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続編2 手放してしまった公爵令息はもう一度恋をする

17話 母国からの使者

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王宮の臣下一同の料理を担当してくれている調理場から、僕らの分の朝食を入れた籠を受け取り、朝の小鳥の囀りを聞きつつ自室への城の廊下を歩きながら、昨夜の事をほんの少し思い出す。

(はー、昨夜は久々にハッスルしちゃったぁ~。)

嬉しいけど恥ずかしい。
僕自身はそんな心地だったけど。
テオ曰く。

「いたくご満悦そうで何よりです…。」

と、じとぉ~っとした目で呟かれて、浮かれていた自分がやっぱり恥ずかしかった。

でもさぁ……学園を卒業して、そのまますぐロレンツォ殿下とソフィア様の婚姻式だったでしょ?
そしたらすぐに引っ越しで。
荷解きも済んで、やっと落ち着いて来た~。と思ったら、お仕事を本格的にスタートして。

とても、サフィルとじっくりゆっくり楽しむ余裕が無かったんだもん。
いくら寝所は一緒にしていても、いつでも致せる訳じゃないんだし。
けど、朝ちゃんと起きられる程度には留めて置いたんだから、加減も覚えた訳だし。

たまにはいいじゃないか……ねぇ?

首に下げた指輪を持ち上げながら、僕は自分自身に言い訳の様に、胸の内でぼやいていた。

「それ、サフィルとおそろいのあの指輪ですよね?今日は嵌めないんですか?」

すると、その仕草を目に止められて、後ろからテオに問われたが。
僕は慌てて服の下に戻しながら、声を潜めて答えてやった。

「しー!テオ、声が大きい。」
「…すみません。」
「私用とか遊びに行ったりする時は着ける事もあるけど、お仕事の時にはしてないでしょ?周囲に変に目を付けられるからぁ!今日もこれからエウリルスからの使者をお迎えするんだから、胸にしまってお守りにしておくんだよ。」

そりゃあ、本当は嬉しくて見せつけたくなる事も無い訳じゃないけど。
見咎められて、変に噂を大きくされるのは目に見えている。
だから、指に嵌められない時は、小箱に大切にしまっておくか、首に下げて服の下に身に着けている。
お仕事はまだまだ緊張する事ばっかりだけど、隣に立つサフィルと一緒に、この胸の下からも……守られている心地がするから。

この彼からの指輪は愛情の結晶そのもので、彼の思いの表れであり、僕にとってのお守りだ。

「あ。シリル…お早いですね。おはようございます。」

寝室からのそのそと起き出して来たサフィルは、まだ少し眠そうな顔をしている。
すでに顔を洗い終えて、朝食の準備をし始めている僕とテオを目にして、彼も目を覚ましに顔を洗いに行った。
戻って来た彼の髪の毛を櫛で梳いてあげながら、返事を返した。

「おはよう、サフィル。早めに目が覚めたから、スケジュールもう一度確認してたんだ。今日はもう少ししたら、エウリルスから使者が到着するって。何の使者かサフィルは知ってる?」
「いえ、私も何も聞いていません。……あ。でも、もしかしたら…」
「おー、皆おはよう!って、今起きたトコかよ?!おせーよ!」

のんびり朝の支度をしていると、ロレンツォ殿下が飛び込んでくる。
後ろにジーノを伴って。
この感じが、最近の朝のルーティーンな気がする。

「なんか、前は二人とも朝遅かったのに、最近はシリルの方がサフィルの寝起き手伝ってる事増えたな。」
「僕ももう出仕を始めて、大人になりましたからね。それに、前みたいに裸のまま貴方の突撃を受けたくないんですー。」
「なんだよ。からかいがいの無い奴ー。」
「あー…。そう言えば、ユリウス殿下も言ってましたよ?ロレンツォ殿下はからかいがいが無いって。」

懐かしいな。と思って、思わずフフッと笑ったら。

「シリル……今の笑みは狡いです。そんな可愛い顔、思い出し笑いでも彼にあげたりしないで下さい。」

なんて、拗ねた顔でサフィルに言われた。
もう。

僕は困った顔で笑って、彼の額にキスをした。

「さ。そんな事言ってないで、早く朝ごはん食べよう。」

促す僕に、今度は幾分機嫌を戻したサフィルが頷いた。


一昨年前、僕達が救世の巫子達を伴って迎え入れられたこの王宮の玉座のある大広間に、今度は僕の母国からの使者を迎える為に、僕らは集まった。
ロレンツォ殿下は玉座の間の傍の王子の席に座している。
王子妃までは伴われなかったが、王妃様や側妃様らは、以前の僕らが見受けた時と同じ様に、妃の席に座している。
ただ、あの時と違うのは、第4側妃のベルティーナ様が、今度は控えめながらも明るい笑みを浮かべ、他の側妃様方とも、時折囁き合っておられる事だ。
本当に、お健やかになられて良かったと、今一度思ったものだ。

にわかにざわめくこの会場だったが、侍従からの伝言を受け、王の側へ寄り耳打ちするこの国の宰相ロブレス公爵の姿を目にして直ぐ、この広間全体に大きな声が響き渡った。

「エウリルス王国からの使者、ご到着されました。」

謁見の間であるこの大広間の大扉が厳かに開かれ、懐かしい衣装を身に纏った十数人の集団が入場して来た。

「アデリート王国の太陽、アデリート国王陛下に拝謁賜ります。我がエウリルス王国よりエウリルス国王陛下、並びに王太子ユリウス殿下の名代として、両国の益々の発展と友好を願い、この度参内致しました。」

集団から一歩前に出て凛とした姿で片膝を付いて礼をするのは、思っていたより年若い青年だった。
若いにも関わらず、堂々とした挨拶をするその使者から、従者を通じてエウリルス国王陛下からの親書が手渡され、国王陛下は満足げに頷かれる。

「よくぞ参られた、使者殿。此度の来訪は、例の件が決まったのか?」
「はい!我が国の王太子ユリウス殿下の婚姻式の日取りが、この度正式に決定致しました。その件にて、我が国の友好国であるアデリート王国からも是非、このめでたき式にご参列して頂きたく参りました。」
「ようやく決まったか。おめでとう。よし、分かった。席を設ける故、後で詳しい話を聞かせてもらうとしよう。それまでしばらくは旅の疲れを癒すがよい。」
「ご配慮、有難く存じます。」

深々と礼をし、使者達はその場を後にした。

詳しい話は晩餐で……。という事で、場を離れた一行だったが。
正式な歓迎の式典は終え、一度王城の自室へと戻り、式典用から普段着に着替えた後、ベルティーナ様のお部屋へ集まった。

「ふぅ。」

着替えを終え、奥の部屋から出て来られたベルティーナ様は、ホッとされたのか一息ついて上座のソファーへ腰を下ろされる。

「お疲れ様でした、ベルティーナ様。」
「ありがとう、クレイン卿。……元気になったとはいえ、公の場に出るのは久しぶりだったから、思ったより緊張してしまっていたみたい。」
「新年の祝賀以来でしたものね。」

苦笑する側妃様を労い、笑みを向けると、柔らかい微笑みで返して下さる。

「お疲れ~」
「皆様、お役目ご苦労様でございました。」

楽な衣装に着替えたロレンツォ殿下もソフィア様を伴って来られ、僕らの向かいに座られた。

「聞きましたよ。エウリルスの王太子様、遂にご結婚なされるんですね。そのお使者だったのだと。」
「えぇ。僕も驚きました。でも確かに、そろそろそういうお話があっても不思議ではなかったですもんね。」
「学院も既にご卒業なさいましたし、政務にも慣れて来られて、ようやく……といった所でしょうね。」

キラキラと目を輝かせるソフィア様の話に同意した僕に、隣のサフィルもコクリと頷く。

「アイツもようやくか~。ってか、思ったんだが、何でそれなら手紙の一つでも寄越さねぇんだよ?水臭くねぇ?」

個人的に、それなりに親しくなれたと思っていたのに…。と口を尖らせる殿下だったが、向かいのサフィルがそんな彼の態度に溜息をついた。

「はぁ…。貴方がそれを仰います?そんなの、殿下の方こそ…」

コンコンッ。

呆れるサフィルの話は、部屋の扉を叩く音によって遮られた。
すぐにベルティーナ様付きの侍女ダリア嬢が向かわれ、外の者との用事の確認をされると、スッと戻って来られた。

「……例のお使者の方がいらっしゃっているそうなのですが……お迎えしても大丈夫でしょうか……?」

戸惑い気味に口にするダリア嬢に、僕らは驚いて互いに顔を見合わせた。

「晩餐はまだだぞ。何でまた……。俺らがエウリルスと縁があるから、王と対面する前に会っときたいのか?」
「恐らく……。」

困った顔で殿下と側妃様を交互に見やるダリア嬢の様子に、殿下はコクリと頷いた。

「分かった。俺の部屋の方で面会しよう。母上はお疲れでしょう。気にせずゆっくりなさって下さい。」
「でも、ロレン……。」
「大丈夫ですよ。長くエウリルスへ留学して、ユリウスとも親しかった俺に、使者も事前に取り入っておきたいのでしょう。適当にあしらってきますよ。……ソフィア、母上を頼めるか?」
「えぇ、お任せ下さい。お気を付けて、ロレン様。」

少し心配するベルティーナ様だったが、深く関わる事も出来ないのはご承知の為、申し訳なさそうにされながらも、ソフィア様と共に僕らを見送ってくれた。
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