同じだ。)
シリル様!!
この力の暴走は、この気配は。
以前、彼の方が姿を消され、己の魔力を解放されたあの時と……同じ。
驚く騎士らを先導し、俺は一目散にその力の渦巻く方へ向かって行った。
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