上 下
309 / 336
続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

25話 事前準備 ※

しおりを挟む
その日の夕方。
占い師の所へ行った後は適当に街を回って、特に何の問題も無さそうだと判断し、早めに城へと戻った僕らは。
最近、時折すれ違ってしまっていたベルティーナ様やソフィア様とまた夕食を共にした。
殿下は見回った街の様子を話し、ベルティーナ様は時折頷いて微笑まれる。
が、ソフィア様にその視線が向いた途端、殿下ってば急に口籠って、口数が減ってしまうものだから。
気を利かせて代わりに僕が多めに喋って、変に気を使っちゃったよ。

夕食を終え、僕らはベルティーナ様のお部屋を失礼したが、自室へソフィア様をエスコートする殿下、なんかぎこちなかったな。
その背中をサフィルはサフィルで無表情で見つめているし。

……仕方ない、此処は一肌脱ぎましょうか。
なーんて。
本当は自分の事情だけどね。

同じく自室へ戻った僕は、先にお風呂を失礼して、ただ今入浴中のサフィルが此処に居ない間に、ナイトテーブルの引き出しを開け、その中の物を再度確認する。
そして、もう少ししたら出て来るであろうサフィルのあの色っぽい姿を脳裏に浮かべ、失礼ながら引き出しから彼の物を少し拝借する。
いつもそれを使う相手は僕なんだし、ちょっとくらい…いいよね?

風呂上がりでバスローブは羽織っているものの、その下は何も身に着けていない。
随分即物的な気もするが、まあいいだろう。
分かり易さ重視でいく、今夜は。

(はぁー…うん。よし、や、やってやるっ)

やると決めたものの、いざその小瓶を手に取ると、やっぱり迷いが出て躊躇してしまうが、のんびり考えてもいられない。
彼が戻って来る前に、準備しようって決めたんだから。

引かれないかなぁ……。
なんて不安が心をよぎったが、やると決めたからにはこのタイミングを逃せば、次はいつ決心出来るか分からない。

いい加減に腹を決めると、小瓶の蓋を開けて傾け、中から香油を少し手のひらに垂らした。
それを反対の手の指先に掬い取って、バスローブの裾をめくり上げ、自身の臀部へそっと這わせる。
お風呂で念入りに洗っておいたけど、やっぱりそれだけは足りないから。
興奮より羞恥心でどうにかなってしまいそうだったが、それでも、いつも彼がやってくれている手の感触を思い出して、すぼまりへと触れて。
でも、いざ自分でやってみると、先へ進むのが怖くなって、その縁をゆるゆると香油を塗りたくるのでいっぱいいっぱいだ。
そうしたら、扉の向こうでガタッと音がしたのが聞こえた。

(ど、どうしよ…)

せっかく準備万端で迎えようとしたのに、こんなゆっくりじゃ、間に合いそうにない。
僕は手のひらに残っていた香油を全て指先の方に移して、縁をなぞっていた指先を思い切ってその中へ埋めた。

「う“う”っ……。」

へ、変な感じ…。
違和感が半端じゃない。
サフィルが後ろをほぐしてくれる時は、すんなり受け入れられるのに。
自分でやっても全然上手く出来ない。
もうすぐ彼が来ちゃうのに、こんなんじゃ……。

「……シリル?」

自分の後孔と格闘していると、もう戻って来ちゃっていたサフィルは。
ベッドの上でお尻を突き上げて、グズグズの涙目になりながら後孔をいじくっている僕の間抜けな姿を目にし、びっくりして固まってしまっていた。

「うっ…うぇっ…サフィルぅ……っ」
「え。まさか、自分で後ろの準備してるんですか?」
「うん…。でも、サフィルみたいに上手に出来ないぃ……。」
「そんな、無理しなくても、ちょっと待ってて下されば。」

やっぱり引かれたかも。
僕はもう自分でするのはやめて、香油でベタベタになった手を洗いに行った。
その様子をサフィルは呆気に取られた様子で見送ってて。
でも、トボトボと戻って来た僕をサフィルは無言で抱きしめてくれた。

「戻って来るなり扇情的な貴方の姿を目の当たりにしたから、とてもビックリしましたよ。」
「違うよ。あんなの間抜けな格好なだけだよ……。」
「私の為に、準備しようとしてくれたんですか?」
「いつもサフィルがしてくれてるのを思い出して、やってみようとしたんだけど、上手くいかなかった。……萎えちゃった?」

事前準備が失敗してしょげる僕に、サフィルは乾ききっていない髪を梳く様に撫でてくれながら、優しく答えてくれた。

「いいえ。」
「本当?」
「ええ。だから…」
「本当だね?!じゃあ、待って。」

大丈夫だと言ってくれた彼の返事に気を取り戻した僕は、彼の腕からパッと顔を上げると。
その腕をすり抜け、またあのナイトテーブルの引き出しからもう1個の小瓶を引っ張り出して来た。

「この前、サフィルに寂しい想いをさせてしまったから、今日はその穴埋めもしようと思ってさ。それに、色々気を揉んでいたし。だから、その分も羽目外して、気が済むまで楽しもうよ。」

そう言って、前にお世話になった娼館のリアーヌさんオススメの、前より効力がある媚薬の蓋を勢い良くキュポンと外し。

「って、あ“ぁ———っ!それはダメです!!シリル!」

また媚薬の力を借りようと、小瓶に口を付けようとしたら、物凄い勢いでサフィルに奪い取られてしまった。
ちょっと険しい顔になって怒る彼の顔を見て、僕はまた弱気にしょげてしまう。

「?何で。やっぱり引いちゃった?」
「~~~~違いますっ!むしろ余計火ぃ付けられたというか…」
「だったらいいじゃん!返してよぉっ!」

なんだ、サフィルはその気になってくれてるんだ。
だったら、何も問題ないじゃない。

取り上げられたソレを返して欲しくて、僕は手を伸ばしたが。
サフィルは慌ててソレを持った手を高く上げて、僕から離そうとする。

「もう、媚薬は勘弁して下さいっ!ただでさえ貴方の色香にやられっぱなしなのに、コレまで飲まれたら、もう目に毒なんです!飲むにしたってせめて半分とか…。一気飲みは貴方の体にも良くありませんって。」
「半分じゃ効き目足りないよ。やるなら徹底的に…」
「もー!何処まで私のなけなしの理性ぶち壊せば気が済むんですか?!貴方は!」
「そんなの全部吹っ飛ばせばいいんだよ!」

何故か返してくれないサフィルに対して、売り言葉に買い言葉ではないが、自分でもよく分からないまま言い返して手を伸ばしていたら。
遂にサフィルがキレた。
というか、開き直った。

「あ“ー!でしたらそうしますっ!貴方のお望みでしたら!貴方も一度、その目でご覧になった方がいいかもしれない。美しい貴方の足元にも及びはしませんが、それでも、好いた相手にあられもない姿で容赦なく迫られ続けば、貴方も少しは分かって下さるでしょうっ!」

そう言って、奪った僕の媚薬をサフィルはグイッと飲み干してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...