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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする
26話 昏い情欲 ※
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「あー?!僕のなのにっ」
体力と持久力向上の期待を込めて服用するつもりだったのに。
元々その体力も持久力も僕より遥か上回っているサフィルが飲んで、どうするんだよ?!
愕然とする僕をよそに、空になった瓶を傍のナイトテーブルの上にダンッと音を立てて置いたサフィルは。
口の端に零れた液体を手の甲でグイと拭って、改めて僕の方に視線を向けて来て。
「ふーっ、ふーっ。」
「……え“。サフィル?だいじょ…うあっ!」
低い声で唸る彼は、獲物でも狙っているギラついた目をしながらこちらを見て来て。
明らかに正気じゃなさそうな彼の様子が心配になったが。
恐る恐る手を伸ばしかけるも、それぞれ手首をガシッと強い力で掴まれて、そのまま後ろのベッドに無理矢理に押し倒された。
「ふーっ。ふふ。貴方も思い知ればいい。私が本当はどれだけ貴方を貪り尽くしても足りないんだって事……。」
「ん。そ、そうだよ。いつも言ってるじゃない。さらけ出してくれていいよ。好きにしてくれていいから。」
「貴方は分かっていない。本当にそんな事をすれば、嫌われて愛想をつかされてしまうかもしれないと、恐れている私の気持ちなんて。」
「僕はこれでもそんなにヤワなつもりじゃない。貴方に我慢を強いる方が、僕にとっては辛いんだ。」
いつもこれでもかという程に、僕に気を遣ってくれる彼に。
知らずと我慢を強いてしまっている彼に。
僕はこんな形でしか、貴方に応える事が出来ない。
いいや、応えられる方法があるのなら、それこそ本望なんだ。
全力で応えたい。
気圧されそうになりながら、その心地に溺れる事さえも望ましい。
相手に呑まれていく感覚に陶酔しながら、彼の強い視線に向き合うと。
うっそりと媚薬の効果に理性を飲み込まれながら、彼の顔がゆっくりと近付く。
そして、首筋を這う様に啄まれ、そのもどかしさに身を捩ると。
「い“っ!!」
啄まれていた筈のその首の付け根辺りに、急に鋭い痛みを感じて。
ビックリして目を見開いたら。
その上には彼の白い歯が鋭く光って見える。
(あの時の……!あっ)
噛まれた。
初めて彼に暴かれた、あの時の様に。
また、生理的な涙がじわりと滲んでしまった。
そして、また舐められる。
あの時と同じ様に、ぴちゃぴちゃといやらしく、聞かせる様にわざと音を立てながら。
「あっ……んぁっ」
「……ふ。素敵だ。最高です。何度目にしても、いつだって見惚れてしまう、何の穢れも無い、透き通った白磁の様なこの肌に、首筋に……」
首筋から、その唇を離して顔を上げ。
痛みの後の快感に身を捩る僕の頬に触れ、そうして噛み付いたその首筋を優しく撫でられ、ゾクリと全身が粟立つ。
その僕の反応にすら、昏い目をして悦びに感じ入りながら。
「こんな己の欲望の証を刻み付けられるのは、私だけしか許されないと思うと、どうにも堪らなくなる。」
「ふ。んっ」
「あぁ。痛みに呻くそのかんばせすら、艶めかしくて。もっと欲しくなってしまう。」
「サ、フィル…」
妖しい手付きで傷跡を撫で回す。
脅かす様に囁いて来る彼は、しかし、僕の涙をペロッと舐め取った。
「でも、苦しませたい訳じゃない。痛めつけたい訳じゃなかった……。それなのに。初めて貴方に触れた時、貴方のその得も言われぬ色香に酔いしれて、自身の痕を刻み付けた時。自分でも気付かなかった。己の中に、こんなに昏い欲望があったなんて。その衝動は、今でも忘れられない。許されざる罪の記憶なのに、貴方のその無垢な白い肌に触れると、また刻み付けたくなってしまう。何度も何度も刻み付けて、己の物だって叫びたくなる様な衝動に駆られるんです。」
薬の効き目に酔いながら、朦朧とした頭で罪を独白する様な彼は。
苦悶に満ちた表情で、ポタリと一滴の涙を零す。
「最低でしょう?浅ましいでしょう?……あんな。残酷に暴いて傷付けたのに、貴方は許して下さった。それどころか、こんな私に……好きだと。愛おしいと、言って愛をくれるのに。それなのに私は。未だに、こんな醜い衝動を持ち続けている。本当は、ただただ何処までも優しく蕩けさせて、心地良くして差し上げたいのに。時折、どうしても我慢できなくなる時があるんです。」
「……いいじゃない。」
「………え。」
「いいじゃない、それで。僕は、ただ貴方に甘えさせて欲しい訳じゃない。もちろん、甘えさせてくれるのも、優しくしてくれるのも大好きだけど……。強い衝動でどうしようもなく求められるのが、堪らなく愛おしいんだ。嬉しいんだよ。前にも言った筈だよ。貴方に求められるのが、何よりも嬉しいんだ。だから、貴方の好きにしていいって言ってるんだよ!」
前にも言った。
何度も言った。
いつだって言っているのに、伝わりきっていなかった、本当の気持ち。
体力と持久力向上の期待を込めて服用するつもりだったのに。
元々その体力も持久力も僕より遥か上回っているサフィルが飲んで、どうするんだよ?!
愕然とする僕をよそに、空になった瓶を傍のナイトテーブルの上にダンッと音を立てて置いたサフィルは。
口の端に零れた液体を手の甲でグイと拭って、改めて僕の方に視線を向けて来て。
「ふーっ、ふーっ。」
「……え“。サフィル?だいじょ…うあっ!」
低い声で唸る彼は、獲物でも狙っているギラついた目をしながらこちらを見て来て。
明らかに正気じゃなさそうな彼の様子が心配になったが。
恐る恐る手を伸ばしかけるも、それぞれ手首をガシッと強い力で掴まれて、そのまま後ろのベッドに無理矢理に押し倒された。
「ふーっ。ふふ。貴方も思い知ればいい。私が本当はどれだけ貴方を貪り尽くしても足りないんだって事……。」
「ん。そ、そうだよ。いつも言ってるじゃない。さらけ出してくれていいよ。好きにしてくれていいから。」
「貴方は分かっていない。本当にそんな事をすれば、嫌われて愛想をつかされてしまうかもしれないと、恐れている私の気持ちなんて。」
「僕はこれでもそんなにヤワなつもりじゃない。貴方に我慢を強いる方が、僕にとっては辛いんだ。」
いつもこれでもかという程に、僕に気を遣ってくれる彼に。
知らずと我慢を強いてしまっている彼に。
僕はこんな形でしか、貴方に応える事が出来ない。
いいや、応えられる方法があるのなら、それこそ本望なんだ。
全力で応えたい。
気圧されそうになりながら、その心地に溺れる事さえも望ましい。
相手に呑まれていく感覚に陶酔しながら、彼の強い視線に向き合うと。
うっそりと媚薬の効果に理性を飲み込まれながら、彼の顔がゆっくりと近付く。
そして、首筋を這う様に啄まれ、そのもどかしさに身を捩ると。
「い“っ!!」
啄まれていた筈のその首の付け根辺りに、急に鋭い痛みを感じて。
ビックリして目を見開いたら。
その上には彼の白い歯が鋭く光って見える。
(あの時の……!あっ)
噛まれた。
初めて彼に暴かれた、あの時の様に。
また、生理的な涙がじわりと滲んでしまった。
そして、また舐められる。
あの時と同じ様に、ぴちゃぴちゃといやらしく、聞かせる様にわざと音を立てながら。
「あっ……んぁっ」
「……ふ。素敵だ。最高です。何度目にしても、いつだって見惚れてしまう、何の穢れも無い、透き通った白磁の様なこの肌に、首筋に……」
首筋から、その唇を離して顔を上げ。
痛みの後の快感に身を捩る僕の頬に触れ、そうして噛み付いたその首筋を優しく撫でられ、ゾクリと全身が粟立つ。
その僕の反応にすら、昏い目をして悦びに感じ入りながら。
「こんな己の欲望の証を刻み付けられるのは、私だけしか許されないと思うと、どうにも堪らなくなる。」
「ふ。んっ」
「あぁ。痛みに呻くそのかんばせすら、艶めかしくて。もっと欲しくなってしまう。」
「サ、フィル…」
妖しい手付きで傷跡を撫で回す。
脅かす様に囁いて来る彼は、しかし、僕の涙をペロッと舐め取った。
「でも、苦しませたい訳じゃない。痛めつけたい訳じゃなかった……。それなのに。初めて貴方に触れた時、貴方のその得も言われぬ色香に酔いしれて、自身の痕を刻み付けた時。自分でも気付かなかった。己の中に、こんなに昏い欲望があったなんて。その衝動は、今でも忘れられない。許されざる罪の記憶なのに、貴方のその無垢な白い肌に触れると、また刻み付けたくなってしまう。何度も何度も刻み付けて、己の物だって叫びたくなる様な衝動に駆られるんです。」
薬の効き目に酔いながら、朦朧とした頭で罪を独白する様な彼は。
苦悶に満ちた表情で、ポタリと一滴の涙を零す。
「最低でしょう?浅ましいでしょう?……あんな。残酷に暴いて傷付けたのに、貴方は許して下さった。それどころか、こんな私に……好きだと。愛おしいと、言って愛をくれるのに。それなのに私は。未だに、こんな醜い衝動を持ち続けている。本当は、ただただ何処までも優しく蕩けさせて、心地良くして差し上げたいのに。時折、どうしても我慢できなくなる時があるんです。」
「……いいじゃない。」
「………え。」
「いいじゃない、それで。僕は、ただ貴方に甘えさせて欲しい訳じゃない。もちろん、甘えさせてくれるのも、優しくしてくれるのも大好きだけど……。強い衝動でどうしようもなく求められるのが、堪らなく愛おしいんだ。嬉しいんだよ。前にも言った筈だよ。貴方に求められるのが、何よりも嬉しいんだ。だから、貴方の好きにしていいって言ってるんだよ!」
前にも言った。
何度も言った。
いつだって言っているのに、伝わりきっていなかった、本当の気持ち。
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